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ルナという少女

 憑依を使用し、暫し暗い視野が続く。

 例えるならば、授業中にまどろんでいる感覚だ。

 どこかふわふわとしていて、視界が定まらないあの独特の感じ。

 

「…ぉ、よくぞ………、」


 声は聞こえるんだけど、どうにも抜け出せない。

 雑音に阻まれてるかのような、音を拾いずらいな。

 

「はい、ただいま戻りました」


 だけど、なぜかルナの声は聞こえてくる。

 まるで雑音が無い世界で音を聞いているような気分だ。

 それほどまでにはっきりと聞き取れるのである。

 しかし…一方だけの受け答えを聞いても…ねぇ。

 なんかもどかしいなあ。何を話しているんだろうか。

 下手したら、このまま会話を全く聞けずに終わってしまう可能性もある。


「そうか、……もど…た…」

「迷惑をお掛けしてすいませんでした」

「大丈夫だ。これ…らいのこと…ら」


 大部分が聞き取れるようになったな。

 俺の心配は杞憂で終わりそうだ。

 だんだんと聞こえて来てるから、このもどかしさももうすぐ終わるだろう。

 ラジオのチャンネルを合わせている最中みたいな…視界もぼんやりと見えてきているし。


「しかしどうして城の外へ出たのだ?」


 おー。完全に合ったみたいだな。

 ルナの父親あらため、王様の声が聞こえてくる。

 視界はまだ靄がかかっているようで見えない。

 一見無感情とも呼べる声音で王様は話している。が、なぜか感じる。


「…はい、いろいろありまして」

「そうか」


 恐らくルナの肉体を共有しているせいだろうとは思うが。


「それよりだ。」

「はい」

「身体は大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

「ケガ…はしてないよな」


 聴覚が回復し、視力もほとんど取戻し、状況を視認できるようになった。


 さすが王の間というべきか、かなりの広さを誇っている。

 バスケットボールコート2面分の面積かつ高そうな装飾品。

 護衛っぽい騎士は一人もおらず、なんだかおかしいと思ったが、よくよく見ると。

 王の間のなんだか不自然に暗い場所に… 


 周囲の4隅には全身真っ黒で、黒い布で覆面をした忍者みたいな人たちが控えていた。


 意識してみなければ気が付かなかったほどの隠密さ…

 かなりの手練れだろう。

 だから他に護衛をする騎士などがいない、のかもしれない。

 ま、そこはいいか。


 玉座にはルナの父親である王様が鎮座していた。

 そして王様に対峙するようにルナが立っており、会話をしてる。


 俺はというと、ルナの背後に纏わりつくように浮いている。

 姿はルナの肉体と対して変わらないものだった。

 どうやら魂は器になるモノに合わせて、形状を変化させるらしい。

 女の子の姿というのもなかなか形容詞しがたい気分になるが…

 見た目が可愛いから別にいいや、と思える。


 時折ルナがコクコクと頷いたりしながら話しているのだが。

 なんか…内容が固い。

 硬いとも言うべきか、政治的チックな内容だ。

 会話と言っても、親子間で話すような口調じゃないと思うぞ、これは。

 貴族はみなこういう話し方をしなきゃならんのかな…


 しかも王様の場合無感情で、無表情で言うから、台詞を読み上げているみたいになっている。

 あたかも作業というか社交辞令というか。


 例えるならあれだ。石に定と書いた指令さんみたいな。

 サングラス付けてないし、手も組んでないけどなんかそれっぽい。

 でも、だけれどこの王様はなんだか少し違う気がする。


「はい、何も問題はありません」


 この父親は娘に愛情を持っているんだと確信を持って言える。

 何かと不器用な生き方をして、誤解される人間というのは案外多いモンだ。

 王様もこのうちの一人なのだろうな。


「そうか。ならば時間もほどよい頃だ」


 もしルナの肉体を通していなければ、俺も誤解したに違いない。

 客観的に見れば、娘のルナに興味が無いような面構えをしている。

 視線にも、言葉の一言一言にも温かさが感じられないのだ。


 でも、なぜルナは王様に構ってもらえないなどと言っていたのだろうか。

 きっとこの王様は構おうにも、接し方が分からないだけなんだと思うのだが。


「係りの者よ、夕食の準備を」

「承りました」

「ルナよ、暫し休むがいい」

「はい、お父様」


 一通りの指示を出し、他に用件はあるか?という視線をルナに投げかける。


 なぜ王様が優しい奴、不器用な奴だと思えたか。

 それはスキル制限解除によるルナの記憶閲覧によるものだ。


