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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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インギの意地

 トランサー王国から輸送船に乗りイビルニア半島を目指していたラーズの父、ランドール王インギ・スティールは、イビルニア半島の直ぐ隣の国の港に到着していた。その港には、各国の軍隊が駐屯していて輸送船から物資を運び出していた。インギの事を知らない若い兵士がインギ達を見て何をしに来たんだと聞いた。どこかの国の変わった物好きな貴族が見物にでも来たのかと思ったのだろう。

 「どうして港に兵士が集まってるんだ?イビルニア城に攻め入らないのかね?」

 と、インギが若い兵士に聞いた。若い兵士は、困ったような顔をして答えた。

 「攻め入ってたんだがヘブンリーの女王が撤退させたんですよ、エンジェリア人、ドラクーン人と獣人の一部の部隊と練気とか言うのが使える人間だけ残してね」

 「何?本当か?じゃあラーズは城内に居るという事か…急ぐぞ」

 「あっちょ、ちょっと陛下!」

 と、インギは、家臣を連れて魔導車を探し始めた。若い兵士は、首をかしげて呟いた。

 「陛下?何もんなんだ今のは?」

 インギは、港をウロウロして使えそうな魔導車を探した。どれも他国の軍用魔導車で勝手に乗って行く訳にはいかない。やっとランドールの国旗を掲げ陣取っている軍隊を見つけた。

 「おお、あれは我が国の軍だ、行くぞ」

 突然現れた自国の王に兵隊達は驚いていた。

 「陛下、一体どうなさったのです?このような所にお出でになられるとは」

 と、大慌てで士官が言った。インギは、ニヤリと笑って答えた。

 「どうしたもこうしたもない、余も戦いに来たのだ魔導車を出せ」

 「ええ?戦いに?いけませぬ、ヘブンリーの女王から我々は撤退するよう言われたのです、ラーズ殿下からも言われました、ここからの戦いは練気を使える者しか戦えぬと」

 「余はその練気を習得するためにも来たのだ、(さき)いくさでジャンパールのフウガ・サモンとトランサーのヨーゼフ・ロイヤーから練気を学び修行して二十有余年、極める事が出来ず後に息子ラーズがヨーゼフから学びここイビルニアの地で戦いの中習得した、だから余もこの地で戦い修得するのだ、だから早く魔導車を出すのだ」

 「い、いや、しかし、今は危険ですよ、ラーズ殿下らはベルゼブなるイビルニアの支配者と戦っております、陛下お考え直し下さい」

 と、士官が泣きそうな顔をして言った。インギは、真っ赤な顔をして怒鳴った。

 「つべこべ言わずにさっさと魔導車を出せ!」

 言われた士官は、インギの後ろに控えている五人の家臣達に目をやった。家臣達は、既に諦めている様子で言われた通りにしろと言った。士官も諦めて軍用魔導車までインギ達を案内した。インギは、颯爽さっそうと運転席に乗り込み家臣達に乗れと言った。家臣達五人が乗り込むと直ぐに魔導車を走らせた。辺りは真っ暗になっていて魔導車が出す明かりで道が確認出来た。

 「この魔導車、もっと速度は出んのか?…良しこれで良いフフフフ」

 と、インギは、慣れない手つきで魔導車を運転していた。家臣達は、どうか事故だけは起こさないでくれと祈るばかりだった。しばらく魔導車を走らせていると突然脇から生き残った七人のイビルニア人が襲い掛かって来た。軍用の魔導車だけあって装甲が厚くビクともしない。インギは、イビルニア人二人を魔導車でき殺すと魔導車を停めた。家臣達は、嫌な予感がした。

 「一人、一匹ずつだ、あの中に必ず中位以上の者が居るはずだ、そいつは俺がる夜のあいつらは手強いぞ」

 と、インギが言うとやっぱりかと家臣達は頭を抱えた。インギは、荒々しく魔導車から出て剣を抜いた。家臣達も仕方なく魔導車から降り剣を抜いた。インギが言ったように中位のイビルニア人が居た。

 「こんな夜更けに貴様らだけでどこへ行く気だ?ククク」

 「ふん、知れた事よ俺達も戦いに来たのだ、おい貴様は俺が相手になってやる、さっさとかかって来い」

 と、インギは、言うと剣を構えた。イビルニア人達が一斉に襲い掛かって来た。インギは、言うだけあって相当腕が立つ。王子時代にフウガとヨーゼフに剣技を教えてもらい、国王になっても日々の修練は欠かさなかった。家臣達が下位のイビルニア人を相手に苦戦する中、インギは中位のイビルニア人に余裕を持って戦っていた。

 「どうした、夜の中位者がこんなものか?情けない」

 「キィィィィ人間の分際で生意気な」

 インギによって既に左腕を斬り飛ばされていたイビルニア人が、狂ったように襲い掛かって来た。インギは、剣を持つと常に練気を意識している。この瞬間も剣に気を溜め込んでいる想像をしながら戦っていた。イビルニア人の振るった剣を弾き返し続けざまに首を斬り落とした。インギは、不満だった。本当に練気を帯びた剣なら先ほどのイビルニア人が放った一撃を弾き返した時、剣ごと叩き斬っていたはずだと。

