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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
死の先にある情熱“彼岸花”
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第四十八話 ストーカーの覚醒

『気をつけろよ。今回の相手はただもんじゃない』


 声が聞こえた。どこかで聞いたことのある声だ。

 朝顔は聞く、『お前は誰だ?』と。相手のことでわかるのは男だということだけだ。


 男は小さく笑い、『困ったな』と戸惑った。


『もう会ってるんだがな、俺とお前は。まぁ本当の姿で会ったことは無いからわからなくても無理はないか。――朝顔、今回だけは俺の力を少しだけ貸してやる。仲間を、世界を、守れよ……俺の分もな』





PM1:30


――主人……〔御主人ッ!!〕


「ん?」


 朝顔はホーク・キッドの呼びかけで我に返る。

 朝顔は菫に連絡をした後、その足でヒンメルの地下施設まで来ていた。


〔菫殿の話、聞いてましたか?〕


「あ、いや……悪い。聞き逃した」


 格納庫、ホーク・キッドのコックピットの中で朝顔は尋常じゃない量の汗をかいていた。


(なんだ? この感じ。今までと違う)


「ちょっとちょっと。陰キャ君、大丈夫?」


「――調子悪いの? 東雲……」


 朝顔はパンジーと桜の呼びかけに「大丈夫だ」と応答する。


(調子が悪い? いや、むしろ――)


 菫は朝顔のためにもう一度各コックピットに作戦内容を伝える。


『今回も“色付き”の討伐が第一だ。序盤はマヤを前線に置き、パオトルがサポート。隙を見てホーク・キッドの狙撃とマクイルの電撃で相手の足を止め、イラマの鉄球で敵を砕け』


 朝顔は菫の指示を聞いて深呼吸し、不安を振り払う。


『ステージは北極だ。雪で視界が悪いから気をつけろ』


 霊媒機体(シャーマン)たちが所定の位置に立つ。


 格納庫のすぐ隣には“ループ・ホール”を出現させる広間がある。その広間を目前に据えると、管制室が裏世界突入の手順を踏み出す。


 眼鏡の男性のオペレーターがメーターを見ながら、


『ループ・ホール安定! 命綱投入完了!』


 歳をいったおばちゃんが笑顔で、


「出力OK、いつでも行けるわ菫ちゃん」


管制室の中央の机で菫が突入までのカウントを取る。


『突入まで、3―――』


 2、1。 


―――裏世界、突入!!







 REVERSE 00:00



 裏世界に入ってすぐアザレアは目を疑った。


「北極? どこがだよ、菫さん」


 そこは荒地だった。しかも――


「ちょっと、どういうこと?」


――色が付いている。


 どこまで行っても地平しか見えない場所。だがしっかりと茶色や青色といった色が付いている。


 ひび割れた地面からは黒い煙が溢れ出ていた。


『総員、警戒しろ。今回の裏世界は何かがおかしい』


 菫も予想外な出来事で戸惑っている様子だ。


 パイロット、霊媒機体(とも)に動揺する中、ホーク・キッドだけ冷静だった。


〔これは……〕


 空中を飛行すること数十分、ループ・ホールより三キロ地点。ホーク・キッドがなにかを言いかけた時、



「――!? さがれホーク・キッドッ!!」



――遥か上空からドォォォンッ!!!! と黒い塊が霊媒機体たちの前に落下した。


『総員距離を取れ!』


 菫の指示でパイロット達が手綱を握り、霊媒機体を引かせる。しかし、


「お、おい東雲!」


「なに突っ立ってんのよアンタ!!」


〔ボケッとしてんじゃねぇぞ!〕


 朝顔とホーク・キッドだけその場から動かず、無防備に立ち尽くしていた。


「〔なんだ、コレは……?〕」


 朝顔は見る。正面に落ちて来た黒い塊の魂を。


 ホーク・キッドは朝顔を通して見る。そのおぞましい魂を。


[[[タ。ス、ケ――――]]]


 黒い塊の正体は三つ首の魔獣、ケルベロスに似ていた。

 大きさは霊媒機体の1.5倍ほど。目は赤く、体毛は黒い。鋭利な爪と牙が太陽光を反射させていた。

 見た目は整っている。しかし、その(中身)は……


(ぐちゃぐちゃだ。三つの魂を無理やりこねくり回して、くっ付けただけ。互いに拒絶反応を起こして、見るに堪えないッ!)


