第二十八話 ストーカーとラスボス
四肢が棘のように尖っており、胸がある赤い人型の“色付き”。その鋭利な手先がホーク・キッドのコックピットを貫き、昼吉の胸を貫いていた。パオトルがバインド・ロックで昼吉の体をこれ以上傷つけさせないように目前の“色付き”を拘束しているが焼け石に水だろう。
赤い血がコックピットの中に飛び散っている。鉄の匂いが充満し、昼吉は鼻につく自分の血の匂いで自分の命が長くないことを察した。
『ひるよしさん!』
つい最近加入した、誰よりも頭脳明晰な新入りの女の子の声。
『死んだふりかましてるんじゃないぞ! 昼吉ッ‼』
出会った当初こそ犬猿の仲だったが、幾多の戦いを越えて親友になった誰よりも義理堅い男の声。
『ふざけるなよ! こんなところで終わるなんて、許さないからな解明者ッ‼』
大事な約束をした、誰よりも世界を案じた女の子の声。
『…昼吉っ――昼吉ッ‼』
幼馴染で、誰よりも自分を好きになってくれたかけがえのない人の声。
〔御主人! …御主人――‼〕
泣きそうな、誰よりもカッコいい相棒の声。
昼吉は相棒の声を聴いて、最期になにを言い残すかを決めた。
「……悪いな、ホーク・キッド…」
自分の死をせめて引きずらないように、声を絞り出す。
「コイツは…この“色付き”は…生前の、お前の嫁さんだったんだろう?」
〔御主人…〕
「夢で、見たから…知ってた。でも、言えなかった…言ったらお前が戦えなくなると思ったから…でも、それが過ちだった…お前を信じて話していれば、こんなことにはならなかった…俺の解明者としての力と、お前と嫁さんの絆が呼応して…お前に、俺と同じ映像を見せちまった…全部、俺のミスだ…」
ホーク・キッドは震えた声で〔違います!〕と首を振る。
〔違います…! 違います違います違いますッ‼ 謝る必要などありません! 貴方は、私を思って敢えて伝えなかったんだ…! 私が、彼女とどうやって死別したか知っているから敢えて言わなかったんだ‼ …悪いのは私です…あの時、彼女を認識したあの一瞬、私は…御主人のことを――〕
共鳴率がゼロになる場合は操縦者と霊媒機体のどちらか片方が意識を失うか片方がもう片方を敵とみなした時。ホーク・キッドは、不意打ちで目の前の“色付き”を自分の生前の妻だと知り、彼女にとどめを刺そうとする自分の主人をほんの一瞬だけ“敵”と認識してしまった。その隙を“色付き”に突かれ、昼吉は致命傷を負ったのだ。
昼吉の寿命がじりじりと減っていく、生命の刻限はすでに眼前に迫っていた。
昼吉は、死を前にして微笑みを浮かべた。消え入りそうな声を喉から発声する。
「…なぁ、ホーク・キッド。初めて会った時、俺がお前になんて言ったか覚えてるか? ――今はさ、あの時と全く逆の感想なんだぜ…?」
〔御主人! 待ってくださいッ! 御主人‼〕
「お前って、本当に―――」
☆ ☆ ☆
[カッコいいよな。ホーク・キッド…]
ホーク・キッドが上半身だけとなった“ひるよし”を膝をついて抱きかかえている。
光の粒が周囲に浮かび、両者を照らしていた。“ひるよし”がホーク・キッドを真似して付けた仮面は割れ、まっすぐな瞳は空を見ていた。ホーク・キッドは穏やかな声で“ひるよし”に語りかける。
〔御主人…貴方は、本当に立派な大人になりました…〕
“ひるよし”は朝顔を見据えて言い放つ。
[へへっ…ホーク・キッド。そいつが、お前の新しい御主人か…?]
