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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
穢れた近影“かいしゅう”
36/59

第三十二話 ストーカー、気づかず

AM5:30


 パンジーは裸のまま己の左胸を押さえ、そこに脈打つもう一つの存在に気づく。


(どういうこと!? 私の中に“色付き”が――)


[そうそう、そういうこと。私は君の中にいる]


 パンジーは“かいしゅう”が自分の心の内を読んだことに驚きを隠せない。


「お前…私の考えていることを――」


[そりゃわかるよ。私は君の魂に寄生しているのだから]


(そんなはずは…だって“色付き”は“ループ・ホール”をくぐれないはず…)


[できちゃうんだな、それが。私たち“色付き”はね、“裏世界”に流れる死人の魂エネルギーを浴びることで存在を維持できる。表世界で言うとこの酸素だね。だから魂エネルギーの存在しない“ループ・ホール”に入ると存在を維持できず消滅する。

…しかし、私の能力は『対象の魂に寄生し、その魂エネルギーを餌とすることで生きることができる』特別なものなのだよ。君が食事をし、呼吸をして蓄えた魂エネルギーを私が頂くという寸法さ。君の魂の器に私が入ることで消滅の危機から逃れている…]


「そんな…たかが“色付き”如きが――」


[甘いねぇ。思い出してみなよ、最近君らが戦ってきた“色付き”はどれも規格外だったじゃないか? マクイルが私の抜け殻を抱いた時、私はマクイルの内部に入り込み、君の体内に入った。考えもしなかっただろう? 抜け殻を媒介に寄生してくる寄生型なんぞ]


 パンジーは“かいしゅう”が自分のパートナーの名前を出したところで眉をピクリと動かした。


(アンタ…なんでマクイルの名前や私たちが戦った“色付き”のことを知っている!?)


 パンジーの問いに“かいしゅう”は下衆な笑い声を体内に響かせた後で答える。


[決まっているだろう…私は君の記憶を覗くことが出来るからさ。と言ってもこの能力は完璧じゃない、君が思い出した出来事しか見ることができないから君が考えもしてない過去を覗くことはできない。そうだな…例えば――質問だパンジーッ‼ お前の大切な者は誰だッ!?]


「…!?」


 突然の怒号。


 パンジーは驚きのあまり思考を散らし、質問の答えを容易に思い浮かべてしまった。魂の中で“かいしゅう”がほくそ笑む。


[なるほどなるほど。孤児院の皆ねぇ…特に、父親代わりだった男か]


「お前ッ‼ おじさんに手を出したら――」


[おっと。大声を上げるな。誰か来たらどうする? よーく聞けパンジーちゃん。私がここから君の魂を飲み干し、“パンジー・ガーベラ”として転生するのは容易なんだよ? もし私のことをバラそうとしたら私はすぐさま君の魂を喰らう]


 パンジーは唇を噛み、ある決心をする。


(だったら――)


[勇ましいね…自分を犠牲にしてでも私を縛り上げようとするとは。しかも嘘の覚悟じゃない本物だ。さすが霊媒機体シャーマンに選ばれただけはある。しかし、よーく考えたまえ、死人が生者を喰らった場合、生者の体を得た死人はどこに転生すると思う? 喰らったその場ではないんだよねぇ…]


 パンジーは考える、今までの事例と照らし合わせて。


 しかし、ヒンメルの歴史においても死人が生者を喰らったケースは多くない、ゆえに答えを思い浮かべることができなった。


[正解はね…『喰われた生者が最も大切にしていた場所』だよ]


 パンジーはお湯で汗を流したばかりだと言うのに、再び冷えた汗をかいてしまった。パンジー・ガーベラが最も大切にしている場所、そんなものは決まっている…子供たちと老夫婦が待つ孤児院だ。


[察しがいいねぇ…そう、もし私の正体をバラしたら、私は君の魂を喰らった後、あの孤児院に“パンジー・ガーベラ”として転生し、君の大切にしていた人間を皆殺しにして金を奪って逃走するッ‼ そうされたくなければ私に従え。貴様にそれ以外の道はないッ‼]


 パンジーは考える逆転の目を。しかし、どれも“かいしゅう”に筒抜けになってしまうため意味がないことを悟った。己の命のみなら差し出す覚悟がある、だが大切な人の命まで差し出す覚悟をパンジーは持てなかった。


 パンジーは震えながら承諾する。


「わかったから…みんなには手を出さないで…」


[いい子だ…]


 

 AM7:30



 朝顔は裏世界での任務を終えた後、家に忘れた学生カバンを持って路地に出た。


「おはよ。朝顔」


「あぁ、おはよ――って、なんだ、今日はあやめ妹も一緒か?」


 いつもの待ち合わせの電柱の場所に、友人の武藤あやめと常にジト目の武藤薊が立っていた。こうやって姉妹を並べてみると目つきや面持ちは違うが髪の色や口元などからしっかり血が通っていることが伺える。


「薊です。おはようございます、朝顔さん」


「今日は鈴木桜は一緒じゃないのか?」


「桜は日直なので先に行きました。ですから今日は登校がてらお姉ちゃんの恋をサポー…」


 ガシッと薊の小さな口があやめの手に包まれた。


 あやめは顔を熱くさせ、小声で「…なに言ってるの薊ちゃん~!?」と動揺している。朝顔は状況を読めず、頭を捻っていた。


「あ! あさがおおにーちゃんだ!」


 突然、背後から声を掛けられ朝顔は後ろを振り向くが誰もおらず。ゆっくり視線を下げるとそこにはパンジーが面倒を見ていた元気な男の子“けんじ”と内気な女の子“ひめじ”がいた。


 二人はよく商店街を歩くおばちゃんが持っているような藁で作られた買い物かごを持っている。どうやら買い物をしに行くようだ。


「どうした、どこかへ買い物か?」


「え、えっとね…八百屋さんでね、にんじんをひとつ…ふたつ…じゃがいもをひとつ…?」


「あと駄菓子屋でお菓子百円分買うんだ!」


 朝顔は周囲を見渡し、保護者が誰もいないことに疑問を持った。


「おじさんやおばさんはついてきてないのか?」


「うん! みんなには内緒で来たんだぜ!」


「…ぱんじーおねぇちゃん、げんきがなかったから…なにか手伝おうとおもって…」


「パンジー、調子悪いのか?」


 朝顔の問いに対して二人は暗い顔で応える。


「朝顔~! もう行かないと遅刻するよ?」


 もうそんな時間か。と朝顔は頭を掻き、子供たちに優しい口調で伝える。


「いいか? お前らはもう家に帰るんだ。パンジーに元気がないのなら、側にいてあげなくっちゃダメだろ?」


「えぇ~!?」


「大丈夫だって。パンジーお姉ちゃんは朝から仕事やって疲れてるだけだ、昼寝でもすればすぐに治るよ」


 子供たちは朝顔にアッサリ言いくるめられて「うんー!」と帰っていった。


 朝顔はこどもたちがしっかり施設の方へ行くのを確認すると、駆け足で学校へ向かっていった。


(ま。日頃の疲れが溜まっただけだろうな)


 ほんの少し違和感を感じた朝顔だが、彼は寄生型について知らないためパンジーの現状に考えを巡らせることはできなかった。


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