僕のやりたいこと
仕事終わりに先輩と居酒屋へ行く。
上司への愚痴、会社への文句、社会への不満。そんなくだらないことを吐き出して、酒と空気に酔いしれる。
まるでサラリーマンの定型だ。はっきり言って無駄だと思う。そんなことをする暇があったら、家に帰って仕事に役立つ勉強でもしているべきだ。
人の人生は有限なのだから、無駄なことは省いていかなければならない。
「れすから〜、仕事れも同じなんれすよ〜。あんな座学なんれ意味ないんれすよ〜」
「じゃあ、お前はどうしたいわけよ?」
「早く外に出させてくれ!……れすね〜」
「あ〜、つまり早くバリバリ仕事したい、ってことか」
「そう、なんれすよ!」
みんな分かってないんだ。僕はこんなに頑張っているのに、どうして邪魔をするんだ。
「いっつも、いっっつも!課長の話聞いて、先輩のヘラヘラしてるとこ見て!俺にろーしろってゆーんれすか!」
「じゃあ、お前はどうしたい?」
先輩はいつもヘラヘラして、そうやって馬鹿にして。……あれ?笑ってない?
「らから〜、さっきも言ったやないれすか〜。早く外に……」
「じゃなくて、外に出てどうしたいのさ?何やりたい?どうなりたい?」
真面目な顔してる先輩は、仕事が出来るっぽく見えるなぁ。なんかムカつくなぁ。
「……んぅ、ん〜。僕はね、えっと、んん?」
なんか頭がぐるぐるする。考えがまとまらない。酔ってはいない、酔ってないって頭で考えられるから。うん、論理的だ。
「……僕のやりたいことは、こんなんじゃないんれすよ」
「おぅ」
「もっと、こう、大きなプロジェクトとかをれすね、自分れ立ち上げてね、問題とかも自分れ解決して、すげえすげえってなることをしたいんれすよ…」
「例えば?」
「…んぅ、ん、例えば?そりは、…その、何かすごいことを…」
僕は、そう、何かをしたいんだ。
自分だけが出来て、誰にも真似出来ないから、すごいって褒められるような何か。
それって、一体何だ?
「僕は、……僕は、褒めて、ほしい」
「お前は他人から褒められる為に、何が出来る?」
「っ!……らから、それが、分からないんれすよ」
「……そうだよなぁ〜」
日比谷先輩は、深く、深く溜息を吐いてグラスを空けた。ちなみに中身は『村尾のロック』だそうだ。聞いたことの無い酒だった。
「お前の考えてることは、多分、間違いじゃないよ」
同じ酒を頼んで、先輩は話し始めた。
僕の方を見ないまま、少し俯いて、ゆっくり教えてくれた。