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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
一 ツ目の怪物“つとむ”
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第四話 追跡者

 鈴木岸花。彼は“ある場所”を探索する政府公認の組織の一員だ。


 彼の任務は端的に言えば害虫駆除。世界規模で相手せざるを得ない難敵の排除にある。いわば正義の味方だ、それも少し特殊な…彼はいくつか能力を持っている。そのいくつかの能力の一つ、それが相手の魂の強さを測る力だ。


 岸花はこの霊魂把握の力を使い、東雲朝顔の魂の器を測った。


――結果として、わかったのは東雲朝顔が常人をはるかに超える魂を持っていたということだった


(ありえん…!! なんだコイツの底知れない魂の強さは!? …とてつもなく強い意志を感じる。神を心の底から崇拝し、あらゆる信仰を纏った聖職者が到達する領域だ…)


 無論、朝顔は神など信じていない。だが、彼には神にとって代わる人がいる。


 無垢な愛情は時を超え信仰となったのた。高嶺嫁菜、彼女に対する朝顔の愛情はすでに崇拝の域に至っている。


「…裏世界ってなんだ」


 苛立ちの交じりの声が岸花の鼓膜を貫いた。



(魂の波長が、肥大化する…!)


「…霊魂ってなんだ。センサーってなんだ! いい加減、僕の知っている言葉を話せタラシ野郎!!」


 岸花は眼前で膨れ上がる朝顔の魂を見て息を呑んだ。


(コイツの魂を見てわかった。異常な感性を持っているが裏世界に関わる人間が持つ独特な波長がない、部外者だ。しかし、捨ておくには勿体ない逸材…)


 岸花はナイフを捨て、両手を上げる。そして瞳を閉じて軽く頭を傾ける。


「すまなかった。俺の勘違いだ、気が済むまで殴ってくれて構わない」


 まずは警戒心を解き、怒りを収めさせる。そこから勧誘へと繋げる見込みだ。


…しかし、ここで予期せぬ出来事が起きた。


「うるさい…! 黙れ。うるさいうるさいうるさい!! 辞めろ。僕はお前なんか知らない…」


 岸花は朝顔の声を聴いてすぐに目を見開く。


 眼下には頭を抱え、地面に伏せる朝顔の姿があった。苦しそうに、うるさいを連呼していた。


 岸花は朝顔の異常な行動、その元凶にあるものに察しがつき、膝をついて朝顔に語り掛ける。


「落ち着け。裏側に行くな、まだ――」


 岸花の声はすでに朝顔に届いていなかった。


 ぐわん。ぐわん。


 世界が黒く染まっていく。


 ぐわん。ぐわん。


 意識が白に染まっていく。


 景色から色が抜けた。いつものそれとは違い、言いようもない不快な音が朝顔の耳を貫く。


 ぐわん、ぐわん。


 しかもそれは一秒間隔で訪れた。白黒の世界と、彩の世界が高速で行き来する。朝顔は二転三転する景色に思わず吐き気を催した。


「ぐぷっ…!?」

「なんだ?」


 岸花は倒れこもうとする朝顔から腕を放し、仰向けに寝かせる。

 朝顔はギリギリの精神状態でうっすらと瞳を開け、その姿を見た。


「めい…さいふく。ひ…い、ろ…? 「彼色ひいろ…」」


「――!?」


 それはいつかと同じ経験だった。


 白黒の世界に人の姿が見える。それも現在、鈴木岸花がいる場所に重なるように…

 岸花は朝顔の言葉に絶句し、表情を曇らせた。そして、一度払拭した疑問を再び投げかける。


「お前…何者だ?」


 ひどい耳鳴りが朝顔を襲う。

 無数の怨嗟の声が朝顔に近づいてくる。雑音の嵐に包まれながら、朝顔は確かに聞いた。


―――ようこそ、裏の世界へ。


 それは幼い少女の声だった。


「馬鹿な!? なぜ“loophole”がここに‼」


 視界は暗く、真っ暗な世界でジェットコースターに乗ったような、変な疾走感に朝顔は包まれた。

 黒い歪みが彼を包み込み、音もなく消失した。


「アイツだけを、“裏世界”が飲み込んだ?」


 鈴木岸花は一人きりとなった路地で膝をつき、懐から一つの通信機を取り出し、ある人物に連絡する。


「菫さん。緊急事態です」


 2005年 5月1日 PM4:32。東雲朝顔は表の世界から姿を消した。



 REVERSE 88:88


 そこは別世界だった。


 朝顔は痛む頭を押さえてゆっくり足に力を込め立ち上がる。朝顔がいるのは地元の高層マンションの屋上だ。


「なんだ…これ…」


 屋上からの景色を見て、朝顔は驚きを隠せなかった。


「色の抜けた…白黒の世界…間違いない、僕が何度も何度も見ていた世界だ…あやめの言葉を借りるなら―――」


―――裏世界。





 






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