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霊体での散策

 やることもないので、ルナの部屋から出て散策を開始する。

 物理的な肉体を持ってないから、扉は開けずにそのまま通過し、廊下へ。

 

『壁の中を行き来もできそうだな』


 実際ルナの部屋の壁に全身(頭を除く)入ってみたが、なんともなかった。

 しかし、あまり奥に進み過ぎると方向感覚が狂い、閉じ込められる可能性がある。

 だからこれからは自重しなくてはならない。


 何を自重する、だって?

 もちろん壁へ突っ込むことだ。

 確かに通り抜けは便利ではある。

 だがあまりにやりすぎると永遠と壁の中を彷徨う羽目になってしまう。

 

 …そうなれば地獄だ、それも永遠の生き地獄。


 この世界の常識、というか姫様が蓄えていた知識を記憶閲覧で見た際に得たんだが…

 どうも魔力が尽きない限りは死にはしないらしい。

 もちろん肉体が欠損すれば話は大きく変わってくるがな。


 そして、だ。


 魔力は精神とも深い繋がりがあるらしく、魔力が極度に下がれば精神に異常をきたすらしい。

 魔力が無限=精神がずぶとい、ということになる。

 この世界に来て、こうも早く順応したのも、恐らくこの法則が当てはまることと思う。


 魔力量が無限な俺にとっては、死にもしないし精神的におかしくなることもない。

 不死身に近い状態にはなるだろう。

 しかし…

 何の娯楽も無しに彷徨い続けるだけの人生など嫌だ。

 

 それも壁の中、真っ暗な闇だけが支配する中で。

 死ねるならまだ良い。

 死ねずに彷徨い続けるのだ…

 自殺も許されず、ただ無を貪る感覚など経験したくはない。


 どれだけの苦痛になるだろうか。

 考えるだけでもゾっとするし、試そうとは思わない。

 そういう実験をするのはマッドサイエンテイストの人たちに任せる。

 適材適所というやつだな。


 早いうちに気が付けて良かったぜ。

 こういう知識はどんどんつけていかなければ、生きて抜いては行けないだろう。

 下手をすれば自爆しかねないからな、無知は罪なりだ。


 そう思いつつ、ふわふわと高そうな赤い絨毯(じゅうたん)が敷いてある廊下を浮遊する。

 部屋から出て取り敢えずへ右に曲がり、直線上に進む。

 

 進む方向に理由などはないが、しいて言うならルナの部屋を出れば目前に窓があり、庭や町を一望できる。

 つまり、進行方向は部屋を出て右か左、この2択だけだったわけである。

 初めての場所なので、こういうタイプは非常に助かる。

 単純で分かりやすいのは好きだ。

 

