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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
永久に輝く真珠“さやか”

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第三九話 無駄な人生

 三年二組。その教室で一人の男子生徒がポツリと自分の席に座っていた。


 瞳に生気がなく、ポケットに手を突っ込んだまま夕陽を眺めている。吹奏楽部の音と運動部の掛け声が教室内まで響いていた。


 男の名前は新島正人。同級生に比べ少し大人びているが、老けているという表現は合わない。高校生と言われても大学生と言われても納得できる中間な容姿をしている。

 新島は季節外れにも関わらずピンク色の手袋とピンク色のニット帽を机の上に置いていた。そんな彼の元に一人の少年が訪れる。


「こんにちは。新島正人さん」


「……誰だ、お前」


「二年の東雲朝顔です。ちょっと聞きたいことがあります」


 朝顔は彼の前の席の椅子に座り、向かい合う。


「どうして留年を繰り返すんですか?」


「ふん。なんだ、また生徒会の連中か? カウンセリングなら間に合っている」


「――悪いけど、僕が救いたいのはアンタじゃない、質問に答えてほしい」


 朝顔の表情を見て新島は態度を改める。


「……知ってるだろう。俺の彼女が死んだ。俺は、彼女を置いて卒業なんてできない」


「だったら学校を辞めればいいでしょう? そうしないのは、アンタがまだ縋ってるからだ。この学校に居れば、彼女の存在を多少なりとも感じられるから」


「……。」


 新島は答えない。

 朝顔は(無駄なこと言ったな)と少し自分の発言を反省しつつ、話を変えた。


「僕は中学生の時にアンタと彼女、渡辺さんが歩いているところを見たことがある。僕の印象だと、渡辺さんはアンタにベッタリだったけど、アンタはさほど渡辺さんを好いているようには見えなかった」


 新島は鼻で笑う。


「俺も、そう思っていた。アイツは俺のことが大好きで、俺は仕方なく付き合っているだけだと。――彼女が死んでから気づいた。俺の方が、いや、俺にとっても彼女は欠かせない存在だったと」


 朝顔はその言葉を聞いて、どこか嬉しかった。容姿や上っ面だけを評価し合い、偽物同士で結婚まで発展することのある世の中で、本物があったのだと。同時に悲しくなった。その本物も心無い暴力で壊されたのだと。


 朝顔はここに来た目的を果たそうと、一つの質問をする。


「もし彼女に会ったら、何て伝えたい?」


「決まっている。俺は――」


 その後の言葉をしっかりと聞いて。朝顔は教室を出た。


「無駄なことだ」


 教室から足を踏み出した瞬間、朝顔は言われた。


 視線をズラすと窓に背をついて鈴木岸花が立っていた。


「死人に固執する男に関わって、お前に何の得がある? “裏世界”の解明にも役立たない。無駄なことはやめろ」


 朝顔は溜息をつき、岸花に言う。


「無駄のない生き方は楽しいか?」


「――効率的だ」


「つまらない人生だな」


 朝顔は岸花に背を向けて教室の前から去る。


 岸花は朝顔の言葉を聞いて「理解できない…」と呟いた。


「“裏世界”はいち早く駆除しなければならない…それが、俺の使命だ。そのためには…」



 PM6:00



「ホーク・キッド。ずっと気になっていたんだが、結局“解明者”ってのは何なんだ?」


〔解明者。それすなわち、裏世界を解き明かす者なり〕


 朝顔は学校の帰り、嫁菜を家まで見届けた後、ヒンメルの格納庫に足を運んでいた。周りにはホーク・キッドを含めた霊媒機体(シャーマン)が勢ぞろいしている。


「裏世界をねぇ…」


〔今私が言ったことは解明者という存在の使命ですね。その本質は別にあります。解明者の本質、それは謎を解き明かすことにあります〕


「謎を解き明かす? ピンとこないな。具体的にはどういう能力があるんだ?」


 朝顔とホーク・キッドの話に他の霊媒機体たちも参加してくる。


〔解明者はみんな頭がいいよね!〕


〔次になにをすればいいか。どうすれば相手に勝てるか。昼吉の野郎もそうだったが解明者ってのは状況判断に優れている。だがこれに関しては俺様の見解だと、解明者の能力じゃなくて解明者である資格だな〕


