表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
外伝“KY日記”

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/59

三話完結短編“KY日記”中編

 その二“KY卒業”




(多数決…多数決…)



 中学校の昼休み。私は心の中で呟きます。昨日、例のストーカーから習ったことを。


『いいか? 空気を読むってのは、多数派を取るってことだ』


『多数派を取る?』


『問題! 五時間目が自習になりました。みんなは勉強が嫌いなので喋ったり遊んだりしてます。だけどお前は明日のテストの勉強が足りていない。さぁどうする?』


『勉強します』


『はい残念』


『どうしてですか?』


『周りが遊んでるならお前も遊べ。周りが勉強してるならお前も勉強をしろ。行動一つ一つに多数決が発生してると考えるんだ。お前が勉強を始めたとして、周囲にいる十人はお前に良い印象を抱くか、悪い印象を抱くか。そいつらの視点に立って考え、多数が肯定してくれる行動をすればいい。それが“空気を読む”ってことだ』


 多数決。それこそ全て。


 私は常に気を配ります、クラスの“空気”に。


「あ、やっべ。数学の宿題やるの忘れちったぁ~」


「え~。私もやってないわ。今から写させてもらおうと思ってたのに~!」


「……。」


 後ろの席に座っている後藤さんと猿山さんの会話…


 Q.今、私が取るべき行動は?


 ①情けは人の為ならず、自力で解決させるべき。

 ②懇切丁寧に公式を教えてあげて、問題を解く手助けをする。


 いや――


『相手の視点に立って――』


 そうだ。彼女は私じゃない。

 私なら自力で解こうとする。それが自分のためになるから、だけど――


「…いいよ。私の写して」


「え? まぢで? いいの武藤さん…」


 私はコクリと頷きます。すると後藤さんは嬉しそうに「さんきゅー!」と言います。

 そうか。これでいいのか。相手のニーズに答えればいいのだ。


「うっわ…体育怠いわ~」


 私は体育大好きです。ですが、


「…体育。めんどくさいよね」

「お! 武藤さん、話わかるね~」


 これでいい。

 それからも私は空気を読み続けます。


「う~、デザートもう一個食べたい…」


 今日の給食のデザートは私の大好きなスイカゼリーです。ですが…


「いいよ。私、お腹いっぱいだからあげる」

「お! マジかよ武藤! ありがとな!」


 嬉しそうに鈴山君ゼリーを食べます。初めて話したのに、彼の私に対する評価が上がったのがわかります。


 なんだ。簡単なことじゃないですか。空気を読むなんて。


「消しゴム忘れたぁ~」

「私の使う?」


「あの先公超うざくない?」

「私もそう思ってた」


「勉強なんか将来役立たないよね~」

「うん。勉強に意味なんてないよ」


「休み時間に本読む奴ってすっごく陰気くさい」

「…確かに」


 気づけば移動教室で一人で行動することは無くなりました。


 朝、教室に行けば挨拶してくれます。


 KYなんて言われることは無くなりました。


――なのに。


「アンタ。それで楽しいの?」


「え?」


 誰かが教室の扉の前ですれ違いざまに言ってきました。私はすぐに後ろを振り返りますが、すでに人影はなくなっていました。


 友達、できました。空気、読めるようになりました。なのに。


「…虚しい…」


 私は小さな公園のブランコを揺らしています。無心で、ひたすら。


「どうだい? 調子は」


 すると隣のブランコに例のストーカーが座ってきました。


「そういえば名前聞いてなかったな。僕の名前は“東雲朝顔”、お前は?」


「――武藤薊です」


「武藤薊…お前、ひょっとして姉にあやめって名前のやついる?」


「あ、はい。います」


「偶然だな。僕は武藤あやめの友達だよ」


 うわぁ…姉の交友関係が心配だ。


 でも、この人は紛れもなくストーカーの変質者だけど。悪い人ではない気がする。


「それで、調子は?」


「――空気読めるようになりました。友達も出来ました。だけど…」


「だけど?」


「…想像してたより、つまらないです」


 そう。つまらない、これにつきます。

 友達と一緒にいても全く面白くありません。せっかく出来たのに拍子抜けです。これなら一人で行動してた方がよっぽど楽でした。


「だろうな」

「え?」


 目の前のストーカー…朝顔さんは知っていた風に言ってきました。


「無理して虚像作って出来た友達なんてそんなもんだよ」


「――なら、あなたのアドバイスは逆効果だったことじゃないですか…通報します」


「空気は読めるようになっただろう? お前の要望には答えたはずだ。友達を作るなんて簡単だ、だけど自分に正直でいられる友達を作るのは難しい。悪いが、後者の方は僕だって作り方はわからない」


 朝顔さんはベンチから立ち上がって、公園の出口に足を向けます。


「…あやめ妹。お前は空気を読めない人間から空気を読める人間になった。なら、空気を()()()()選択を取れるようになったんじゃないか?」


「どういうことですか?」


「僕は器用に周りに合わせる人間より、例え空気が読めなくても自分を通す奴が好きだ。――そんな物好きが、僕以外にもいるかもしれないぞ、ってことだ」


「……?」



 朝顔さんはそんなわけのわからないことを言って、私の前からいなくなりました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