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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
外伝“KY日記”

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三話完結短編“KY日記”後編


 その三“KYの友達”




――どういうことだろう?



 友達と話せば無条件で楽しいと思ってた。 

 友達と遊べば無条件で楽しいと思ってた。

 友達と――


「……。」


 朝、私はいつも通り友達と談笑します。正直、彼女たちが話のどこで笑っているのかわかりませんが、それでも無理やり笑顔を作ります。


「…疲れた…」


「ん? なんか言った? 薊」


「ううん。なんでもない」


 私は首を横に振ります。

 私が所属しているグループは猿山さんと後藤さんの二人を筆頭にしたクラスの中でも目立つグループです。


 廊下を歩くと他の女子はどこか委縮します。陰なる人は眩しそうにこちらを避け、陽なる人は光に集まるハエのように集まります。


 私はきっと、このまま彼女たちと卒業するまで一緒にいるんだろうな、そう思ってました。あれを見るまでは。


 彼女たちと付き合い始めて二週間が過ぎようとしていた時でした。


「そろそろ薊にもあの遊び教えてあげよっか?」


「あの遊び?」


「そ。秘密の遊び♪」


 意気揚々として、彼女たちが私を連れて行ったのはあまり使われていない別校舎の女子トイレでした。

 そのトイレには少し地味目の女の子が震えて立っています。私は状況が読めず、目線で猿山さんたちに説明を求めます。


「ほら、これ見なよ」


 猿山さんが見せてきたのはアルバム帳でした。


 私はそのアルバムを見て絶句します。


「これは…」


 そこに張られていたのはスカートを捲し上げて下着を見せる女子の写真でした。正確には女子中学生の写真です。私のクラスの人間のものもあれば、他のクラスの女の子の写真もあります。


「これがめちゃくちゃ売れるんだよねぇ~。あ、ちゃんと写真撮らせてくれた子にも分け前与えてるよ?」


「ちゃんと皆承知の上だからさ~」


「承知の上…」


 ではないでしょうね。

 目の前の女子は明らかに怯えています。猿山さんたちに逆らえばどうなるかわからない。それをわかっているから、仕方なく従っているのだ。


「……。」


 空気は読めてます。ここは協調するのが正解でしょう。

…しかし、


――『空気を読まない選択を取れるようになったんじゃないか?』



「読めないではなく、読まない…そっか、そういうことか」


 ようやく朝顔さんの言っていたことが理解できました。


 今までなら私は猿山さんたちを無視して先生にチクりに行ったでしょう。だけど今は違う、今はその行為が自分に不利益になるとわかっていて、選択することができる。


 そうだ。私はKY(空気を読めない)人間からKY(空気を読まない)人間になれたのだ。


「嫌です」


「はぁ?」


「第一、いずれバレますよ。これ。制服で撮らせるのは本当に頭悪いと思う。今の内に辞めた方がいい。――これも」


 私は猿山さんからアルバムを奪い、中身をぐっちゃぐっちゃに破ります。


「捨てた方がいい」


 猿山さんは激昂するわけでもなく、静かに怒りを秘めた声で言い放ちます。


「…やっぱりアンタ、空気読めないわ」


 そうですね。猿山さんの言う通りです。だけど、自分を偽るより全然マシです。


 それに、空気を読まない人間は私だけではありませんから。


「ほんと、だっさい。猿山、後藤、アンタらがやってること見るに堪えないわ」


 女子トイレに現れたのはピンク髪の女の子です。

 少し目つきが鋭いけど整った顔立ち、艶やかな髪。堂々として見ていて飽きない女の子。彼女を見て、猿山さんと後藤さんは怯みました。


「…鈴木、桜…」


「やばいよ。コイツ過激派のファンクラブがあるって噂じゃん」


 鈴木桜。そう呼ばれた女の子は眉をピクリと動かします。


「え? そんなのあるの?」


 どうやらファンクラブの情報は彼女自身初耳のようでした。


「…っち! 白けたな…!」


「行こ、猿山…」


 そそくさと立ち去ろうとする猿山さんと後藤さんを鈴木さんは「待って」と呼び止めます。


「次同じようなことしたらチクるからね。そうなったらアンタたち、停学じゃすまないかもよ?」


 二人の顔が青ざめます。


「写真は全部消去すること。それから写真の子たち全員に謝罪すること。…それができないなら、アンタらの人生保証しないから…!」


 彼女の言葉はハッタリでも何でもないでしょう。あの真っすぐな瞳は本気の表れでした。これっきり、彼女たちの悪行がなくなったのはきっとこの女の子が目を光らせていたからでしょうね。


 猿山さんと後藤さんに追い詰められていた女の子は涙目で鈴木さんに近づいて「…ありがとうございました」とお礼を言います、そして去っていきました。


 私と鈴木さんは女子トイレで二人っきりです。


「見直した。アンタ、良い奴ね」


 そこで思い出しました。

 先日、私に『アンタ。それで楽しいの?』と声を掛けたのは彼女ですね。声が一緒です。


「…結局、またKYに逆戻りか…」


 後悔はありません。わかってて選んだ道ですから。ですが、話はこれで終わりじゃないのです。


「奇遇ね。私もKYなの」


「え…」


「でもそれって、そんな悪いことかな? 私は変に周りに合わせる生き方より、自分に正直な生き方の方が好き。…自分を騙して、周りを騙して、なにが楽しいの?」


 そう言うと、鈴木さんは私に右手を差し出します。


「KY同士。友達にならない?」


――『僕は器用に周りに合わせる人間より、例えKYでも自分を通す奴が好きだ。――そんな物好きが、僕以外にもいるかもしれないぞ、ってことだ』


 なるほど。いましたね、本当に…


 別に空気が読めないからって友達ができないわけじゃない。彼女はきっと、私の素を否定しない。私が欲しかったのは、空気を読む力じゃない。空気を読まなくても、笑い合える友人だったのだ。


「…私でよければ」


 心から笑ったのはいつぶりだろう?



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