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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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犠牲

 インギが放った真空斬で斬り飛ばされたベルゼブの右腕がドサリと地面に落ちた。その瞬間この場に居た誰もが驚いていた。ベルゼブでさえ驚いていた。

 「ち、父上やりました、やりましたよ、やったぁ!」

 「ふ、ふふふふ、やった…とうとう本当に出来た俺にも真空斬が出せた、はは、ははははは」

 インギは、長年夢にまで見た練気技を出せた事で、まるで若い剣士の様に人目もはばからず涙を流した。レン達は、直ぐにインギのもとに駆け寄った。インギは、気が抜けたのかその場にへたり込んだ。

 「父上、お見事です」

 「おめでとうございますインギ王」

 ラーズは、父インギに寄り添い言った。レン達も素直に喜んだ。

 「インギ、あなたって人は…フウガが大喜びしてるでしょう、しかしもう無茶は許しませんよ、お下がりなさい、もう気が済んだでしょ?」

 と、アストレアが半ば呆れたように言った。インギは、うんうん頷き素直にアストレアの言葉に従った。そしてレン達は、ベルゼブを見た。両腕を失ったベルゼブは、呆然とその場に立ち一点を見つめていた。

 「グルゥゥ、に、人間には驚かされる、まさか小僧まで練気を扱えるようになるとは…グルゥゥゥしかし、両腕を斬り落としてくれたおかげでリヴァーヤの力が程よく抜け制御し易くなったわ」

 ベルゼブがそう言うと斬り落とされた両腕から新しい腕が生えた。ベルゼブは、新しく生やした腕の感覚を試すようにゴキゴキと鳴らし雄叫びを上げた。地面が小刻みに揺れ出した。

 「な、何だよ今度は?」

 「ああっ!ベルゼブの身体が!」

 ベルゼブがまた身体を巨大化させた。一回目よりは、はるかに小さいが今度は、下半身が触手だらけではなく二本の足のまま大きくなった。全身から紫色の煙を出し巨大化が止まった。レン達は、ベルゼブを見上げた。ドラクーン人とエンジェリア人達は、ベルゼブの顔の高さまで飛び上がった。

 「ベルゼブ、お前がどんなに大きくなろうとも僕達は必ずお前を倒す」

 と、レンは、不死鳥の剣を構えて言った。ベルゼブは、不敵な笑みを浮かべて言った。

 「レオニール、お前にフウガ・サモンほどの力があるかな?斬鉄剣は、アルカトに折られたのであろう、その細い不死鳥の剣で余を倒せるとでも思っているのかぁ!」

 と、言いベルゼブがレンに魔掌撃を放った。レンは、逃げようともせず不死鳥の剣で魔掌撃を弾き返し今度は、レンが雷光斬を放った。雷がベルゼブの頭に直撃したが全く効果が無かった。それが合図の様に皆が一斉にベルゼブを攻撃した。ベルゼブは、笑いながら攻撃を受け流している。そして、繰り出す魔掌撃で獣人やドラクーン人、エンジェリア人を一人また一人と倒していった。

 「畜生、攻撃が当たってるのに全く効いちゃいねぇ、やっぱり首を落とさねぇと死なねぇのか」

 「うん、でもあの大きさの首を刎ねるとなると大変だよ」

 「頭を潰す事なら可能なんじゃないか」

 と、レンとマルスとラーズが話した。しかし、レン達が持つ刀剣では潰す事は出来ないだろう。ベアド大帝が持つ大きな斧なら叩き潰す事は可能かも知れないが、重すぎてレン達には扱い切れない。レン達は、ベアドを見た。氷壁を張ってベルゼブの魔掌撃から身を守っていた。レン、マルス、ラーズが同時に真空斬でベルゼブを攻撃した。三人分の真空斬を喰らってベルゼブは、吹っ飛んだ。

 「大帝様!」

 と、レン達はベアドに駆け寄った。

 「大丈夫かよ大帝」

 「ううむ、身を守るのに精一杯じゃ、すまんなぁ」

 と、ベアドが情けない顔をして言った。

 「君も歳を取ったなもう下がっていろ」

 と、アンドロスがベアドの肩に手をやり言った。ベアドは、素直に獣人達に守られインギや龍神達が居る所まで下がって行った。それを見たベルゼブは、起き上がりざまにベアド達獣人に魔掌撃を放った。

 「ふん!」

 と、アンドロスが魔掌撃を剣で弾き返した。そして、アンドロスの凄まじい攻撃が始まった。ベルゼブは、何とかアンドロスの攻撃を防いでいるが、身体中のあちこちを斬られている。しかし、痛みを感じないイビルニア人にとって無意味だった。レン達が加勢しようとした時、またしてもベルゼブが触手を出して来た。地面から突然現れた触手がレン達を襲った。

