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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
一 ツ目の怪物“つとむ”
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第五話 ストーカーと謎の声

屋上から見える空、商店街、遠くに見える学校、病院、近くに見えるパチンコ屋。全ての色が黒と白と灰色で構成されていた。


 朝顔はあやめとの会話を思い出し、苦笑いする。


「確か、天国や地獄と一緒で人が死んだ後にたどり着く場所なんだよな…僕、死んだのか?」


 味気ない“あの世”だな。と朝顔は冗談交じりに呟く。


 朝顔は正直、自分が死んだとは微塵も思っていない。確かに朝顔は気を失う直前確認した。自分を飲み込んだブラックホールのような歪みを。あの歪みから何かを殺そうとする意志を朝顔は感じ取れなかった。根拠のない感覚だが、自分が死亡したと思うよりはマシだろう、と朝顔は考える。


「さてと…どうするか。携帯は…」


 朝顔はポケットから紫色の携帯電話を取り出した。パカッと携帯電話を開き、連絡先の中にある“武藤あやめ”の名を指定し決定ボタンを押して電話をかける。が、案の定と言うべきか、電話は短い発信音を鳴らさずぶつ切りされた。電波は当然の如く通ってはいなかったのだ。


「繋がらないか。上から見る限り人の姿は…」


 朝顔はマンションの屋上から下を覗き、道路にはびこる黒い影を発見した。

 それは、毛の生えていない真っ黒な人間の形をしていた。


「あれはなんだ?」


 その数は一つではなく大小多くいる。


「黒い…人間? 関わるべきじゃないな…」


 朝顔は直感でそれがヤバい何かだと察知した。まるで薬に溺れ壊れた人間、思考がなく、なにかに導かれるように街を徘徊している。


 その影たちは地面を徘徊しているがどうやら高い所は好まない様子だった。屋根の上などにはただ一つとして影を確認できない。


(じっとしてるのが吉かな)


 朝顔は右手で自分の左胸を押さえる。ドクンッ、ドクンッ、と心臓がいつも以上に跳ねていた。


 油断すれば、絶望と焦燥が溢れ出る。普通の高校生がこんなわけがわけらない世界に連れてこられたら下手をすると発狂するだろう。『慌てたら負けだ』、理屈はわかっていた、だけど心の底では恐怖が鎮座している。


「冷静に、冷静に。不測の事態を解決するには、冷静になるのが第一だ」


 朝顔は情報をまとめようとその場に座り込む。すると突然、聞き覚えのある声が朝顔の元へ届いた。


〔御主人!〕


「…!?」


 その声は今朝から例の眩暈と共に朝顔を苦しめた声と同じものだった。


 紳士風な男の声。しかしげんじつで聞いた時とは違い、鮮明に、はっきりと朝顔の耳にその声は届いていた。


「お前! 朝から散々僕に迷惑をかけてくれた声だな!」


 朝顔が遠くにいる誰かに向かって叫ぶと、紳士風な声の主は少し戸惑った様子を見せ、うわごとのようにつぶやいた。


〔…御主人? では、ないようですね…魂の質がそっくりだったので間違えました。む? 御主人でないのなら、なぜ私の声が聞こえているのですか?〕


 声の主は一向に見えない。


「この野郎…! お前のせいで僕がどれだけ―――」


 おそらくこれはテレパシーというやつなのだろう。と朝顔は納得した。耳からではなく、魂に訴えかけられてる感触だ。


(待てよ。なぜ今、コイツの声が聞こえる? なんで今になって声が鮮明に聞こえてるんだ? 学校では小さく聞こえた声が今は大きく聞こえる。まるで僕とアイツの距離が近づいたかのように…もしかしてこの事態に関係しているのか?)


 朝顔は無益な発言を改め、この声の主に賭けることを決めた。


「よくわからないけどお前、この世界について何か知ってるのか?」

〔貴方は…ヒンメルの人間ではないのですか?〕

「ひんめる?」


 朝顔は聞いたこともない単語に首を傾げる。

 謎の声は朝顔の反応を見て驚いている様子だった。


〔馬鹿な…ならばどうやってこの世界に…〕


「埒があかないな、まずは僕の事情を説明しようか」


 朝顔は話す、今までに起こった出来事を。ややこしい部分は切り取り、度々白黒の世界を視認していたこと、変な夢を見ていたこと、その時に彼の声を聴いたこと、そして黒い渦に飲み込まれてここに来たこと。


 謎の声の主は事情を把握して、一つの単語を口にした。


〔“解明者”―――!? 道理で魂の質が似ているわけです〕

「解明者?」


 そういえばあやめも同じようなことを言っていたな、と朝顔は思い出す。


〔わかりました。私が何としてでも貴方を現実世界に戻して見せます〕

「信用していいのか?」

〔残念ながら、今の私にあなたの信頼を勝ち取る術はありません…〕

「いや、バカなことを聞いたな。今の僕にはお前を頼る以外道はない」


 朝顔はどこかホッとしていた。それはきっとこの声の主もだろう。両者は声しか聴いていないのにも関わらず、“この相手は悪い奴じゃない”と直感していた。


〔では…初めに名前を拝聴してもよろしいですか?〕


 両者は互いの名前を口にする。


「僕の名前は東雲朝顔だ」


〔では朝顔殿と。私の名は“ホーク・キッド”と申します。短い間、よろしくお願いします〕


「それはこっちの台詞だ。よろしく頼む、ホーク・キッド」


〔早速ですがまずは私と合流してほしいのです。…これは情けない話なのですが、とある事情で今の私は動けない状況でして…〕


「わかった。僕がお前がいる場所まで行こう」

〔お願いします。私の現在地は(ゆう)(れい)高校の体育館の中です〕


 朝顔はホークと名乗る男の指示に従ってマンションの三階部分まで降りていく。


(気になる点はいくつもあるが、今は生存以外は考えない…!)


 朝顔はマンションの三階の窓を開き、足をかける。


〔決して地面を踏んではいけません、そうすれば彼らに気づかれます〕

「この影たちか?」

〔はい〕

「ってことはやっぱり、コイツらは敵か…」

〔あなたを発見すれば一分の迷いなく襲い掛かるでしょう〕


 ホークキッドの言葉を聞いて朝顔は唾をのむ。

 マンションの三階から目指すは隣の会社のビルだ。

 すー、はー。と呼吸を整え、朝顔は飛び出る。


「そら‼」




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