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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
失われた解明者“ひるよし”
22/59

第二十一話 ストーカーと謎の星

5/23 AM5:30


 朝顔はムクッと上半身を起こした。


 顔を抑え、うなだれている。今さっき見た夢を思い出し、そっと腕の力を抜いた。


「昼吉…あれが、ホーク・キッドの前のパイロットか」


 足に力を込め立ち上がる。そのまま冷蔵庫から500ミリリットルのペットボトルを取り出し、蓋を開けて口に水を流し込む。


(夢に見たってことは次の“色付き”は“ひるよし”か? 偶然にしてはいいタイミングだ…)


 しかし。と朝顔は心の中で相槌を打つ。


「関わりたくはないんだけどな…」


 あきらめたようにつぶやく。そして、一度目の裏世界来訪を思い出した。


 朝顔があの時、生きて現実世界に戻ってこれたのはホーク・キッドがいたからだ。偶然の出会い…のはずなのに、朝顔は体育館でホーク・キッドに出会ったのは偶然ではなく運命だと感じていた。


――今でも鮮明に思い出せる。まるで毎日夢で見ているように。


「ホーク・キッドがいなければ、僕はあそこで死んでいた。借りは残したくない」


 今の東雲朝顔がどれだけ関わりたくないと願っても、未来の東雲朝顔は確実に余計な世話を焼くに違いない。そういう人間だ、そういうめんどくさい人間だ。そんな己の性を当の本人が理解できてないわけがなかった。


(と言ってもいつ“ループ・ホール”が開くかわからないから、もし僕に連絡が来なければ何もできずに終わるな。夢を見た後、ループ・ホールが開くまでのタイムラグは前例二つを見るとかなり差異があることはわかっている。菫さんに聞くのが手っ取り早いか…)


 朝顔は目覚まし時計を見て現時刻を確認し、さすがに朝早く悪いか…と一瞬だけ配慮したが菫に対して遠慮はいらんだろうと携帯電話を開く。


 プルルルル、とひとしきり鳴った後、通話が開かれる時の独特な濁った音を聞いて朝顔は「もしもし」と少し高めの声を出した。


「おはようございます。朝顔です、あの菫さんに聞きたいことが――」


『いつループ・ホールが現れるか、だろう?』


 菫は朝顔が要件を言う前に要件を察した。手っ取り早いが、少し癪に障った朝顔だった。


『判別は簡単だ。朝顔、“黒い星”は知っているか?』


「黒い星…百年前から観測されてる“ワンダー・スター”のことですよね?」


 ワンダースターとは、百年前の夏に観測された謎に包まれた流れ星である。


 通常、流星とは小さな粒子が地球大気の原子や分子と衝突しプラズマと呼ばれる発光状態となって我々の目に触れることになる。


 だがワンダースターはまるで原理が違う、ワンダースターは間違いなく地球圏内、我々に近い所で流れており、大きさは飛行機程度ある。輝きは一瞬で必ず最後は燃え尽きるゆえ、途中でなにか人為的な物(飛行機など)にぶつかると霧のようになって消失する。物をすり抜けたという報告もある。


 その輝きは一瞬ながらも空を見ている人間なら確実に見えるほど輝き濃い色を発する。


 原理はいまだ解明されておらず、今も一定間隔で観測されている。ちなみに“つとむ”の時はヒンメルの面々が突入する際に使用したループ・ホールが開く直前に、“ひでお”の時には夜ゆえに黒い輝きが空に溶けて朝顔らは見えなかったが朝顔たちが東家を訪問している時に確認されている。


『その通りだ。ヒンメル支部は日本国内全四か所あるんだが、黒い流星が北から流れたら北海道支部に、西なら広島、東なら長崎、南なら千葉。ってな感じでループ・ホールが開くんだよ』


(なるほど、それなら南からワンダー・スターが来るのを待てばいいわけか。っていうか、“裏世界”で戦ってるのは菫さんたちだけじゃなかったのか)


