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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
死の先にある情熱“彼岸花”

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第五十話 異常VS狂気

『応答しろ! 朝顔! 朝顔ッ!!』


 突如湧いて出た黄金の悪魔“カモミール”。


 カモミール到来、そしてホーク・キッドが簡単に殴り飛ばされた現実、否応にも硬直してしまうこの場面であるコンビはすぐに対応した。


「拘束しろ!」


〔バインド・ロック!! YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHッ!!〕


 アザレアとパオトル、最も信頼している技での奇襲。


[おっと?]


 カモミールは反応できず、音の腕に全身を拘束された。しかし、


[なんだ? マッサージかな?]


 なんてことない様子で平然と歩き出す。


「嘘だろ!?」

〔フルパワーだぞクソッタレッ!!〕


 パオトルはカモミールを止めようと踏ん張るが、カモミールは歩速を変えず歩き、ビリビリと音の腕は破れていった。なんとか食らいついた音の腕も、糸くずを払うような動作で簡単にはたき落とされた。


 カッ、カッ、と霊媒機体(シャーマン)たちに歩み寄ってくるカモミール。


 ゴクリ。とパンジーが唾を飲んだ一瞬だった。


[まずは君ね]


「え?」


 まるで時間が飛んだかのように、マクイルとの間に開いていた二百メートルの距離をカモミールは詰めた。


 カモミールはグッと右こぶしを握る。マクイルとパンジーは突然のことで対応できない。だがたった一機、ギリギリの所で反応できた霊媒機体がいた。


――共鳴率70%


「回れッ!」

〔“ジャイロ・スター”ッ!!!!〕


 高速回転した鉄球がカモミールにぶつかった。今までどんな攻撃にもほとんど怯みもしなかったカモミールだが、


[これは、少しやるねぇ]


 ヒンメル最高攻撃力を誇るイラマの攻撃だけはほんの少しと言えどダメージが入ったようだ。鉄球に弾き飛ばされ、荒地を削りながら滑っていく。


[あっはっは! さすがにこれくらいやってくれないと僕チンが出てきた意味がない]


 イラマの攻撃でヒンメルの方針は決定した。最高攻撃力を誇るイラマの攻撃でも少し怯んだ程度。ならば、勝ち目はない。


――『撤退だッ!』


 しかし。と全員の頭に疑問が過る。


(逃げられるのか? ホーク・キッドは戦闘不能、相手のスピードは影すら見えないレベルだ! ループ・ホールまでは三キロもあるんだぞ! せめて――) 


(足止めできるのは私とイラマのコンビだけ。だけど、こんな絶望的な状況でも――)


(電速で逃げられるとしても、連れて行けるのはアタシらともう一機が限度だ! アタシじゃこの状況を打破する策は浮かばない、それでも――)


 鈴木岸花は感じていた。ここで他の三人がなにを想っているのかを。



――東雲(朝顔)が居れば……! 東雲(朝顔)なら……!



 そして、三人の願いに応えるように総員に入電が入った。


「マクイルはパオトルを、マヤはイラマを連れて撤退しろ。――アイツは、僕が足止めする」


 それは聞きなれたストーカーの声だった。


東雲(朝顔)ッ!!』


 希望に溢れた声が響く。

 ホーク・キッドは遥か後方から前線に復帰した。損傷は思ったほど大きくない、コックピットがかなり凹んでいるが操作の方に支障は無さそうだ。


「で、でもよ東雲。俺らだけで逃げて大丈夫なのか?」


「策はある。とりあえず、マクイルの電速(エレキソニック)とマヤの身体能力強化でパオトルとイラマを表に戻す、そしてそのままマクイルとマヤには往復してもらってホーク・キッドを回収してもらう」


 朝顔は淀みなく指示を出す。朝顔の様子にカモミールは頭を捻っていた。


[あっれれー? 結構強めに殴ったんだけどなぁ~]


 無事ではない。朝顔の顔は血みどろだ。


 血に濡れた前髪はカチューシャで上げている。朝顔は自分の状態を悟られぬよう、気を配っていたがホーク・キッドにだけは誤魔化しがきかなかった。


〔御主人……〕

「悪いなホーク・キッド。黙っててくれ」


 朝顔の指示通り行動を始めるメンバー。ホーク・キッドは全速で無謀にもカモミールに突撃する。


[なんだ。解明者って頭いいって聞いたけど、ただの馬鹿じゃん]


 朝顔は口元を歪ませ、次にとんでもない行為に出る。


[なに……?]



