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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
失われた解明者“ひるよし”
23/59

第二十二話 ストーカーと日常を裂く黒い星

PM0:00


 街中の少し大きめのバーガーショップで金髪の少年は食事をしていた。


 窓のすぐそばに用意された席で、窓に向かい合うように座り、行きかう人を見ながらハンバーガーを口に運ぶ。椅子の傍にはギターケースが椅子に体重を預けていた。


 彼が口に入った肉やパンやレタスやトマトをコーラで流し込むと隣の席に彼と同じように明らかに日本人ではない若い女性が座ってきた。


「ようアザレア、ちーす」


「パンジー! 珍しいな!」


「ようやく家計が安定してきたからね、たまには贅沢してガス抜きしないと」


「ポテト食う?」


「もらう」


 白い髪で褐色肌、黒いスカートにラインの入ったYシャツといったまるでOLのような恰好をしてパンジーはやってきた。ノートパソコンを入れた平べったいカバンを肩にかけアイスコーヒーとシナモンロールをおぼんの上に乗せている。


「今日なにか用事があるのか?」


「ちょっとボランティア団体と交渉をね。ほら、私の家孤児院だからさ。ちょっと経費を色々ね。アザレアはいつも通り病院?」


「まぁ、二日に一度は行かないと心配だからなぁ…」


「そっか、彼女…容体は?」


「……。」


 アザレアの暗い表情で事情を察したパンジーは「そっか…」と会話を打ち切った。


 通常なら学校へ行っている時間だが彼らにとっては関係ない。アザレアはすでに学業をまっとうしているしパンジーは学歴のいらない仕事先が内定している。


 アザレアの元からポテトを攫いつつ、パンジーはおもむろに一人の少年の事について聞く。


「アンタさ、あの陰キャ君と話してどういう印象受けた?」


「陰キャ君? 誰のこと?」


「東雲朝顔」


「あだ名がひどいな」


 パンジーの質問に対してアザレアはなんてことない調子で答える。


「…初めは少し岸花に似てるかな、って思ったけど最終的にはまるで反対だなーって思った。冷静沈着なんだけど、それは決して自分を抑え込んでいるわけじゃなくて、むしろ自分の感情に対して正直な奴だ」


「自分の感情に、ねぇ…」


「面白い奴だよ。今まで見たことのないタイプだ」


「アザレアは人のことよく観察するよね~」


「自分で言うのもなんだけど人を見る目はあると思うぞ。俺自身が弱いから周りの人間にいかにして助けてもらうかが大事になってくるからな、戦力を冷静に分析し一番強い奴の陰に入るのが最適解」


「潔いわねホントに」


 パンジーが呆れながら言うとアザレアは胸を張った。パンジーはアザレアの様子を見てさらに呆れ返った。


 PM0:00


 夕礼高校中等部。そこに周りの男子生徒の視線を釘付けにする少女がいた。桜のように鮮やかなピンク色の髪と幼く可愛いらしい顔立ちをした少女だ。


 少女は不機嫌な顔つきで英語の授業を聞いていた。


(あの人…なぜかわからないけど、また会う気がしてならない…)


 同時刻、雲一つない晴天――にも関わらず、二年B組の生徒達は体育館でバスケをしていた。


 一人の男子生徒がやけに目立っている。本職であるバスケ部員が彼の凄さの引き立て役になるほどの活躍。前髪を逆立て、鋭い目つきが明るみになり女生徒を虜にしている。生徒だけでない、担任教師の三十路女性をも目をハートにしていた。


「岸花! ナイスダンク‼」


「すっげーなお前! バスケとは言わねぇ、なんでもいいから運動部入ってこの高校を盛り上げてくれよ!」


 美形の男子生徒“鈴木岸花”は「いいや、僕興味ないから~」と爽やかに友人からの誘いを拒絶する。


 鈴木岸花。彼はヒンメルに居る時と学校に居る時で性格が真逆になるのだ。ヒンメルの時の冷淡な彼が本性で、こちらは学校生活を円滑に運ぶための演技である。


 朝顔の交友関係が文科系なのに対して岸花は運動部の人間と仲がいい。といっても、大体が岸花の才能にあやかりたい連中なのだが、一人だけ、岸花がどれだけ拒絶しても食い下がる奴がいた。


「きーしか! ナイスダンク! へいへいへいへーい‼」


 恐らくハイタッチを求めているのだろう。男なのにヘアピンをつけた茶髪の男子生徒は岸花に向けて右手を前に出している。


「いいよ田中。照れくさいし」


「つれないなぁ…昔はノッてくれたじゃんか!」


「……。」


 岸花の表情が曇る。田中は岸花の異変に気付くと「わりぃわりぃ! 色々あったもんな!」とすぐに謝りだした。


 岸花は「別にいいよ」と切り返し、走り出した。そして相手から見事にパスカットし、一人でボールを運んでシュートを決めた。


(解明者…東雲朝顔。未だ未知数だ。行動に無駄が多すぎて次の動きに予測がつかない。それに奴はもしかしたら…いや、気づいていたならあんな質問はしないか…)


