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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
失われた解明者“ひるよし”
20/59

第十九話 パイロット殺し

 章のはじめということで、この章で重要になる用語説明!


 裏世界…現実世界と対になる世界。いまだ謎が多い異空間であり、不定期に“色付き”と呼ばれる怪物が現れる。

 

 東雲朝顔…今作の主人公にしてストーカー。とある事情からホーク・キッドというロボットと裏世界で怪物と戦うことになった。


 鈴木桜、鈴木岸花、アザレア、パンジー…朝顔と同じでロボットを用いて怪物と戦う仲間(?)達。


 高嶺菫…朝顔がストーキングする高嶺嫁菜の姉であり秘密結社“ヒンメル”千葉支部の局長。


 ホーク・キッド…朝顔のパートナーであるロボット。ロボットでありながら意思を持つ。


 解明者…世界に選ばれた者達。世界に一人しか存在できない。朝顔は現在において唯一の解明者である。


 昼吉…朝顔の前の解明者。ホーク・キッドの元パートナーであり今回の章の重要人物。


 


ある日の格納庫にて。一人の青年と、一機のロボットが語り合っていた。


「ホーク・キッド。お前はさ、“色付き”ってのをどう思う?」


〔どう思う、と聞かれましても…私にとって彼らは敵以外の何者でもございません〕


「そうか、敵か…そう思えたら楽だろうな」


 青年はどこか孤独を帯びた表情でコックピットの中に座っている。


〔御主人には…恐らく私とは違う世界が見えているのですね〕


 主人の孤独を感じ取り、ホーク・キッドが言葉を掛ける。青年は相棒が自分を気にかけてると察し、いつもの自分を作って答える。


「そりゃそうさホーク・キッド! 世界の数なんて人の数と同じくらいあるよ、同じ白でも天使を想像する奴もいれば悪魔を想像する奴もいる、同じ黒でも悪魔を想像する奴もいれば天使を想像する奴もいる…単なる俺の予想だが、裏世界ってのも複数ある誰かの世界が肥大化したに過ぎないんじゃないかな」


〔つまり、暴走した視点の一つが“裏世界”であると?〕


「そうだな、もしかしたら“管理者”ってのは…いや。何にせよ、たった一つある真実なんて誰もたどり着けやしないんだ、だから同じ計算式でも答えの異なる思想ばかりさ。…問題なのは、異なる答えをどう受け止めるかだ。解明者ってのは真実を追求するのではなく、どこかの誰かが生み出した間違った答えを、この裏世界に眠る計算式から導き出すことなんじゃないかと俺は思っている。求めるのはイコールの先にある無限の解答の一つだ…」


〔無限の解答?〕


「柄にもなく難しいこと言っちまったな」


 彼らの会話に、一人の初々しい少女が割り込んでくる。


「昼吉さーん! ゲートもう少しで開くそうですよー!」


「了解だ菫ちゃん。さぁて、今日も呼吸を合わせて行くとするか! ホーク・キッド‼」


〔ええ…御主人‼〕


――共鳴率九十二%。


 二者は“ループ・ホール”をくぐり、白黒の世界に身を投じる。


〔――次元装起動。Ζシリーズ、解放。…御主人、望みの品は?〕


「Ζ‐1を持ってこい!」


〔承知!〕


 それは遠く、眩しい記憶だ。


 5/22 AM8:00


 「はぁ…今日も可愛いな、嫁菜…」


 日曜休日。


 朝顔は双眼鏡を片手に大きなバックを背負って嫁菜をストーキングしていた。電柱の陰から嫁菜をレンズ越しに観察する。現在嫁菜は自宅の玄関前で誰かを待っている様子だった。


