創造
幸い、俺たちがいる周辺は、木が円状に並んでいて、緑に囲まれている。
広さもそれなりにあって、テニスコート2個分はあるな。
だから、別に戦闘を行っても、動きに支障は出そうにない。
フェルとか呼ばれてた騎士が腰に差していた剣を抜く。
剣は西洋風である。
それもそうか、基本的に鎧とワンセットのモンだしな。
モ●ハンだったら、イイスキルを付けるために、結構装備組み合わせて使ってたりしたけど、見た目がダサかったりするから嫌なんだよな。騎士さんのその気持ち、わかるぜ。見た目は大事だもんな。
脳を働かせつつ、油断なくフェルと対峙していて、ふと気づいたことがある。
それは刀身に幾つか傷が見られることである。
相当使い込んでいるのか、慣れた手つきで扱っている。
それに、傷はあるが、キチんと手入れがしてある。
肉眼で見た限りだが、その証拠に、錆びや汚れが全くない。
初心者や武器に対して愛着を持たない奴じゃ、そこまで気が回らない。
あくまで俺の自論だがな。
まぁ、ただ年代物で、倉庫に眠っていたんだ、とかなら俺の神秘眼は曇っていたことになるだろうね。
愛用している装備なのかもしれない。そうだとかなり厄介である。
間合いも、剣の扱いもそれなりに上手いだろうなぁ…
周りの騎士たちが言う事が真実であれば、かなりの腕前であることが察せられる。
下手をすれば負けるかもしれない。と内心少しびくついてみたりしなかったり。
「姫様、レディーファーストですよ。お先にどうぞ」
「…ふぅん、いいのか?」
「えぇ、構いませんよ」
舐められたものだ。
人は見かけで判断してはいけないと、親から習わなかったのだろうか。
しかも、油断して先手を譲るとは。
いや、油断はしてはいないんだろうな。
何せ、はっきりと真剣な気持ちが伝わってくる。
なぜかは知らんがな。
しかし、もうレディー云々で突っ込みなど入れてたまるものか。
確かに、俺がゲーム内で使用していたキャラクターの見た目は、どちらかといえば女子っぽかった。身長は低かったし、肌の色は白く、髪と瞳の色は淡い水色で、肩まで髪を伸ばしていてジト目。着用していたアバターはロングコートと短パンである。口を開くまでは少女と見間違えてもしょうがないと思う。
何故こんな見た目になったかといえば、可愛いを追及した結果である。
性別は男で、如何に可愛くできるか。
そんなコンセプトを元にキャラクターを制作したため、こんな性別を間違われるという末路へ至った訳だ。
しかしまぁ、これは、あれだな。
きっと奴らの戦略的な何かだ。
精神的に追い詰めるとか、気を散らせるとか、そんな感じ。
だからもう構わんことにする。戦闘に集中しよう。
騎士は剣を上段に構えてこちらを見据えている。
全く動こうとしない。
んー、言葉通り…本当に先攻は譲ってくれるらしい。
優しいんだか、馬鹿なんだか…
どうせ待ってくれるんだから、この際大技を使いたいな。
あ、そういえば…ステータス変わってたけど、スキルどうなってんだろ…
今更気づくとは…戦闘始まっちゃってるのに。
俺としたことが、やってしまった。
ステータスは確認したのに、スキルの確認は見落とすとかありえねぇ…
スキル分からんのに戦えるわかないじゃないか!
素人でもこんなミス、なかなかしないぞ!
