ステータス閲覧
謎の変態に遭遇し、撃退した後。
結界は20秒ほどで解け、救護班がハンモックでお姫様を運んでいる状態へ戻った。
『一時はどうなるのかと思った…』
なんだか疲れている風に感じられるな。どうしたんだろう。
『ぅ…あなたは少し自重というものを覚えなさい』
自重?俺が何かしたのか…。今までの出来事を振り返ってみても、俺の記憶の中じゃ大したことはしていない。
ちょっとかやり過ぎたかも、って点は無くも無い。ていうかさっきの変態を撃退したスキルのおかげで、地面が大きくエグれてしまっているのだ。
長さ9m、横1mで、奥に行くほど太くなり、一番最後は5mだ。頭を抱えたくなるのも分かる。
実は結界が解けた後、エグれていた地面を見た騎士2名は「ここで何があったんだ!?」と騒ぎだし、約30分を議論のせいで費やした。最後は俺の一喝で使命を続行させたがな。
確かに一悶着あって、時間も無駄にはしたがその後の歩みは順調そのものである。特筆すべきことは何もないのだが、しいて言うなら速度が落ちてきているのがなぁ…。
運んでいる騎士が人間っていうのもあるけど、長時間の労働だし。おかげで流れゆく景色はゆったりとしてきている。
先ほどまでと比べると劇的だよ…
「ねー。騎士さん」
「ハァ…ハァ…な、なんでしょう」
ぜぇ、ぜぇ、と肩で息をしながら答えてくれる。なんて良い奴らなんだ…俺ならランニングしている時に話しかけてきたら無視をする。どうせ下らん会話なんだろうし。
「城まで、あとどれぐらいだ?」
「あ、は…い。そうですね…」
「城まではあと…そうですね、目前です」
「そ、そのとおりです、は、はい」
肩で息をしていた騎士とは違う、担架の前を持って走っている騎士が疲れ気味の兵士に代わり、答える。なんかこいつは息切れせずに元気に答えているなぁ。日頃の鍛えかたが違うのか…?
まー、そんなことはいいか。目前だというし、もうしばらく適当に時間を潰すとしよう。
『あなたね、うちの兵士を酷使して…』
でも運んでくれるみたいだし、そこは甘えないと。
『あのねぇ…』
少し憤りがこちらへ伝わってくる。でも呆れが混じっているように感じられる。運んで貰ってるんだから別にいじゃないか。
担架に横たわり、お昼寝日和の気持ちい気温と、澄み渡る様な綺麗な空を見つめる。できればこのまま寝てしまいたいが、お姫様が許してはくれない。
だから適当に返事をして、寝る隙を模索する。
そんなことを言われても、休めるときに休まなきゃいけないんだし。これぐらいは許してくれてもいいだろう。
『…ったく、まぁいいわ…それじゃ』
お、休ませてくれるのか…?
『ステータスを見せて頂戴』
お姫様の言葉で一瞬戸惑う。この世界ってステータスが数値されてるタイプなのか…?
だとすればかなりヤバい状況だ。俺のレベル500とHP80,000,000は基準が分からない。
だから置いておくとしても、問題はMPだ。これは俺自身が自覚できる程、イカれてる。MPの∞は絶対におかしい。
なぁ、姫様のステータスを見せてくれないか?
『ん?私の、を?』
あぁ、見てみたいんだ。
『そうねー、分かったわ』
よし、これで基準が分かるかもしれない。最悪会話の中で見つけていくしかないが。
あ、でもどうやってステータスを確認するんだろう。
『ステータスの確認方法?それも知らないの?』
仰天されてしまった…。一応言っておくが、この世界での操作方法知ってる方がおかしいからな、戦闘を除いて。
『ステータスを見るにはね、相手からの了承が必要なの』
そりゃあプライバシーだもんな。納得できる。
『それで、ステータスは相手に送って見させるもよし、相手が覗こうとすれば認可するか否かが出るから、それを許可すれば見れるわ』
んー、RPGゲーでよくある方法だな。
意外と馴染のある設定で良かったぜ。じゃ、気を取り直して。
それじゃあ、姫様のステータスを送ってくれ。
『な、なんで私から…』
ん?なぜか動揺してるけど…どうしたんだ?