 嫁菜は植木鉢に植えられたアサガオを見て、思い出したようにじょうろに水を入れてアサガオにそそぐ。


「なんて慈悲深い!? 植物如きに勿体なき慈愛だ‼」


「気持ち悪ッ‼ アンタ本当に気持ち悪いわ‼」


 朝顔は不機嫌な面持ちで後ろを振り返る。


「なんでお前がいるんだよ、鈴木桜」


「私だって休日にアンタの顔なんか見たくなかったわよ!」


 ピンク色の髪をした美少女、鈴木桜が朝顔の背後に立っていた。彼女は学校のジャージにスニーカーを履いてきている。


 桜はため息をつきながら、先日せんじつ菫より言い渡された特訓メニューを思い出す。



 5/21 PM6:00


『桜。明日暇か?』


 ヒンメル内部にあるトレーニングカリキュラムをこなした桜の元に白衣の女性高嶺菫が現れる。桜は菫の質問に目を伏せながら答える。


『まぁ、暇ですけど』


 ニヤ、と笑う菫。桜は「(やっぱり変なこと頼まれるな…)」と首にかけたタオルで額を拭う。


『なら明日はお前、一日中朝顔をストーキングしろ』


『はぁ!? なに言ってるんですか!』


『訓練になる』


『ふざけないでください‼』


 頑なに断る桜に同じくトレーニングを終えて通りがかった岸花が言う。


『…やってみろ』


『お兄ちゃん!?』


 そして岸花の後ろからアザレアとパンジーが現れ同様に桜に声を掛ける。


『面白そうじゃん! 俺も明日バンドの約束なかったら付き合いたかったぜ』


『私はパース。陰キャ君尾行するなんてプライドが許さんわ』


『強制はしないさ。朝顔は多分、朝の八時に私の家の前にある電柱に隠れていると思うから気が向いたら行ってみるといい』


…そして現在。


 桜は思い出してさらに深くため息をつく。


(意味が分からない。お兄ちゃんが言うから来てみたけど…)


 桜は双眼鏡に夢中の朝顔の背中に視線を送る。


「僕は嫁菜の警護で忙しい、構っている暇はないぞ」


「なにが警護よ、ただのストーカーじゃない」


「わかってないなお前は。あれを見ろ」


 朝顔は電柱の中腹部分に張ってあるポスターを指さす。


 そのポスターには可愛らしいイラストと共に“ストーカーに注意!”と大きな文字で書かれていた。


「最近この辺りにストーカーが出現するらしい、嫁菜の身になにかあったらどうする?」


「アンタ、本気で言ってるならまともじゃないわ…」


 嫁菜の背後の扉から彼女の母親が現れる。


 嫁菜はじょうろを片して小さな車の助手席に乗り込んだ。母親が運転し、車を発進させた――次の瞬間。


「あれ? アイツどこ行った?」


 桜の目の前から朝顔が姿を消した。


 桜は周辺を探す、そして視線を目の前の家の天井に映すとそこに彼の姿はあった。


「嘘!? いつの間にあんな所に…」


 桜の身体能力も高い、すかさず桜も家をスムーズに蹴り上り朝顔の背後につく。


「…こっからどうする気? 車を追いかけるのは無理よ?」


「この辺り一帯の制限速度は三十キロ。大通りに出れば五十キロ、デパートまでの距離は三キロ、信号の数も考えれば別に追いつけないことはない」


 朝顔は発進する車の背中を確認しつつ天井を闊歩する。


「ちょ、ちょっと待ちなさい‼」


 桜も負けじと朝顔について行くが…


(な…によ、あのスピード…!?)


 朝顔はとんでもないスピードで家と家の間を駆けていく。


 屋根と屋根の隙間が広すぎる時は電柱や自販機を足場にして颯爽と駆けていく。桜は汗をダラダラと流しながら追いかけるが徐々に距離を離されていった。


(そ、そういうことか‼)


 途中で桜は菫の意図を理解した。〔(確かに、これは…訓練になる)」と視界から朝顔が消えた時に実感した。


「…っはぁはぁ、アイツの強さの秘密って…」


 先日の朝顔の動きは明らかに素人のそれじゃなかった、もちろん桜は朝顔の妙な場慣れに違和感を覚えていたが、これが答えだとは思っていなかっただろう。


(対象を見失わない視野、気を長く持つ集中力、恐ろしいまでの隠密能力! ストーカーって、突き詰めるととんでもない職業ね‼)


 断じてストーカーは職業じゃないのだが、少し天然の入った桜はストーカーに対して変な憧れを抱いてしまった。


 AM11:00


 桜は全身を濡らしながらようやく嫁菜が食事しているファミレス“ジャスト”にたどり着いた。


 目の前にはファミレスの周りに植えられた植物に同化している朝顔がいる。


「はぁ…はぁ…ハぁ‼」


「可愛いなぁ…嫁菜…」


(コイツ…汗一つかいてないし‼) 


 桜が追い付いてきたことを確認すると、朝顔はほんの少しだけ口角を上げて聞く。


「そろそろ話したらどうだ?」


「はぁ? なにをよ?」


「僕に会いに来た理由だよ。半分はおおよそ理解できたが、もう半分はまだ見えない」


 桜が朝顔に会いに来た理由は修行ともう一つある。それを朝顔は見抜いていた。解明者、それは答えを追求する者、彼らの前に隠し事は難儀である。


 桜は汗をぬぐいつつ、呼吸を整えると真剣な面持ちで口を開いた。


「東雲朝顔、改めて言うわ。“裏世界”に…いや、ホーク・キッドにはもう関わるな」


「ホーク・キッド…」


 朝顔は視線を一つ揺らがずに「なぜ?」と問いかける。


 桜は一瞬だけ言葉を口にするのを戸惑うが、迷いを振り切ってハッキリと言う。


「あの機体は十年前にパートナーを殺している」


 朝顔はそこでようやく表情に変化を見せた。


「詳しく聞かせろ」


「…十年前、私たちより一世代前のヒンメルの部隊がアメリカを舞台にした“裏世界”に行くことがあった。そこでホーク・キッドは重罪を起こしたのよ」



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