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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
失われた解明者“ひるよし”
26/59

第二十五話 vs歴戦の勇者①

第二格納庫。


十年前の出来事をホーク・キッドから聞いた朝顔は、何の味気もない格納庫の天井を見上げていた。


「ホーク・キッド。お前は、本当に昼吉って奴に会わなくていいのか?」


 少年の瞳を見下ろして、取り繕っても無駄だと悟りつつも、ホーク・キッドは質問に対して取り繕った答えを出す。


〔資格がありません。私は、御主人を殺した。…殺したのです。御主人はきっと私を恨んでいる、合わせる顔など…〕


 ホーク・キッドが消え入りそうな声で言うと、朝顔は少し苛立ち交じりに言葉を吐く。


「資格だとか、合わせる顔だとか、そんなものどうでもいいだろ」


〔――よくありません。せめて安らかに、私の顔など見ずに、信頼していた同胞に撃たれる方が彼は幸せのはずです。私はここで罪を認識しながら、事が終わるのを待つ。それが正しい、ヒンメルにいる人間全員が同じ意見です〕


「…そんなことを聞きたいわけじゃないんだよ…!」


 朝顔は立ち上がり、グッとホーク・キッドを見上げつつ睨みつけた。


「そうやって自分の感情を押さえつければ満足か? お前は…!!」


「朝顔君。ホーク・キッドを焚きつけるのはやめなさい。…この件に関してホーク・キッドの意見が正しい。一度犯した過ちを、二度繰り返すことは珍しいことじゃない。もしもまた、ホーク・キッドが暴走して君まで失ったら…」


 朝顔は肩を掴む技術者の手を振り払う。


「僕は一度お前に助けられている、だから一度ぐらい僕の命を賭けてくれて構わない」


〔朝顔殿…〕


「正しければ楽しいのかよ…? 幸せなのかよ?」


〔……。〕


「――お前はどうしたいんだ! ホーク・キッド‼ ――ルールより、大切なものはないのか?」


 朝顔の勇ましい姿がある日の少年を重ねさせる。


 ぶっきらぼうで、がさつで、野蛮で。だけど義理堅く、機転が利く。


 最高のパートナーだった。物語が進むにつれ、彼はどんどん知らない領域へ踏み入っていった。ホーク・キッドでは介入できない考察の世界に彼は入っていった。やがて大人らしい落ち着きを持ったけど、その心の底にある熱い感情は変わることがなかった。どれだけ成長しても、心の距離が広がることはなく、お互いに信頼を置ける相手となっていった。


…なのに、自分のミスで彼は命を落とした。


 どれほどの人間が涙を流しただろう? 


 その先、彼が進むはずだった偉大な道を、閉ざしてしまった。あまりにも大きな罪、


――『お前はどうしたいんだ! ホーク・キッド‼』


…そんなのは、決まっている。


〔謝りたい…〕


 震えた声で、ホーク・キッドは呟いた。


〔謝りたい…! 私は、御主人に会って謝罪したい…‼〕


 朝顔はホーク・キッドの言葉を聞いて口元をニヤけさせた。朝顔とホーク・キッド、両者の目線が交錯する。この時、二人の目的は一致した。


 ホーク・キッドの監視を命令された技術者“アゲハ・フリング”は二人の間に割って入るが、


「駄目よ朝顔君! あなた達には出撃許可が…っきゃ!?」


 ホーク・キッドが右手を開いて地面に置くと突風が巻き起こりアゲハを風圧によって一メートル後退させた。


 朝顔はホーク・キッドの手に乗ってコクピットへ乗り移る。


 騒ぎを聞きつけて多くの人間が第二格納庫に集まってきた。アゲハは部下に「早くホーク・キッドのシステムを凍結しなさい!」と指示を出す。しかし、


「邪魔をするなッ!!!!」


 朝顔の一喝。同時に輝きを放つホーク・キッド。


 命じられた部下の技術者は近くにあるコンピューター画面に映るホーク・キッドの内部構造を見て驚き、目を丸くした。


「駄目です…! システム介入不可! こちらの干渉を受けつけません!!」


(朝顔君の解明者の力か! まったく、いつ見ても出鱈目でたらめ!)


