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思い出

 暇つぶしに始めた侵入者探しだが、67個目で早くも飽きてきた。

 そこそこ大きい国だけあって使用人の数も半端ない。


『…これで4割ぐらいか』


 あまりに面倒な作業であることに今更気づく。

 初めはなんとかなるだろうと思って始めた事だが、骨が折れる。

 霊体だから骨とかいう概念は無いが。


 落ち込む気分に対して、首を左右に振って対処する。

 気を取り直して作業を続行しようとマップを見たとき。


「いたぞ!!」

「そこのお前っ」

「侵入者2発見、これより――」


 外から騒々しい声が聞こえてくる。

 城内にまで聞こえるなんて相当な声量だな。

 これは安眠妨害とかいう名目で後々騎士が縛り上げられそうだ。

 俺の知ったことではないけれど。


 廊下の左側にある窓から庭を覗く。

 月明かりが照らす中で騎士と思しき連中8人と…


『なんだアレ』


 騎士に追われる形で前を走っている二人がいた。

 月光を浴びて綺麗な銀色を晒している鎧。

 さらにその鎧の右側に一緒に走っている…少年か?

 ここからじゃ見にくくてしょうがない。


 時折少年?が後ろを振り向いて騎士たちに何かつぶやいているように見える。

 その後騎士たちはさらに怒声をあげる。

 …煽っているんだろう、なんてマセた子どもだ。

 大人をからかってもいい事なんてないのに。

 ただの阿呆なのか、それとも実力に自信があるのか。

 どちらにせよ馬鹿だな、なんて思ってしまう。

 能ある鷹は爪を隠すなんていうし。

 わざわざ自らバラす意味なんぞ無い。


 一人物思いに少し耽った後、怒声の上がる方へ向かう。

 もちろん壁はすり抜けて、だ。


 空中をふわふわと飛んで騒音の源へと近づく。

 ふわふわと言ってもそこそこ速度が出ているらしく、あっという間に追いついてしまった。

 今は追いかけっこをしている真上に浮遊して、事を見守っている。

 いや、別に手を出してもいいが…

 なんというか、こういう類は手を出してもロクな事がないからな。

 触らぬ神に祟りなし、うん。

 まあ俺が神に近い存在なんだけど…


 広い庭で10人は追いかけっこをしている。

 綺麗な芝生を踏みしめ、両者は駆ける。

 進行方向を大蛇のようにクネクネと行ったり、時にはUターンしたりと多岐にわたる戦術で攪乱しつつ、追いかけっこは終わる気配を見せない。

 それをただ俺は真上からひたすら見ている。

 ひたすら。

 ただひたすらに。

 じーっと見守り続けて…。

 欠伸を噛み殺して、落ちそうになっている目蓋を半眼で食い止めながら…


『って、さすがになげえよ』


 終わりを見たいのにさ。

 なんで捕まえられないのかが不思議になる程に。

 なんなの?

 騎士たちヘッポコなの?

 ポンコツ?

 ポンコツだったわけ?