〔解明者は裏世界が関与する事柄に敏・感。現実世界におけるウイルスバスター、それが解明者さ。昼吉はよく言ってたねぇ~『解明者の義務はバグを破壊することではなく、バグを治すことだ』って〕


 バグを破壊するのではなく、バグを治すこと……


 朝顔はマヤからの言葉を聞き、その場に座り込んだ。


「気持ち悪い」


 朝顔はボソッと呟き、背伸びしながら立ち上がる。


「あー、駄目だ。使命だとか本質だとか、好きじゃないな。僕は僕の好きにさせてもらう」


 朝顔の言葉に霊媒機体たちは頷く。


〔それが一番ですよ。御主人〕


「だな。あー、それとさ、お前ら霊媒機体って元はこの世界に生きてた人間だったんだろう?」


〔ええ。皆、元はれっきとした人間でした。その点は“色付き”に酷似してますね〕


「霊媒機体たちは自分の意思でヒンメルに協力してるんだろう? 理由、聞いてもいいか?」


 朝顔が問うと、まずパオトルが真っ先に答えた。


〔俺様はロックが世界を救うってことを証明するためにここにいるぜぇッ‼〕


 次いでマヤ→マクイル→ホーク・キッドの順番に答える。


〔アタイは探求心さ。単純に裏世界という場所を調べたいのよ〕


〔僕は復讐! 理由、理由聞きたいよね! えっとね――〕


〔私は無論、愛と正義のためです!〕


 そして最後にピンク色の霊媒機体“イラマ”が答える。


〔私は“裏世界”から発生した病で命を落としましたから、他に同じ被害者を作りたくなくて……〕


「裏世界から発生した病?」


〔ええ。“裏世界”に“色付き”を取り残した際のペナルティは御存じですね?〕


「ああ。地震や嵐といった災害…じゃないのか?」


〔それは一部にすぎません。“裏世界”に“色付き”を取り残すことで表世界はバグに侵される。つまり原因不明の厄災が起きるのです。厄災の意味の範囲は限りなく広い。例えば犯人のいない通り魔殺人、例えば火元のない大火災、例えば未確認の病原ウイルス…これにより理不尽に命を奪うことで死亡者にこう思わせる……〕


 朝顔はイラマの話の途中で一つの裏世界にいる死人に一つの共通点を見出した。


〔“生きていたい”と…〕


――『俗にいう地縛霊のみが存在する世界』。


 朝顔は“裏世界”に行く前にあやめから聞いた話を思い出した。


「そうか、それで地縛霊か。裏世界に送られる死人は総じて、表世界に未練がある」


〔例外はありますけどね。世の中には“裏世界”に魅入られる人間がいる。そういった人たちは未練が無くとも“色付き”になる可能性が高いです。昼吉君や朝顔君などの“解明者”がまさしくそうです〕


「ありがとうイラマ。タメになる話だった。今度なにか礼をするよ」


〔いえ、礼はいらないので、ちょっと桜を呼んでもらっていいですか? 訓練の約束をしていたのですが……〕


「鈴木桜を? わかった」


 朝顔はイラマの頼みを聞き、桜を探し始めた。




 一方、桜は女子更衣室で下着姿になり、一枚の写真を眺めていた。

 写真にはまだ幼い鈴木桜が大泣きしている姿と、桜の頭を撫でる白髪の少年が映っている。その白髪の少年は岸花の幼い時のものだ、今は黒髪だが昔は白髪だったということがわかる。写真から、二人が仲の良い兄妹であったことは見て取れる。


「お兄ちゃん…」


 桜は寂しそうに写真に呟いて、カバンにしまった。すると次の瞬間、背後からガタッとドアが開く音がした。桜は「パンジーかな?」と振り返る。……だが、そこに立っていたのは紫髪の男子高校生だった。


「ん、着替え中か? まぁいい。イラマが待ってるぞ、早く行って――」


「ば――」


「ん?」


「バカぁッ‼」


 朝顔の顔面に筆箱があたったのと同時に、地下支部全域に警報が鳴り響いた。


『ループ・ホール出現! 総員持ち場に着いてください!』


 女性のアナウンスを聞き、朝顔と桜は動き出す。



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