 ホーク・キッドは拘束を外し、立ち上がって第一格納庫の方へ歩き出した。


「シャッターを…!」


『もういい。アゲハ、行かせてやれ』


 食い下がろうとするアゲハを菫が通信越しに制止する。


「…了解」


 アゲハは腑に落ちない様子でつぶやいた。


 朝顔とホーク・キッドは第一格納庫と第二格納庫を繋ぐ霊媒機体用の運搬通路を潜り抜けていく。


 REVERSE 00:00

 

 乱立していたヤシの木や建物は焼かれ、霊媒機体たちも満身創痍だった。


 パオトル、マクイル、イラマは膝をつき“ひるよし”から離れ、ただ一機マヤだけが“ひるよし”とタイマンを張っていた。そのマヤでさえ体中は焦がれ、顔の半分は損傷している。


「驚いたな…スペック的には霊媒機体(シャーマン)一体と大差ない。にも拘わらず、節々の判断、武器の選択、立ち回り…どれをとっても一流だ。まるで隙が無い」


〔それに数分間隔で使ってくるΩシリーズが厄介だねぇ…〕


 アザレアは前線の危機を察知し、機体状況を確認する。


「――パオトル。一度でいい、技を使えるか?」


〔…あと一分くれ。相棒〕


 四機の中でも一番損傷の酷いイラマは最後尾で顔を地面に向けていた。桜は泣きそうな顔でイラマに声を投げかける。


「イラマ…! ねぇ大丈夫!? イラマ‼」


〔…落ち着いてください、桜…まだ、動けます…〕


 四機すべての状況を確認し、普段は物腰の軽いパンジーでもさすがに不安を隠せずにいた。


「ちょっとちょっと、マジやばくない…?」


〔雷を上手く作れない…僕たちが技を繰り出す瞬間に合わせて僕ら周りの死人の欠片を鋼に変えてくる。姫、もう少し距離を開けよう、このままじゃ…」


 互いに双刀を持って剣戟を交える“ひるよし”とマヤ。


 武器の性能はマヤの方が上、しかしその差を埋めるような体裁きを“ひるよし”は(おこな)ってくる。岸花がマヤの身体能力だよりに防御をこじ開けようとすると“ひるよし”は鍔迫り合いしていた武器を捨て、身をひるがえし一回転してかかと落としをマヤの頭上にくらわせた。


 轟音と共に地面に落とされるマヤ。ダメージはほとんどなかったが、その隙に“ひるよし”は巨大な大筒を生成していた。


[Ω‐1.高エネルギーブラスター“アスファイル”]


 巨大なスナイパーライフルとでも形容すべきか。戦艦の砲台のように大きく、引き金は存在しない。“アスファイル”は“ひるよし”の右腕に装着され、スコープが銃身から姿を現し“ひるよし”の右目に合致する。腕はバレルに、砲台は“ひるよし”の背中十メートルまで伸びていた。


 その姿から強大な破壊が生み出されるのは想像にかたくなく、岸花は集中力を高め、どう避けるか計算していた。しかし、その巨大な銃口を向けられたマヤではなく、一番受けたダメージの大きい…


「ちょっと、待ってって…」


 イラマだった。


 桜の顔から血の気が引いていった。


 敵の狙いがイラマだと気付いた他のパイロット達は血相を変えて動き出す。


「パオトル! まだか!? 急いでくれ‼ 桜とイラマがまずい!」


[わかってるけどよ…!]


「マクイル! エレキ・ソニックを!」


[すまない姫! 今は電速に耐えられる機体状況じゃない…無理に行っても自壊するのみだよ!]


「なんとかしてよ! 桜が‼」


 焦燥するアザレア、パンジー。


 周囲のエネルギーを収束し、銃口の先でとてつもない密度のエネルギー体を生成する“アスファイル”。岸花はその様子を見て、肩に力を入れる。


(発射までタイムラグがある。この距離なら…れる!)


〔行くよダーリン!〕


――共鳴率68%。


 全速力で飛び上がるマヤ。だが、


[β‐67.透明機雷“ぺヌエル”]


 その行く手を、透明な爆弾群が塞いだ。


〔うぐっ――!? ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼〕


 仲間のピンチが岸花とマヤの警戒心を鈍らせ、罠探知を怠らせた。ゆえに突かれた隙、それでもまだ機体は致命傷にはなりえないが、イラマと桜を狙うこの砲撃を止めることは不可能になった。


「しまっ――」


 マヤが空中で自由落下する中、“アスファイル”はゆっくりとエネルギーを溜めていく。


「イラマ…! お願い、動いて…!」


〔うっ…くっ…!〕


 地面を這いずりながら必死に移動しようとするイラマ。


 背後では銀色の輝きがイラマの姿を照らしていた。


 桜は瞳に涙を浮かべて目を閉じ、震えながら祈る。


「嫌だ…助けて…! お兄ちゃん――」


 チャージ完了。 


 溜めに溜められたエネルギーが放出される。その寸前で…


――三発の弾丸が、“アスファイル”を貫いた。


 カチューシャを付けた少年は口元を緩ませて言い放つ。


「ホーク・キッド。全力で謝るぞ!」


〔承知‼〕



 ブックマークありがとうございます! エタりそうな心を何とか再起動できました!!

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