 おぞましく、醜い魂。

 朝顔は逆流しそうになる胃液を抑えるので精一杯だった。



――アレは人じゃない。



 まさしく化物。朝顔は“裏世界”に来て初めて、本物の化物に会った。悲しく、哀れな、人間(化物)――!


「初めてだ。なんだろうなぁ、この気持ち」


 朝顔は声を震わせながらカチューシャを付ける。


〔私にもわかりません。ただ一つハッキリしているのは、はやく――はやく、あの悲しき生き物を……〕


 ホーク・キッドはゆっくりと天に右手を掲げる。



「〔解放(ぶっ殺)したいッ!!〕」



 ホーク・キッドの体が白く輝いた。


――共鳴率80%


 自力での到達。

 一致した両者の気持ちが共鳴率に比例し、且つ、解明者の力がブーストする。これにより平均40~60%ぐらいだった二人の共鳴率が一気に跳ね上がったのだ。


〔“次元装”起動! 御主人、望みの品は?〕


「Ω‐1ッ!」


〔承知! Ω‐1.“アスファイル”ッ!!〕


 巨大砲台“アスファイル”はホーク・キッドの右腕に装着され、スコープが銃身から姿を現しホーク・キッドの右目に合致する。腕はバレルに。砲台はホーク・キッドの背中十メートルまで伸びていた。


 パンジーとアザレアはまだ数回しか裏世界に行っていない朝顔が、共鳴率80%の数値を叩き出せたことに驚きを隠せない。


「いきなりΩシリーズッ!」


「イケイケだな、東雲!」


 朝顔はモニター越しにケルベロスを捕捉し、狙いを定める。


〔充填完了〕


「……。」


 朝顔は先ほどの激情を抑え込み、冷徹な表情でトリガーに指を押し込む。同時に、“アスファイル”から放たれた白き破壊の光。巨大なレーザーはまっすぐとケルベロスに伸びていったが……


[ガァウッ‼]


 ケルベロスは“アスファイル”の光を三匹に()()して躱した。三匹は三つ首を三つに分けている。それぞれ足は四つあり、犬のような形だ。一匹は隻眼、一匹は角あり、一匹は牙に紫色の毒を縫ってある毒牙のビーストだ。


 桜とアザレアが「分離型!?」と驚いたのに反して、朝顔は何のリアクションもなく三匹と距離を詰め、


「Ω‐1.解除(リリース)! Ω‐7ッ!」


 Ωシリーズは同時に二つ使うことはできない、他のΩシリーズを使うためには今使っているΩシリーズは解除しなくてはいけないのだ。


〔承知! Ω‐7.“ガンヘッド”ッ!〕


 ホーク・キッドはアスファイルを消し、Ω‐7.ガンヘッドを手の平から展開する。小さな鉄の塊が宙に浮き、ホーク・キッドの周りに漂う。


 ガンヘッドは十二基の操作できる機雷だ。ホーク・キッド及び朝顔に呼応して動き、起爆する。


2078(にーまるななはち)!」


設置(SET)!〕


 朝顔の指示番号に従い機雷が動く。


[ガウ!]

[ガウ、ガオォン!]

[ガウンッ!]


 ケルベロスから分離した“ビースト”は三手に別れる、これにより対象を三つにし撹乱する作戦だ。

 しかし朝顔は相手の動きを知っていたかのように、迷いなく正面にいる角ありのビースト八基の機雷を差し向ける。


1192(いちいちきゅうに)!」

設置(SET)!〕


 ホーク・キッドは機雷を展開しながら尚、地面を蹴って角ありのビーストに接近する。


「γ‐22!」


〔承知!〕


 取り出したのは衝破大槌“アラトロン” 取っ手が長く、槌の部分も重厚でホーク・キッドの半身ほどの大きさがあるハンマーである。


 “ガンヘッド”の利点は両手を使わないこと。つまり、“ガンヘッド”を展開しながら限界展開数まで(ホーク・キッドは同時に三つまでしか武器を展開できない)武器を使うことが容易だ。それに両手を使う大槌“アラトロン”のような武器も機雷を動かしつつ使うことが出来る。



[[ガウッ!]]