はやく送ってくれよ。
『……、分かったわよ』
少し間があったけど、無事送られてきたらしい。ピコーンとシステム音が鳴ったあと視界の右端にビックリマークが表示される。突っ込んだら負けだと思うから、触れないでおこう。
意識を集中させて、そのマークをクリックするイメージをする。
俺がやっていた某オンゲーを彷彿とさせるな…あのゲームとこの世界は酷似してるんだよな、なんとなくだけど。
開けたらしく、文字と数字が書かれた文章が表示される。
―――
名前 ルナ・グレイシア
年齢 8
装備品 ドレス 白
種族 人間
level 35
HP 1750 体力
MP 250 魔力
STR 1800 力
VIT 300 生命力
INT 2500 知力
MND 1000 精神力
―――
かなり詳しく乗っているな…だけど、ステータスはなんだか…低いな。
いや、俺がおかしいのか。でも、これは…。
基準が分からないからなんとも言えないな。
『ね、ねえ…あなたのも見せて、欲しいなぁー…なんて』
っく…声が聞こえるけどlv500なんて見せられる訳がない。あのフェルのレベルを聞いてみよう。
フェルとかいう騎士のレベルはいくつだ。
『…あの人なら確か…80から90だったわ』
低っ!!低レベルにもほどがあるだろ!
『それがどうかしたの?』
いや、別になんでもない。少し待ってくれ。
『分かったわ、なるべく早くしてね』
言質は取ったので、自分のステータスを確認する。それとついでに見ずらいので、設定を少し弄ってみる。
こういう設定を変更するのはRPGの醍醐味だよな。
それで、俺のステータスだが。
―――
lv 500
体 80000000
魔 ∞
力 ∞
生命 ∞
知 ?
精神 ?
―――
「わぁー、すっごぉーい」
一体どこのバクキャラなんだ…?こんなキャラ、相手だったら潔く攻略を諦める。
というのが、正直な俺の最初の感想だよ。
MPだけじゃなかったんだな、∞。こんなの、どこのクソゲだよ…
弱すぎたら面白くないだろうけど、これじゃ敵ワンパンじゃん。
『ねぇ、まだー?』
あぁ、ワクワクした声で聞かれても困るんだ…こっちはチート能力値を見てげんなりしているんだよ…
でもここで見せられない、なんて言ったら約束した手前、株価は大暴落。信用してもらえなくなって引き出せる情報も引き出せない。
だからといって、素直に見せれば…大騒ぎになりかねん。
どうしたらいいんだ…
ピンチ…今後に関わる大ピンチだよ…ッ!
冷や汗をダラダラ流しながら、普段はサボリ気味の脳をフル稼働させる。
この異世界に爆誕してから一日も経ってはいない。しかし、かなり濃厚な時間を過ごした。
その中で危機的状況にあったよな…思い出せ…思い出すんだ…
「っは!」
「ひ、姫様…ハァ…、どうか、され」
騎士の言葉など耳に入らない。それよりも…フェルと戦ったときだ。
あのとき、スキル欄が空っぽで。
唯一入ってたのが、
…創造…。
「創造で…スキルを…」
しかし…出来るのだろうか。
俺の考えではスキルの創造を使い、ステータスを隠蔽する、または偽造して姫様に見せる案が浮上している。
いや、きっと出来る…他にもいろんなスキルが作r――
《スキル:偽りを取得しました。》
システム音が生成終了のお知らせを報告する。
…さすがチートスキル。
俺の懸念なんて知ったこっちゃ無いらしい。
あっけないほど簡単に作れたな。
と、いうことで早速使ってみる。
スキル偽り、と念じると目の前にプレイヤー名が表示される。
―――
ルナ・グレイシア
タクミ・グレイシア
騎士A
騎士B
―――
この場にいる人数は3人だから、その分だけ名前が書いてあるはずなんだが。なんか突っ込みどころが多いな、このスキル。
まず、ルナ・グレイシアだけど…姫様は俺の中にいるんじゃなかったのか?それとも、存在するモノになら全て適用される効果なのか。謎と不思議がいっぱいだ…。
それに、俺のファミリーネイムがグレイシアになっている。しかし、この真相は恐らく簡単な事実だろう。
…ルナと一体化しているから、なのかもしれない。
で、最後だけど…騎士の名前が無い。
こいつらNPCなのか?