優しい騎士に向かって、上目遣い+ネコナデ声で言ってみる。
「…ごめん、ちょっと時間貰える…?」
ついでに首を傾げてみたり。
可愛さをフルパワーに活用し、戦術的な何かをする。
色気は女の武器なのだよ。
男の俺が言うんだ、間違いない。
さて、どんな答えが返ってくるのやら。
/////(フェル視点)
現在姫様にお灸を据えるために1対1の対決を申し込んだフェルである。
私はこの国、マラカイトの騎士であり、また姫様の護衛を務めている。
護衛と言っても、私は幼少期の頃から姫様の面倒をみていて、妹の様に可愛がっていた。
その姫様は負けず嫌いで、いつも自由奔放で、勉強や習い事をしている途中でも、一瞬目を離せばどこかへ行ってしまう問題児だった。
以前は、勉強や習い事の途中でいなくなってしまっても、城内で見つけることができた。
そしていつも決まって図書室に籠って、お気にいりの絵本を読んでいる。
姫様は良く言えば好奇心旺盛で、活発かつ元気。悪く言えば落ち着きがない女の子だ。
それでも私から見れば可愛く、また愛おしい姫様である。
しかし、ある日を境に、ある問題行為を幾多と繰り返している。
それは城を抜け出し、お外へ行かれる事だ。
外は基本的に魔物や盗賊がうろついていて、とても危険なのだ。
いなくなるたび、我々は肝を冷やされる。
十数年前ならのどかな草原が広がり、花も多く咲き誇り、とても綺麗だったのだが。
だが、ここ最近は魔物や盗賊が溢れ、美しかった草原は無くなった。
これは世が戦乱に巻き込まれていることから影響が出ていると噂されている。
だがこんなことは今は関係ない。
問題なのは姫様の抜け出す頻度である。
最初は昼頃にのみ抜け出しをされていたが、今では昼夜問わずになってしまった。
何がそれほど姫様を駆り立てるのか。
今は抜け出されても、城で飼っている灰狼や気配察知魔法で対処することができているが、この先エスカレートすれば、もう我々の手には負えなくなってしまう。
そうなる前に、私がなんとかしなくてはならない…!
きっと姫様の身に何かあったのは間違いないのだが、その現場に誰一人として立ち会っておらず、姫様に影響を与えた何かは、だれにも分からなかった。
姫様に聞いても、答えては下さらなかった…。
昔からそういった問題行為を行っていた訳では決してないのだ。
周りの使用人や騎士は手のかかる我儘娘だと考えているが、本当の姫様は私が一番よく知っているつもりだ。
正直、私は悔しい。姫様の護衛を任されている私が、一番近くにいたはずなのに…
この胸に引っかかるモヤはなんなのだろうか…
特に何をするわけでもなく、ただ私を見つめている姫様。
彼女は何を見つめて、何を考えているのだろうか。
幼く、小さかった姫様も、もう8歳になった。
あと2年もすれば夫を迎え、どこの馬とも知れない王と結婚させられる…
国のためだとは、私も分かる。
しかし…し、かし…
…これ以上考えるのは止めよう。
思考を振り払い、気を引き締める。
剣を持ち直し、姫様の出方をうかがっていると、
「ごめん、ちょっと時間貰える…?」
…なんだあの可愛らしさの塊は。
長年世話をしていた私でさえ、一瞬見惚れてしまった。
仕草、言葉共にこの世の何事も覆すことのできない、愛らしさ。
…ああ、実に、実に…
おおっと、いかんな。騎士である私がしっかりせねば。
「はい、構いませんよ」
「ありがとう!じゃあ」
笑顔が眩しすぎる。姫様の背後から光が見えるほどだ。
内心で姫様を褒め称えつつも、決して表へは出さない。
騎士としてのプライドがどうしても邪魔をする。
しかし、今はそれでいいのだ。
姫様のお傍にいられるのなら、この命など惜しみなく捧げる覚悟。
姫様が笑って、過ごせるなら。
/////
スキル確認をしなかった愚か者、巧です。
なんとか騎士さんから無事、確認する時間を得ることができました!
貴重な時間は無駄にしないがモットー。
さっそく先程のステータスを見たときと同じように、スキルと念じてみる。
緊張と期待で胸を高鳴らせ、いざスキルを見てみる。
さてさて、どんな感じになってるかなぁ?
―――
能力:創造
効果:自身で能力、スキルを作り出せる。威力や効果はMPに依存する。なお、スキル名は自動的に名づけられる。
スキル:
―――
…おいコラ、待てよ。
スキル欄が空っぽ?
level 500でスキル無しとかクソゲー確定じゃんよ…
スキル無しとかサービス終了待ったなし…。
武器無しでモンスターと戦うもんじゃん?