 「またこれかよ!鬱陶うっとうしい」

 「こ、こんなミミズみてぇな!」

 上空まで伸びた触手がシーナ達ドラクーン人やアストレア達エンジェリア人を襲った。

 「きゃあぁ!」

 と、触手がアストレアに巻き付き締め上げた。

 「ああ、女王!」

 と、アンドロスが見せた一瞬の隙をベルゼブが見逃すはずがなかった。ベルゼブの放った魔掌撃がアンドロスの右肩を貫いた。

 「ぐおおぉぉぉ!」

 「アンドロスッ!」

 「グルゥフフフ、女王の事など気にせず余と戦っておれば勝てたかも知れぬものを」

 「ぬぅぅう、ベルゼブ…」

 アンドロスが左手でベルゼブの腕を掴み組み付いたがベルゼブに蹴り飛ばされ倒れた。上空から様子を見ていたシーナが慌てて降り立ちアンドロスの肩の治療を始めた。レン達も駆け寄りベルゼブから守った。

 「おじさん、大丈夫ぼくが直ぐに治してあげるから」

 「す、すまぬ…女王はアストレア女王は」

 「大丈夫さ、カイエン達が助けてるよ」

 と、マルスが上空を指差した。カイエンやドラコに助けられた女王を見てホッとしたのかアンドロスは、気を失った。ベルゼブが満足気にレン達を見ている。

 「グルゥフフフ、その男はもう戦えまい、ドラクーン人の治癒の力を使ってもまともに戦えるようになるには時間が掛かるのうグルゥワハハハハ」

 「調子に乗るな!」

 と、触手を斬りまくっていたテランジンが強烈な真空突きをベルゼブに放った。鋭く尖った真空波がベルゼブの額に直撃した。並のイビルニア人なら頭が吹っ飛んでいただろう。しかし、ベルゼブには多少の影響しか与えなかった。額からどす黒い血を流し脳が揺れたのかフラフラしているだけだった。

 「ううむ、今のは少し効いたぞ、やはりお前は人間にしておくには惜しいな、余のしもべにならぬか?」

 「ふざけた事を言うな!おらぁぁ」

 と、テランジンが今度は真空斬を放った。その真空斬をベルゼブは、素手で弾き返し今度は、テランジンに襲い掛かった。テランジンは、落ち着き払ってベルゼブの攻撃から身を守っている。テランジンは、攻撃を防ぎながら剣に十分気を溜め込んでいた。そして、一気にベルゼブの右膝から下を斬り飛ばした。ベルゼブは、バランスを失って仰向けに倒れた。

 「やったぁ!」

 「今だテランジン!」

 テランジンが倒れたベルゼブの顔目掛けて剣を突き入れようとした時、ベルゼブが全身から衝撃波を放ちテランジンを吹っ飛ばし、受け身を取り損ねたテランジンが悶絶していた。ベルゼブが、ふわりと起き上がりレン達を見た。斬り飛ばされた右膝から触手が伸びている。

 「グルゥゥゥ、余の足を斬り落としても無駄だ、お前達人間に余を殺す事は出来ぬぞ」

 「ううむ、厄介じゃのうリヴァーヤの力で再生能力を身に付けておるからのう、手足を斬り飛ばして動けぬようにするのは無理か」

 と、レン達より後方に居る龍神が呟いた。

 「やはり、あの方法しかないようだなエルドラ」

 と、傍に居たコルベが龍神に言った。龍神は、静かに頷いた。

 「あの方法とは何だ龍神よ」

 「そうじゃ何の事じゃ」

 と、インギとベアド大帝が聞いた。龍神とコルベは、寂しそうに笑って何も答えなかった。シーナの治療を受けながらアンドロスが龍神達のもとに来た。

 「アンドロス、大丈夫か?その傷ではベルゼブが言う様にもう戦えまい」

 「ああ、そのようだ、情けないがレオニール達に任せるしかあるまい」

 「うむ、無理をしてはならぬぞ、シーナやお前もここに居なさい」

 「でも殿様達が…」

 と、シーナは、アンドロスの治療をしながらレン達を見て言った。龍神は、シーナの頭をポンポンと撫で一人、レン達が居る場所まで歩いて行った。龍神に気付いたレンが下がるよう言うとまあまあと手で制しベルゼブに話しかけた。

 「ベルゼブよ、すまんが少し時間をくれんか?おぬしも身体が完全に回復するまで時間が掛かろう」

 「な、何言ってんだよ」

 と、マルスが驚いて言った。

 「グルゥフフフ、何を言い出すかと思えば…一体何を考えておるのか知らぬが好きにせい余にとっても好都合だ」

 「ではそうしよう、皆一旦こっちに集まってくれ」

 と、龍神は言い元に居た場所に皆を集めた。アストレアには、龍神が何を考えているのか分かっている様で暗い顔をしていた。

 「皆良く聞いてほしい、このままベルゼブと戦ってもはっきり言って勝ち目は無い、あやつはリヴァーヤの力で再生能力を見に付けておる、見ての通り戦いながらでも再生しておる」

