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城への道のり

『じゃあ、これからよろしくね』


あぁよろしく頼む。弾んだ声の姫様に、これからの期待も込めて返答しながら座っていた椅子から立ち上がる。ふと、疑問に思ったことを姫様に質問する。


「この世界に今俺が座っていたモノは存在するのか?」


 もし存在しないとなると創造で元の世界にあった元が作れることになる。別に姫様に聞かずに元の世界にあったモノをスキルで作ればいいだけなのだが、取り敢えず話のネタ程度にと思ったので聞いてみた。もしかしたら新しい発見があるかもしれない。


『…椅子のことよね?』


 あるみたいだ。若干困惑しているのは日常にありふれたものだったからだろうからなんだけど。当たり前の(であろう)ことを聞いたら少し恥ずかしくなった。しかしこれも前へ進むための布石だと思って我慢する。失敗は成功の母なのだ、異論は認めん。


『ほかの国にあるかどうかは…たぶんあるだろうけど』


 だよねー。そうだよね、西洋っぽい騎士たちだし、ファンタジーなら椅子ぐらい存在してても普通なんだよね…やっぱりスキルでセルフ確認しとけばよかった…

 後悔しながらも今後のことを考える。城に行くことは当然として、救護班にはどう言ってついていこうか。ただ迷子になっていた、なんて言ってもなー…救護班の到着の遅さからしてもかなりの距離があるのは想像に容易いし。


「「「救護班ただいま到着いたしましたっ!!」」」


 考えていた傍から似たような鎧を着た騎士がこれまたぞろぞろとやってくる。数は10ぐらいかな。木の後ろに隠れている奴らとの違いを言えば、鎧のうえからローブを纏っていることぐらいか。どことなく僧侶とか巫女といった回復職を彷彿とさせる恰好だ。

 随分来るのが遅いな。城までの距離があるのか、それとも道が複雑だったのだろうか。ともかく騎士であるフェルとの決闘も勝敗が決したし、救護班も到着したからそろそろ城へ参ることとしよう。間違いなく何かしらの問題解決の発見ができるに違いない。

 立ち去る前に創造で作り出した椅子を消えろと念じる。すると光の粒子となって消えていった。どこから現れてどこへと消えてゆくのか…解明できる奴はいないのか。まぁそれも城についたら、ついで程度に調べておこう。

 ちなみに椅子を消した際にシステムの音が仕事をしたのは言うまでもない。


《スキル:破壊を習得しました。》


 創造とは逆のことをしているからこの名前なんだろうけど…なんというか、スキルの名前がシンプル過ぎるな。わかりやすくて俺個人としてはいいと思う。理由としては、使ってみなければ分からないスキルは元の世界で飽きるほど見てきたからだ。


「フェル様どうなされたのですか!?」

「あぁ…姫様との決闘でな」

「なんと…あのフェル様が…!?どちらか勝利なされたのですか」


 救護班が驚きの声をあげて木の後ろ隠れていた奴らと会話している。ていうかどっちが勝ったなんて見ればわかるじゃないか。俺の圧勝以外に何があるっていうんだ。


『…まずいことになったわね。』


 少し緊張した声でおっしゃる姫様。なんだか切迫しているようにも思えるのは場の雰囲気だけではあるまい。なんかまずいことしたのかな…?

 騎士と対立したことが重罪だとか、はありえんな。こっちは一国の姫様だ。立ち位置が違い過ぎる。詳しい序列は知らないが、俺の知識だと騎士ごときが姫様を超えるほどの権力を持っているというのは聞いたことがない。ただここは異世界であって、俺の常識が通じるとは思えない。


『いや問題はそこじゃないのよ』


 冷静な突っ込みを入れてくるあたり、まだ余裕はあるのだろう。何がまずかったのか早く教えてほしいのだが。そもそも俺の考えていることが姫様に筒抜けなのに、俺自身には一切姫様の秘めていることが分からないのは不公平だとそろそろ申し上げたい。


『城についたらいくらでも教えてあげるわよ…だから少し黙りなさい』


 明らかにただ五月蠅いという理由で会話を拒絶されてしまった。何も問題をひとりで抱える必要性はないと思うんだ、だって俺ら一心同体じゃないか、今の状態だと。だから力を合わせて困難を乗り越えていこうじゃないか。目を瞑り、誠意を込めて語る。多分これなら答えてくれると思う。


『…実は私ね、実技がとても苦手なの。』


 観念したのか諦めたのか、ポツりと一言姫様がこぼす。この一言で察することができない方々は紳士・淑女の称号を剥奪しよう。実技が苦手ってことは、さっきの騎士フェルの戦いでは負けて当然、もしくは引き分けが姫様の強さでは善戦だったはず。過去に何度戦った事があるかは知らないが。


『考えている通りだわ。私、フェルに一度も実技では勝てたことが無いの』


 組み手をしていたのか?実戦経験は大事だとは思うが。何歳からはじめているんだ?


『4歳からよ。でもさすがにその頃はごっこ程度で済んでいたわ』


 4歳!?まだ子どもじゃないか…。この世界は幼少の子どもを虐待する決まりでもあるのか?もしくは両親の趣味とか。でもよく考えてみたら魔法と剣の世界だし、早いうちから自分の身を守れるように鍛えるのは常識かもしれない。鉄は熱いうちに叩けともいうし。少し違うかな?


