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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
死の先にある情熱“彼岸花”
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第四十七話 ストーカーと兄妹

 朝顔は薊が言っていた白衛公園に向かう。普通はこんな面倒事は放置したい朝顔だが、朝顔に頼み込む薊の顔がどこか物悲しく、どこか寂しそうだったので、無下にも出来ず。朝顔は白衛公園に向かわざるをえなかった。


 そういえば嫁菜の家の近くだな……と朝顔は白衛公園とは違う道に行こうとして足を止めた。


「しまった。つい嫁菜の家の方向に……」


 嫁菜の家の方を向こうとする体を必死に引っ張って、朝顔は白衛公園の前に着いた。


 白衛公園は小さく、質素な公園だ。ベンチが一つ、シーソーが一つ、スプリング遊具二つのみだ。場所も悪く、ボロ屋に囲まれた見えにくい場所にある。


「ここが白衛公園か」


 朝顔は一応地元なので見かけたことは数度あった。


 語るべき所のない公園だが、一つ異様な存在感を放つ物があった。それは大きな枯れ木、恐らく桜の木だろう。


 そして、その枯れ木の前で一人の少女が手を合わせていた。その少女は朝顔も知っている人物……ヒンメルのパイロット、鈴木桜だった。


「ん? なんだ、こんなところに居たのか。鈴木――」


 朝顔が桜の肩を掴もうとした時、桜は朝顔の声に反応して振り返った。


「……ッ! 東雲さん」


 その表情は朝顔の知っている桜が到底作り出すものではなかった。


 涙が頬を流れ、鼻は赤く、ひどく弱弱しい様子だ。常に強気で意地を張っている鈴木桜とは雰囲気が別人だった。朝顔の呼び方にしても、いつもは“東雲”と呼び捨てなのにさん付けになっている。


――『そしてもし、そこで泣いている女の子が居たら、声をかけてあげてください』


 まさかそれが鈴木桜とは朝顔も思ってはいなかった。いや、本当に泣いている女の子がいるとは朝顔は思っていなかった。朝顔は状況を理解できず立ちつくしてしまう。


「えっと……」


「ごめんなさい!」


 そう言って桜は朝顔の横を通り過ぎて行った。


「あ、おい――」


 朝顔が振り返ると桜はすでに公園の入り口から住宅街に出ていた。


「なんなんだ?」


 朝顔は先ほどまで桜が座っていた枯れ木の前を見る。


「ん?」


 するとそこには小さくゴツゴツした長方形の石が埋まっていた。石の前には赤い彼岸花が一輪添えられている。その有様はまるで墓標のようだった。そして、長方形の石には子供が彫ったような文字で名前が書いてあった。朝顔はその名前を見て益々理解に苦しんだ。



