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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
失われた解明者“ひるよし”
21/59

第二十話 ストーカーと昔話

 ☆マークは朝顔の夢を表します。

 十年前、裏世界にて霊媒機体とそのパートナーたちはアメリカ南部のとある都市に来ていた。


 任務の様子は中盤まで絶好調、相手は難敵である分離型だったがホーク・キッドとパイロットである昼吉のコンビによりほとんど何もせず追い詰めたのだった。異変が起きたのは終盤のこと…


〔声が…映像が…流れてくるッ‼〕


 “色付き”にとどめを刺す直前でホーク・キッドに異常が出た。


 彼は何かに取りつかれたように暴れた後、小さく呟く。


〔レティシア…〕


 その瞬間、ホーク・キッドの体に流れるエネルギーが止まった。


――共鳴率0%。


 共鳴率0%、それは片方がシャットダウンをした証。意識の拒絶。ホーク・キッドは戦いの最中、同期をほんの一瞬拒絶したのだ。


 この値が出る場合は二つに分けられる。片方が気を失ったか、もしくは明確にパートナーを敵とみなすかだ。


 この時、ホーク・キッドに意識はあった。つまり、考えられるのは後者。裏切りである。


『ホーク・キッド‼』


 パイロットである昼吉が叫んでホーク・キッドの目を覚まさせようとするが間に合わない。


 一瞬の隙を“色付き”につかれ、ホーク・キッドのパイロット昼吉はコックピットごと敵の茨に突き刺され命を落とした。


 共鳴率0はエンジンがゼロの状態。立つ、ということが出来ず、動かせるのは上半身程度。武器は使えるが火力はないため“色付き”には通じず、装甲は紙だ。完全武装した兵士に丸裸で棒立ちするようなもの、ただの一瞬でも、その隙は大きかったのだ。例え“解明者”として優れた能力を持っていた昼吉でもどうしようもなかった。


 そのことを咎められ、ホーク・キッドは当分の間倉庫番となった。――しかし…と桜は言葉を紡ぐ。


「ホーク・キッドは自分の罪を払拭するため、ボロボロの状態でパイロットの代わりにその頃開発していた予備AIを持って戦場、千葉に出た。だけど、所詮予備は予備、共鳴率10%ほどの力しか出せず“色付き”に迎撃された。多分、撃墜報告は誰かのミスで、ひっそりと生きててアンタと出会ったってところかしら。わかった? アイツに乗ればアンタだっていつ裏切られるか…」


「知ったことか」


「はぁ?」


 朝顔は手に持った双眼鏡を下げる。


「僕はホーク・キッドを気に入ってる。もしアイツに裏切られて僕が死んだとしても、それは見る目のない僕が悪いってだけだ」


 朝顔は淀みない様子で言い切った。桜は朝顔のまっすぐな瞳を見て顔を背ける。


「勝手にしろばかぁ‼ せっかく私が心配してあげたのに!」


 朝顔は耳元で怒鳴られ思わず両耳を塞いだ。


 桜は御立腹な様子でズガズガと地面を慣らして街に消えて行った。しかし内心、彼女は期待していたのかもしれない。朝顔ならきっと、全てを丸く収めてくれるのではないかと。



 桜が帰った後、たっぷりとストーキングを堪能した朝顔は上機嫌で家に帰った。帰りにスーパーで買ったもやしを炒めて白米と共に腹に入れ、シャワーを浴び、歯を磨いた後…盗撮写真を整理して床についた。



「ホーク・キッド…ねぇ」


 朝顔は横になり、一度目の裏世界来訪を思い出していた。そして目を閉じ意識をシャットダウンすると、とある日の光景が脳に侵入してきた。いつもの悪夢である。




 ☆  ☆  ☆





 見覚えのある格納庫で見覚えのある白いロボットと、どこか荒々しい朝顔より若い少年が対峙していた。


 菫が着ていた服と同じものを着た男性が縄で少年を縛り、犬を散歩させるように手綱を握っている。ひとたび手を放せば白いTイシャツを着た少年は暴れそうな勢いだ。


「ほら、これがお前が載る霊媒(シャー)――」


「うるせ! 放せ! 俺はあんなヘンテコな世界に関わる気はないんだよ‼」


 目の前の霊媒機体は状況がわからず戸惑っている様子だ。


「すまないなホーク・キッド。コイツは間違いなく解明者なんだが、まぁ、例の如く従ってはくれない上野蛮でな」


〔そう、なのですか…名前は何と言うのです?〕


「西綿昼吉だ。まだ中学一年生のガキだよ」


 昼吉、という名前の少年はツンツンした髪形と頬についたひっかき痕のような傷が特徴的だ。


 昼吉は一時だまり、ホーク・キッドをジッと見た後、大声で文句を言いだした。


「なんだこの白いの、だっせー! 例え俺が戦うとしてもこんなダッセー奴に乗るのは御免だね!」


「おい、昼吉…」


 子供の戯言だ。いい大人なら聞き流すところだが、白い霊媒機体は大人げなくオイルを頭に昇らせた。


〔な、なんですとぉ! この完成されたフォームのすばらしさを理解できないとは、やっぱりまだまだ子供のようですね!〕


「おい、ホーク・キッド…?」


「誰が子供だノッポ野郎! 第一、なんでロボットなのに武器を持ってねぇんだよ! ロボットっていったら武器だろ武器‼ それともあれか? 腕を発射したり、目からビーム出したり…まさかなんも無いんじゃないのか!?」


 昼吉が言うとホーク・キッドはムッとして、


〔次元装起動。γ‐50.重量轟剣“ナハス”をダウンロード〕


「って、おいお前…! こんな所で襲霊武装を使うんじゃない!」


 ホーク・キッドは子供の言葉に反応して次元装を起動。黒い歪みから大きな赤い剣を取り出した。すると、昼吉は目をキラキラとさせて叫ぶ。


「す、すっげー‼」


 昼吉の思わぬ反応に司令官の男性は戸惑った。


「はぁ?」


「すげぇ! すげぇよ高嶺さん! この剣、ちょ~~~~カッコいい! 俺、コイツ乗りたい! 次元装使いてぇ‼」


「ったく、子供ってのは単純だな」


 昼吉少年は嬉々とした面持ちでホーク・キッドと正面で見合った。


 これが彼らの出会いだった。その後、十年以上コンビを組み、世界を影ながら救う英雄へと彼らは育っていった。しかし、その結末は決して英雄らしいものではなかった…



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