 …助かるのだが、元より城の規模がデカいのでプラスマイナスゼロと言っても良い。

 ま、城というのは侵入した敵を阻む役割を担っているからしょうがないとも言えるが。


 そのせいで道に迷っているのが今の状況な訳で。

 似たような風景が何度も続くうちに、「最初は見たことがあるな」程度だった。

 さらに言えば、「まだ数分と経ってないし…」という心の緩みが生み出した結果である。

 でも今は、馬鹿でも分かるように、完璧に迷っていた。


 …過去の自分を殴ってやりたいよ。


『ここ、どこだよ…』


 気づけば王の間の前にいた。

 王の間といっても、似たような場所であったが。


 なぜそう言い切れるのか、それはルナが王様と話す直前の廊下を見た場面だ。

 この王の間の廊下には、花瓶も絵画も置いてはいない。

 それに、雰囲気が柔らかい気がする。

 あくまで勘だがな。


『やることもないし、お邪魔するぞ』


 扉は透けて通れるので、開けずに中へ入るとする。

 不法侵入とかその他諸々の法律は関係ないだろう。

 何せ異世界だし…

 それに俺は幻獣という設定だ。

 礼儀などいらんだろう。


「あらら?珍しいお客さんね」

『…誰に言っているんだ』


 扉をすり抜けて出た場所は、王の間と酷似していた。

玉座、部屋の明るさの加減。

 装飾品にいたるまで、ほぼ一緒と言っていい。


 ただ4隅の護衛と玉座に頬杖を付き、足を組んで座っている女を除けば。



「貴方に決まっているでしょう?」

『…』


 こちらを見据えている女。

 髪、瞳、肌色…それらがルナと全く寸分違わない。

 言動と身長、纏う雰囲気は違うが、これがルナの母親じゃなければ、姉と言われても疑わないだろう。


「聞こえていないのかしら、幻・獣・さ・ん?」

『…なぜ俺が見えるんだ』

「あらら…ルナにも見えるんだから、私にも見えるわ」


 おかしなことを言うのね、と零し、上品にクスクスと笑っているこの女性。


 実に興味をそそられる。

 見つめてくる瞳、言葉を発する口元、それに頬に添えられている細く綺麗な指先。

 あどけなさが残る雰囲気の中に、艶美なモノがある…

 それは甘い蜜に似た何か、だろう。


 以前の俺ならば、そそくさとこの場から撤退したかもしれない。

 そもそも異世界にいると考えること自体、馬鹿馬鹿しいとすら思っていたに違いない。

 だけど、魔力のせいで精神的な面はかなり強くなっているらしい。

 それもおかしな方向へ。


『ルナの母親だな?』

「ええ、そうね」

『なぜそれほど楽しそうに話す?』


 笑顔を絶やさず、弾んだ声で受け答えをする彼女には興味が絶えず湧き上がってくる。


「質問ばかりねぇ…」


 拗ねた様に頬を少し膨らませる動作なんて、年端もいかぬ少女を彷彿とさせる。

 愛らしく、されど魅力的な彼女…

 本当に何者なのだろうか。

 ルナの母親ということは分かった。

 でも、明らかに不可思議な点がある。


「もっと楽しい事を話しましょ」


 こちらの考えは対して気にしてないらしい。

 本当に楽しい事を聞きたく、話したくてしょうがないといった感じだ。

 歳というものを感じさせない…

 でも、本当は…


『疑問を解決してからでは…』

「だめね」

『最後まで言わせてほしいんだが?』

「私が許すとでも思っての発言かしら」


 うふふ、と楽しげに玉座に座ってはいるが…

 しんどいな。

 それに面倒な相手だとも言える。

 

「私は今、とても暇なの」

『…』

「だからね?貴方は私の相手をする義務が生まれるの」

『なんとも自己中心的な発言だな』


 はっきり言って、可愛く妖艶なだけあって、タチが悪い。

 そして正体を掴ませないような、あの笑顔。

 時折見せる首を傾げる仕草には苛立ちを覚えるが、客観的見れば可愛い部類に入るんだろうな。


「あはは、だって私は――」




「私は、この国の王女なのですもの」


 一拍を置いてから言うのは、相手を驚かせる為に言ってるんだろう。

 まー、見た目だけで言えば、幼いし。

 誰もとても王女様などとは思わないことだろう。


 本人も幾度となくそういう対応をされたから、こうして言っているんだろう。

 ならば、


『知っていたよ』

「あらら…?本当にー?」

『なぜ嘘をつかなければならないのだ』

「私を騙す、ため?」

『利益がないじゃないか』


 きょとん、と全身で「なぜ」という疑問を表している。

 なかなか器用なことができる奴め。

 親が親なら、娘も娘だな。

 この状況だと逆になるがな。


『お前の娘に会ったからな』

「むぅ…面白くない…」

『悪かったなつまらん奴で』


 王女様も納得したらしい。

 渋々といった感じだったが。


 楽しみの一つが無くなったからか、少し明るさに陰りが出ている。

 太陽に曇が差したような。

 それでも余りある明るさではあった。


「…ふんっ」

『お子様ではないのだから拗ねないでくれ』

「拗ねてないし!」

『眉が上がっているぞ?』

「気のせいだし!」

『ならばその頬はなんだ?』

「飴を舐めてるの!!」


 子どもかっ!

 子持ちの親とは思えないんだが…

 台詞も台詞だし、何より考えが単調すぎる。

 この調子だと、ルナの方がしっかりしているんじゃなかろうか。


「むぅーっ」

『…なんですか?』

「わかってるくせにッ!」

『怒らないで下さい』

「誰のせいだと思ってるの!!」


 握り拳を作って、こちらをキッっと睨んでくる。

 さらには目の端に涙を浮かべて…

 精神年齢が低すぎるぞ、コレは。


 しかし、ご機嫌を直して貰わないと後々が面倒だ。

 良くも悪くも彼女は一国の王女様。

 だから、


 精神年齢が例え8歳の娘より下回ろうが、


 目測でさえ身長が165cm程度しかなくとも、


 …今後の交友関係を円滑に進めるためには、王女様とのパイプが必要なのだ。


 ルナに憑依出来るから、別に王女様とは仲が悪くても良いのでは?

