第五十一話 ストーカー敗北す
「隙だらけだ」
〔どうしたんだい? ダーリン〕
マヤはイラマを抱きかかえて浮上していた。岸花は空中よりホーク・キッドとカモミールの戦いを見ている。
カモミールはマヤたちに背中を向けている。背中から斬りかかれば……
「いけるな。マヤ、解明者の作戦は変更だ」
〔なんだって?〕
「いま奴は隙だらけ。背後から破壊するッ!」
岸花はマヤを操作し、イラマを空中に投げ捨てる。
「お、お兄ちゃん待ってッ!」
〔マヤさん、いけませんッ!〕
〔わかってるけどコントロールを!〕
カモミールを背後から強襲するマヤ。
(もらった!)
しかし、
[馬鹿だねぇ、君]
カモミールはゆっくりと後ろを振り向く。
朝顔は視界にマヤが入った瞬間に声を荒げた。
「逃げろ鈴木桜!!」
カモミールはホーク・キッドの腕をつかみ、マヤに向かってぶん投げる。
速度を出しすぎたマヤは対応できず、ホーク・キッドの背中とぶつかった。その隙にカモミールは飛翔する。
――62%
「〔トレース・ス――〕」
[遅いねぇ!]
ガシッ! と両手で左右から挟み込むようにカモミールはイラマのコックピットを掴む。
[ミンチにしてあげるよ]
そしてそのままギギギギッ! と押しつぶしていく……
「いっ!? ――ぎ……あ゛あ゛『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!!!!!!!!!!?????」
コックピットごと右半身を圧迫される桜。骨が潰れる音が通信を通じて全パイロットに伝わる。
〔桜……? 桜ッ!〕
[ますは一人目。え?]
ガゴォンッ! と何かがカモミールにぶつかった。
それはギリギリの所で発動していたイラマの技、“トレース・スター”の一撃だった。
[まったく! いいところで――ぐあ!?]
〔アンタ調子に乗りすぎだよッ!!〕
何とか戻ってきたマヤの一撃がカモミールを襲う、さらに、
――共鳴率84%
「バリッと行くよ!」
〔“雷炎双掌”ッ!!〕
パオトルを送り届けたマクイルが戻って来ていた。
右手には雷。
左手には雷熱を大量に取り込んだ青白い雷炎を纏う。左右の掌底をカモミールにぶつける。ほんの数秒だがカモミールは体をマヒさせた、その隙にマクイルはイラマを回収して退散する。
「ナイスだマヤ、マクイル! 二人共先に行っててくれ! どっちみちコイツは僕を殺せないッ!」
〔了解だ坊や! 恩に着るよ!〕
「岸花……アンタねぇ!」
「……。」
〔姫。話は後にするんだ!〕
ゆったりと諦めたようにホーク・キッドの正面の地面に舞い降りるカモミール。
[あーあー。終わり終わり。さすがの僕チンも霊媒機体二体分のスピードには追い付けない]
(コイツ、あれだけ攻撃入れたのに傷一つ付かないのか)
[ほら、君も帰りなよ。追わないからさ]
ホーク・キッドはカモミールを視界に収めながら後退する。
「厚意に甘えさせてもらうかな」
[でもいいの? 解明者]
朝顔はカモミールの意味深な発言に一度ホーク・キッドを静止させる。
そう、忘れてはいけない。まだ彼らは“色付き”を撃破できていないのだ。黒く、悲しいビーストを一体残している。
[僕チンはバグにはならないけど、あの子はバグになるよ当然。――さて問題。バグとなった魂は一体どこへ行くのでしょうか?]
朝顔はその答えを瞬時に出し、ギリッと歯を軋ませる。
ホーク・キッドは朝顔の様子を見て自分の独断で速度を上げてループ・ホールへ向かう。
[当然、天国や地獄じゃない。そして裏世界でもない。バグとなった魂は永久に空白をさまよう。救いも罰もない空白だ]
タスケテ。
大人の男性の声だ。
タスケテ。
まだ若い女性の声だ。
タスケテ。
幼い少年の……
「戻れ! 戻ってくれ……ホーク・キッド!!」
〔なりません〕
「頼む!!!」
〔なりません!!〕
朝顔が無理やり操縦権を奪取しようとした瞬間、ホーク・キッドは機能を停止した。
――共鳴率0%
菫の指示でホーク・キッドの電源は落とされ、ループ・ホールから来たマクイルがホーク・キッドを背負ってループ・ホールへ向かう。
「駄目だ! 助けないと――」
「朝顔……」
ホーク・キッドとマクイルが帰還する。その直後、ヒンメルはループ・ホールを手放した。
ヒンメルの手を離れたループ・ホールは“色付き”を糧としてバグとなる。
[なーんだ! こんなもんか! じゃあ始めようか、融合を――]
[イヤダ……いやだいやだいやだいやだ!! ワタボオレワハ――]
[表と裏は今、交わう……祭りの始まりだぁッ! ハハハハハハハハハハッ!!!!]
黒いビーストは醜いボール状の塊となり中心に大きな瞳を出現させる。
瞳のついた塊は空間に溶け黒と白のヒビを発生させる。朝顔はその過程で、死を与えられずに消滅する魂を感じていた。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
魂が消滅するのと同時に現実世界で原因不明の大地震がアフリカを襲った。
遥か遠くの裏世界で“玉座の影”は天に浮かぶ欠けた月に集まる魂を見上げていた。
[もうすぐ、やっと……君に会える。――アリス]