 なーんて、考えさせてくれる程に。


 騎士たちへの感想はここまでにして、観察して気づいたことがある。

 逃亡中の2名。

 まず鎧だ。

 背は180cmぐらいかな。

 目測でだけど。

 コイツはずっと同じ動作を繰り返している。

 どういうことかというと、足の振り上げ方、手の振り方。

 上半身、下半身の動きなどだ。

 それが変わらず同じ動作でサイクルを続けられている。

 普通、ここで体力が尽きても不思議ではない。

 何せ鎧だ、相当重い。

 しかも、見たところあの鎧、ガチ戦用だと見える。

 だとすると、尚更…。

 騎士たちは城を護衛する程度で良いため、簡易装備だ。

 鎧と騎士たちを比べるなら、まさに本物と玩具ぐらいに差はある。

 何を言いたいのかと言えば、あの鎧の中身が非常に気になるのだ。

 相当体力もあるみたいだし、何より一切乱れが無い動作には賞賛を与えたくなるほどである。

 まぁ、そんなこと今はどうでもいいか。


 次に少年。

 彼は鎧などの装備は特に見当たらなく、特に述べる点は無い。

 ただ身長が低いな。

 鎧の腹ぐらいのところに頭がある。

 …ほんと述べる点が少ないな。

服装は町の住民と対して変わらないし。


「何の騒ぎよ…」


 相も変わらず続けられている馬鹿騒ぎに収集が付かず、就寝中だった人たちが眠い身体を起こして出てくる。

 城の窓、庭に人が溢れつつある。

 沢山いる野次馬の中にルナの姿も見受けられた。

 城の2回の窓辺にいた。

 なんだなんだ、と人々が見つめる中でまだ侵入者は走り回っている。


「何あの子」

「それより、あの鎧…」

「騎士たちは何をしているのだ」


 可哀そうな騎士たち。

 これで明日から無能の烙印を押されることになるだろう。


 イタチごっこを見飽きた俺はルナに憑依する。

 別に浮いたまま見てても良かったが、面白みが無かったからな。

 やはり物理的な肉体が合った方が良い。


「いないと思ったらここにいたのね」

『あぁ』


 気のない返事をしながらルナの眼を通して事を見守る。

 今肉体の主導権はルナにあるため、好きに視界を動かすことができない。

 だけど別に見飽きた物をまた改めて見ようとは思えない。

 食べ飽きた物はまた次でいいや、という考えと一緒だ。


 窓ガラスの向かい側の庭を頬杖をついて見守る中、侵入者の逃亡はいきなり終わりを告げる。

 騎士の一人が走るのを止めて呪文を唱え始めたのだ。

 片手をあげ、何か言葉を呟いている。

 すると手のひらに黄色の光が集まり、だんだん強くなっていく。


「あれは…雷系統かしら?」

『ふむ』


 雷系統…ね。

 色が黄色だから雷、っていう理屈かな。

 だったら赤色が炎になるんだろうな。

 単純で分かりやすくて助かるわ。


「…もしかしてわからないの?」


 適当な相槌を返したせいか、はたまた憑依しているせいか見抜かれてしまった。

 こういう鋭いところは苦手だ。

 女っていう生き物は皆そう…

 脱線したな。

 正直な話をすれば、もしかしてもっていうかわからない。

 体験や知識が無いのだ。

 知らない物は知らない、初めてのモノは初めてなのだ。

 暫く気まずい間が空く。

 それに耐えかねて質問へ返答を投げる。


『俺にはわからん』

「なんでよ?」

『なんでって…』


 俺は呪文を使ったことが無い。

 使ったことも見たことも無い。

 よって全く分からない!

 完全なる初見である。


『うむ、しょうがない』

「なにがしょうがないのよ…」


 呆れた声で返される。

 いやしかし…わからない物は分からないのだ。

 しょうがあるまい。


 ルナがまた何か言いかけたところで、騎士が手のひらに集まった光を侵入者へ向けて放つ。

 バスケットボールサイズの光の球が4,5個飛出し、物凄いスピードで飛んでいく。

 光の球は侵入者に直撃し、爆炎と閃光を上げる。


 それなりに離れているはずなのに呪文の衝撃で窓が揺れ、城も少し揺らいだ。

 まあポンコツでも一般人よりかは強いのだろう。


「…まぁそうよね」

『直撃したが…大丈夫か?』


 普通の人間なら、普通に大ダメージを受けているだろう。

 何せ土煙をあげている隙間からクレーターらしき痕跡を見たからだ。

 規模は…トラック2個分ぐらいかな。


 威力は申し分ない。

 これが当たったなら…

 グロい話になるが…腕がもげたり、内臓を…

 取り敢えず、辺り一面血塗れ間違い無し。


 まぁ大袈裟には言ったが、少なくとも軽傷では済まないだろう。

 ただの人間ならば…の話しであるが。


「分かってて言ってるでしょ」

『なんのことかな』

「…ったく」


 そう、分かっていた。

 彼らは人間ではない。

 異種族で、且つルナと同じ存在。


「どうしてここに『剛の者』が…」


 ルナの声が少し震えているのは気のせいではないだろう。

 『剛の者』、それは幻獣を従えている者の総称。

 規格外の強さから『剛の者』なんて勇ましいあだ名が付いたんだろうが…

 そうなると彼らの目的はなんだ?

 ルナへの決闘?

 それともこの国を陥落させるために?

 たった一個人で大国の一つや二つは落とせる勢力だ。

 きまぐれで他国を襲うなんて容易い。

 過去にも似た事例はあっただろうし。

 考える程度の知能がある生き物がすることなんて赤子でもわかる。

 それに、だ。

 幻獣なんて核兵器を上回る敵なんざ相手にして勝てる訳が無い、という確証のソースは俺。

 能力値がチート、覚えている『創造』はもはや壊れキャラの更に上を逝っていること間違いなし。

 この世界で認められている、いわゆる公式チートキャラである。

 自他が認めるクソキャラナンバーワンであろう。


『もしかしたらルナに告白しに来たのかもしれんな』


 冗談混じりにルナへと言う。

 返事は返って来なかったが、視線は一点を見つめている。

 土煙が晴れて、クレータの中心に立つ者達が姿を現す。

 ルナの視界を介してみる彼らはどこか楽しげな表情をしていた。

 果敢に、獰猛に…

 しかし…ルナは一体何を想っているのだろうか?

