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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
永久に輝く真珠“さやか”

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第三八話 ストーカーと謎の少女

 そこは見覚えのある場所だった。


 朝顔がよく通る道、夕礼高校に向かう際に通る住宅街。その通りで二人のカップルと思しき高校生が歩いていた、二人が着ている制服は朝顔が通っている夕礼高校のものである。 


 一人は不愛想で声の低い男性。ガタイがよく、頼りがいのある見た目だ。

 もう一人は華奢で茶髪の女性。男性のガッチリとした右腕に自分の左腕を巻き付けている。


「ねぇねぇ! もう少しで修学旅行だね! ハワイだよハワイ!」


 女性の方は積極的で彼氏のことをかなり愛している様子だった。


「そうだなぁ」


 彼女に対して彼氏の反応は薄く、興味のない態度。しかし、彼女の方は彼氏の無口な態度に対して不快感を抱く様子はなく、むしろさらにべったりしだした。


「聞いて正人まさと! あと少しでね、手編みのマフラーが完成するんだぁ~」


「またピンクのやつか?」


「うんー!」


「勘弁してくれ…」


 正人と呼ばれた男性はピンクの手袋とピンクのニット帽を付けている。…第三者から見れば全く似合っていない。


「似合わないんだよ。俺、ピンクはさ…」


「似合ってるって!」


「似合ってない」


「似合ってるよ! 少なくとも私から見れば似合ってるから!」


 にへへ。と笑顔を向ける彼女。

 正人は彼女の笑顔を見ると嬉しそうにため息をつく。


「まぁ。他の誰にダサいと言われようが、“さやか”が似合ってると思うなら――それでいいか」


 朝顔は夢の中で二人を遠くから眺め、物寂し気な表情をする。


(あの二人のどっちかが次の“色付き”か)


 朝顔は二人を観察し、今まで倒した“色付き”を思い出して、その共通点の一つに気づいた。


(そういえば、“裏世界”で会うのは決まって千葉に縁のあるやつだな…つとむが夢の中でいた公園は“表山ひょうざん市(朝顔たちが住む町)”の南部にある公園だし、“ひでお”の家は千葉県内にあった。“ひるよし”も恐らくこの町に住んでいただろう。そして今のカップルは夕礼高校の出身、ならばこの辺りが地元の可能性は高い。…この共通点、何か理由があるのか?)


『ループ・ホールの出現地が千葉だから、千葉に縁のある人ほど強力な“色付き”になれるんだよ』


 朝顔の疑問に対して、ある少女が答えを出した。


『誰だ…お前?』


 夢の中で朝顔の姿を認識されたことはない。いや、第一に夢の中に朝顔の姿などないのだ。ただ第三者目線で誰かの過去を覗いているだけ。なのに、少女は朝顔と目線を合わせた。


 少女は服と呼べるのかもわからない薄っぺらな汚い布を着ていた。裸足で下着もけていない。少女は朝顔の問いに答えることなく、右手を前に差し出した。


『解明者の義務を果たしていけばきっと、君ならたどり着けるよ。私まで…』


 朝顔は少女を見て、あるひとりの女性を思い出していた。そして、思わずその名を口にする。



 


「嫁菜!?」





 時は四限、科学。


 朝顔は四限の始まりに意識を失い、そして今覚醒した。椅子をガタッと倒し「嫁菜!」と叫んで…


「あー…えっと。とりあえず東雲しののめ、静かにしろ~」


 白衣を着崩し髭を生やした科学教師“浅井あさい勺南しゃくなん”に注意され、朝顔は周囲の視線を浴びつつ椅子を直した。


 周りから笑い声と共に「…東雲、ついにおかしくなったか…」、「いつ壊れるかと心配だったが…」、「警察から事情聴取を受ける日も遠くないな…」と話し声が聞こえた。


 教卓の前の席に座っているあやめが自分のことのように顔を赤くしている。


(嫁菜、のわけがないよな…誰だ? あいつは…)


 ちなみに当の本人はまったく気にしていない。

 朝顔は一旦夢のことは忘れ、寝てた分授業に集中した。が、すぐに四限を終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。




…昼休み。



 朝顔はあやめと一緒に食堂へパンを買いに行っていた。


「あんパンとカレーパン…あと焼きそばパンで」


「あいよ~」


 購買のおばちゃんから袋に詰められたパンをもらい、朝顔は食堂の長机であやめと一緒に昼食を摂る。


「たまにはこういうのもいいね」


「そうだな」


 朝顔があんパンをかじっていると背後の席からある会話が聞こえた。


「もうすぐ就学旅行だ! 沖縄沖縄!」


「なにもってくよ? ps2とか持ってちゃうか?」


 後ろに座っていたのは朝顔たちより一つ上の三年生だ。修学旅行、と聞いて朝顔は夢のことを思い出していた。


――『ねぇねぇ! もう少しで修学旅行だね! ハワイだよハワイ!』


「なぁあやめ」


「ふぁに?」


 あやめはモグモグとメロンパンで頬を膨らませている。


「三年になったら修学旅行があるだろ?」


「ふぁのひみふぁね~(訳:楽しみだねぇ~)」


「…それでさ修学旅行の行き先っていつから沖縄になったんだ? 前はハワイだっただろ?」


 朝顔が見た夢、その夢の中で“さやか”という女子生徒はハワイが楽しみと言っていた。現に朝顔自身、夕礼学校の中等部にいる頃修学旅行先は“ハワイ”と聞いていた。しかし、今の三年の修学旅行先は“沖縄”になっているのだ。些細な疑問だが、朝顔は何となく気になってしまった。


 あやめは紙パックの牛乳でパンを流し込み、ゴクリ、と一息ついてから答える。


「二年前だったかなぁ。確かハワイで事件が起きてそれっきりだよ、時期も冬から夏に変わったね。ほら、ニュースにもなってたでしょ?」


「あー…なにかあったような…」


「誘拐事件だよ。二年前にハワイで夕礼高校の女子生徒が三人誘拐されて、二人は無事だったけど一人は呼吸困難で死亡した話。その事件があってからハワイには行かなくなったらしいよ」


「呼吸困難?」


「なんでも誘拐犯は女子生徒の口を布で縛って塞ぎ、声を出させないようにしてからトラックのトランクに連れ込んで人身売買のスポンサーに届けようとしたんだけど…誘拐犯のミスで一人だけ布で鼻まで塞がれて呼吸が出来なくて亡くなったんだって」


 朝顔はズズッと紙パックのオレンジジュースを飲み、「まさかな…」と呟いた。


「そういえば、その亡くなった女子生徒の彼氏さんも有名だよね~」


「ん? 誘拐犯をぶっ殺したとか?」


「いやいや…そんな物騒なことじゃないよ。()()学校にいるんだよ。新島にいじま正人まさとさん、三年二組の指定席にね」


「なんだと?」


 事件が起きたのは二年前。二年前に修学旅行に行っているのだから現在高校に通っているはずがない。つまり…


「わざと留年してるんだって。三階、二組の教室、窓から二つ後ろから二番目の席に座ってるらしいよ」


「……。」


「朝顔?」


 朝顔は思いつめた様子で食べかけのあんパンを見つめる。


(知りたがってるのか…)


 解明者は好奇心に逆らえない。そう誰かに言われた気がした。


 朝顔は苛立ちながらあんパンをかじり切り、授業が終わったら三年二組に足を運ぶことに決めた。その様子を、遠くの席でバスケ部員と食事をしていた岸花が意味ありげに見つめていた。



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