〔はい。貴方と同じ、正直なお方です…〕
[――そうか。安心した、やり残したことはいっぱいあるけど、その幾つかは後輩が解決してくれそうだ…]
“ひるよし”の体が輝き、分裂していく。
薄暗い世界で、彼の輝きは眩いほどに辺りを照らしていた。
最後に彼は生前の顔で満足気にほほ笑んだ。
(悪いな…俺の考察はここまでのようだ…あとは新しく出来た後輩に任せるとするよ――“アリス”。)
〔…御主人…〕
ホーク・キッドが最後の最後に頭に浮かべた言葉は、謝罪ではなかった。
〔――昼吉。ありがとう。…さようなら…〕
「じゃあな。相棒…」
あふれんばかりの感情を短い言葉に束ねてホーク・キッドが言うと“ひるよし”は霧散した。散った光たちは四か所に束ねられ、四通の手紙を作り出した。
その光景を司令室で見ていた菫は小さく微笑んだ後にキリッと表情を引き締め、通信で地下施設と霊媒機体全体に通信する。
「命を賭して世界を守ってきた勇者…西綿昼吉に、敬礼‼」
菫が発声に呼応しパイロットを含めた隊員全員が敬礼の姿勢を取った。中には昼吉がいた時からヒンメルに勤めていた者もおり泣き崩れている、彼らの涙が昼吉の人徳を物語っている。
こうして、朝顔の三度目の“裏世界”訪問は幕を閉じた。
PM3:00
「ふあぁ…あ」
朝顔は格納庫でホーク・キッドのコックピットから降りて欠伸をした。
背中をぐぐっと伸ばし、ホーク・キッドに背を向けると、ホーク・キッドが背後から朝顔に声をかけた。
〔朝顔殿、今回の件では本当に感謝してもしきれません〕
朝顔は口角を上げて振り返る。
「別に、借りがあったから返しただけだ」
朝顔はそう言うと再び踵を返して格納庫の出口へ向かう。
〔朝顔殿、疲れをカプセルで癒してからいったらどうです?〕
「いらん。そんなもんより効率のいい疲労回復方法があるからな(嫁菜不足で死にそうだ)」
朝顔にとって一番の疲労回復方法はストーキングである。
〔――そうですか…〕
ホーク・キッドは最後に少し間をおいて言う。
〔気をつけてお帰りください。――御主人〕
朝顔はホーク・キッドの発言に一度足を止め、何も言わずにまた歩き出し、帰り際に背を向けながら手を振った。本当の意味で、二人がコンビを組んだ瞬間であった。
REVERSE 11:11
薄暗い城。
荒廃した土地。
色を忘れた現実世界にはない場所で、椅子に座った霊媒機体に似た“色付き”は小さく呟いた。
[“ひるよし”を倒したのは、新たな解明者か…面白い。貴様がどれほどの存在か、測られせてもらうぞ――東雲]
[勘弁してよぉ~。アイツ作るのに、僕チンがどれだけ苦労したと思ってるのさ!]
人型の鎧のような姿形の“色付き”を見下ろして玉座に座る黒ずくめの“色付き”は言い放つ。
[いいさ。価値はあった。きっと彼女は、解明者の元を訪れるだろう…それまでは“色付き”共と遊んでもらうさ]
そう彼が言うと、裏の世界は僅かながら歪み、その形を変えた。
彼らは“裏世界”にて待ち人を待つ。彼女が現れるまで、彼らと少年少女たちの戦いが終わらない。
“ひるよし”編終わりです! ブックマークおよび評価ポイントくれた方々本当にありがとうございます(感涙)!!
最後に今回の章で増えまくった次元装の武装をまとめておきます(興味ない方は飛ばしてください)。
次元装まとめ
αシリーズ
α‐1 拳銃“アテム” ただの拳銃。次元装から取り出す際に隙が無い。
α‐2 高精度スナイパーライフル“イェクン” 名の通り高精度のスナイパーライフル。
α‐8 高精度ショットガン “マスティマ” 低反動かつ、重心がぶれない。
α‐9 榴弾ライフル“サンダルフォン” 込められた弾が爆弾になっている。
α‐11 低反動アサルトライフル “ケルビム” 低反動、連射可。
α‐30 火炎放射器“エンリル” 炎を噴き出す。
βシリーズ
β‐2 複爆型バズーカランチャー“シャマシュ” 爆発が一度で終わらず、何度も起爆する。
β‐3 ホーミング手榴弾“ガレス” 対象に向かって吸い込まれるように追尾する。
β‐32 スイッチ式のリモコン爆弾“ハウメア 名の通り遠隔操作で操れる。
β‐43 発光する手榴弾 名前が思いつかなかった。スタングレネード。
β‐67 透明機雷“ぺヌエル” 透明な爆弾群。
γシリーズ
γ‐2 大盾“キシャル” ホーク・キッドの身が隠れるほど巨大な盾。
γ‐3 ククリ刀 “ムンム” 二振りのククリ刀。朝顔のお気に入り。
γ‐10 軽量スピア“アルマロス” 金と銀が螺旋状に絡まった長槍。とても軽い。
γ‐22 衝破大槌“アラトロン” 取っ手が長く、槌の部分も重厚でホーク・キッドの半身ほどの大きさがある。槌の先には爆薬が積んであり、攻撃が当たると巨大な爆風を作り出す
γ‐32 空裂サイス“シェムハザ” 大気を取り込み、斬撃として放つ。時間を掛ければトップレベルの攻撃力。
γ‐66 紅蓮刀“アキベエル” 間合い自在の炎の刀。
γ‐67 耐電装甲“アスモデル” 雷を防ぐ鎧。
γ‐68 対空圧武装“マルキダエル” 布のような質感を持った羽根型の防具。衝撃波を防ぐ。
γ‐69 耐火手盾“ハナエル” 火を弾き飛ばす片手盾。
γ‐77 雷長刀“アルメン” 雷をまとうホーク・キッドの身長ほどある長刀。
Ωシリーズ
Ω‐1 高エネルギーブラスター“アスファイル” 戦艦の砲台のように大きく、引き金は存在しない。破壊力が凄まじいがタメが長く、使いどころをミスれば隙だらけの武器。
Ω‐6 電磁波動ボム“テレスパ” 小さな黒く四角い物体。強力な電磁波を周囲にまき散らし、電子機器の動きを妨害する。フラッシュも凄いため目隠しにもなる。
多分これで全部です…足りなかったら教えてくれるとありがたいです! では。