「おい、そこの騎士」
「は、はい…なんで、すか…ハァ」
息を切らしながらも懸命に走ってるところ悪いな。
「お前の名前はなんだ」
「わ、わたしの…名は…」
「苗字だけでいいぞ」
「ア、アグニ…アグニ、です…ぅく」
アグニ…ふむ。名前を聞いてからスキルで出した表示へ目を移す。すると、騎士Bと表示されていた場所に砂嵐が掛かり…
―――
ルナ・グレイシア
タクミ・グレイシア
騎士A
アグニ
―――
…あー、なるほど。知っている奴だけ名前表示されるタイプ、ね。
さっきまでの名前が書きかえられ、名前が記入された。
これは多分、苗字も分かれば記入されるんだろうな。
『はやくしなさいよ!!』
そろそろヤバいな。早くしないと…
偽りで表示されている名前のタクミ・グレイシアを選択する。
すると数値とは到底呼べないチートステータスが画面状に現れ、数値を入れるべき場所が点灯していた。
試しにlvを選択する。すると
―――
lv 1~100
―――
最低値と最高値が表示されている、のか…
でもそれだと最高値がlv100になってしまうぞ。
…ステータスに∞ってある時点でどうかとは思うが…レベルまでおかしかったのか。
それに、フェルのlvは低いのではなく、かなり高い部類だろう。俺がおかしいだけで。
『…あなたねぇ…』
…適当に数値割り振ろう。
―――
名 タクミ・グレイシア
歳 8
装 ドレス 白
種 幻獣
lv 1
体 20
魔 5
力 8
生命 2
知 20
精神 90
―――
まぁ、こんなもんだろう。基準が分からないから、本当に適当にした。
さてと、どんな反応を示すかな。
悪い、操作方法が分からなかったんだ。
『…え、そ、そうなの?』
あぁこの世界へ来てまだ、余り経っていないしな。
『ならしょうがないわね…見せなさい』
ピコーン、と通知を知らせる音が聞こえる。こいうところはゲームっぽいな…
《ステータス閲覧を許可しますか? はい/いいえ》
確かに、姫様が言ったとおりだな。ここではい、っと。
《偽りのステータスを表示します。 はい/いいえ》
へぇ。ここで許可を求められる訳ね。
もし本当のステータスを見せたければ、ここでいいえを選ぶ。
で、偽りたい相手には、はいを選択…。
便利なスキルだよなコレ。たった一つで身元を偽れるとか、ねぇ?
『あ、あなた…これ、本当なの…?』
声が震えてるんだけど…もしかしてバレたか?
ああ、ありのままだ。
バレてたら最悪だ。でもそれだと洞察力は人一倍、ってところか。侮れなくなるな。
『…よ』
よ?
『弱すぎるわ…』
そりゃあlv1だし、しょうがないんじゃ。
『それにしたって私に勝てる見込みがあるのは、精神力だけじゃないの!?』
言われて見直してみると、確かにかなり弱い部類のステータス振りになってしまった。
どれぐらい弱いんだ?
『…そうね。私がlv6の時に倒したスライムlv8より弱いわ』
ザッコすぎたようだ。ま、本来のステータス強すぎるから、逆にこれぐらいがいいだろう。
そもそも偽るのが目的だし。
しかし…目に見えて姫様から覇気が失われているな。
何かあったんだろうか。
『これじゃ…このままだと…』
元気な姫様から明るさが消えていくような…嫌な気が…気のせいか?
なんか元いた世界より勘が働くな…。しかも悪いのは必ずと言っていいほど的中する。
今回のは思い過ごしであってほしいと切実に思う。
俺と姫様がやり取りしている間に、騎士の頑張りもあって城の門の前まで到着した。
ここまで来る途中で沢山あったなぁ。でもやっと、第一歩を踏み出せる。
ここから始めるんだ、俺が元いた世界へ帰るための――
「姫様が到着されたぞ!門を開けろッ!!」
――冒険を。