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かっこいいということ  作者: 沖見幕人
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先輩と飲みに行く

 日比谷先輩から「飲みに行こう」と誘われたのは、終業から2時間ほど経った頃だった。


 この部署に配属されて半年が経過した。その間に、日比谷先輩に同行して営業回りをしたり、直属の上司に当たる曽根崎課長から取引先や業界知識などの座学を受けたりと、毎日が目まぐるしく過ぎていった。


 だが、その日々は決して充実していたとは言えない。


 同行営業では何をするでもなく日比谷先輩の横にいるだけ、座学では業界の話より「営業とはかくあるべし」といった話の方が多くてうんざりした。


 ……それに加えて、この報告書だ。


 毎日の業務内容をまとめて、毎週月曜日に報告する会議がある。だが、今のところ報告するほどの仕事などしていないのにわざわざ報告書を作らねばならないのは、はっきり言って無駄な作業だと思う。


 僕はいったい、何をやってるんだ。


 すっかりやる気が失せて、ほとんど箇条書きの体裁にした報告書を終わらせ、帰り支度を始めた頃に日比谷先輩から声をかけられた。


「おつかれー。相川もこれから帰んのか?じゃあちょうどいいな、ちょっと飲みに行こうぜ!」


「あ、はい、お付き合いします……」


 正直に言うと、この先輩は苦手だ。態度も言葉も軽いし、声は大きいし、何より馴れ馴れしい。食事に誘われたこともこれまで何度もあった。一度も断らず付き合ってきたが、はっきり言って親しみなど持てそうにない。


「そういえば、相川と二人で飲むのは初めてだよな?お前どんくらい飲めんの?」


「僕の歓迎会のときに日比谷先輩もいたじゃないですか。どれくらい、と言われれば人並みですよ」


「いや、それは上司とか社内の人らがいるときの返事だろ〜?俺が聞いてんのは、お前の本気はどんくらい、ってこと」


「は……?」


 言ってる意味がわからない。酒の強さに本気もなにもあるのか?


「まぁ、ぶっちゃけた話、俺はこの前の歓迎会程度じゃふらつきもしない」


「………」


「ビール三本、焼酎一升、ワインボトル一本じゃ足りない、ってこと」


「……つまり、今日はそれ以上飲む、と?」


 ついに来たか、という心境だった。いわゆるアルハラというやつか。


「勘違いすんなよ?飲めないやつを無理矢理飲ませる趣味はないって。だから、お前はどんくらい飲める?ってこと」


「……まぁ、酔い潰れたことは、ありません」


 正直な答えだ。これまで、前後不覚に陥るほど飲んだことはない。まぁ、一緒に飲んだ連中に日比谷先輩ほどの酒豪はいなかったのだが。


「……ほっほぅ。強気な発言なのかな?」


「ご想像にお任せします」


 日比谷先輩の目が妖しく光った、ような気がした。


「よっしゃ!そんじゃ、お前の本気を見てやるよ!美味い店知ってんだ、行こうぜ!」


 先輩に誘われて飲みに行く。まるで典型的なサラリーマンじゃないか。


 内心のため息を悟られないよう、努めて平静を装った。


 でも、先輩のどこまでも快活な笑顔に、こっちも自然と心が浮き立つ。


 そういうところは、少しだけ、羨ましい。

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