 「だったら再生が追いつかないくらいにズタズタにしてやれば良いじゃねぇか」

 と、マルスが言ったが龍神は、首を横に振り答えた。

 「それではこちらの体力が持たぬであろう練気技にはそれなりの体力が必要じゃ、それにあやつには触手がある」

 「じゃあどうやったら勝てるんですか?」

 と、ラーズが言った。龍神は、うんと頷き答えた。

 「犠牲を払う事じゃ」

 「犠牲?」

 「左様、犠牲じゃ、並のイビルニア人ならば手足を斬り落として動きを封じる事は可能じゃ、昔のベルゼブならそれで倒せたが今のベルゼブは無理じゃ、せめて両腕さえ押さえ込んで手の動きを封じその隙にあやつの首を刎ねるか頭を潰すしか方法はあるまい」

 「でもそれじゃあ…」

 と、レンが暗い顔をして言った。

 「左様、間違いなくあやつの触手が襲ってくるじゃろう、そして死ぬ事になるのう」

 「そんな?!死ぬって分かってて誰がやるんだよ!」

 と、マルスが怒った様に言った。

 「その犠牲はわしらじゃ、わしとコルベが犠牲になろう」

 「ええ?!そ、そんな!いけません龍神様、そんな犠牲は払えません」

 「そうだぜぇ龍神様ぁ他に良い方法があるはずだぜぇ」

 「お考え直し下さい龍神様」

 レンは、龍神の両肩を掴み言い、カイエンやドラコも止めた。龍神は、レンの手をそっと撫でながら話した。

 「ベルゼブが最初に巨大化した時からコルベと話し合っておってのう、わしらはもう十分に生きた、最後の死に際ぐらい皆の役に立ちたい、それにこれからは若い者の時代じゃわしらのような爺が生きておってはやりにくかろうてな、あはははは」

 「そんな龍神様、僕達はまだまだ龍神様に教えてもらう事が沢山あります」

 「エルドラ、コルベ…」

 レンとアストレアの目に涙が光った。マルスやラーズ、テランジンは、暗い顔をして龍神とコルベを見ていた。

 「龍神殿、コルベ殿」

 と、ベアドが龍神とコルベの前に歩み寄った。龍神がにっこりと笑って言った。

 「ベアド殿、おぬしももういい歳なんだから国の事は息子に任せて隠居せい」

 「ああ、そうするよ」

 と、ベアドは、龍神とコルベの手を取り涙を流し答えた。

 「まぁ湿っぽいのは苦手じゃ、では作戦を言うぞ皆良く聞いてくれ、おっとその前に言うておくべき事があった、わしとコルベが死んだら、カイエンお前さんが龍神となりドラクーンを導いてくれ」

 「えええぇぇぇぇぇぇぇ?!お、俺っちが?」

 「うむ、エルドラと話し合って決めた、これからのドラクーンはカイエンのような者が龍神となるべきだとな、ドラコはわし同様少々頭が固い所があるからの、ドラコよしっかりとカイエンを支えてやってくれよ」

 と、コルベがドラコの肩を叩き言った。カイエンは、突然の事で呆然としている。ドラコは大真面目な顔をして答えた。

 「ははっ!カイエンと共にドラクーンを守っていきます」

 「カイエン凄いね!」

 と、シーナは我が事の様に喜んだ。レン達も喜んだが複雑な思いをした。カイエンが次の龍神となる事は大いに喜ばしい事だが、今の龍神であるエルドラは死ぬという事でもある。

 「話しを戻そう、作戦はこうじゃ、まずラーズ殿、テランジン殿その他の者達で地面から出て来る触手を斬れるだけ斬って時間を稼いで欲しい、そしてわしが黄光爆おうこうばくでベルゼブの目をくらませコルベと二人で腕や足に絡みつき動きを封じる、その隙にカイエンとドラコは、レオニール殿とマルス殿を抱え顔の辺りまで飛ぶのじゃ、レオニール殿とマルス殿はベルゼブの肩にでも飛び移りあやつの頭を攻撃する、目でも刺して練気を送り込むのが良かろう、アストレア殿は終始その光りの剣でベルゼブを照らしておいて欲しい」

 と、龍神の話しを聞き終わり皆が静かになった。誰もが本当に上手く行くのか心配だった。ベルゼブに右肩をやられ作戦に参加出来ないアンドロスがヴェルヘルムに女王の傍から離れるなと言っていた。

 「おい、お前達まだ時間が掛かるのか?余はいつでも良いぞ」

 と、ベルゼブの声が聞こえ皆がベルゼブを見た。完璧に再生回復したベルゼブを見て益々この作戦が上手く行くか不安になって来た。しかし、龍神エルドラとコルベと言う犠牲を払う以上、何が何でも成功させねばならない。皆の心が一つになった時、静かに行動に移った。

 

  

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