「鈴木岸花?」



 嫌がらせか、同姓同名の別人か、それとも墓標ではなく何かしらの願掛けかわからないが石には間違いなく“鈴木岸花”と刻まれていた。


 朝顔が思考を巡らせていると一人の男が公園に入ってきた。


 朝顔は振り返り、その男を視認する。


「余計な考察をするな。解明者」

「タラシ野郎……」


 目つきを尖らせ、一輪の花を持って鈴木岸花は現れた。鈴木岸花は枯れ木の前に行って花を添え、膝をついたまま手を合わせる。


「おい。どういうことだ? これは墓標だよな。なんでお前の名前が――」


「聞こえなかったのか? 無駄な考察をするな、お前は裏世界だけを解明すればいい。三度目の忠告はないぞ」


 岸花は朝顔に殺意を込めた一瞥をし、その場を去った。

 朝顔は出どころのわからない苛立ちに身を震わせていた。


「っち! やっぱ嫌いだアイツッ!!」


 結局朝顔は何もわからず腑に落ちない気持ちでアパートに帰宅することにした。



 * * *



 ヒンメル局長室。 


 そこにあるたった一つの机で菫はパソコンと睨めっこしていた。


「キキョウ先輩。そろそろ教えてくれたらどうですか? “管理者”について」

『……。』


 菫はパソコン越しにある少女と通話していた。


 少女の名は“キキョウ”。元々昼吉世代のパイロットで菫の先輩にあたる人物、現在はヒンメルの総責任者の任についている。若く見えるが菫より遥かに年上だ。


『管理者か。“解明者”が裏世界を【解き明かす者】なら奴らはさしずめ裏世界を【管理、統制する者】といったところか。生憎だが、我が言えるのはここまでだ』


「なぜですか? それは“裏世界”に関わる重要な情報でしょう、共有して損はないはずです」


『言えない理由は二つ。一つは貴様があの男の娘だから』


「……ッ!!」


 菫の表情に怒りが滲む。

 キキョウは菫の変化に気づいたが、あえて何も言わない。


『二つ目は、東雲朝顔の器を測りたいからだ』


「朝顔の器?」


『もし奴が自力で“絵本”までたどり着くのなら、()()のことを教える。だがそれまでは我は一切手を貸さない。これは昼吉の意思でもある』


「昼吉さんの残した手紙にそう書いてあったのですか?」


『その通りだ。意図はわからんがな。全く、“解明者”というやつはいつの時代も我の思い通りには動かない……困った連中だ』


 “キキョウ”はどこか嬉しそうに呟くと通信を切った。

 菫はパソコンを閉じると机に置いてある亡き父の写真を悲しそうに見つめた。


(管理者……今の私たちの戦力では太刀打ちできない。――が、可能性はある。解明者である朝顔、驚異的な共鳴率を叩きだしているアザレア、巨大な魂の器を持つ桜、高い魂感知能力を持つパンジー、そして全てにおいて突出している岸花。連携さえ上手くいけば、あるいは――)



 6/21 PM0:32



 昼休み、朝顔は校庭の草陰から双眼鏡で高嶺嫁菜のいる二年一組を覗き見していた。服装は緑に紛れるように迷彩服に葉っぱや枝をくっつけた特別製のスニーキング・スーツ。例え近くを誰かが通っても凝視しなければ朝顔に気づかないだろう。


……魂感知のできない者ならば。


「なんのようだ? 鈴木桜」


「ぐっ! やっぱりアンタもセンサーぐらい持ってるわよね」


 桜は朝顔の後ろの草陰に隠れて照れくさそうに眼を逸らしている。


「なんのようだって聞いてるだろ?」


「いや、ほら、こないだのこと」


 桜はモジモジと言葉に詰まっていた。

 朝顔は記憶を蘇らせ「あー、あのことか」と低いテンションで言う。


「お前が泣いて――」

「ぎゃあ! 誰にも言わないで、恥ずかしいから!」

「別に誰にも言う気はない」


 桜は「そ、そう……」とさらにモジモジする。

 朝顔は煮え切らない桜の態度に徐々に腹を立てていった。


「だ~か~ら~! なんだってんだ一体! 僕は嫁菜の観察で忙しいんだぞ!」


「堂々とストーキング行為を威張るな!」


 桜は目の前のストーカーを見て自分の悩みが馬鹿馬鹿しくなり、ようやく覚悟を決めた。


「アンタ、気になってるでしょ? こないだの公園にあった石のこと」


 朝顔は双眼鏡を下す。

 桜は朝顔の行動をYESと捉え、口を開こうとするが――――




「別に」




 と、朝顔の淡泊な返答に言葉を呑みこんだ。


「え? き、気にならないの? 私の秘密」


「いいや、別に。本当に邪魔だから帰ってくれないか? 僕が忙しくない時に出直してくれ」


 桜の眉間にピシッと血管が通った。

 「あぁそう!」とゴゴゴゴッ! という擬音が聞こえる勢いで桜は地を鳴らしながら朝顔の元を去った。


「嫁菜~。あ! こっち向いた!」


 朝顔は双眼鏡を再び構え、嫁菜を視界の中心に収める。そして昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ろうとした、その時、




 ビリィィィィッッ!!




「――!?」


 天が割れるような音が耳に飛び込み、朝顔は空を見上げた。すると、空を切るように黒い星が南から北へ流れた。


(なんだと? まだ前回の“色付き”以降、なんの夢も見てないぞ)


 朝顔はただならぬ圧力を感じて菫に自分から連絡した。





















[さぁ~って。“解明者”に絶望の二文字をプレゼントしようか? 君と一緒にね♪ 僕チンのとっておきの人形“ゆうき”ちゃん]


 黄金の悪魔が、漆黒のケルベロスを連れてやってきた。

もうわかる人にはわかるかな( ´艸`)

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