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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
死の先にある情熱“彼岸花”

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第四十六話 ストーカーと戦う理由

色々と動きまくる章です。是非ご覧あれ。

……6月21日 裏世界にて。


[なーんだ! こんなもんか!]


 重傷者一名、軽傷者二名。

 朝顔は“裏世界”に来て初めて、


――敗北を経験した。







6/19 AM7:34



「あづいよぉ~朝顔~!」


 タンクトップに短パンというまるで少年のような恰好をして武藤あやめは畑の側にあるベンチでうなだれていた。


「働けあやめ。お前が畑仕事手伝えって言うからわざわざ来たんだぞ僕は……」


 カチューシャで前髪を上げ、腰に半袖の上着を巻いて朝顔はせっせと田植えをしていた。隣の列では物凄いスピードであやめの妹である薊が田植えをしている。


 あやめは目を点にして体中から汗を垂れ流す。


「お姉ちゃんは暑さに弱いんだよ」


「そうなのか? あやめ妹」


「薊です。ところで朝顔さん、助っ人呼んだって言ってましたけどいつ頃来るんですか?」


「ああ、そろそろだと思うんだが」


 朝顔が首に掛けていたタオルで汗を拭うと、畑の横にある道路の向かい側から目をキラキラと輝かせた金髪の少年と日光とにらめっこしている白髪の少女、そして白髪の少女に連れてこられた孤児院の子供たちが続々と現れた。


「おぉ~! これぞジャパンって感じだなぁ~!! この雑草みたいのが米になるんだよな!?」


「あっちぃ~、パンジーちゃん日光天敵なのよねぇ~」


「あ! あさがおにいちゃんだ!」


「あさがおだぁ!」


 朝顔たち含め十七人。隣の畑であやめのおじいちゃんおばあちゃんが嬉しそうに「おやまぁ」と子供たちを眺めていた。


 金髪の少年、アザレアは朝顔と目が合うと満面の笑みで手を振ってきた。


「お~い! 東雲~! 俺にも早く田植えやらせてくれぇ~!」


「待て待て! その靴で畑に入るな!」


 白髪の少女、パンジーはベンチで横たわっているあやめに近づいて心配そうに見下ろす。


「ちょっとちょっと~、女の子がだらしないって。ブラ透けてんよ?」


「あ! あなたは確か朝顔にチュウをした……」


「パンジー、パンジー・ガーベラ。よろしくね」


「よ、よろしくお願いします。わ、私は武藤あやめと申します」


「よろしくね、陰キャちゃん」


「陰キャちゃん!?」


 助っ人外国人と子供たちを交えて畑仕事を再開した朝顔たち。最初こそ仕事を教えるのに苦労したが覚えてからの効率は凄まじく、昼前には一区切り付くことができた。


 畑仕事を終えた一行はあやめの家(古いが広い一軒家)でスイカを頂いていた。風鈴の音が夏の到来を感じさせ、涼風が春の終わりを感じさせる。畳で出来た部屋から吹き抜けにベランダに繋がっており、部屋から足を投げ出して食事をすることができる。


「さぁみんな。お食べ」


 武藤家のおばあさんが言うと一斉に子供たちは動き出し、スイカを手に取ってむしゃむしゃとかじりだした。


 アザレアは男の子たちと種飛ばしで遊び、女の子たちはあやめも含めパンジーに髪をいじってもらっていた。


「陰キャちゃんさ~髪の毛ちょこっといじって、服装も整えたら絶対かわいいよ」


「そ、そうかなぁ?」


「ほーら、こっち来なさい。まず片目隠してるのが信じられないって! こんな目おっきぃのに!」


(さすがはパンジー、まだ顔を合わせるの二度目だったはずなのにもうあやめと打ち解けている)


