第二十七話 vs歴戦の勇者③
「ビリッときたっしょ…?」
〔ライトニング・エンジェルズ…‼〕
雷の鳥たちが“ひるよし”を襲った。以前は十匹だったがマクイルの調子ゆえか八匹まで数を減らしていた。しかし、“ひるよし”を痺れさせるには十分な威力だったようだ。
「パンジー…マクイル…鳥肌立ったぞ…‼」
“ひるよし”は突然の横やりに動きをマヒさせている。静止した“ひるよし”にホーク・キッドは足をかけ、手に持った榴弾ライフルの銃口を眼前に添える。
「ゼロ距離だ。響け…!」
単発のライフルだが、素早く引き金を引き続け文字通り連射する。
ガンガンガンガンガンッ‼ と弾丸と鋼がぶつかる音が天を轟かせる。弾丸は“ひるよし”に当たると爆発し、相手を弾き飛ばす。ホーク・キッドはリロードの暇を惜しみ、思いついたライフルを次々と“次元装”から展開し手に持つ。どこまで“ひるよし”が後退しても撃って撃って撃ち続けた。
地面に激突しても尚、撃たれ続ける“ひるよし”。共鳴率が低いホーク・キッドの攻撃といえど、着実にダメージは入っていった。
“ひるよし”が市街地まで押し返されたのを確認して、ホーク・キッドは一度武装を解除した。
〔はぁ…はぁ…! 朝顔殿、次元装の限界が近いです…!〕
次元装は無限に武器を生み続けられるわけではない、使うたびにホーク・キッドのエネルギーは削られている。
朝顔は市街地近くの道路にホーク・キッドを降ろさせ、休ませる。
「あっちも限界が近いみたいだぞ。ホーク・キッド」
“ひるよし”は震えながら立ち上がる。その体はもうボロボロだ。それも当然、彼はホーク・キッドと戦う前に他の霊媒機体と交戦し、着実に削られていた。ホーク・キッドと戦う頃にはもうギリギリだったのだ。逆に、よくここまでもったと言えるだろう。
“ひるよし”は小さな声で呟く。
[Ω‐1.“アスファイル”!]
それは最後の力を振り絞って出した武器。
「…ホーク・キッド。あいつの全力だ、僕らも“Ωシリーズ”を…」
〔それは不可能です、朝顔殿…共鳴率は未だに五十%を越えません、Ωシリーズは共鳴率八十%以上が必要なのです〕
「僕の力を貸してやる、今度はお前が、僕の魂を引っ張ってみせろ」
〔朝顔殿…〕
ホーク・キッドの体が白く輝く。
解明者の力による強引な共鳴率の引き上げ、しかし、その力を持ってしても共鳴率は六十五%が限界だった。
「くそっ…! そう、都合よくは…」
朝顔が諦めかけた時、二人の男が声を上げた。
「俺達に任せな!」
〔耳を貸せ! 朝顔、ホーク・キッド!!〕
そう言葉を発すると、パオトルは力を振り絞って一曲を演奏する。
――共鳴率81%
「共鳴しろ!」
〔デュエット・オーバーァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼‼ AAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッッッ‼‼‼〕
二人の演奏に呼応して、ホーク・キッドの体の輝きがさらに増していった。
デュエット・オーバー。それはパオトルのエネルギーをすべて犠牲にして、対象二人の周波数を協調させ共鳴率を強引に上げる技。ただし技を使った瞬間のパオトルの共鳴率を超えることはできない。アザレアとパオトルがデュエット・オーバーを使った際の共鳴率は“81%”、つまりホーク・キッドたちにも共鳴率81%まで上がる可能性ができたのだ。
「すごいな…ホーク・キッドの感情が音になって流れてくる…」
〔ごほっ! ごほっ! もうギブだ! 絶対これで決めろよテメェら!〕
――共鳴率78…
―――79…
―――――共鳴率…80%‼
〔恩に着る! パオトル! ――次元装起動。Ωシリーズ、解放! 御主人、望みの品は?〕
「Ω‐1だ!!」
右腕に巨大な大砲を装着するホーク・キッド。
向かい合う射線。充填するエネルギー体、朝顔は苦い表情をする。
(さすがに、あっちの方が早いか…!)
〔ギリギリで、間に合わない…!〕
[…!?]
しかし、チャージまであと少しの所で“ひるよし”はバランスを崩し、充填が止まった。“ひるよし”の左足にはマヤが持っていた黒刀が突き刺さっていた。イラマを現実世界まで連れて行ったマヤがここまで戻って来て遥か遠くから刀を投擲したのだ。
「決めろ…! 解明者!!」
〔頼むよホーク・キッド!!〕
〔マヤ、岸花殿…! これなら…〕
「間に合う‼」
両者同時に、充填が終了した。そして同時に発射される巨大なエネルギー波。
破壊の塊同士が衝突した時、“裏世界”から音が消えた。
巨大な爆発が、せめぎ合うエネルギー体の中心で巻き起こる。パオトルとマクイルとマヤはその巨体を爆風に吹っ飛ばされた。強大な破壊に対して無音の空間、その波は揺れることなく静かに収束していく。
――結果として、“アスファイル”の撃ち合いは相殺という形で幕を閉じた。
[……!?]
そんな結果など予想の範囲内。爆風が止んだ瞬間に、ビームの陰から彼らはすでに奇襲をかけていた。
〔「だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ‼」〕
ホーク・キッドが手に持つはγ‐50.重量轟剣“ナハス”。
――『すげぇ! すげぇよ高嶺さん! この剣、ちょ~~~~カッコいい!』
遠い記憶、ある日の主人に褒められた大剣。
ホーク・キッドは流れるはずもない涙を抑え込み、どこか満足気な“ひるよし”の胴体に、刃を通らせた。
“ひるよし”の体から白い破片が飛び散り、朝顔に十年前の記憶を見せる。
次回で第三章終わります!(思ってたより長くなってしまった…)




