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戦闘

悪霊呼ばわりしてくる騎士を退治すべく、どうやって懲らしめるか考える。

懲らしめるというのも、どうやら姫様に対して恋愛感情をお持ちの様なので…

容姿が似ている俺がトラウマを植え付けちゃったらなんか罪悪感あるし。

それに別に殺す程の恨みを、この騎士に対して持っていないというのが懲らしめる方向で行く結果になった理由だ。

でも、相手は()る気満々なんだよね。

一体どうやって懲らしめるべきか。

心を折るのが一番なんだけど、下手をすればトラウマだ。

2度と戦場へ立てないかもしれない。

仮に戦場へ立てても、姫様のお姿をみるだけで震えが止まらなくなるかも…。

それは姫様に対して申し訳なくなるから、できない。

痛めつけるのは個人的にも嫌だしなあ。

自称平和主義者である俺。

考えるが名案が浮かばないのは事実。

そして時間は待ってくれないのも事実。

無情に歩みを続ける事実には現実さんも加担してくるのだ。


「姫様から離れろ悪霊めッ!!」

「俺は悪霊じゃないって、の、っよ」


実はさっきから騎士がひたすら攻撃を仕掛けてきている。

鋭い突き、斬りが怒涛の様に俺へ向けられ、全方向からの斬撃が飛んでくるが、全て紙一重で回避する。

先程の会話で獲得した《スキル:思考加速》のおかげで全ての攻撃の軌道が見えてしまっているからだ。

恐らく視界など脳へ届く情報全てに対して働くスキルなのかもしれない。

使用したのは初めてのハズなんだが、何故だかすでに馴染んでしまっていて、なかなか使い勝手が良い。

こういうスキルを持っていると冒険が楽しく思えてくる。

他者よりも圧倒的に有利であればある程、なお良くなる。

その点で言えば、俺のスキルは実に強い。

であるから正直、とっても楽しい。

口にはしないがな。


どうやって騎士を沈黙させられるか、余裕を持って考え込むことができるのもスキルがあってのことだ。

ひょいひょいとラクに躱し続けてはいるのだが、実際騎士自身の実力は相当のレベルには違いない。

どうして確信を持って言えるのか。

それはこれまでの騎士の言動と風格である。

客観的に見て取れる騎士の言動と風格、それらは何十年と染み付いで出来たモノであると、他者に思わせることができる。

それに、剣の扱い。

ぶっちゃけ素人である俺でも、剣の一振り一振りに迷いが無いのが分かる。

経験も豊富に違いない。深い意味は無いぞ、うん。


敵戦力の分析をしつつ、勝つための算段を考えている。

時折危ない軌道の攻撃は全て鎌を振り、弾き返している。

はてさて、どうしようか。


「真面目に戦え悪霊がッ!!」

「…貴様の土俵に上がるつもりはないぞ」

「っく…卑怯者め」


相手の体力は底無しか、と思わせる程攻防は続いている。

といっても時間にすれば1時間ぐらいかな。

時間的には結構長いんだけど、途中会話挟んでるからね。

でも騎士が俺に対して手は一切抜いていない。

それどころか時間が経つにつれて剣先が俺を掠めていくようになっている。

姫様を取り戻したい気持ちが強いのだろう。

強ければ強いだけ、面倒なのはわかりきってはいるのだが。


「どうする騎士、貴様では勝てんよ」

「…ッ」


なおも斬り込み続けてくる精神には賞賛しよう。

正直、1時間も攻撃が通らなければ諦める奴がほとんどだろう。

そして逃げるなり命乞いなり、何かをして戦闘を放棄する。

その判断は合っているし、合理的で賢いやり方だ。

何せ無駄であるから。

無駄な事をしても何も生まれない。

なのに労力と時間は失う。

無駄という行為は無産な癖に、何かを消費する。

なら、無駄な事を止めればいい。

でも騎士は止まれないんだろうなぁ。

何せ、姫様は世界に二人といない…ん、だから…?