 「違う…こうではない」

 一人悩んでいると家臣達の助けを求める声にふと気が付いた。

 「へ、陛下お助け下さい、くっ、や、やられる!」

 「いかん、うおらぁぁ」

 インギは、残った下位のイビルニア人達の首を刎ねていった。家臣達は、身体中あちこちを斬られてフラフラになっていた。

 「お前達、大丈夫か?」

 「ははっ…何とか大丈夫です」

 「しかし、情けない、日々の修練が足らん証拠だな」

 そう言うとインギは、また魔導車に乗り込み家臣達は、うのていで魔導車に乗り込んだ。そして、また魔導車を走らせレン達の居るイビルニア城を目指した。二時間ほど魔導車を走らせた辺りで各国の軍隊の仮陣屋が見え始めた。インギは、速度を落とし自国の陣屋を探した。

 「どこだ我が国の陣は…ん?おおあんな所に国旗が!」

 インギは、ランドール国旗を掲げた仮陣屋を見つけそこを目指した。魔導車を仮陣屋前に停め陣屋に入って行った。インギに気付いた士官達は、驚いていた。

 「へ、陛下!どうなさったのですかこのような所に」

 と、士官達は慌ててインギの前に整列した。そして、士官達一人一人に労いの言葉を掛け言った。

 「余は今からラーズ達のもとへ行く」

 「なな、何とおっしゃられますか、危険です!お止め下さい」

 「はははは、そう言って俺を止められると思っているのか、息子のラーズが戦ってるんだ親の俺に指をくわえて見てろと言うのか?今日こそ練気を極めてやる二十年以上頑張って来たんだ、たかが一年足らずの修行で練気を体得した息子に負けてられるかよ」

 と、言ってインギは、陣屋を出て連れて来た五人の家臣を残し一人、魔導車に乗り込みイビルニア城内に入って行った。結局五人の家臣達は何をしに来たのか分からず呆然とインギの乗る魔導車を見送った。陣屋内に居た士官達は、やれやれといった顔をして言った。

 「全く、血の気の多い王様だ…お若い頃から変わらん」

 インギは、魔導車の速度を思い切り上げ走らせた。あっという間にレン達が居る内郭うちぐるわの城門前まで辿り着いた。急に現れた魔導車を見て休息していたレン達は、驚いた。

 「誰だよ、ここには来るなと言ってあるはずだぞ、何の用だ!」

 と、何も知らないラーズが怒った様に言った。魔導車の中から低い笑い声が聞こえて、まさかイビルニア人が乗って来たのかと誰もが思い身構えた。

 「俺だ、戦いに来た、ベルゼブはどこだ?」

 と、言いながらインギが魔導車から降りて来た。

 「父上?」

 「インギではないか」

 と、インギに気付いた皆がまた驚いた。アストレアや龍神は、呆れ顔でインギに言った。

 「あなたって人は一体何を考えているの?家臣も連れずこんな所にまで来て」

 「全く、何を考えておるのじゃ」

 「家臣とは途中まで一緒に来たさ、だがここには練気を使える人間しか居れんのだろ?俺は今日こそ練気を体得するために来たのだ、で、ベルゼブはどこだ?」

 と、インギは、辺りを見回した。目に入ったのはレン達とドラクーン人、エンジェリア人、獣人だけでベルゼブの姿が無い。ラーズがあれだよと指をした。インギは、息子が指した方に目をやった。

 「何だあの黒い塊は?」

 「ベルゼブが結界を張ってるんだよ、ああやって天照鏡の光りから逃れてるんだ」

 「ほう、では今が攻撃の好機ではないか、何故攻撃せんのだ?」

 と、言いながらインギは剣を抜いた。

 「やっても無駄だよ、おやっさん、さっき俺達が散々やってみたが駄目だった」

 と、マルスが言った。今は完全に夜が明けるのを待っているとも言った。インギは、つまらないといった顔をしてその場に座り込んだ。

 「全く、あなたは若い頃と変わりが無いようね、何度も死にそうになってはフウガやヨーゼフに助けられたというのに、まだ懲りないの?」

 と、アストレアが言った。

 「女王、息子の前で昔の事を言わんでくれよ、俺だって悔しいんだ師匠達から練気を教わったのにとうとう使えず戦争が終わり、それから二十年以上修行を積んでも出来なかった、なのに息子ときたら一年足らずで体得した、だから俺もこの地で戦えば体得出来るかも知れんと思って来たのだ」

 と、インギが鼻息を荒げて言った。ラーズがばつの悪そうな顔をしていた。

 「そんな事でわざわざ危険を冒してこんな所にまで来たのか」

 と、アンドロスが呆れて言った。隣でベアドがクスクス笑っている。インギは、大真面目な顔をして言った。

 「あの時、師匠達の人間離れした強さを見て俺は感動した、俺もいつか必ず練気を使いこなせる剣士になりたいと思った、練気を使えるようになる事が俺の夢なんだ、師匠達の様に練気を自在に操れる剣士になりたいのだ」

