第二十四話 全滅の危機
(やばい…! やばいやばいやばい!?)
〔相棒、落ち着け! 共鳴率が乱れてるぞ!〕
“ひるよし”はスピアを銀色の塊へと変化させると、その銀色の塊はさらに変化し、大きな鎌を取り出した。
[γ‐32.空裂サイス“シェムハザ”]
〔あれは…!?〕
その歪なデザインの大鎌をイラマは知っていた。
「知ってるのイラマ!?」
〔間違いありません。あれはホークさんの次元装に入ってる武器…“シェムハザ”…! 刃に大気を取り込み、一度に放出して相手を切り裂く、間合いと威力は取り込んだ大気に比例し私の知る限り一分以上大気を取り込んだあの一撃を耐えれた“色付き”は一匹もいません…〕
桜が視線を前に戻すと鎌に大気の流れが集まってるのがわかる。
まだ十秒ほどしか経っていないはずだが、その鎌から感じるパワーは恐ろしいほどだった。矛先はイラマに向けられている。
「まずい! イラマ!!」
桜が叫び、イラマが動き出す寸前で“ひるよし”は鎌を振りかぶった。だが――
「分解しろ!」
〔ディス・コード‼ HUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!〕
アザレアとパオトルが“ソウル・ギター”を奏でると同時に、具現化した音符が“シェムハザ”の刃に結集しため込んだ空気と共に刃を文字通り分解した。
[……!?]
役割を果たしたパオトルとアザレアは全速力で“ひるよし”から距離を取る。
「うおおおおおおおおおお! 役目は果たしたぞ、パンジー!」
「ok…」
ディス・コードによって出来た明確な隙をパンジーは逃さず、マクイルを電速で動かし“ひるよし”の背後に回らせていた。
背中側の上空から、左手を槍の矛先のような形にし、“ひるよし”に突き刺す。
「ビリッと行くよ!」
〔スタン・ナイフ‼〕
突き刺した左手の指先から凄まじい雷が生み出され“ひるよし”の体を内側から痺れさせた。…かに思われが、
「これは…」
〔鉄! 鋼!? 死人の欠片を鋼に…操作型かい!?〕
[γ‐67.耐電装甲“アスモデル”]
突き刺した指先と“ひるよし”の間に白銀の壁が出来上がった。その壁は“ひるよし”を覆うように纏い、一組の鎧を完成させた。
“アスモデル”は電気に対抗する鎧、パンジーの渾身の一撃は“アスモデル”によって防がれただけでなく、差し出した左手を巻き込むように鋼の渦を発生させられ、マクイルは飲み込まれかけていた。
「うっそ…!?」
〔さすがの僕も、これは大ピンチ!?〕
みすみす仲間を見捨てるはずがない。霊媒機体の中でも一番の攻撃力を誇る彼女たちはすでに動き出していた。
「イラマ!」
〔はい!〕
イラマの襲霊武装はボール状のトゲトゲの鉄球と棍棒、その間を鎖で繋いだモーニングスターの形をした“ブロッサム・スター”。
その鉄球の方を地面に置き、思い切り棍棒を振って鉄球を“ひるよし”に投げ出す。
[…。]
“ひるよし”はその鉄球から並々ならぬ気配を感じてマクイルを手放し上空に飛び上がった。
鉄球の軌道はさきほどまで“ひるよし”がいた場所、マクイルの目前を通り過ぎるが、その軌道はすぐに修正し、直角に変化し上空にいる“ひるよし”をホーミングした。
――共鳴率六十%。
「逃がさないわよ!」
〔トレース・スター‼〕
襲霊武装“ブロッサム・スター”。
共鳴率に比例し鉄球の速度と威力が上昇する。イラマの役割は他とは違い、ある一つの異常事態を解決するためのものでバーン・スターもその役割を反映した性能をしている。
バケモノ退治において最も怖いものそれはこちらの攻撃が通じないことである。
[γ‐2‼]
もし、とてつもない防御力を持った“色付き”が現れたらどうする? という疑問を解決するため、イラマの武器はそれこそ破壊力をとにかく詰め込んだ。機動性も、装甲も、汎用性も他には劣る。しかし、攻撃力だけは他より勝る。
[…!?]
イラマの鉄球は“ひるよし”が取り出した大盾“キシャル”と鎧“アスモデル”を軽々と砕いた。だが、“ひるよし”の体にダメージを与える直前で、鉄球の動きは止まってしまった。――イラマの手から棍棒が離れたためである。
〔そんな…! いつの間に!?〕
[――α⒒“ケルビム”]
“ひるよし”は大盾と共に低反動アサルトライフル“ケルビム”を取り出して棍棒を持つイラマの右手を撃ちぬいたのだった。
“ひるよし”は空中から地上に戻ると、膝をつくマクイル、棍棒を拾うイラマ、ギターに手を添えるパオトルを視界に収め、彼らの方へ両手を広げて差し出した。
[…Ω‐6.電磁波動ボム“テレスパ”]
『!!!!??』
Ωと聞いて、霊媒機体たちは過去の記憶を呼び起こす。
Ωシリーズ。それはホーク・キッドの基準ならば共鳴率八十%以上の時に使える武装である。
Ωシリーズはα、β、γシリーズよりも強力すぎる武器や防具が入っている。その代償として、ホーク・キッドはΩシリーズを扱っている間、共鳴率を七十九%以下に固定され、尚且つ一定の冷却時間を孕む。つまり、ホーク・キッド…いや、“ひるよし”にとってΩシリーズとは文字通り“必殺技”なのだ。
〔Ωシリーズ…!? やべぇ! マクイル、イラマ、距離を取れ!〕
Ωシリーズの恐ろしさを理解しているパイロット除く他の面々は戦慄する。
“ひるよし”の両手のちょうど中心に小さな黒く四角い物体が現れる。
“ひるよし”は百メートルほど後退し、その物体を思い切り彼らの上空へ投げた。しかし、その軌道を遮る影が一つ。
「全員伏せろ!」
マヤがその物体を剣先に乗せ、さらに上の上空へ放り出した。
“ひるよし”は手元のスイッチをカチッと入れる。同時に、青白いエネルギーが“裏世界”を照らした。その光を彼らは完全に防ぐことはできなかった。
…ループ・ホールが閉じるまであと――1時間