三話完結短編“いじめっ子日記”中編
その二 いじめ返し
東雲朝顔君が停学になりました! 二週間です! まぁ、仕方ないですね。元々刑務所に入っているべき人ですから、停学でも甘いぐらいです。僕が言えることじゃありませんが。
一方、僕はというと…
机に落書きされてました。消しやすいようにチョークで。中学生が考えそうな二流の下ネタがずらりずらりと並んでいます。
クラスの人間がクスクスと笑ってます。そう、僕は東雲朝顔君に殴り飛ばされたあの日からいじめに遭っているのです。
理由は未だによくわかってません。恐らく僕がそれほど怖くないことがバレてしまったのでしょう、それに加え今までの鬱憤晴らしといったところでしょうか。このいじめに関して、彼女たちは『悪人を裁く』という“大義名分”を手に入れたのです。罪悪感が邪魔しないため支配欲求を満たす満たす…
クラスの流れに担任教師“藍原先生”は敏感でした。僕がいじめられていることにすぐ気づいてくれましたが…
「……。」
無視です。
当然でしょう、僕が今まで行っていたいじめも平然と無視していた人ですから。
僕へのいじめはストレートな暴力ではなく、陰湿なものばかりです。物を隠すのは当然、班分けではわざと仲間外れにしたり、音楽の授業では得意でもないのに教師に『あやめさんが歌めちゃくちゃ上手いので、お手本を見せてほしいです』とか言ったりね。当然、僕が歌いだすとみんな白けだします。笑ってくれればまだマシなんですけどね。
給食をまともに食べさせてもらえるはずはなく、スープに牛乳を混ぜられたり、デザートは没収されてたり。
あとキツかったのは見知らぬ男子生徒に僕名義でラブレターを出されたことですね。それも大量に。当然のことビッチの称号は頂きました。帰りに知らない男の人に声を掛けられたこともあります、出会い系サイトを利用したいじめの手口です。なりふり構わず逃げました。
家に帰り、母親から「お帰りなさい」と言われるとすぐトイレに駆け込みました。内心、耐えられると思ってたんですけどね…家で母親の顔を見るとすぐに涙腺が緩んでしまうのです。
「おねーちゃん。大丈夫?」
妹の薊ちゃんはこういう事柄に敏感で僕を気遣ってくれました。それが逆に辛かった。
僕はこの時、二つの苦しみに蝕まれてました。
一つはいじめられている屈辱感。劣等感。自分の価値が虫ほどにも感じられず、僕を自慢に思っている親に対して情けない気持ちでいっぱいでした。
もう一つは罪悪感。いじめられて初めて気づく、いじめられる者の気持ち。それに気づいてしまってから負の連鎖が始まりました。彼女たちにも親はいた、家族がいた。自分がいじめで貶めていたのは彼女らだけでなく、その家族、周囲も含むのだと、僕はようやく気付いたのでした。
僕の世界はつまらないから苦しいに変わりました。
僕のことを人形のように弄ぶ元友達。彼女たちの行動はどんどんエスカレートしていき、ついに僕は暴力を振るわれ始めました。それも屈辱的な、性的な暴力を。女子のいじめっ子グループに男子のいじめっ子グループが加わった時、本当の地獄が始まったのです。
体育館裏。そこでお尻を地面につけて、僕は顔に痣を作っています。
「これがいじめられてた子たちの恨みだよ!」
そう言ってる彼女“真壁明菜”ちゃんも僕の取り巻きでした。しかも僕よりも活動的でした。
彼女がこの先、何の罪悪感も抱くことなくスクスク幸せになると思うと怒りが湧きましたが、すぐに無駄な感情だと切り捨て、僕は死んだマグロの如くじっとします。
もう裸にひん剥くなり写真撮るなりなんでもするといい。僕は全てを諦め、彼女たちに全てを委ねました。
「ふん。いい気味、じゃあ最後に男子どものオカズを提供してもらおうかしら?」
そう言って僕のYシャツを掴み、ビリッと開きます。ボタンが何個か飛び散り、質素な下着が露になりました。女子のいじめっ子グループの後ろで控えている男子のいじめっ子三人は僕の下着を見て興味ない態度を取りつつも釘付けになってました。
僕は目を瞑って肩の力を抜きました。女の子ですからほのかな恥じらいはあったけど抵抗しません。もうどうでもよかったのです、どうせ次の日には自殺しようと思ってましたから。だけど、彼はそんな勝手も許してくれませんでした。僕の甘えた決心を打ち壊すように明菜ちゃんの背後で鈍い音が鳴り響いたのです。
「お前は…」
僕といじめっ子たちの間に割って入ってきたのは紙袋を頭にかぶった学生ズボンと指定のYシャツを着ている男子生徒。彼は明菜ちゃんの手首をつかみ、僕へのいじめを止めてくれたのです。明菜ちゃんの後ろで控えていたいじめっ子の男子生徒たちは鼻から血を流し地面に伏しています。
「だ、誰よ!」
「お前のことが嫌いな奴」
そう言うと彼は膝蹴りを明菜ちゃんの下腹にジャストミートさせたのでした。