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【完結】墓守カティナは蘇りの王子と革命の夜の悪夢を辿る  作者: さき


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24/45

24:推測と葛藤

 


 墓場が盛り上がっている頃、カティナは自室である客室に戻りアルフレッドと紅茶を飲みながら今後のことを話し合っていた。

 といっても犯人の目処はいまだたっておらず、すべき行動もはっきりしていない。アンバーやトリスタン達に近付くことが出来たのは幸いだが、かといってあれこれ探りを入れられるほど彼等の信頼を得ているわけではない。


 そもそも、探るといっても誰から探れば良いのか?


 誰もがアルフレッドを殺す動機がありそうで、それでいて非道な行動にでるとは思えない。

 なんとも中途半端だ。彼等と接したから余計に考えがまとまらない。

 どうしたものかと悩みつつカティナがアルフレッドに視線をやれば、彼もまたお手上げだと言いたげに眉尻を下げて笑った。より深く彼等を知っているのだ、アルフレッドの胸中は悩みを通り越して葛藤に近いだろう。


「正直に言えば、誰も疑いたくない。殺された身で言うのもあれだが、これでも結構慕われていたんだ。少なくとも、殺されるほどの恨みは抱かれてなかったはず。……だけど」

「だけど?」

「第一王子としては別かもしれないな。俺がどんな性格でどう周囲と接しようと、王位継承者という立場はそれだけで敵を生みかねない」


 溜息混じりに呟かれるアルフレッドの言葉に、カティナがどう答えていいのか分からずただ頷いて返した。

 確かに、アルフレッドの立場は彼の性格や周囲との関係に関わらず、それだけで殺される理由になる。なにせ王位継承者、嫉妬や妬み、陰謀とは切っても切れぬものなのだ。

 だがそれを考えれば同時に「だけど彼等が」と擁護の気持ちも沸き上がり、先程から明確な結論を出せずにいた。


 王位継承権争いと考えれば、まず浮かぶのが第二王子であるトリスタンだ。現にアルフレッド亡き今彼が王位継承者とされている。

 だが兄の凶報を聞いて駆けつけたアルとカルティアに感謝を示し、喪に服せぬ己を蔑んだあの表情が演技だとは思えない。


 ならば彼と親しいアンバーか?

 確かに彼女はトリスタンの象徴である赤を纏っている。アルフレッドとの間に恋愛感情が無かったというのだから、本当はトリスタンを想っていて…?

 だがアンバーが第一王子の婚約者に選ばれる程の才知ある女性だからこそ、こんな愚作にでるとは思えない。恋に生きようと暗躍しようと、彼女ならもっと上手くやれたはずだ。


 ならばレナードやリドリーか。だが彼等が実はトリスタンを支持していたとしても、アルフレッドを暗殺するまでには至らない。メリットに対して背負うリスクが大きすぎる。

 そもそもレナードが犯人であればアルフレッドの遺体を墓地に運ぶわけがなく、リドリーも危ない橋を渡る性格とは思えない。


 ならば……とカティナが脳裏に一人の女性を思い描き、打ち消すようにふると首を横に振った。

 銀の髪が揺れる。三つ編みの揺れは雑に縛っている時よりぶんと大きく弧を描き、まるで尻尾のようだ。

 だがいかに振ったところでほつれることなく、あの短時間でも綺麗に結んでくれたことが分かる。


「ジルは無いね」

「姉さん?」

「そう。ジルはアルフレッドを殺すくらいなら宝石箱にしまっちゃいそうだし」

「あれは姉さんの口癖で、なにか気に入ると傷が付かない内に宝石箱にって言って脅してくるんだ。小さい頃は本当に箱にしまわれるんじゃないかって不安になったよ」


 当時を思い出してか、アルフレッドが楽しそうに話す。

 曰く、彼はその見目の好さを気に入られ、昔からジルに宝石箱にしまいたいと言われていたらしい。今でこそ笑い話にしているが、幼い頃は本気にしていたというのだからよっぽどなのだろう。

