転生したらアーマーイーターになったので、女の子の防具が食べたいです
何時もより、ちょっとお下品なお話かも知れないので、そう言うの嫌いな人はお気を付けください。
オレは前世の記憶を持っている。
此処とは違う世界、この世界よりも進んだ文明を持つ、地球って星で生きた記憶だった。
其処でのオレは正吾って名前で生きて、痴漢冤罪を喰らって失意とかストレスとか色々あって、餅を喉に詰まらせて死んだ。
太っていたのと、電車に間に合う様にと走ったのとで、ずっと息切れしてふひーふひー言ってたのが悪かったらしい。
周囲からは満場一致で有罪判定を受けた。
実に苦い思い出だ。
……とまあ、過去の話は今のオレとは直接的な関係はない。
ただこの前世の記憶は、今のオレをもずっとずっと苦しめている。
地球にあった物語では、大体が前世の記憶に助けられて成り上がったりしてたけど、あれは人間だった者が、もう一度人間やそれに近しい者に生まれたからこその話なのだろう。
けれども今のオレが生まれたのは人間とは程遠い、寧ろ人間の宿敵である迷宮産のモンスターだ。
でも此処でオレを苦しめてるのは、人間として生きた倫理観が、人間と敵対する事を拒んでるって話ではない。
と言うかそもそもオレに、人間を害する攻撃力の類は皆無なのだから気に病みようがないのである。
では一体オレがどんなモンスターで、何がオレを苦しめるのかと言えば、そう、オレはこの迷宮で最も人間から嫌われていると言っても過言ではない存在、アーマーイーターだった。
しかしアーマーイーターって名前を聞いても、多分首を傾げる者だって多いだろう。
この迷宮なら兎も角、アーマーイーターは世界的に見れば決して有名なモンスターではない。
種類的にはスライムが一番近いだろうか?
アーマーイーターは黒い流体の身体を持ち、迷宮の闇には良く溶け込み、素早く探索中の冒険者を奇襲する。
そしてその名の通りに、冒険者の防具に纏わり付いて喰らう。
一度アーマーイーターに食われれば、ボロボロの革鎧であろうとも、祝福を受けたミスリルのフルプレートアーマーであろうとも、呪われた災いの鎧であろうとも、防具であるなら等しく無価値なゴミと化す。
つまりは冒険者を迷宮内で全裸に剥くのが、アーマーイーターってモンスターなのだ。
まあ嫌われるのも無理はなかった。
人の命を奪って喰らうタイプのモンスターで無かったのは不幸中の幸いとも言えるけど、けれども鎧を喰うのだって非常にキツイ。
……何故なら、この世界の冒険者は、九割九分までが男の冒険者だからである。
もしオレに前世の記憶がなければ、オレは今世を嫌われ者のアーマーイーターとして全うし、いずれは討伐されただろう。
しかし前世を人間の男として生きた記憶が、男の鎧を喰って素っ裸に剥くなんて真似を許容させてはくれなかった。
本能に抗い、冒険者達をやり過ごして逃げ回るだけの日々。
だから基本的に何時もオレは飢えている。
一度冒険者が開けた宝箱の中に入ってた鎧を喰った事があるが、どんな姿になろうとも空腹が満たされるのは幸せなんだなって思い出させてくれた。
まあその後、怒り狂った冒険者達から集中攻撃を浴びて死に掛けたけれど。
どうせ未鑑定品なんだから良いじゃないか。
もしかしたら呪われた品だったのかも知れないのだし、寧ろオレが彼等を救った可能性が1%はあるので、オレが彼等を救ったと言ってしまっても過言ではない。
しかし一度でも食事をしてしまえば、飢えを満たす事への欲求はより強くなった。
そう、そして前回よりもより上質を求めてしまう。
つまり、矢張り人の身に付けた防具を食べたいのだ。
でも絶対に男の防具を喰うのだけはNOである。
やっぱり喰うなら、女性の身に付けた物が良い。
ほら、例えば女性の下着は、貞操や心を守る為の防具だって言うじゃないか。
……多分言う。
だったらアーマーイーターであるオレが、食ってしまっても構わない筈だ。
そう考えた時、これまでずっと、オレの本能にNOと言い続けていた前世の記憶が、初めてYES、更にGO!と叫ぶ。
今世のオレと、前世のオレが和解した瞬間であった。
そうしてオレは、迷宮最下層を抜け出して、外の世界へと出て行く事を決める。
アーマーイーターは冒険者を襲い、その防具を喰う者だ。
けれども人生とは冒険の連続だから、人は生きてる限り冒険者ではないだろうか。
だったら地上で生きる人々だって冒険者なんだから、その中の可愛い女の子だけを狙って、身に纏った防具を喰らう、そんなアーマーイーターが居ても良い。
そんなアーマーイーターがオレなのだ!