 普通、他人の記憶を覗き見なんて到底できるものじゃない。

 俺が元居た世界でも無理だったし、そもそも人道的な行いじゃない。

 だから政治的にも一般的な人の認識的にも忌み嫌われ、研究は進まなかった代物。

 理論上は可能だったらしく、氷山の一角の一部分が世間に公表されていた。

 それをたまたま俺は見たことがあるので、なんとなくスキルを使ってみた。


 それを何故ルナに対して行ったか。

 それは単純な理由、興味が湧いたからの一言である。


 これほど労いの言葉を掛けられる人がどれぐらいいるのだろうか。

 確かに社交辞令、テンプレなどと言われればそうかもしれない。

 であるから、ルナの記憶に映る景色を分析、解析すれば何かわかるかもしれないと、俺的に考えたのだ。

 そして幼き少女の今までの見てきた記録を早送りで閲覧し、納得した。


 俺が見た記憶の中では、必ず少女と男の姿があった。

 そして、いつも少女が何かしらしているすぐそばに男はいる。

 少女はあまり気にも留めていないのか、気が付いていないのか。

 声を掛けようにも触れようにも、声は届かないし手も透けて触れられない。

 だから俺もただその場で突っ立ってみていただけだが。


 ルナの8年間に記憶の中には、いつもチラりと父親が映っているのだ。


 それは王宮の柱の陰から。林の木の隙間から。

 図書室で一人読書に没頭している時には、本棚に並べられている書物の隙間から。


 ただひたすらに声を掛けもせず、娘を見つめる父親の姿があった。

 しかし、そのどれも娘からは死角になる位置からの見守りである。


 ストーカー染みた視線に気づき、ルナが目を向ければその場所に何も無かったかのような速さで消え失せ、また何かしらの作業を始めれば見つめる、というのを繰り返す。

 まるでイタチごっこのような、それでいて温かい光景だ。


 それをついさきほどまでやっていたみたいで、着替えをしている時も覗き見していたらしい。

 そして着替え終わると同時にいつの間にか消え失せていた。


 余程娘の行動が気になるらしい父親だが…

 男の俺が言うのもおかしいが、着替えを覗くのはどうかと思う。

 ルナの入浴シーンもいくつかあったが、例外なく父親が陰に映っていた。

 しかし、侍女も騎士もどれもこれも全く気が付いておらず、気配を完璧に消した状態で娘を観察していた。

 これはもう呆れを通り越して関心してしまうほどの徹底ぶりである。

 8年間、そしていまのいままで続けていたらしい。


「では、失礼します」


 ルナはスカートを軽く持ち上げ、お辞儀をして王の間から出た。

 その後ろへ続くように出ていく俺は、なんとなく王様からの視線を感じたが…

 まさか見えてるわけないよな。


『突然視界が入れ替わったときは驚いたわ』


 侍女に部屋を案内させながら話しかけてくるルナ。

 それもそうだろうな。

 いきなり視野が変わったんだから、内心すごく動揺したに違いない。


『どうしても会いたくなかったんだよ』

『それにしたって一言ぐらい言ってくれてもいいじゃない…』


 この霊体モード?で気づいたのだが、なぜか浮いているのだ。

 最初は動き方が分からなかったがある程度意識をすれば自由自在に動き回れる。


『まー、そんなこと言うなって』


 そう言いつつスッと、ルナの正面へと回り込む。

 そのまま背を後ろにして、ルナを見つめながら進んでゆく。

 ルナの綺麗な髪が歩くたびに揺れ、見惚れてしまう。

 …俺は決してロリコンではないぞ。


『こうして入れ替わったのはあなたの意志?』


 ルナがやれやれとしたような表情で言う。

 それはまるで日常的に悪戯を繰り返している子どもを相手にしているかの様だ。

 こちらの方が生きている年数で言えば上なのに。


『ちょっとしたスキルでな』

『…』

『何か不満でもあるのか?』

『不満…そうね。不満はあるわ』

『ほー…』


 心当たりはかなりあるが、どれだろう。

 フェルをボコッた件か、この国の騎士を酷使した件か…


『あなた、ステータス誤魔化したでしょ』

『うん…って、ぇえ!?』

『何を驚いているの?ばれないとでも思ったのかしら』


 8歳の幼女にタジタジな俺、頑張れ。

 まだ戦線は立ちなおせる。

 焦らず、言動に注意していれば尻尾など出さずに済む。


『い、いや。誤魔化してなどいないのだ』


 偽りも付き通せば真実となる。

 実に天才的な名案だ。

 自画自賛しても良い事だろう。


『あのねぇ…』

『俺はまだこの世に誕生して間もないのだ、然るべきステータスではないか』


 そうだ、俺はまだ経験が浅い幻獣なのだ。

 だから嘘など吐いてないのだ!

