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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
外伝“いじめっ子日記”
30/59

三話完結短編“いじめっ子日記”前編

こんにちは。僕の名前は“武藤あやめ”と申します。


 オカルト好きでいつもクラスの隅っこにいる女子高生です。特筆すべき点がない僕ですが、僕の親友はかなり特殊な人です。


「はぁ…はぁ…嫁菜。ベリー・エンジェル…」


 東雲朝顔。職業ストーカー。今は学園のマドンナである“高嶺嫁菜”ちゃんの盗撮写真を机(それも私の机)に広げて眺めています。


 今回はこんな地味な僕とストーカーである彼が出会った時の話をしたいと思います。








 その一 “いじめっ子 武藤あやめ”





 僕がまだ中等部二年の時、僕はいわゆるいじめっ子というやつでした。


「ねぇねぇあやめちゃん。一組の笹山って女、超うざくない?」


「あー! その子わたしも知ってる! 男子にめっちゃ色目使ってるやつだよね! まじ調子乗ってるよねぇ。懲らしめる?」


 いじめっ子。それもいじめっ子の大将です。


 僕の役目は簡単、クラスのカースト上位陣の女子の意見を聞いて要望通りイジメを実行する。中二の僕は今の僕とは比べ物にならないぐらいヤバい奴でした。


 別に身体能力が高かったり、コミュニケーション能力が高いわけではありません。ただ、躊躇いがないのです。何事にも。


「…じゃあ、そいつひん剥いて写真撮って、男子に配ろうか?」


 はい。周りのいじめっ子がドン引きしてます。


 いやぁ、今思い出してみると僕ですらドン引きですねコレは。


「い、いや。さすがにそれは…ねぇ?」


 僕の正面にいるケバい女の子…えっと、名前は確か“鵜飼 智子”ちゃんだったかな? 

 智子ちゃんが僕に反対すると、僕は彼女をギロッと睨みます。『文句あるならお前にやるぞ』という威圧ですね。


 智子ちゃんは僕に睨まれるとあっさり「じょ、冗談だよ」と身を引きます。


「じゃあその笹山って奴、早速次の休み時間…女子トイレに連れてきてよ」


 そしてあっという間に休み時間は到来します。


 女子トイレの個室に押し込まれた女の子はビクビク震えています。当然ですね。なんせ彼女の前には十人以上の女子がいるのですから。


「……。」


 笹山さんは媚びた目で僕を見つめます。まるで捨て犬のように。僕はこの表情かおが大好きでした。


 この時の僕は色々と狂っていたのです。ええ、本当に。上っ面だけの友人に囲まれ、嘘を吐く大人に悟され、つまらない人間関係に嫌気が差す。端的に言うならば、好きなものがなにも無かったのです。ゲームや漫画、アニメ。かっこいい男の人、面白い人、可愛い女の子。勉強、将来、夢…あらゆる娯楽も、あらゆる人間も、なにもかもがつまらなく感じていました。


 そんな中、この表情に出会った。恐怖に怯え、自分にすがろうとするこの表情だけは本物であり、僕を満たしてくれたのです。


 そして、その媚を踏みつぶすのは最高の快感でした。


「やめて…! お願いッ! もう、もう目立ったりしないから…!」


「あぁ? そんなことどうでもいいよ」


「え?」


 僕は彼女の衣服に手をかけます。背後ではカメラを構えながら嘲笑を堪える仲間たち。


 しかし、僕のいじめは実行できませんでした。一人の女の子が割って入ってきたからです。


「…はぁ?」


 一瞬のことでした。僕はバケツの水を横から掛けられたのです。この時は冬でしたのでかなり冷たかったですね。そして、僕が状況を読めずに呆然とする中、割り込んできた一人の女の子は笹山さんの腕を引っ張ってトイレから逃げたのです。


 あとで判明しました。彼女の名前は“高嶺  嫁菜”という子だったそうです。当然、大将である僕が侮辱されたのですから、いじめっ子たちは怒り心頭です。


「許せねぇ! あやめちゃんに水をぶっかけるなんて…!」


「本気でやっちゃおう。あやめちゃん」


 その日から、いじめのターゲットは一人に絞られました。当然、“高嶺 嫁菜”ちゃんです。


――ああ。この時に大失敗しているんだな。僕は。


 僕らは彼女に色々ないじめを行いました。


 まずは水をぶっかけました。単純な仕返しですね。それからも上履きを隠したり、いらぬ噂を流したり、暴力を振るったり…いま思うと、まだ僕が生きていることが不思議でありません。


 その三日後です。事件が起きたのは。


 僕らいじめっ子グループはいつも通り二階の女子トイレにたむろしてました。


「あの嫁菜って子。すっごい強気で殴りがいがあるわ~」


「ほんとほんと。ちょっと可愛いからって調子乗っちゃってさ!」


「ねぇねぇあやめちゃん! そろそろ笹山にやろうとしたこと、あの子でやっちゃおうよ!」


 いいね。そう僕が言った時でした。女子トイレの中に平然と入ってきたのです、男子生徒である彼が。


 前髪が長い紫髪。カチューシャを付けた同学年の男の子。彼は無表情でした。…いや、今思い返すと、あれが彼の本気の怒り顔だったのでしょうね…くわばらくわばら…。


「うっわ! マジかコイツ! 女子トイレに入ってきやがったよ!」


「誰だっけ、見たことある気がするんだけど――」


 ここからは鮮明に覚えています。


 まず彼は僕の取り巻きの女子二人の顔面を容赦なくぶん殴り飛ばしました。ええ、女子にするような暴力じゃありません、大男を殴り飛ばすほどの威力です。



「え??」




 僕は生まれて初めて人間の本気の怒りを経験したのかもしれません。


 彼が放つ威圧感は大人たちからも感じたことのない部類でした。恐らく殺意というものに僕は初めて触れたのだ。


 体は震え、目線は定まりません。そんな僕の状態などお構いなしに彼は問います。


「…お前が武藤あやめか?」


「は…え?」


 質問したにも関わらず、僕が答えるよりも先に彼は取り巻きと同様僕のことも思い切り殴り飛ばしました。


 これが始まりの時、今の僕になるまでの始まりの瞬間…


――東雲朝顔と初めて出会った瞬間である。



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