一応、迷宮産のモンスターであるオレには、定められた範囲内の階層に居る様にって本能が擦り込まれてる。
でもアーマーイーターの最も根源的な欲求に逆らい続けたオレは、本能に抗う事には慣れていた。
罠だらけの階層には切り刻まれて、テレポートゾーンでは迷いながら、それでもオレはめげずに迷宮を逆に攻略して行く。
そんなオレに上層階のモンスター達は驚きの目を向け、或いは敵と見做して襲い掛かって来る事すらあったが、迷宮に於いて上層と下層のモンスターの実力差は明白だ。
攻撃力は皆無のオレだけど、それでも防御力と逃げ足は上層階のモンスターの比ではない。
やっぱり一番怖いのは、下層を目指す最中のベテラン冒険者と出くわす事になるのだけれども、そこはそれ、彼等とてまさか上層階にアーマーイーターが居るとは思わないので、上手く潜んでやり過ごす。
迷宮内では時間の経過をハッキリと知る手段はないから、オレが外を目指し始めてどれ位経ったのかはわからないけど、その道程は決して安易な物では無かった。
けれどもオレは、遂に、今世では初めて、迷宮の出口から差し込む眩い光をその目にする。
その光、太陽の光は、迷宮のモンスターであるオレに恐れを抱かせた。
この先に進めばどうなるかはわからない。
だがそれでも、やっぱりオレは躊躇わずに、その光の下へと足を踏み出す。
オレはずっと前世の記憶に苦しめられたと思ってたけれど、それは違うと今気付く。
前世の記憶があったから、普通のアーマーイーターと違って冒険者に狩られなかったし、本当なら迷宮のモンスターには思い付けない筈の、外を目指すって発想にも至れた。
それに今だって勇気をくれてる。
大丈夫だ。怖がる必要は無いって、前世のオレが囁いてる。
だからオレは怖れる事なく光を全身に浴びて、迷宮の支配から解き放たれた。
それからオレがどんな人生を送ったのかは、ちょっと刺激が強過ぎるから表立っては語れない。
しかし迷宮から出たオレにより、アーマーイーターってモンスターはこの世界では割と知られた存在になる。
城に忍び込んで大国の王女の防具を食べた時は、結構な額の賞金が懸けられたりもした。
だって前世の記憶が王女と粘体生命体とかロマンって言ってたから、別にオレは悪くない。
でもそんなオレの楽しく満たされた外の世界での人生? モンスター生にもやがて終わりはやって来る。
ある日襲った美少女に、……何故か棒とボールが付いていたから。
そう、彼女は実は美少女ではなく、男の娘って奴だったのだ。
前世の記憶は非常に悩んだ末に、まあアリって判断を下したのだが、実はこれまでずっと男の防具を食べる事を拒んできたオレの身体は、女の防具を食べる事に特化して進化していた。
謂わばランジェリーイーターである。
意味不明な事を言ってる自覚は自分にもあるが、だってオレは所詮モンスターなのだから、多少意味不明な生態でも仕方がないだろう?
そもそも防具を喰うって事自体が意味不明と言えば意味不明なのだし。
故に、幾ら可愛らしく、前世の記憶がアリだと言っても、生物学的に男の防具を喰ってしまった事により、オレにとっての致死毒が体内に取り込まれてしまった。
行き成り引き攣り、ジタバタともがき始めたオレに、被害者である男の娘が思わず心配げな表情を浮かべる。
何て優しい子なのだろうか。
出会い方が違ったならば、オレとキミはもっと良い関係を築けた筈。
キミを傷付けただけで去って行くオレを、どうか許して欲しい。
ああせめて、せめてボールがなければ、前世のオレだけでなく、今世のオレもアリかなって思えたのに……。
来世ではローパーとか、触手持ちモンスターになりたいなぁ。
おばかはしんでもたぶんなおらない。