 子供の様な目をして夢を語る父インギにラーズは、感動した。国王となっても日々の修行を欠かさない父を見ている。父の熱い思いにラーズは、感動したのだった。

 「父上、やりましょう、必ずこの地で練気を体得しましょう」

 「おおラーズよ、分かってくれるか父の思いを」

 と、親子は手を握り合った。そんな親子のやり取りをマルスは、呆れ顔で見ていたが、レンは少し羨ましく思って見ていた。そうこうしている内に空が白んで来て夜明けを告げた。レン達は、天照鏡の光りが弱まっている事に気付き、結界を張り光りから身を守っているベルゼブを警戒した。真っ黒い結界の色が薄くなってきていた。ベルゼブの姿がハッキリと分かるまで結界の色が薄くなった時、天照鏡は完全に光らなくなった。マルスが慌てて鏡を鞄にしまい込んだ瞬間、ベルゼブは結界を解き全身から衝撃波を放った。

 「うわっ!」

 「きゃあ」

 レン達は、衝撃波で吹っ飛んだ。ベルゼブの雄叫びが外郭そとぐるわ中に響いた。

 「グルゥゥゥ夜のうちにお前達を始末出来ると思っていたが、まさかそんな鏡を持っていたとはな、まぁ良い昼も夜もたいして変わらぬグルフフフ」

 「久しぶりだな、ベルゼブ」

 と、インギは、大胆にも声を掛けた。ベルゼブがインギを見て少し首を傾げて言った。

 「んん?おお、誰かと思えばフウガ・サモンやヨーゼフ・ロイヤーの尻にくっついてた小僧ではないか、ここにフウガやヨーゼフはおらぬぞ、良いのか?」

 「確かにあの時は師匠達の後ろで俺は戦った、しかし今日は違うぞベルゼブ、俺が師匠達に成り代わり貴様に引導を渡してくれる」

 と、インギは言って剣を抜き斬りかかった。

 「インギ止めなさい!」

 「無茶じゃ!」

 と、アストレアと龍神が言ったが、インギとベルゼブの対決が始まってしまった。インギは、日々の修練のかいあって良い働きを見せた。レン達もインギがこれほど強いとは思ってもいなかった。

 「ほほう、なかなかやるようになったな小僧、しかしお前達の言う練気を使えねば余の身体に傷を負わせることは出来ぬぞ」

 と、ベルゼブが言い、インギに激しく斬りかかった。インギは、何とか防いでいるが練気を帯びていない剣に限界が来ていた。ベルゼブは、昨日テランジンに左腕を斬り落とされ、右腕だけで攻撃しているとは思えない程の攻撃を受けとうとう剣が折れてしまった。折れた刀身が地面に突き刺さった。インギは、咄嗟に跳び下がり間合いを取った。

 「小僧、お前は他の者と違い練気が使えんようだなグルゥフフフ」

 「う、うるさい!ラーズ、剣をよこせ」

 「父上、もう止めて下さい、後は我々が何とかしますから引いて下さい」

 と、ラーズは、父インギに言った。インギがいくら強くても練気技が使えなければ剣が直ぐに折れてしまう。その事は、インギが一番良く分かっていた。しかし、インギにも意地があり諦めきれなかった。インギは折れた剣を持ちベルゼブに挑んだ。

 「やめて下さいインギ王!」

 と、レンが真空斬をベルゼブに放とうとした時、インギが叫ぶように言った。

 「レオニール殿、助太刀は無用!俺は国王である前に一人の男だ、この勝負で死んでも後悔はせぬ、ラーズ、父の生き様をとくと見よ!おりゃぁぁぁ」

 「父上!」

 インギは、折れた剣でベルゼブに斬りかかった。ベルゼブは、馬鹿馬鹿しいといった風に素手で相手をした。インギの攻撃は、ことごとくベルゼブに防がれ全身を殴られた。ベルゼブの練気を帯びたこぶしが容赦なくインギを襲う。鎧を着ていてもその衝撃は、身体に伝わる。

 「ぐはぁぁ」

 と、インギが血を吐いた。折れた剣を地面に突き、膝立ちになってベルゼブを見上げている。

 「グルゥフフフ、お前の様な小僧に剣など不要このまま殴り殺してくれる」

 「ふふふふ…ベルゼブよ、俺はとうとう開眼したぞ、ラーズよ、良く見ておけ」

 そう言うとインギの両手が淡く光り出した。そして、その光りが折れた剣に集まり出していた。レン達は、インギがラーズ同様にこのイビルニアの地で覚醒した事を感じた。ベルゼブもインギの様子が一変した事に気付き飛び下がった。そして、剣を構えようとした瞬間インギの真空斬がベルゼブの右腕を斬り飛ばした。

 

 

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