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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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折れた斬鉄剣

 レンは、斬鉄剣を構えアルカトの動きに注意しながらじりじりと間合いを詰めた。アルカトは、剣を構える事無くだらりとさせレンの動きを見ている。最初に攻撃に出たのはレンだった。アルカトに鋭く斬りかかった。アルカトは、レンの攻撃を受け止め鍔迫り合いとなった。

 「うぅむ、良い一撃だった、フウガ・サモンはちゃんとお前に剣術を教えていたようだな」

 と、アルカトは真面目な顔をして言った。レンは、不思議に思った。目の前のイビルニア人がイビルニア人でない気がしたからだ。一般のイビルニア人からは特有の嫌悪感を感じるし四天王のジルド、グライヤー、フラックからは嫌悪感を感じないが、別の得体の知れない何かを感じた。しかし、四天王であるアルカトからは、何も感じないのであった。しばらく鍔迫り合いが続いたがアルカトに押し倒されたレンは、素早く体勢を整え真空斬を放った。その真空斬の真空波をアルカトは、剣で弾き返した。

 「まだまだだな…フウガ・サモンには遠く及ばない」

 「くっ…」

 レンは、気を練り気を十分に斬鉄剣に込めた。刀身が淡く光り出している。それを見てもアルカトは落ち着いていて、まるで攻撃が来るのを待っている様だった。レンは、意識を集中させアルカトの顔目掛けて真空突きを放ったが、アルカトは紙一重で避けた。頬が軽く裂け黒っぽい血が吹いた。

 「ほほう、今のはなかなか良かったぞレオニール、では私も少し攻撃に出ようか」

 そう言うとアルカトが一気にレンとの間合いを詰めた。アルカトは、剣の柄でレンの腹を突いた。甲冑を通してレンの身体に衝撃が走る。

 「ぐっ!」

 吹っ飛ばされ倒れたレンは、直ぐに立ち上がろうとしたが痛みで思わず膝をついた。結界の外でマルス達が何か叫んでいるようだった。

 「何やってんだあいつは!」

 「おらぁ立てレン、しっかりしろ!」

 マルスとラーズは、助けに行けないもどかしさを解消しようと怒鳴り散らしていた。傍でシーナが耳を塞いでいる。

 「ああもう殿様ぁ頑張れ!」

 と、カイエンもギャーギャーわめいている。テランジンとドラコ、ベアドだけが静かに見守っていた。

 「さぁ立てレオニール、外の者が騒いでいるぞ」

 「い、言われなくとも…」

 レンは、立ち上がり斬鉄剣を構えた。アルカトは、ゆっくりとレンに近付き斬りかかって来た。アルカトの攻撃を全て受け防いでいるが、背の高いアルカトにレンは、押され気味だった。上から振り下ろされる刃を受け止めたが重みで体勢が崩れた所をアルカトの蹴りがレンを襲う。

 「うわぁぁ」

 蹴り飛ばされたレンは、仰向けに倒れた。甲冑を通して来る蹴りの衝撃が身体の自由を奪う。アルカトは、蹴り飛ばした場所から動かずレンが立ち上がるのを待っている。

 「どうしたレオニール、お前のあの女に対する想いはこの程度なのか?」

 「な、何?」

 と、レンは、必死で立ち上がった。アルカトは、興味深げに見ている。レンは、斬鉄剣に気を溜め直接アルカトに斬りかかった。アルカトは、レンの攻撃を受け止めまた鍔迫り合いになった。