 という考えは捨てたほうがいいだろう。

 この見た目も中身もお子ちゃまな王女様、もしかしたら娘でさえも国から追放しかねない。

 もしくは、幻獣を払う術を全力で探して、俺を潰すか。

 兎にも角にも油断ならない。


「謝らないのなら私にも考-―」

『悪かった。実はな、訳があったんだ』

「えが…え?」 


 噴火寸前の火山を止めることに成功した。

 が、しかし次の一手が大事だ。


「な、なによ」


 相手が聞いてくれる姿勢でいてくれて助かる。

 耳も貸さない奴だったら救いようがない馬鹿だからな。


『男は好きな女にちょっかいを掛けたくなるんだ』

「ぇ…え…?」

『俺はお前に一目惚れしたんだ』

「えぇーッ!?」


 元居た世界でも、こういう設定はよくある。

 ロリコンではないが、タイプだ。

 それに…この王女様は十二分に可愛い。

 告白して、振られても悔いはない。

 むしろ告白をしない方が後悔する。


「す、好きなの…?私を…」

『ああ、そうだ』

「ほんと?」


 性格さえまともだったならば完璧なんだがなぁ。

 どこの世も何かしらの欠点があるもんだ。

 美少女がいたならば、性格か、性癖か…特技に問題がある。

 相場は大抵決まってはいる。


 …が、意外なものが地雷だったりするんだ。


 今回はまー…性格というか中身に問題があった訳で。


「で、でも私…結婚してるし」

『そうか…では致し方ない』

「う、うん…」


 結婚していることは知っていた。

 だから敢えて告白して、無残に振られるというシナリオを描いたのだ。


 きっと王女様は無垢な性格の持ち主だろうから、これからは意識をしてくれるに違いない。

 あわよくば取り入って色々してもらえるかもしれない。

 ま、あくまでおまけだが。


『これは叶わぬ恋…諦め――』

「ま、まて」

『…?』


 少し頬を赤らめ、玉座から立ち上がる王女様。

 目の端にはまだ涙が貯められているが…

 恥辱の涙ではなく、嬉し涙…かな?


 しかし、突然なんだろう…

 なぜだか面倒事が起こる予感がする。

 この場面で、そんな予感がすれば…


「別に…構わん、ぞ?」


 ナ、ナンダッテー…


『し、しかし夫がいるのでは』

「確かに、夫はいるが…」


 身体をモジモジとさせながら呟く王女様。

 瞳は恋する乙女そのもの。

 ていうかチョロいな、コイツ…

 仕草は可愛いんだけど、悪い男に引っかからないのか心配になる。


 …現在進行で引っかかってるんですけどね。


「男妾…にならぬか?」

『男、妾…に』

「男妾ならば…夫の了承を得れば大丈夫、だ!」


 少し詰まったな?

 しかし…面倒なことになったな。

 日本でも妾という制度はあったし、この国でも存在していても珍しくはない。

 ていうか普通にあるんだろうな。

 異世界だし。


 しかし、諦めない。諦めてなる物か…!

 下手をすればこのまま王女様の男妾にされてしまう。

 そうなれば行動は制限されるだろうし、それに元いた世界へ帰れないかも…


 浅はかな考えのせいで崖っぷちの大ピンチだよ…!!


 と、こういう事態が起こることを想定して保険は一応用意してある。


『だが、俺は幻獣なん、だぞ?』


 そう、伝説として生きるバケモノ。

 そんな奴と交わることは決してできないハズ…

 ましてや…あ…しまった、


「そんなのは百も承知。そして愛の前には幻獣だろうが関係はないのだ」


 愛…愛ね…。

 …んー。どうしたものか。

 その台詞は最強だからな…

 返す言葉が見つからないぞ!?


「だから、私と結ばれよう?伝承にも幻獣と契りを交わした者は幾多もいると聞く」

『しかし…王女様のことを知らないというか』

「これから知っていけば良い。時間など腐るほどあるのだ」

『な、名前も』

「私はレイン・グレイシア」


 ぐぅう…

 確かに長い年月が経っている。

 だからその間に結ばれた人間と幻獣がいてもおかしくはない。

 しかもここは異世界だ。

 獣姦など…ありえる。


 うぅむ…

 ぶっちゃけ良い物件ではある。

 可愛いし、無垢っぽい感じ。


 だけど、抜けてるし…

 子どもっぽし、言っちゃあ失礼だけど、完璧馬鹿だし。


 でもそこが可愛いんだよなあ。


 心の中では諦め派と、


 「まだ、まだだ!!」


 がいるが…もういいよな…


 と意識を手放しかけている間にも


『本当にこの王女様…レインの男妾になってしまうのか…俺は!?』


 と問答を繰り返している。


「お、おいお主ッ」

『あ、う…ぁあああがぁああッ』


 激しく揺れて、ブラックアウトする視界には、急いで駆け寄ってくるレインが映っていた。

 


 

 


 

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