い、いや似ているのはよくあることだ。

他人の空似(そらに)は頻繁に起きている。

良く分からないが、そうだ、そうなのだ。


しかし、体を掠めていく剣先にふと気づいたことがある。

俺には雷鎧(ライカイ)がある。

あと《スキル:自己再生》だ。

仮定であるが、多分騎士の攻撃を受け止めてもダメージは受けないと考えられる。

この雷鎧は、体全体を覆っている。

フル装甲である。頭のてっぺんから、爪先に至るまで、全身くまなく覆い隠されている。

であるから、当然手の平も雷鎧によって守られている。

こんなに体を鎧で覆っていたらさぞかし動きにくいんだろうかと思っていたら、そうでもなかった。

鎧自体が伸縮しているのだろうか、動きに合わせてくれるうえ、体が軽い。

見た目がよくて着心地もいい、さらに性能が良いとなればお値段が…ゴクリ。


さてさて。

自己再生もあることだし、適当に飛んできた斬撃を受けてみても大丈夫なのでは、と考えがそこで止まった。

避け続けても事態の解決には繋がらないし、一撃ぐらい…いいよね?

問いかけても返事が無いことだし!

いざ試しにと、胸を一突きする軌道に対して、鎌を持っていない左の手で掴んでみる。

視界でスローモーションに映る剣先を難なく確保。

最初掴んだときは血が出るかもしれないと、一瞬心配もしたが、杞憂だったようだ。

剣はガッチリ鎧に阻まれて肌に傷を付けることができず、また動きも止められた。


「…な!」

「まだやるのか?」


俺から剣を奪い返そうとしているのか、引いたり押したりしている。

しかしビクともしない。

騎士は驚きを隠せずに、焦っている。

色んな気持ちが彼を焦らせているんだろうなぁ。

騎士って大変な職だよね。

にしても、なんなんだこの鎧…。

鎧の守備力の高さに俺は驚きを隠せないぜ!

全体的な能力値を上げる事が可能なのかも…?

これも今後に生かす為、研究が必要だな。

一人で体を動かさず、ひたすら思考だけがブラック企業で働いているサラリーマンぐらいにせっせと稼働中だった時、ふと声が聞こえた気がした。


『…ぁ…ち…』


少女の、か細い声である。

少し顔を上げて周囲を見渡すが、木々と騎士(フェル)しかしない。

時々木々の後ろから顔を覗かせているのはこのフェルの連れの騎士たちだが、彼らはどうやら俺とフェルの戦いを見て、後退したようだ。

さすがは騎士のはしくれ、危機的状況というのは分かるみたいだ。

分からない愚か者には騎士は務まらん、ということでもあるがな。

しかし…声は一体どこから聞こえてきたのか…。

かなり近くから聞こえたような気がしたが…


『こ…、ここ…!』


ココ?人の名前か?

周囲をキョロキョロ見ても何もいない。

目の前には剣と、剣を未だに諦めていない騎士一人。

騎士たち以外には人はいないようだが。

でもなんだか次第に声が聞こえてきているような…

気のせいか?


『あんた!私はここよ!!聞こえないの!?』

「なんだ!?」

『やっと気づいたのね…このボンクラ…』


突然脳内に声が聞こえたと思ったら、罵倒ですか…


「誰ですか…?」


天使か、はたまた悪魔か。

別にどっちでもいいけどね。


「悪霊…さっきから誰に話しかけている?」

「騎士は黙ってろ、お前には関係ない」


ようやく剣の奪取を諦めた騎士が草原に転がっている。

額には大粒の汗が。相当苦労したんだろうね、ご苦労さん。


『あんた、何フェルいじめてんのよ!!殺すわよ!』

「…なんだこの声」

『なんだ、とは何よ!そもそもなんで私がこんな…ッ』


謎の声ははっきりと聞こえるようになった。

おかげで物凄く五月蠅いが。

声の出所はやはり脳内からの様である。

俺も遂におかしくなってしまったか…

薬なんて乱用したこともないのにッ!!