 決して後ろめたいことなど―――


『知ってるかしら。この世界には「鑑定」っていうスキルがあるの』


 …ふむ。


『それが一体どうしたというのだ』

『字面の通り、鑑定ができるのよ?』

『ほ、ほお、おう』

『言いたいことがお分かりで?』


 鑑定というスキルは、俺がやっていた某オンゲでもある設定スキル。

 武器の価値から、品物の本物か偽物か。

 つまり目利きスキルである。


 これが本当に存在するとなると、この少女言うことはハッタリでなくなる。

 なぜならば、鑑定というスキルの前では「嘘が付けない」のだ。


 以前に、パーティメンバーに鑑定スキルを持った人が居たが、話しを聞くに鑑定は物に限らず人にも適用することができる。

 物が偽物なら偽物。言葉が嘘なら嘘。

 鑑定スキルの前では偽りは無駄ということ。

 真意を日の下に晒すことが鑑定の神髄なのである。


 便利なスキルなのはご覧の通りなのだが。

 しかし、鑑定スキルの前で嘘つけないが故に、人間関係に溝が生まれる。


 建前を語れば、裏がばれてしまう。

 裏というのは大抵後ろめたいことで。

 人というものは何かしらの後ろめたいことが一つやふたつはある。

 そして後ろめたいことは、人に褒められたことではないのが世の常だ。

 それがバレてしまうのは誰も彼もが嫌う。


 結果的に鑑定スキル持ちは忌み嫌われ、避けられる。

 以前のパーティーメンバーもそれが分かっていたから、俺と一緒にプレイしてから長らくの間は鑑定スキル持ちということは隠していた。


『…俺のレベルを言ってみろ』


 鑑定がもし俺の知っている代物だったら。

 ここの世界のレベル上限は100のはず。

 500なんて数字は出てこない、と予想する。


 しかし、もしも――

 

『500でしょう?』


 …、…んー。


『魔力値は知っているか?』

『無限、よね』

『隠していて悪かった』


 これは素直に負けを認めるべきだろうな。

 ガチの本当の鑑定持ちだ。

 勝ち目などあるはずもない。


『初めにステータスを見せてもらったとき、違和感を感じたから鑑定を使ったの』


 …通りで動揺していた表情が打って変わって、真剣な顔になった訳だ。

 

『どこで違和感を感じたんだ?』

『そうねー…』

『どうせフェルと戦っている最中だろうに』

『正解、ね。よくできました』


 そりゃあレベル上限にほぼ達している騎士に対して、手玉に取るように戦っていれば不自然に思われる、か。


「姫様、こちらです」

「ありがとう。後はひとりで出来るわ」

「わかりました」


 侍女が部屋の扉の取っ手を持ち、外側へと開く。

 可愛らしい淡いピンクの部屋の中には天蓋付きのメルヘンな大きいベット、大量のぬいぐるみ。

 さらに乙女なチックな部屋似合わない大量の古そうな書物。

 恐らく…というか自室なのだろう。


『いい趣味してるな』

『ありがとう』


 んー、これからどうしようかね。


「では、失礼致します」


 そう告げると、侍女は扉を静かに閉めて、どこかへ行ったらしい。

 足音が遠ざかっていくのが聞こえる。


『さて、あなた…なんで私と同じ姿をしているのかしら?』

『…俺が見えるのか』

『この部屋に着くまで、私の顔を見つめていたでしょう』


 てっきり見えてないとばかりに…

 あぁ、思い出すとなんだか恥ずかしい。


『他の連中には見えていなかったのか』

『恐らくは、ね』


 これは鑑定のせいなのか、それともルナとの繋がりが深まったせいなのか。

 鑑定のせいならば、俺が肉体を使っていた時にルナが見えなかったのに得心がいく。

 後者だった場合は多分、憑依のせいだな。

 仮説だが、入れ替わった際に何かが起こったのかもしれない。


『少し疲れたわ。休むからあなたも適当に休んで』


 着替えもせず、そのまま背中からベットにダイブするルナ。

 本当に姫様なのかコイツ。


 まー、やることないし、適当に城の中を散策するか。

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