 どうやらジルの自由奔放さと美しい物好きは昔からのようで、あれは変わりようがないとアルフレッドが笑った。


「でもジルだってあんなに綺麗なんだから、綺麗な物が好きなら鏡を見てれば良いのに。ジルだったら一日中鏡の前に居て、鏡を抱いて宝石箱にこもっちゃいそうだけど」

「いや、姉さんは自分の事はそんなに気に入ってないよ。昔事故にあって傷跡が残ってて、それが嫌みたいだ」

「傷?」

「あぁ、殆ど服や髪で隠れる場所なんだが……一カ所だけ、左手の薬指がね」


 語尾を濁らせてアルフレッドがふと視線を逸らす。

 その代わりと言いたげに右手で掴むのは自身の左手の薬指。第一関節を覆うように手で握り込むその仕草に、意図を組むのは難しくない。

 きっと小指の先を失っていると言いたいのだろう。それ程までの事故だったのかと驚くと同時に、ジルの黒い手袋で覆われた手の感触を思い出す。


「あれ、でもジルに触られた時はそんな感じはしなかったよ?」

「義指をつけてるんだよ。遠方から呼び寄せた技師に頼んで作らせたもので、感触も見た目も本物そっくりだ。手袋越しなら誰も分からないだろうな」

「そっか、左手ね……」


 頬を撫で髪を三つ編みに結ぶジルの手を思い出し、カティナが小さく呟く。

 黒い手袋の下にはきっと彼女の見目にあった白くきめ細かな肌の手があるのだろうと思っていたが、まさか傷どころか薬指が……。

『傷がつかない内に宝石箱にしまっちゃいましょう』

 そう冗談めいて笑いながら話すジルの言葉が脳裏をよぎる。

 自身が傷ついたからこそ、美しい物を美しいまま守ろうとしているのだろう? そうだとすれば、冗談交じりのあの言葉さえ切なさを抱かせる。


「時間があったらジルとお茶をしようかな。庭園を散歩してもいいかも」

「随分と姉さんを気にかけるな」

「ジルは優しいし、私のこと誉めてくれるもん。王宮にいる人達の中ではジルが一番好き」

「そうか、姉さんもきっと喜ぶ……ん? 一番?」

「一番好き。ところでアルフレッド、聖堂の方に行ってみようよ。もしかしたら誰か居て話が聞けるかもしれない」

「一番? 姉さんが一番? カティナ、俺は?」

「アルフレッドは王宮じゃなくて私と同じ墓地でしょ?」


 生前ならば王宮側だが今の彼は一度死んでおり、本来であれば墓地にいるはずだ。シンシアだって「ちゃんと二人で墓地に帰ってきなさい」と言っていた。

 そうカティナが話せば、アルフレッドが僅かに瞳を丸くさせ、次いで「そうだな」と頷いた。その声色はどこか嬉しそうで、聖堂に行くべく眼帯をつける表情は心なしか笑っているように見える。

 それどころかカティナに対して柔らかく微笑んでくるのだ。深緑色の瞳はやんわりと細められ、穏やかな口調で「行こうか」と誘ってくる。


 いったい何に喜んでいるのだろうか?


 そうカティナが疑問を抱きつつも頷いて返し、王宮内を探るべく部屋を出ようとするも、すんでのところで扉がノックされた。

 そうして応じるように扉を開ければ、


「ジル様よりケーキをお預かりしております。……おや、どこか行かれるんですか? いったいどこに、何の用事で、外出されるのでしょうか?」


 とケーキを乗せたティートロリーを傍らに止めたレナードが睨みつけてきた。――その眼光はケーキを持ってきたにしては鋭く、華やかなティートロリーとの温度差と言ったらない――

 これにはカティナもうんざりとした表情をなんとか押し隠し、「わぁいケーキ」とまったく心のこもっていない言葉を返して彼とケーキを部屋へと招き入れた。





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