 「なるほど、面白いな人間は、その湧き出る力の源は愛と言うやつか…聞きたい事がある、レオニール愛とは何だ?」

 「えっ?」

 レンは、目の前のイビルニア人から「愛」と言う言葉が出るとは思ってもいなかったので酷く動揺した。

 「答えよ…愛とは何だ?」

 「な、何を言ってるんだ?ぼ、僕をからかっているのか?」

 レンは、思わず跳び下がった。アルカトが他のイビルニア人とは違うとは思っていたが、あまりにも違い過ぎて言葉が出なかった。

 「あいつら何を話してるんだ?」

 と、結界の外でマルス達は、レンとアルカトの会話を聞こうとしたがはっきりと聞こえなかった。

 「かつて…フウガ・サモンが私を倒した時に言った、人は守るべきもののためなら命をかけられる、人間には愛があるからだと…レオニールお前の守るべきものとは何だ?」

 と、アルカトは言った。

 「ぼ、僕の守るべきもの…」

 レンの頭の中で色々な人や物、光景が浮かんだ。今まで深く考えた事もなかった。それは当たり前の事と思っていた。アルカトに質問されて初めて気付いた気がした。

 「全て…僕の守るべきものはこの世の全てをお前達イビルニア人から守る事だ」

 「ほぅ、この世の全て…違う私の考えている答えではない」

 「何を訳の分から、うっ!」

 レンが言い切る前にアルカトが一瞬で間合いを詰め剣の柄でレンの腹を突いた。甲冑を通して衝撃が背中から抜けた。

 「ぐはぁぁぁ」

 レンは、血を吐きその場にうずくまった。アルカトは、レンを散々足蹴にし最後に思い切り蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたレンが、マルス達の目の前まで転がって来た。

 「レンッ!しっかりしろ!」

 「若っ!」

 結界の外で必死にマルス達は、声を掛けた。しかし、レンはピクリともしない。まさか死んだのではないかと思った。

 「おい、死んだんじゃないだろうな」

 「殿様ぁ、殿様が死んじゃったらエレナさんはどうなるの?殿様頑張って!」

 と、シーナが言った時、レンの指が少し動いた。その様子をアルカトは、真剣な目で見ていた。

 「そうだ、お前が死んだらエレナはどうなるんだ!しっかりしろ!」

 「立てレン、エレナの心を取り戻すんだろっ!」

 マルスとラーズが叫ぶように言った。すると少しづつだがレンの身体が動き出した。血を吐きながら立ち上がろうと必死に身体を起こしやっとの思いで立ち上がったレンは、斬鉄剣を構えた。

 「そうか、女の名はエレナと言うのか心を奪った時は気にもしなかった…さぁレオニール、エレナの心を取り戻すには私を倒すしか方法は無いぞ」

 と、アルカトが両腕を広げて言った。レンは、力を振り絞りアルカトに斬りかかった。今までに見せた事のない連続攻撃を見せた。

 「うぉぉぉぉ」

 「おお、良いぞレオニール、動きが良くなった、そうだもっと来い」

 アルカトは、レンの攻撃を全て防いでいる。撃剣の音が大広間に鳴り響く。結界の外でマルス達は、固唾を飲んで見守っていた。

 「これが愛の力かレオニール、エレナに対するお前の愛か?だが甘い!」

 「ぐふっ!」

 レンの攻撃を払いのけたアルカトが、素早くレンの斬鉄剣を持つ右手を掴むと腹に膝蹴りを入れ投げ飛ばした。

 「まだまだ、痛めつける必要があるな…フウガのように」

 そう言うとアルカトは、ゆっくりと投げ飛ばしたレンに近付きまた散々に足蹴にした。レンは、顔や頭を守るのに精一杯だった。

 「ああもう、何やってんだあいつは!」

 と、マルスが頭を抱え込んだ。

 「ううむ…アルカトめフウガの時と同じじゃ」

 「同じって?」

 と、ベアド大帝の言葉に皆が反応した。

 「あやつはああやって人を試しておるんじゃ、愛の力を知るためにな」

 「愛の力?イビルニア人がそんな事知ってどうすんだよ?」

 と、マルスが驚いて言った。

 「フウガがアルカトを倒した後に聞いた話しじゃが、アルカトは戦いの最中、愛とは何だと聞いて来たと言っていた」

 「で、フウガは何て言ったんだよ?」

 「ふむ、愛とは人を思いやり慈しむ心、人は守るべきもののためなら命を懸けられる、それが愛だと言ったそうじゃ」

 「ふぅん」

 マルス達は、アルカトが本当にイビルニア人なのか分からなくなってきた。

 「さぁレオニール立て、お前のエレナに対する想いはその程度か?人は愛があるから強くなれるのだろう」

 と、アルカトがレンの頭を踏みしめながら言った。レンは、アルカトの足を掴み押しのけようと力を込めた。アルカトは、レンの頭から足を離し軽く跳び下がってレンが立ち上がるのを待った。レンは、フラフラになりながらも何とか立ち上がった。アルカトが満足そうに見ている。