――朝顔はホーク・キッドのコックピットを開けた。



 パイロット剥き出しのまま手に持つペレトューナでホーク・キッドはカモミールに斬りかかる。カモミールは朝顔の行動に戸惑いつつもペレトューナを右手で受け止めた。


[なんのつもりかなぁ? 解明者]


「――お前、僕に加減しただろう?」


[加減?]


 カモミールの体の硬直を見て、朝顔の予測は確信へと変わった。


 そう、カモミールは“玉座の影”に命令されていたのだ。



――『我々が自ら手を下すことは無い』。



 つまりは朝顔を“殺すな”と。


「やっぱりな。解明者はヒンメルだけでなく、お前らにとっても貴重らしい」


[……]


「図星か。馬鹿は表情が読みやすくて助かるな」


 ブチッ、とカモミールの中で何かが切れた。


[調子に乗るなよッ!]


 グッと殺意を込めて右こぶしを握る。


(やっぱり肉弾戦しかできない鬼型。特殊な力は無し)


――右ストレート。わかりきった攻撃だ。だが、朝顔は回避も防御も選択しなかった。……選択したのは回避や防御の逆、コックピットをがら空きにした捨て身だった。


「来いよ」


[ぐっ……!?]


 朝顔の行動を見て殴りかかったカモミールの拳が静止した。その隙を見逃さず、ホーク・キッドはペレトューナでカモミールの顎を攻撃。綺麗な音とは言えない金属バットでコンクリートを殴ったような音が響く。


「畳みかけるぞホーク・キッドッ!」


〔承知!〕


 一撃、二撃、三撃と攻撃を積み重ねるがカモミールは少し怯むだけで体には傷一つ付かなかった。


 カモミールが反撃しようとすると朝顔とホーク・キッドはコックピットを前面に出す。そして硬直したカモミールを攻撃する。


 ダメージは入らないが無限ループには入った。時間稼ぎなら十分だ。しかし、こんな戦法思いついてもやれる人間がいるだろうか? 頭のイカれたカモミールでさえ朝顔の行動に異常さを感じずにはいれなかった。


(コイツ! 自分の命を盾にしてやがるッ! わかってるのか? 僕チンが命令を聞かず、指一本でもコックピットに押し込めば死ぬんだぞッ!)


 カモミールがターゲットを変え、他の霊媒機体を追おうとするとホーク・キッドはまるで予知していたかのようにその行く手を塞いだ。


「絶対に逃がさない」


[人の動体視力で追える速度を遥かに超えてるはずなんだけどなぁ、僕チンは]


「生憎“追う”ことだけは誰にも負ける気がしないんだ。悪魔だろうが神だろうが、僕から逃げることはできない」


[なるほど。面白い、彼らを殺せるかどうかの勝負ってわけね]


「生きているのなら救って見せる……!」


 長年のストーキングにより得た追撃能力。それはカモミールにすら通じるものだった。


「(委ねるんだ。今までの経験に! アイツを嫁菜だと思え、一時も目線を逸らすな!! ……いや待て。嫁菜はコイツみたいなブサイクじゃないぞ!!) 嫁菜を馬鹿にするなよメッキ野郎!!!!」


 頭から血が抜けたせいか、朝顔の思考は時折脱線しつつあった。


〔御主人!?〕


[なに言ってんの?]


 ありえない広さの視野が高速で移動するカモミールを捉える。

 卓越した思考速度・反射神経が視野の広さも相まって敵の行動を予知、封殺する。


 何よりも恐ろしいのはその執念、しつこさ。絶対に逃がさない、絶対に見逃さない、どこまでも追って追って追い続ける……解明者の力の関係ない、朝顔本来の力が覚醒していた。


 

 カモミールは朝顔にある影を重ねる。


[似ている。その執念は彼にそっくりだ。――“アリス”を失う前の彼に]


 朝顔の作戦は完璧だった。筋書き通りにいけば……


「俺は……」

仙〇ならきっと何とかしてくれる…!

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