 朝顔はなぜか自分に懐いている大人しい女の子の面倒を見ながらスイカをかじる。すると隣にあやめの妹である薊が座ってきた。


「お疲れ様です。朝顔さん」


「ん。お疲れあやめ妹」


「薊です」


 朝顔は女の子を膝に乗せて、スイカから種の部分を取り除いてから食べさせる。


「あれからどうだ?」


「はい。朝顔さんの言う通りにしたら上手くいきました」


「そうか。ところでお前は高校どこ行くんだ? そのまま高等部に上がるのか?」


「はい。桜と一緒に……」


 ヒンメルのパイロット鈴木桜と武藤あやめの妹武藤薊は友人関係にあるのだ。


「そういえば、鈴木桜も誘ったのに来なかったな」


 朝顔が言うと薊はなぜか気を深く落とした。それは明らかに友人が来てくれなかったからだけの理由には見えなかった。


「朝顔さん。またお願いがあるのですが」


「なんだ?」


「帰りに白衛公園に寄ってほしいんです。そしてもし、そこで泣いている女の子が居たら、声をかけてあげてください」


「……? それってどういう――」


 朝顔が薊に疑問を投げかける前に、背後から「こっち見てみろよ! 東雲!」とアザレアの言葉が耳に入ってきた。


 朝顔が「何だよ」と振り向くと、


「ど、どうかな? 朝顔……」


 そこには普段の陰気さを吹っ飛ばした武藤あやめが立っていた。


 祖母から借りた花柄の浴衣、浴衣に合わせ付けられた花のかんざし。かんざしは普段あやめの右目を隠している前髪を上げ、そのクリッとした可愛らしい瞳を露にしていた。彼女の顔は良い感じに赤みを帯びており、どこか潤んでいる瞳が保護欲求を駆り立てる。


……普通の男性が見れば。


「今日祭りでもあるのか?」


 そう、彼は普通じゃない。ストーカーである。

 あやめはどこかわかり切っていた表情で「まぁ、朝顔はそういう反応するよね」とあきれ気味に呟いた。


「ふんっ!!」


「ぐはっ!?」


 パンジーの正拳が朝顔の右頬に炸裂する。


「ちょっとぉ~、おめかしした女の子に対して、その反応はないっしょ」


「朝顔にとって嫁菜ちゃん以外の女の子の容姿なんて、どうせ同じに見えてるよ」


「今のはお前が悪いぞぉ~東雲」


 朝顔は畳の床に伏せながら「どうして殴られたんだ? 僕」と本気で理由がわかっていない様子だった。薊と大人しめの女の子が『大丈夫?』と朝顔に声を掛けている。


 こうして武藤あやめの畑仕事の手伝いは終わりを迎えた。


 朝顔とアザレア、パンジーと子供たちはそれぞれの行く先への道へ入る。朝顔は隣で嬉しそうに今日の話をするアザレアを尻目に薊から頼まれたことを思い出していた。


「いやぁ~、日本の夏は静かでいいな! 雰囲気というか空気感がさいっこうだぜ! 俺、アメリカよりこっちのが性に合ってるかも!」


「ん? ってことはやっぱりアザレアはアメリカ人なのか?」


「え~!? 気づいてなかったのか? もろアメリカ生まれアメリカ育ち、両親もアメリカ人。フロリダに実家があるぞ」


「アメリカ生まれでアメリカ育ち? にしては日本語上手いな」


「もうこっち来て三年は経つからなぁ~ヒンメルに入るために親に内緒で一人空港に行ったあの日がもう三年前か」


 そういえば。と朝顔はある疑問を頭に浮かべる。そしてその疑問をそのままアザレアに投げつけた。


「アザレアは何でヒンメルに入ったんだ?」


「……。」


 アザレアの表情が明らかに落ち込み、朝顔は質問したことを後悔した。


 朝顔はすぐに質問を撤回しようとするが、その前にアザレアが口を開いた。


「東雲はさ、死ぬほど大好きな人っている?」


 朝顔はアザレアの唐突な質問に対して動揺せず、即答する。


「いるよ」


「じゃあさ、もし、その子が不治の病にかかって、その病を治す方法が世界の裏側にしかないなら…どうする?」


「飛んでいく。治す方法があるのなら、例え僕の命を賭けて……いや、その他全員の命を犠牲にしても、僕は助けに行く」


 朝顔の答えを聞くとアザレアはニコッと笑い、「そうか」と嬉しそうに呟いた。朝顔はこの会話でアザレアが“裏世界”という危険な場所に関わる理由を何となくだが理解できた。


「俺も同じなんだ。東雲の言葉を聞いて何だか安心したよ。俺のやっていることはおかしなことじゃないんだな、って」


「アザレア、もしかして――」


「ああ、そういうことだよ。俺にとって女神に等しい女の子が不治の病にかかっていて、それを治す方法が“裏世界”に眠っている。だから俺は戦うんだ。“色付き”を倒した後、ヒンメルは無人機で“裏世界”の視察をする、その視察の時間を確保するために。好きな女の子のために命を賭ける、定番だろ?」


「簡単にできることじゃない」


「でもお前が俺と同じ状況ならきっと俺と同じ選択を取る」


 朝顔は言われて何も言い返せなかった。


 アザレアは分かれ道に立って、最後に一言、朝顔に質問する。


「東雲はなんで“裏世界”に関わるんだ?」


「え?」


 聞かれて、朝顔は言葉に詰まった。朝顔の様子を見て、アザレアは笑顔で手を振ってその場を去る。


「考えておいた方がいいぜ」


 そう言い残して。



もしかしたらこの章で完結するかもです。


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