勝てるわけねえよ!
……いや、まだ諦めちゃだめだ!
能力にまだ説明があるぞ!
…ふむ、自分で作り出す…
どういう意味…?
創造って…え?
しばし手を顎に当てて考える。
作れるんだったら、今ここでもスキル生み出せるんじゃないのか。
上手くいけばこの危機的な崖っぷちから脱却も夢じゃないぞ。
…よぉし、試しに帯電を使って(作って)みるか。
某オンゲの錬金術師のスキルの一つ。
俺が結構愛用してたスキル。
名前のまんま、雷を纏う訳であるが。
それなりに耐久性あるし、使い勝手が良かったのが気に入った理由だ。
あと見た目悪くなかったのもある。中二ぽかったのはしょうがないことだ。
目を瞑り、意識を集中させ、イメージを作る。
体を、皮膚を覆う鎧のような、力強く、攻撃を通さない雷。
《スキル:雷鎧を習得しました》
脳内でどこかで聞いたことがある声が流れた。
…って、家のシステムのやつやん…
でもなんでこいつの声が?
懐かしみと疑問を感じ、目を開けると。
「ひ、姫様、それは一体…!?」
なんか視界にバチバチ閃光が走ってた。
「え、何これ?!」
「いつの間にそんなスキルを会得していたのですか!?」
「…す、すごいぞ」
「まさか我々に極秘裏で練習なされていたのでは」
「なるほど。外出もきっとそういうことでしたか」
なんか勝手に納得されてるけど、俺は困惑するばかりだ。
赤色と黄色と青色、緑色の閃光がランダムで体の周辺を舞っている。
イメージした物と違う気がする。
俺がイメージしたのはもっと、こう…軽い感じなんだけど。
コート羽織るぐらいの気持ち。
ほんのちょっと体カバーできたらなー、みたいな。
某オンゲでも静電気みたいなのを纏ってたし。
それが…いまや…
視界が若干薄暗いから頭に手を伸ばすと、なんかヘルメットみたいになってる。
んで、手にも違和感覚えたから、恐る恐る見てみる。
手を目の前にかざすと、小手がバチバチと雷を纏っている。
「なんなのこれええええ!?」
ピカ●ュウがボルテ●カーするレベルで全身バチバチ言ってるんだけど!?
でもなんか不思議と何も感じない。
体を見下ろすと、小手と同じような感じだった。
ていうか周辺舞ってた様に見えた赤色と黄色と青色、緑色の閃光ってこの鎧から漏れ出た雷だった…綺麗なんだけど危なそう。
感想を言わせてもらえば、凄かった。
性能は知らないけど、かっこいいし。
でもなぁ…目立つなこれ。
昼間とかならまだ、使えるけど。
暗いとことか、隠れる際には敵に場所知らせちゃうだけだし…
防御面は信頼できるかもしんないが。
夜とか絶対使わないでおこう。
「そんな奥の手があったとは…姫様…」
「我々は認識を改めなければいけないようですな」
「立派になられて…」
騎士さんなんか感動してる!?
中には涙してる人もいるよ…
俺の考え間違ってたんじゃないのか?
さっきからおかしなことばかり起こってるし。
…あ、ネットで似たような事をみたことあるぞ。
事故死して異世界に飛ばされるとかいう物語。
いやぁ、まさか、ね?
実はここはどこかの異世界で…
俺は死んじゃってたりなぁんて。
「姫様が本気になられて、私は嬉しいです!」
「え」
「であるならば!私も全力でお相手を致しますッ」
なんか闘志メラメラな騎士さんが。
名前は確か、フェルさんだっけか…
気のせいか立っている地面にヒビが入ってる様な。
しかもなんか大気が揺れてる。
「おお、フェルの本気だぞ!」
「滅多にお目に掛かれないのに…」
「いい勝負になりそうだな」
相当ヤバイっぽいですねこれ。