 敵に無視されたことを察知した残りの二匹のビーストが左右から挟み込むようにホーク・キッドに接近する。しかし、


808(はちまるはち)


設置(SET)!〕


 朝顔はホーク・キッドの手元に残しておいた四基の機雷を二手二基ずつに分かれさせ、左右のビーストをけん制。


[ガウッ!]


 縦横無尽に駆け回る機雷をビーストは三匹とも避ける。――素早く、したたか。一言で表すなら『軽い動き』である。


 だが奴らの強さは敏捷性だけじゃない。その牙と爪は霊媒機体をも易々と切り裂くものだ。特に毒牙は一度食らうとどうなるか予想もつかない。素早い足と凄まじい切れ味を誇る牙と爪がこの分離型の武器だ。


 確かにスピードは速い、しかし、動きは単調。その法則を朝顔が解明するのは一瞬だった。


(見える……自分でもビックリするぐらい、相手の動きが見え――いや、(わか)る。なんだ、この万能感は?)


 朝顔が驚くのと同時にホーク・キッドも自身の主人の反応速度に驚いていた。


(す、すごい! 御主人の反応についていくことで精一杯だ!! この動き、まるで――)


「ホーク・キッド。座標38だ」


〔承知!!〕


[ガオォンッ!]


 体を翻し、機雷を避ける毒牙のビースト。だが避けた先には巨大なハンマーを持ってホーク・キッドが立ちふさがっていた。


「どいてろ」


 計算通り。

 槌が毒牙のビーストに当たり、爆風を巻き起こして吹き飛ばす。致命傷にはなりえないが、衝撃で毒牙のビーストはかなりの距離飛ばされた。


[ガ?]


 その光景を、ホーク・キッドの背後を襲い掛かろうとしていた隻眼のビーストは見て、空中で硬直した。


 野生の勘というやつだろう。襲い掛かる直前で、敵に誘い込まれたと直感したのだ。


「二つ余った。――貰っとけ」


 その勘は正しい。ここまで全て朝顔の掌の上だ。

 毒牙のビーストと距離を開けたことで余った二基の機雷、それが隻眼のビーストに襲い掛かる。確実に避けられないタイミングで。


着弾(ヒット)――」

点火(ファイア)ッ!!〕


 ホーク・キッドの指示と共に機雷は爆発し隻眼のビーストを吹っ飛ばした。


 “色付き”の種類の中で最も手ごわいはずの“分離型”。にもかかわらず朝顔は全くの追随を許さなかった。


 ここまでで“ガンヘッド”を展開してから三十秒も経っていない。常人ではとてもついていけない高スピードバトルだ。他の面々はサポートしようにも展開について行けず手を出せずにいた。


(戦闘スピードが速すぎて東雲の援護ができない! 下手に介入すると邪魔しちまいそうだ!)


〔おいおい……懐かしいじゃねぇか。ありゃまるで――〕


 菫は管制室である男を思い出していた。


「昼吉さん……」


 毒牙と隻眼は吹き飛ばした。残るは八基の機雷と戯れている角ありのビースト。そこにさらに二基の機雷を加える。


 十基の機雷+ホーク・キッド自身。スピードは角ありのビーストに軍配が上がる、しかし、統率された行動は速さを殺す。朝顔は機雷を足元に飛ばし、角ありのビーストを飛翔させ、空中で角ありのビーストの四方八方に機雷を囲ませる。


[ガッ……!?]


「まず一匹」


 一基の機雷が当たる。そして続くように残り九基の機雷が集まり、誘爆する。


 ゴォォォォォンッ‼ という爆発音と共に角ありのビーストは消滅した。


「〔負ける気がしない〕」


 爆炎を背に朝顔とホーク・キッドは意図せず声を合わせた。


























[負ける気がしない。ねぇ……]



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