 「そうだ、それで良いレオニール、私にお前の愛の力を見せてみろ」

 「はぁはぁ…ぼ、僕の愛の…ち、力…」

 レンは、ゆっくりと斬鉄剣を構え気を練り始めた。満身創痍で上手く気を練る事が出来ない。アルカトが初めてまともに剣を構えた。それを見たレンは、背筋が凍る思いがした。今まで構えを取らず剣を持つ手をだらりと伸ばし自分の攻撃を防いで攻撃してきただけでも強いと思っていたのに今度は、まともに構えを取っている。剣の構えには理由がある事を知っているレンは、迂闊に攻撃に出る事が出来なかった。

 「どうしたレオニール、怖いか?フウガに剣を教え込まれているのだろう?私が構えを取っただけで攻撃出来ないとはどういう事だ」

 レンは、答えなかった。ただ、気を練る事だけに集中した。アルカトも気を練っているのか剣が淡く光り出している。そして、剣に十分気を溜め込んだ二人は、じわじわと間合いを詰め始めた。互いの間合いに入った瞬間、二人は同時に攻撃に出た。激しい剣の撃ち合いになった。撃剣の音だけが大広間に響く。結界の外のマルス達が声を張り上げレンを応援した。レンとアルカトは、撃ち合っては跳び下がりまた撃ち合っては跳び下がり、互いに致命傷を与える事無く撃ち合いを続けていた。

 「なるほど、さすがにフウガに鍛えられただけはあるな、剣の筋は良い、しかしその斬鉄剣…使い手が変わるとまるで別物だな、はぁぁぁ!」

 と、アルカトが渾身の一撃を放った。それをレンが受け止めた時、ガキィィィィンと音を立て斬鉄剣が折れた。折れた刀身が石の床に突き刺さった。

 「あああああ!斬鉄剣が!」

 と、結界の外のマルス達が叫んだ。レンは、一瞬何が起きたのか分からなかった。戦いの中、レンは呆然と折れた斬鉄剣を見つめていた。アルカトからすれば直ぐにでも殺せる状態だったが、軽く跳び下がって斬鉄剣を見つめるレンの様子を見る事にした。

 「な、な、何で折れた…おじいさんの斬鉄剣…何で」

 「それはお前が未熟だからだ、レオニール、今までよく折れなかったな」

 と、アルカトは、呆然と立ち尽くすレンに言った。

 「あの馬鹿何やってんだ、不死鳥の剣があるだろっ!」

 「早く不死鳥の剣を抜けよ、レンなにやってんだ!」

 と、マルスとラーズがイライラして怒鳴った。いつ斬られてもおかしくない状況だったからだ。アルカトがゆっくりとレンに近付きいよいよ斬られるとマルス達が思った時、何とアルカトは、素手でレンを殴り倒した。殴られた痛みよりもフウガの形見でもある斬鉄剣が折れた事が衝撃的でレンは、身構える事さえ忘れていた。

 「どうしたレオニール、その刀が折れた事がよっぽどショックだったか、残念だよ私はもっと期待していたのだがね、愛の力でフウガと同じ力を見れると思っていたのに」

 そう言うとアルカトは、またレンを散々足蹴にし始めた。レンはただ耐えるしか出来なかった。自分の未熟さで大事なフウガの形見が折れてしまった事に罪悪感を感じた。レンは、心の中でひたすらフウガに謝っていた。

 「あいつ何で抵抗しないんだよ!あのままだと蹴り殺されるぞ」

 と、ラーズが怒りでわなわな震えながら言った。テランジンやドラコも焦り始めた。カイエンに至ってはもう訳の分からない事を喚き散らして発狂寸前だった。

 「レオニール、外の者が騒いでいるぞ、このまま私に蹴り殺されるのか?エレナの心と斬鉄剣を失い死んでいくのか?」

 「うっ、ううぅぅぅ」

 レンが呻き声を上げたその時、アルカトがレンを思い切り蹴り飛ばした。レンは、結界の壁に背中からぶつかりうつ伏せに倒れ込み動かなくなった。


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