『何言ってんのか知らないけど、私の身体返しなさいよ!!』

「…なんだと?」

『だーかーらっ!あんたが勝手に使ってる私の身体、返しなさい!!命令よッ』


なんだか焦り気味に言ってくる謎の声。

ファンタジー的な展開で考えれば、どっかに小さな妖精が飛んでいるのかも。


『飛んでないわよ!私はあんたの中よ!!中にいるのッ』


実に五月蠅い。そもそも中ってなんだよ…


『あんたねぇ…私が召喚したのよ?』


…召喚?どういうことだ。


『召喚ってのはね…っあ…』


おい、どうした、早く言えよー。気になるじゃないか。


『…ごめん…これ、実は話しちゃいけないの』


機密事項だと…!?

しかし教えてもらわない限りにはなんとも…

ていうか声出さなくても会話できるのか。

テレパシー的な?


『教えるわけにはいかないわ。あと、これはテレパシーとかじゃないの』


少し上から目線の態度はイラッ、とくるな。

一部の紳士たちにはご褒美なのだろうけれど。

…ふむ、にしても、状況が全く分からん。

分かるのは騎士がもう戦えないことだけ。

いや、別に腕や足を潰したとかじゃないよ?

穏便に解決しただけで。


『そんなこと、どーでもいいわっ!』


どうでも良くない気がするが。


『それよりね、あんたは今私と繋がっているの』


なんだこの小娘(声だけだけど)、昼間からえっちぃな()だ。

一体どういう教育されてきたんだか…

この少女のご両親に一言申し上げたい。

…どういった教育をなされたか教えてください。


『ち…ッ、馬鹿っ、あほッ、そういう意味じゃないわよ!!』


やべー、赤面してる女の子が脳内に見える気がする。

俺、いつのまにか不治の病にかかっちゃったみたい…

不治の病かどうかは知らんけど。


じゃあなんだよ?繋がっているってそういうアレ的なアレじゃないのかよ。


と、謎の少女の声に対して返す。


『私はまだ処女よ!!…もう何を言わせるのよ…恥ずかしいじゃない』


処女は恥ずかしくないよ!ていうか勝手に自滅しただけじゃないか。

そもそもどこから処女に繋がったんだ?

俺は、そういうアレ的なアレじゃないのかよ、って言っただけなのに。


『…ぅ…、そ、そんなことよりね、話の続きをしましょう』


このまま話を続けたくもあるが…まぁここらへんで勘弁してやろう。

続きを聞かねば、もうこの状況を説明してくれる人が現れそうにないし。


『機密だけど、あなたはもう私の一部だから別にいいわよね』


なんだか自分に言い聞かせてるな。

これだけ渋るって事は、相当ヤバい奴かもしれない。

国にバレたら処刑、みたいな…ってなわけないかー。


『あら、良く知ってるわね』


…最悪ンゴ。

【悲報】俺氏訳が分からないうちに処刑される。

しかも国に機密情報保持の目的の為、殺されるという。

射殺刺殺窒息火あぶり爆殺餓死…

どれも嫌だ!!

せめて死に方ぐらいは選ばせてッ!!


『少し黙りなさい、どうやらあなたはイレギュラーのようね』


先程の変態少女とは違い、冷静な声になっている。

なんか大人っぽいわー。声音(こわね)は少女だけど。

にしてもいれぎゅらー?何が?性癖が?

確かに多少は自分でも意識し始めてるけど、こうもはっきり言われたら辛いよ。

しかも相手は女の子。

…ありがとうございますッ!!!


『召喚って言っても、いくつか種類があるのよ』


俺の話は無視するらしい。酷いなぁ。

自称豆腐メンタル気味の俺は精神に20,000のダメージを受けた。

あぁ…心が痛い…誰か…助けて…。

というのは冗談。

ぶっちゃけ誹謗中傷には慣れてる。

自分で言ってて悲しくなるけど、会話が進行するなら別にいいや。


『それで、私があんたを召喚した時に使ったのが――』












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