 畏怖?興味?

 それとも敵意か?


 どれもかれも考えても分からない。

 ルナに憑依しているとはいえ感情までは読み取れないのがなんとも。


「っあ」


 ルナの声で我に返る。

 体感で数秒思考の波に襲われていたが…

 いつの間にか騎士団は全員地面に倒れていた。

 ゲームで言うところの、床ペロ状態である。


『何があったんだ…?』

「…見てなかったの?」

『す、すまない』


 なんだが物凄く低い、ドスの訊いた声で言われたんだが?

 俺、悪いことしたのか?

 あたかも『なぜ大事な場面を見逃したのか?』とでも言わんばかりに。

 何が悪いかは分からないが、取り敢えず謝っておく。

 今後の互いの信頼関係のためだ。

 そう、決してルナが怖いとかそんなのはないのだ。


『それで何があったかお―』


 『―しえてくれ』と続けようとしたところを、ルナの視点変更で中断させられる。

 いきなり風景がぐるりと回り、例えようのない気持ち悪さが襲う

 近い例えで言うならばめまいがコレに近いかもしれない。

 実際はただルナが窓辺から右へ受け身を取っただけなんだけどね。


『っぐぅ』


 咄嗟に避けたために反動を殺し切れず壁にぶつかる。

 そして受け身を取った直後、ヒュインと鋭い音が聞こえ強烈な振動と爆裂に見舞われ、さきほどまで立っていた場所が吹き飛ぶ。

 壁の細かい石のような物と暴風がルナを包む。


「…なんでこうなるのよ」


 ぱらぱらと破片が落ち、埃が舞う。

 破壊された壁をうつ伏せで睨みながらぽつりと零した言葉に、ルナが何かしら知っている…と思う。

 ほとんど直感による推測でしかないが。


「やぁ~久しぶりだね、ルナ♪」


 いつからそこにいたのか、埃が舞っている中にシルエットが見えた。

 そう、あの侵入者の。


---


「やぁ~久しぶりだね、ルナ♪」


 侵入者は輝かしいと言っても差支えが無い程いい表情をしている。

 正直気持ち悪い。

 こんな気持ちになるのは久しく、あの頃を嫌でも思い出させられる。

 まさにヘドが出ると形容してしまう程に。


「今酷いこと思ったよね?ねぇ?!」

「別に…」

「いやいやいや絶対思ったよ!」

「五月蠅い」

「…」


 ルナは容赦なく切り捨てる。

 こんな奴と話しているぐらいならつまらない授業を永遠と聞いてる方がマシだ。

 

「ねぇねぇー」


 執拗に話しかけてくる奴を無視し、くるりと背を向ける。

 破壊された壁の破片がいたるところに落ちているが気にはしない。

 すると、雰囲気が変化する。


「君の為に…僕は変わったんだよ?」


 顔を背けるときにちらりと表情が見えたが、見るに堪えないもの。

 特別な感情を向けられているのは分かっている。

 しかし、分かっているからこそ…嫌になる。


 まだ諦めずに話しかけてくる源に対して、もう昔のような感情は無かった。

 あまりにも月日がたち過ぎていたのだ。


「約束…守ったのに…君はっ」


 悲痛な声は少しずつ遠ざかっていく。

 興味は失せ、ルナは歩みを進める足を止めない。

 今更…何をするというのだ。


『なあ、あいつ』


 幻獣が話しかけてくるが今は答えられない。

 答えれば言葉が、貯め込んできたモノがあふれだしてしまう。

 だからこの場は何もかも無視して進む。

 あとできっとあいつは暴れる。

 予想しなくても簡単なことだ。

 何せ周りの空気がぴりぴりとし、殺気に満ち始めているから。

 この雰囲気も久々に感じる。


 戦場の空気

 

 大切なものを守れず失った、あの時。

 でも今は違う。

 絶対的な力を手に入れたから。


 少し落ち着いてからあの子の相手をしてあげよう。

 剛の者、アウシ・ロウ…

 

 


 

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