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聞こえなくなった声

「随分と遅かったわね」


 蝋燭を灯して本を読んでいたらしく、俺が扉から入った途端に顔をあげた。

 なぜだか不機嫌気味である。

 顔は蝋燭でいまいち見ずらいので、雰囲気で判断をした。


『なんだ?俺に用でもあったかのか』


 不機嫌になる要素と言えば、用事があったのに居なかったか、何か相手の気に障ることをしたか…

 それぐらいしか俺には考えが浮かばない。

 前科はあるとはいえ、それを引きずる様な奴ではないし。

 ルナは多分違うはず。

 しかし…女の多くはかなり根に持つとも言うし…。


「なんでもないわ」

『本当か?』

「…なんでもないって言ってるの」


 んー…、不機嫌さの中に悲しみも混じっている気がする。

 あくまで雰囲気から読み取っただけなんだけど。


『何か相談事があれば、聞くぞ』

「なんでそうなるのよ」


 はあ、とため息を吐きながらバタンと本を閉じるルナ。

 少し肩を回してからこちらを見つめる。

 その意味ありげな視線は…


 ほほぉ、なるほど。


 ルナも悩み事が多い年頃だろう。

 きっとそのことで情緒不安定なのかもしれない。

 彼氏ができた、できてないでお父さんと揉めた可能性も否めない。

 もしくは、いわゆる女性的な(内面的な物ではなく)部分の成長を気にしているのかな。


 ともかく、多くの問題が立ち上がるのだ。

 俺もいろいろやらかした時期であり、駆け抜けた青春の1ページである。

 分からなくもないぞ、その悩み。

 何を抱えてるかは知らぬが。


「…何を思ってるのか『分からないけど』、間違っているわ」

『分からないのに、なぜ間違っていると言えるんだ』

「あなたの表情がおかしいからよ」

『なっ…失礼な』

「ふんッ」

『おい、謝罪を求めるぞ!』


 むむー。

 年頃とは言え、さすがに口が汚い。


『俺はそんな娘に育てた覚えは!』

「…育てられた覚えがないんだけど?」


 呆れたと言わんばかりのため息はスルーする。

 このままでは悪い子に育ってしまう。

 正さねば、と口を開こうとしたとき、ルナが一言放つ。


「私、あなたの心の声が聞こえなくなったの」




 本来、心の声なんて常時聞かれていたら困る。

 何せお盛んな男子高校生だからだ。

 ナニかまでは言わないが、男子高校生でなくとも、心を除かれるのは困る。

 人は誰しも秘密にしていること、考えていること、想っていることがあるのだ。

 だから、神様は他の人には聞こえない、覗けない『心』の設定したのかもしれない。

 よって、元々心が聞こえないのが普通、っていうのが世の常になっている。


「私、あなたの心の声が聞こえなくなったの」


 だけど、この世界に来てからずっとルナと会話していた俺には驚きだった。


「なぜ聞こえなくなったかはわからないけれど…あなた何かしらない?」

『…いつから聞こえなくなっていたのだ』

「最初、この部屋から出る時だった、かな」

『ほー…』

「意思の疎通はある程度距離が離れるとできなくなっちゃうみたいだし…」


 そういえば、なぜかルナは口で会話してきた。

 心の中でやりとりできるにもかかわらず、だ。

 最初、咄嗟に口に出てきてしまったのだと思っていたが…

 そうか、話せなかったから口頭で言った、のか。


「初めは違和感を感じていたんだけど…」

『それで、今に至るのか』

「ええ、そうよ」


 ということは、ルナと一緒にここを出る前に何か…

 何かあった、のだろう。


「それで、何かなかったの?」

『何か、とはなんだ』

「どこか散歩でも言ったの、と言ってるの」

『行っていない』

「なら床に寝ていたのは何故なのかしら」

『…覚えてない』

「よっぽどのことがないと床になんて寝られないはずなのだけど…」


 ふむぅー。と少し考える素振りを見せ後。


「ただの馬鹿だったのね」

『馬、鹿…』

「それとも、ただの変態マゾだったの?」

『誰が変態だッ!』


 実に心外である。

 俺がそんな性癖を持ち合わせているはずがなかろうて。

 それに俺は馬鹿ではない。はずだ。


 っと、んん?


 ――いや、待てよ。


「あなたのことを言ってるの」

『待て』

「…思い出したの?」


 どうやら真剣な雰囲気を察してくれたのか、ふざけるのをやめたルナ。

 助かるのだがこの恨み、必ずや返してくれる。

 覚えてろよ。


『夢、だったのかもしれないが』

「なんでもいいわ、話して」

『ああ、わかっている』





 そのあと俺はぼんやりしていた記憶に、絶対記憶のスキルを使用した。

 このスキル、記憶に関することならなんでも操作できるらしく。

 俺が忘れていたことを思い出させてくれた。

 忘れたと言っても、ぼんやりしていたことを明確にさせただけだ。


『――と、言うことだ』

「…お母様に会ったのね」

『まあ、そうなるの、か?』


 見た目ちっさかったけど、やっぱりお母さんだったのか。

 出会った場所が王の間と似ていたからな。

 まさか、とは思っていたんだけど。


「…」

『どうした?』


 無言で俯くルナ。

 前髪が垂れて表情がうかがえない。

 それに、蝋燭が消えかかっていて暗くなっているせいもある。


『んー』


 腕を組んでルナをチラリと覗き見る。

 柔らかく、高そうなベットの上に腰かけているが…

 けしてベットのせいではない。

 なんだか肩が震えているような?


 腕を解いて少し近づいていく。


『おい』


 声を掛けても返事が返って来ない。

 おや、と思ってもう一度。


『なあ』


 しかし、声は虚しくもルナには届かなかったらしい。

 ベットに腰かけたまま小刻みに震え続けている。

 仕方がないので、手が届く範囲まで近づく。

 


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