 岸花は言いようのない不安に煽られつつ、相手のドリブルを華麗にカットした。


 PM0:30


 高校の教室で東雲朝顔と武藤あやめは前後の席で白米を口に運んでいた。


 武藤あやめは母親が作ったタコさんウィンナーやうさぎのニンジンが入った可愛らしい弁当、それに対して朝顔が食べているのは弁当と呼べるものではなかった。


「ねぇ朝顔…それって冷凍用のごはん?」


「そうだが?」


 あやめは困惑していた。


――おかずが無い。


 そう、東雲朝顔は丸い容器に入った白米しか展開していなかったのだ。


 あやめはチラッと朝顔の目線に気を配る。朝顔の視線はまっすぐ校庭へ向いていた。その校庭では次の時間に体育を控えた女子たちがサッカーをして遊んでいた。その中に、一際目立つ可愛らしい少女がいた。


「嫁菜は今日も可愛い…」


「朝顔、おかずは? 白米しかないよね、新しいダイエット法か何か?」


「なに言ってるんだあやめ。嫁菜がいるだろう?」


「うん。で?」


「それが答えだ」


「ごめん。何言ってんの朝顔?」


 白米を黙々と口に運ぶ朝顔。


 あやめは朝顔の行動に対し、一つの答えを頭に浮かべゾッとした。


「まさか朝顔…おかずを食べる代わりに嫁菜ちゃんを見ることで代用を!?」


「三杯はいけるな」


「栄養バランス偏るよ!」


 あやめはそそくさと自身の弁当の野菜を朝顔の白米の上へ運ぶ。


 朝顔は淀みないリズムで白米を減らしていく。しかし、その手はあるものを見た瞬間に止まった。朝顔の視線は下ではなく上に、上空へ向けられていた。


 アザレアは“それ”を交差点の真ん中で、


 パンジーは喫茶店の中から、


 岸花は体育館と校舎を繋ぐ廊下で、


 桜は教室の窓から、


 同時にその星を見上げた。


 黒い星が、南から流れて来たのだった。


――ループ・ホールが開く。


 全員が脳裏にもう一つの世界を浮かべ、行動を開始した。




 ヒンメルも当然の如く“ワンダー・スター”を確認し、動き出していた。


「ステージはどこだ?」


 菫の問いに眼鏡をかけた女性隊員が答える。


「ここは――アメリカ南部…フロリダと断定!」


 司令室の空気が痺れた。


 フロリダ。そこは、ある一件を思い出させる。菫は口を開け、やはり、と呟いた。


 おばさん隊員が汗を浮かべて捕捉する。


「間違いない。昼吉が命を落とした場所…」


 菫は唇を噛みしめる。


「適正者が“裏世界”で死亡し、“色付き”となったケースは多々見る。恐らく、今回の相手は…西綿昼吉。その可能性が高いだろう」


 司令室の声は直接、格納庫へ繋がっていた。


 当然、その声は霊媒機体達の耳にも届いていた。


〔まさか…昼吉君が…〕


〔ざっけんじゃねぇぞちくしょう…! 同胞を撃てっつうのかよ!〕


〔それでも他には任せられない。僕らの手で処理するのがせめてもの…〕


〔気乗りしないねぇ…〕


 中でもホーク・キッドは激しく狼狽していた。


〔そんな…御主人――私のせいで…!!!!〕


 そんなホーク・キッドの元へ菫からの通信が繋がる。


『そういう訳だホーク・キッド。例の件のこともあり、もし朝顔が来てもお前を出撃させるわけにはいかない』


 ホーク・キッドは一度重罪を犯した。罪は未だ消えず、彼と昼吉を会わせればまた昼吉が命を落とした時のように、朝顔が命を落とす危険性がある。


 両者が会えばなにが起こるかわからない。菫の判断はルールにのっとった正しいものだ。それはホーク・キッド自身もわかっていた。


〔…それが、道理でしょうね。正しい、判断です…〕


 どこか煮え切らない様子のホーク・キッドを見て、菫は決心を揺るがしかけるが自分の立場を踏みしめ気を引き締める。


『ホーク・キッドを除いた四機で作戦を開始する。相手は元一流のパイロットだ、今までの“色付き”とは一味も二味も違うことを肝に免じろ!』



「話が全然わからん!」って人は二章は見なくても一章を見れば大体わかりますよ。基本的にオムニバス形式なので(一章は除いて)。

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