『年数を重ねていくうちに勝負の回数も増えてね…』


 懐かしいとばかりに語っている姫様、こころなしか少し暗く感じるのは全く歯が立たなかったからだろうな。それに騎士たちの驚き様から姫様の「一度も勝てたことが無い」というのは真実なのだろう。

 一度も勝ったことない相手にある日突然完勝するってのはどう考えてもおかしいよな。…いや、でもそんなの試合の数によっては言い訳できることじゃないのか?ちょっと脳内シュミレーションを行ってみる。


騎「姫様どうなされたんですか!?そんなにお強(以下略」

姫「実力を隠していたのよ!」

騎「なるほどさすが姫様ですね」

姫「ふふん、とうぜんよ!!」


 我ながら完璧な未来予想だな。あとは試合の数によってコレの成功率が変わってくる訳だ。姫様よ、勝率はいかほどかな?全敗なのは分かってるから試合した回数だけ自己申告で。


『…500試合』


 一瞬耳を疑ったね。意思疎通で聞いてるから耳は関係ないけど。

500試合ってことは、4年前で…1年を365日と仮定して…えーっと


4x365=1460


1460日…いやいやいやいや、おかしいよ。


 約2日に一回は試合してることになるんだけど。絶対話盛ってるでしょ姫様。


『さっきあなたが戦ったのが500試合目よ』


 そっかー。って違うよ、そういう意味じゃないよ!!明らかに数字がおかしいんだよ!と内心猛烈に抗議はしてみるが、特に回答は返ってこなかった。黙秘するなよ…間違ってるって言ってくれ。

 数字が真実だとすれば…てことは何、この姫様そこそこ戦闘経験があるってことなの?ないよりかはいいけど、物騒な過去を過ごしてきたもんだ。逃げ出したくなるのも頷ける。恐らく習い事の授業に含まれているんだろうな「お稽古」が。


「おい、はやくフェル様をお運びしろ!!」

「お前はヒールをかけるんだ」

「フェル様!お気を確かにッ」

「私たちもお手伝いいたします」


 救護班とその他騎士たちは話が終わったのか、それとも倒れているフェルを見て焦ったのか、急いで魔法を唱えて回復魔法を掛ける。しかし、ヒールて…初級魔法じゃないのか。

 担架みたいなのを持った騎士が二人一組で、4人ほど立っていた。だけど使うのは一組だけだ。恐らく俺(姫様)とフェルの分だろうが、圧勝してしまったので特に外傷はない。

 さきほど鏡を素手で殴って壊し、怪我はしたものの、スキルの自己再生でほぼ完治までに至っている。これは意識的にスキルを発動させたつもりはないから、自動で発動したんだろう。

 MP残量は∞だし別にいくら使っても構わないが、残量制限があったときは困り者だな。勝手に発動してゴリゴリ削れていくんじゃ使い勝手が悪いし、いざという時に動くことができないからだ。


「姫様はどこかお怪我はありませんか」


 救護班の騎士が俺に走り寄ってきて、片膝を地面に付いて目線を合わせて丁寧に聞いてくる。…騎士どもの背が高く思えたのは姫様の身長が低すぎるからだったのか。どうでもいいことを思いつつ、どう答えるか迷うが、表情や素振りは一切見せない。ポーカーフェイスは大事だ。


『お腹が痛いとでも言っておきなさい。私が圧勝するなんておかしすぎるわ』


 自信があるのはいいんだけど、自虐で発揮するのはやめてほしいな。頼りなく思えてくるし。

ま、さっきの戦いで引き分けだったなんて言っとけばなんとかなりそうだな、見ている奴はいたけど戦った本人の証言が一番現実味あるだろうし。たとえ嘘でもね。


お怪我うんぬんの騎士に向かって辛そうな表情をして、お腹に手を押さえてうずくまる。


「…さ、さっきお腹を負傷して…ぁいてて…」

「なんと!!おいお前ら姫様もお運びするんだ!!!」

「了解!急ぐぞッ」


 俺の演技力を全振りした嘘体調不良宣言で、救護班が焦って担架に乗せ、城に向かって走っていく。正直魔法でテレポートとかしたり、移動門を召喚して運ぶとかの方が夢があるんだけどなー。ワガママも言ってられないか。城までの道を知っていると思しき騎士が先導し、担架に揺られて進んでいく。

 仰向けに寝かせられ、流れていく空を見つめる。周りの木々も一緒に後方へとどんどん流れていく。直進もあることながら、左へ、右へと曲がったりしつつ順調に進んでいる(と思う)。こうして運ばれていると思考が騎士たちについて考え始める。大部分は省力するが、腐っても一国に使える者なんだろうか、随分長いこと走れる体力はあるらしい。ご苦労なことだ。

 フェルと似たような状況だな、と思う。ただ意識があるか無いかぐらいの違いしかないし、どうでもいいか。担架で運ばれるのは最初は楽しかったが、時間が経つにつれて城への興味の方が大きくなり、しまいには景色に飽きてしまった。

 担架に乗せられ、揺られている間の体感時間では2時間ぐらいだったのだが、そんなに遠い場所に出かけていたのか、姫様は。文句を言いたくもなるのを、見飽きた空を見つめることで紛らわす。

 そんなこんなで担架に揺られてほとんど目蓋が落ちかけていた時、唐突に揺れが止まった。乱暴な止まり方と睡眠妨害でいささか機嫌が悪い俺は、文句を言おうと視線を先頭を担当している騎士へと向けるために上半身を起こした。





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