肉体
『あくまで私の考えなんだけど、助けになればなと思って』
ほお、仮説か…。
さっき鏡の中で見た姫様の容姿だとそれほどこの世界で長くは生きてはいないとは思うんだが。
せいぜい8年から9年と言ったところか…しかし世の中にはロリババアという存在がいるからな、外見で判断しちゃいけないのだ。
でも幻獣を召喚をすることができたぐらいだし、それなりには齧ってはいるんだろう。
ただ中途半端に齧っているせいでこんな事態を引き起こした可能性もある訳なんだけれど…今は言わなくてもいいな。文句を言ったところで解決はしないし、時間の無駄だ。
『まず、幻獣を召喚をするのはどうしてだか分かる?』
分からん。
そもそもゲームにのめり込み過ぎて幻獣召喚について何も疑問に思ってすらいなかった。
恐らくまだ俺自身が遊び感覚というか、ゲームをしてる感覚なんだろうな。
さっきの戦い…とは呼べはしないかもしれないが、アレのもっと緊迫した命の危険が迫るような事態になったらヤバイな。今後の為にも気を引き締めねば。
っと、立ったまま聞くのもしょうがないし…騎士の誰かが呼んだ救護班が来るまでの間は椅子にでも座りながら待とうかな。
何度かスキルを使用したおかげでコツが掴めたから、適当に木製の椅子を作ってみる。背もたれが付いている、4本足のメジャーな椅子。
難なく制作できたことは別にいいんだけど、本心を言えば原理が分からない。
音も無くまるで元々その場所にあったかのように現れる椅子に対して、正直恐怖を覚えたのはおかしいのだろうか…
『そうねー…』
姫様の話を聞きつつ、さきほど作った椅子に座る。
すわり心地は悪くないし、元の世界と大差はなかった。
恐らく知っているモノなら大体作れるかもしれない…次は食べ物を作れるか試す必要があるな。
段階を踏めば作れるモノ、作れないモノがはっきりするし、これによってはもしかしたら俺は元の世界へ帰れるかもしれない。
『じゃあ…幻獣ってどういった生物かは分かるかしら?』
…ふむむ。
幻獣だから、珍しいケモノ…なのかな。
リラックスしながら話を聞くが、気が付けば顎に手を当てながら考えていた。
ぶっちゃけ、みたことないし、聞いたこともないんだ。
単語から連想するしか無い。
『…なるほど、貴方はほんとに何も知らないみたいね』
呆れた、落胆した、っていう声だな。
声だけって不便だと思ってたけど、案外意思疎通はできるもんだ。
まー、気持ちはわかる。何一つ知らないのは致命的だもんなー。
でも期待されても困る訳で。
『私の話す言葉は分かるのに幻獣は知らないって…不思議ね』
姫様の言い方だとみんな知っている、ってなるんだけど…
『普通は知ってて当然なのよ。幻獣と関係者はね』
えーっと、どういうことなんだ…?
『幻獣と関係者はね』、ってことはみんな知っているんじゃなくて一部分だけなのか…?
『まぁ、いいわ。先に一通り説明するから、分からないことがあったら聞いて』
分かった。
いやぁ、なんかわくわくするなー…未知の物ってだけで好奇心が刺激される。
何せ俺が過ごしてた生活って特に変わり映えしない、何も無い平和な日々だったからな。
テレビとかでたまに戦争とかテロについて報道されることがあったりするけど、あまりにも頻繁に報道されるもんだから、見ても『へー…』ぐらいしか感想が出なくなっている。
最終的にはゲームにログインして、クラスメイトや友達と武器や防具の素材集めに勤しんで…
……俺、青春の日々っていつ送ったんだろ…
俺がアレコレ考えている間に姫様が話を始めた。
『じゃ、幻獣はなんなのか、だけど』
・神のような存在で、城にあった本にもいくつか幻獣が伝説として描かれている神話がある。
・生息している場所は不明、個体数も分からない。
・様々な幻獣がいるが、決して一体たりとも同じ個体は存在しない。
・見た目は基本的に動物を模しているが、例外もある。
・人に力を貸してくれる。しかし、召喚をしないといけない。
・召喚するためにはそれ相応の願いと対価が必要である。
・基本的に民間人はみることが無い。
『異世界から貴方は来たのよね』
そうそう、俺は異世界から…
…何故知っているんだ?まだ一言も異世界人だとは言ってないハズだけど。
『さっき自分で「にっぽん」やら「あにめ」とか言ってたじゃないの』
確かに言ったけど、それで異世界人と判断できるのか?
俺だったら気づきもしないうえに、知らない単語なんか無視するぞ。
この姫様案外できる奴かもしれない。期待絶大だ。
『あなたね…私と繋がっているって言わなかったかな?』
…確かに言ったけど。
どういう繋がりだったのか全く分からなかったからスルーしてた、なんて言えない。
例え口が裂けても、ね!