『要件は終わりか?』


「菫さん。一つ報告があります」


『報告?』


「次の“色付き”は恐らく昼吉って奴ですよ』


 朝顔の伝えた情報に対して菫は『そうか』と上面は冷静に取り繕うが、内心は激しく動揺していた。


『夢で、見たのか?』


「はい」


『そうか…』


「要件は以上です」


『わかった。伝えてくれてありがとう。…もし、“裏世界”に突入した後で知ったら取り返しがつかなかったかもしれない。本当に感謝するよ、朝顔』


 プツン、と通話が切れた。


 朝顔は耳から携帯を離し、時間を見て学校へ行く支度を始める。


 AM7:50


 ヒンメル地下施設の格納庫で五機の霊媒機体が横並びで整備を受けていた。


 右から青、ピンク、白、黒、黄色のロボット。パオトル、イラマ、ホーク、マヤ、マクイルの順番だ。

 彼らは整備を受けながら会話に花を咲かせていた。


〔――だからよ! アザレアはああ見えてやる時はやる男なんだよ! だからアザレアがベスト・オブ・パイロットだってことよ‼〕


〔わかってないねぇ。パイロットに求められるのはいつでも活躍できる力だよ、つまり、アタイのダーリンが一番いい男だってことさ〕


〔聞き捨てならないな‼ 僕の姫こそ完全無欠のパーフェクト・ガールだよ‼ あのボディラインは他に類を見ない‼〕


〔それを言うなら桜だって将来的には化けますよ。今は小さいですけど、きっといつかは菫を超えるほどの美女に育つはずです。――多分〕


〔辞めないか皆。誰も自分のパートナーが一番だと感じるのは当然のこと、言い争っても決着はつかない〕


 どうやらどの霊媒機体のパイロットが一番か言い争っていたようだ。不毛な言い争いだが、彼らも彼らで暇を持て余しているから仕方ない。


〔てかよマヤ! お前のとこのパイロットはどうにかならねぇのか? いつも勝手に単独行動取りやがって…アイツが前回突っ走ったせいでチーム全体に影響したんだぞ!〕


〔勘弁してくんな。…内情は知っているでしょ? まだ未熟なのさ〕


〔それにしてもホークさんのパイロット、朝顔と言いましたか? まだ二度目であれほどの動きを出来るなんてすごいですね〕


〔うん。その件に関しては私も驚いている。特に射撃に関してはどこかで習ったに違いない〕


〔以前は接近戦を基本軸としていた君が完全に遠・中距離戦を主にしだしたからね。僕は君のパイロットの力にも驚いたが君自身の適応力にも驚いたよ。まぁ僕には敵わないけどね‼〕


 パイロット達に比べ、霊媒機体の面々は仲が良かった。積み重ねた年季が仲の良さに現れている。


〔それにしても、こうやって久々に五人で話してると先代のメンバーを思い出すねぇ…〕


 マヤは懐かしそうにつぶやく。


〔ええ。まぁ、先代と言っても私の場合は菫でしたので懐かしさはそれほどありませんが〕


〔…うう、先代の姫はパイロット辞めてから一切会いに来てくれない…〕


〔俺様だってそうさ! まぁ、アイツとはそんな仲良くなかったし別にいいけどな! 霊媒機体に乗れるのは25歳まで、そのぐらいの歳になったらヒンメルで働かない限り来れる時間は作れないだろうよ〕


〔……。〕


 表情は無いが、ホーク・キッドの気分が沈んでいることを他の四機は察した。


〔ホーク・キッド。アタイはいい加減、あの時の言い訳を聞きたいねぇ…なにか理由があったんだろう?〕


〔…申し訳ございません。まだ、説明できるほどの情報がないのです…〕


〔ホークさん。無理に思い出す必要はありませんよ〕


〔っけ! イラマは相変わらずホークに甘いな。まさか、お前…ホークに惚れて――ごふっ‼〕


 イラマの大きな拳がパオトルの腹にめり込んだ。


 なにをやってるんだ、という技術者の呆れた顔。その表情を見るに珍しいことではないらしい。


〔な、なにを言ってるんですかパオトルさんは! 眼球に鉄球をねじり込みますよ!〕


〔どうしたイラマ! 顔が発熱しているぞ! 頭に上がったオイルを下げたまえ!〕


〔発熱なんかしていません! まったくもう…ホークさんは…〕


 ホークとイラマの様子を見てマヤは自身の頬に手を添える。


〔あらあら、若いっていいねぇ…〕


〔なにを言いますか。貴方だってまだまだお若いですよ、レディ・マヤ〕


〔…ふふ。マクイル、悪いけどアタイには心に決めたダーリンがいるからねぇ。口説いても無駄さ〕


〔おやおや、先約がおりましたが。これは失礼、紳士たる者、相手がいる淑女には手を出さない掟だと言うのに〕


 会話だけ聞いていると生身の人間となんら変わりない。会社の同僚が休み時間に交わすささやかな会話だ。


 菫は霊媒機体の会話を通信越しに聞いて微笑む。


「昼吉さん。彼らは相変わらずですよ…」


 五機の霊媒機体、その真実を朝顔が解き明かすのはそう遠いことではなかった。



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