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かっこいいということ  作者: 沖見幕人
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先輩の第一印象

 日比谷という先輩社員が事務所にやってきたのは、昼休みまであと数分という頃だった。


 新しい部署の営業マン達は朝礼後、それぞれに外出していき、事務所に残ったのは部長と事務員、そして僕だけになっていた。その間の数時間は特にこれといったことも起こらなかった。部長からは適当に過ごすようにとの指示を受けていたし、やることも思いつかなかったからただ席についていただけだ。


 本当に、退屈だった。


「日比谷、戻りましたー!」


 ほぼ意識が飛んでいた(寝ていたかもしれない)頃に、そんな大声が聞こえてきた。


 声の主、というか日比谷さんは、部長の席に向かいながら僕の方に目を向けた。目があった、と思ったらヘラヘラと笑って手を振ってきた。


 ……やっぱり、軽い人っぽいな。


「お疲れ様、日比谷くん。どんな感じ?」


「結局は寿命っぽいすよ。確かに故障だったんですけどね、どうも長いこと点検してなかったみたいなんで、あちこちガタきてましたねー。とりあえず、入れ替えられるとこは在庫品渡して、破損した部品をちょっともらってきました」


「あぁ、やっぱりそういうことだったかー」


「ここ最近注文無かったんで、ヤバいんじゃないかな、とは思ってたんすけどね」


「うん、分かった。曽根崎くんにも報告して、破損の原因調査、進めちゃって」


「りょーかいしました!」



 呆気に取られていた。まるで優秀なビジネスマンの仕事ぶりを見たような気がした。第一印象が若干悪かった分、そのギャップも込みで好印象を持った。


 態度は軽薄だけど、仕事は出来る、みたいな人か……。


 日比谷さんは報告を終えると、こちらに向き直った。


「おつかれ!お前が新人くんだよな?」


「あ、はい!相川タイチです、よろしくお願いします!」


「よろー。俺は日比谷アツシね。とりあえず、飯食いに行こうぜ?美味いとこ連れてってやるよ」


 日比谷さんが紹介してくれたのは事務所近くのラーメン屋だった。こってり系の味付けは胸焼けを起こしそうな程で、僕は午後の間しばらく、胃からの逆流を堪えるはめになった。



 やっぱり、こんな会社辞めてやる……!


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