心の中で会話してるわけだけども。
『心の中で会話してるってことはね、相手の考えてることも少しながらだけど、こっち側に流れて来て分かっちゃうの。』
へー……、っえ。
…なら、さっきから聞かれてたってこと、だよな。
考えてたこと、呟いたことも全部。
『そうだって言ってるのよ…』
だからこれまでの俺が思考していたことや言動を全部整理して、異世界人だと断定していたというのがカラクリですか…仕掛けが分かってしまえば大したことじゃないな。
…なのに俺は一体どういった脳細胞をしているんだろう。働いていないのか、それとも腐っているんじゃないか?少し考えれば分かる簡単なことじゃないか…。
『あなた、私のこと馬鹿にしてるの?』
姫様が若干不機嫌になられた…!?
いや、分かってますよ。だって今姫様に憑依してますもんね。
俺の言い方だと姫様の脳細胞は馬鹿、って言ってるようなもんだし。
下手したら死滅してるとも捉えられる表現だったし、失言失礼しました。
『そういうことよ。結構分かるじゃない』
まあな。
で、俺は常に前を向いて爆進していく男だからもう失言なんぞ忘れることにする。
今後弄られるネタにされかねん。早々に対処せねば。
意識を切り替えて姫様に質問をする。
取り敢えず幻獣についてはなんとなく理解はした。
だけど「繋がり」が未だに理解できない。
某少年が機械に乗って戦うアニメじゃシンクロ率とかあったけど、似たようなものかな?
つまり、どれぐらい魂を同調させられるか、ってあたりか。
度合によっては引き出せる能力値が上昇するから、なるべく高い方がいいらしい。
『おおむね正解と言ったところかしら。ちなみに私とあなたのシンクロ率は高めね』
憑依できてるぐらいだしな、高くないという方がおかしいんじゃないか。
シンクロ率が低いと弾かれるみたいなことが起こりそうだけど。
『それもそうだけど、無理矢理乗っ取るって言うのも一つの手だと言えるわ』
乗っ取る場合はシンクロ率を考えなくてもいいのか?
でもそれだと幻獣じゃなくてただの悪魔になるだろ。
俺の世界だと有名だし、逸話だって大量にある。
…そういえば似ているな。つーことは幻獣=悪魔…?
いやいや、違うだろ…違うよな?だって幻獣は神様的な扱い受けてるんだし。
『悪魔は別にいるわよ。私2週間ぐらい前に精神を乗っ取られたし』
いたんだねー…で、それより後者の発言が物凄く気になる。
2週間前ってかなり最近のことだよね?なんでそんな軽く言えちゃうのかが分かんないな。
精神乗っ取られるってヤバいよね、しかもかなりとかものすごくとか付いちゃうぐらいには。
でも今こうやってきちんと話せてるし退治する方法でもあるのか…。
それとも未だに乗っ取られ続けていて、俺と喋っていた姫様は悪魔だったとかいうオチが待ってたりしたら?物語としては最悪だな。
『下級悪魔だったから簡単に追い払えたわよ。自力でね』
あ、なんか誇らしげだ。でも下級悪魔なんだろ?相当弱かったんだろうなぁ。
って、こんなどうでもいい話じゃなくて、脱線した軌道を修正しよう。
そう思った瞬間、なんか姫様がぼそりと呟いた気がするけど、気のせいだよね。
どことなく失礼なこと言われた気がする。鈍感野郎とか無視してんじゃないわよ、的な。
まぁいいか。先に進もう。
そういえば、気になったことがあるんだよな。今俺がここにいる理由であり、これから巻き込まれるであろう面倒事…つまるところ幻獣の召喚なわけで。
なぜ幻獣を召喚したりするんだ?
と問いかけてみる。返答によってはこれからの行動とか変わっちゃうね。
『そうねぇ…』
考えてるなー、という雰囲気は感じ取れる。
どういえばいいのか迷ってるっぽい。
正直にストレートに言ってくれれば勝手に解釈するから、そこまで悩む必要性ないと思うんだけどなぁ。
それに、俺と姫様はもう一心同体らしいし。離れられる算段が付くまではこのまま、ってことになるから隠し事や嘘はいらない。むしろさらけ出してくれた方が気がラクだ。
顔が見えたらもっと腹を割って話し合えそうなんだけど、どうやったらできるんだろう…?
スキル創造でそういった空間作れないかな。
…ぁ。
『どうしたのよ急に』
いきなりの閃きに立ち上がってしまった…。
これは…はやくも俺が自由の身になれる革新的な名案だ…
アニメ、ライトノベルでもちょこちょこ見聞きし、某オンゲでもストーリー上で出てきた…
その名は人造人間ッ!!
人造人間を俺が自分で作って、俺の身体として使えばいいんじゃないか!?
理想の身体を創造で作り、魂をそこへ移す。魔力容量は∞だし、好きな形で作り出せるから多分不満もないと思う。それにやり直しが利きそうだし…日本でも人型のモノに人の魂は乗り移りやすいっていうし。あくまで幽霊の話なんだけど。でも、できなくはなさそうじゃないか。我ながら天才的な閃きだ。
『そうね、できるかもしれない。』
だろ!!ってことはもう俺は創造でボディを作って…この世界から帰る方法を――
『でもまだ問題があるのよ。』
…なんだって?問題が――
『この国…いや世界にはそんな技術は存在しないわ』
ドヤ顔で言ってくれているんだろうけど…チートスキル持ってる俺には関係ないぜ。
スキル創造なら、MPさえ消費すれば大抵のモノは作れる。
鏡や椅子が作れて、武器でさえも生み出せたこのスキルならば俺の依り代ぐらいは制作できると自信を持って言える。望んだモノを生み出すスキル、まさにチート。しかも消費するはずのMPは底無しときたもんだ。
大した問題じゃねーな、と内心笑っていた時期が私にもありました。
というかその時期が只今先程だったわけです。
『人造人間なんてどこでも作れるわ。問題なのは魂の移動方法よ』
ええ、そうですよね人造人間ぐらいは魔法でどうとでもなる。
MP=魔力を消費すればなんでもできる魔法と剣の世界ですものね。
別に俺が特別じゃない…って訳でもないけど、さすがに作れるか。
問題はその器にどうやって人の魂を注ぎ込むか、だ。
コップだって水を入れるまではただのコップでしか無い訳で、コップであること自体に対して意味が無い。コップは水を飲むためにあるのだ、その水が飲まれないことには存在意義を示せない。
これには人造人間のボディにも言えることで、身体だけっていうのが問題だ。生み出せはしても、そのボディに憑依して操れらないことには意味が無くなる。そうなるとただの廃棄物を増やすだけの行為になってしまう。使えない案はただのゴミでしかない。
世の中そんな甘くできてないよな…。
『この世界では魂に対しての干渉はタブーだと大国が決めてしまったの』
絶句して、どこにあるかも分からない国を睨む。
まさか思わぬところから妨害があったとは…
きっとそのせいで魂に対しての研究がおろそかになっているのだろう。
俺の視線の先にはどこまでも青い空と呑気にゆっくり歩をすすめる雲が映る。
恨めしきかな、大国。
お前らのおかげでここにいる一般人、ではないかもしれないが、俺が大変困っているのだぞ。
権力を振りかざして好き勝手なことを言っているに違いない。
どの世界でも強大な力を手に入れた国は横暴を働き、ヨワい奴らに過酷な事を強いるのだ。
そして高い場所から低い場所にいるモノ共を嘲笑うんだ…
少し言い過ぎな気がしないわけでもないが。
『あなたが考えてること自体は間違っていないわ。でも魂への干渉は大きな危険が伴うのも事実だし…あの国が魂への干渉を制限したのも頷けるわ。といってもほぼ禁忌と化しているけれど』
それ干渉制限じゃねえよ…制限なんだけど。禁忌て…最悪だよ。
これだと手が出せないしなぁ。
勿論罰則とか付いてくるんだろう?ばれたらだけど。
『相当厳しい罰が下されるらしいわ。でも私は聞いたことも見たことも無いわね。』
相当厳しい、か…殺処分を超えるんかね。
拷問でいたぶりにいたぶって殺す…奴隷として売るって線も…
しかし見たことも聞いたことも無いってことは…。
罰則が行われたことが無いのか?
それとも行われはしたが、世間には秘匿されている事項なのか?
考えてもしょうがないことなのは分かるが、せっかくのいい案だったし…
大国に対して戦争を吹っかけて、さっさと潰しちゃうという案が一番早いかもしれない。
俺単体なら勝てるかも。
『まぁまぁ、落ち着いて。私に考えがあるって言ったでしょ』
そういえばそんなこと言っていたな。
これに代わる程の案なら聞いてやってもいいぞ、実行するかはまた別だけど。
別なんだけど代わりの案が無いから、姫様がこれから言う案はほぼ実行に移すと言ってもいいだろう。死なない限りは時間なんぞ、沢山ある。ゆっくりじっくり考えていけばいい。
『話が早くなって助かるわ。これから私と一緒に日々を送りましょう』
…ん?日々を送りましょう?
あぁ、魂について研究を一緒に行っていこう、という感じの考えかな。
確かにばれたら重罪かもしれないが、知られなければ罪でもないし、罰せられることもない。
こういう考えは日本にいたから、浮かばなかったな。
今は姫様の身体に憑依しているせいか、ドスグロい真っ黒なことが脳裏にちらちらと見え隠れして、様々なことを思いついてしまう。このままだと精神が姫様一色に汚染されかねないぞ。
一体どういう生活を過ごしてきたのかすごく気になる。
『じゃあ、これからよろしくね』