テランジン復活
ベアド大帝達、ロギリア帝国軍が現れるとイビルニア城からイビルニア人の部隊が続々と出撃して来た。
「皆、一人残らず始末せい」
と、ベアドがフラックから目を離さず叫ぶとロギリア軍から雄叫びが上がり激しい戦闘が始まった。
「さぁわしらも始めるか」
と、ベアドは言い大きな斧を構えた。フラックと睨み合う事数分、ベアドが動きを見せた。大きな斧でフラックに斬りかかった。フラックは攻撃を受け止めたがその衝撃は凄まじくフラックの足が少し地面にめり込むほどだった。斧を振り払い後ろに跳び下がったフラックが真空魔波を放った。
「氷壁」
と、ベアドが斧を自分の目の前にかざし言うと氷の壁が現れ真空魔波を防いだ。
「くぅぅぅ…やはり一筋縄ではいかんなベアドは、ならばこれでどうだ!シェアアアッ!」
と、フラックはのこぎり状の剣をベアドに向けて振るうと剣は鞭の様に伸びた。
「フハハハハ、全くグライヤーの奴は本当に面白い物を作ってくれた、こいつでお前を絞め殺してバラバラにしてやる」
そう言うとフラックは、やたらめったら鞭状になった剣を振り回した。剣が蛇の様にベアドに襲い掛かる。
「大帝っ!」
「ふん、こんなもんどうと言う事ではないわ!うおりゃあっ!」
と、ベアドは、フラックに突進し体当たりをした。まさか突進して来るとは思ってもいなかったフラックは、まともに体当たりを喰らい吹っ飛んだ。倒れたフラックにベアドが白氷瀑斧を落とした。鋭く尖った氷柱がフラックの全身に刺さったが頭だけは、鞭状になった剣で守り抜いた。
「ふぅぅぅ危ない危ない、油断したわ、次はそうはいかんぞベアド」
と、フラックが素早く立ち上がりながら言った。その頃、右腕を斬り落とされたラーズがカイエンとドラコに腕を繋いでもらいながらランドール陣屋に運ばれていた。
「王子、何事ですか?」
「畜生腕をやられた」
カイエンとドラコの治癒の力で腕は繋がったが動かす事は出来なかった。
「ラーズ兄ぃ、しばらくの間右腕は使えねぇぜぇ、陣屋で大人しくしてるこった」
と、元の姿に戻ったカイエンが言った。カイエンもフラックに背中を斬られたが傷は既に塞がっている。ラーズは、じっとして居られないと言い張ったが、カイエンとドラコに今のあんたは足手まといだとはっきり言われふて腐れた。カイエンとドラコは、近くに居た士官にラーズを見張っておくよう言い残しレン達のもとへ戻って行った。レンとマルスは、ベアドとフラックの戦いを見ているしかなかった。戦いに入り込む隙がないほど激しい戦いを繰り広げていた。
「はぁはぁ…さすがに歳じゃな、疲れるわい…イビルニア人はええのぅ歳を取らぬ」
と、ベアドが斧を構えて言った。
「フハハハハ、獣人でも歳を感じるのか、お前ら獣人は人間に近いところがあるようだな、この勝負俺の勝ちだな、ハハハハハ」
と、フラックは高らかに笑った。そして、鞭状の剣を蛇の様に動かしベアドを襲う。剣先がまるで意思を持っているかのようにベアドの隙を見つけては突き刺していく。
「ぐっぐぅぅぅ、な、何のこれしきっ!そりゃあ!」
ベアドが剣先を斧で弾き間合いを詰めフラックの首根っこを掴み絞め上げた。
「ぐぐぐぅぅぅ、どこにそんな力が…ク、クソ…」
フラックは、ベアドの手を引き離そうと必死にもがいた。
「このまま首をへし折ってくれるわ、むうぅん」
と、ベアドが渾身の力を込めフラックの首を絞めた。フラックが苦しそうにもがく。
「かは…あああが…何てな」
「何?ぐわぁぁぁぁぁ」
フラックの持つ鞭状になった剣先がベアドの背中を刺した。フラックの首から手が離れベアドがその場に倒れ込んだ。
「フハハハハ、残念だったな、もう少しで本当に俺の首の骨を折れる所だったのになぁ、ハハハハ、がはっ!」
と、フラックが言っている所をマルスの強烈な真空突きが胸元に当たり吹っ飛んだ。
「調子に乗るんじゃねぇぞクソ野郎」
「大帝様!」
レンとマルスは、倒れ込むベアドに駆け寄った。
「しっかりして下さい」
「おおレオニール殿、マルス殿、わしも歳を取ったわいロギリアなら何とかなったかも知れんがイビルニアでは奴等の力は増幅しよる、悔しいが力及ばずじゃ」
と、ベアドがレンとマルスに半身を起こされながら言った。
「おのれぇ勝負の邪魔をしおって小僧がぁ」
フラックが怒り狂ってレン達に襲い掛かった。
「いかんっ!氷壁!」
と、ベアドが周りに氷の壁や天井を作り囲った。ガンガンと、フラックの持つ鞭状になった剣が襲い掛かる。
「この中に居れば当分は大丈夫じゃ」
その様子を見た獣人兵達がレン達に加勢しようと群がって来た。
「大帝様が危ないお守りしろ!」
と、獣人兵達がフラックに攻撃をかけた。
「雑魚共が邪魔をするな!」
と、フラックが獣人兵達に剣を振るった。剣が蛇の様に獣人兵達に襲い掛かり斬っていった。
「いかんっ!お前達止せ!離れろ!」
と、ベアドが氷壁の中から叫んだ。怒り狂ったフラックが次々と獣人兵達を斬っていく。それでも獣人兵達は、ベアドを守ろうと果敢に戦っている。
「止めろ…死人が増えるだけじゃ、皆引け引くのじゃ!」
と、ベアドが涙を流しながら叫んだ。その時、レン達の横を凄まじい勢いで真空波が通り過ぎフラックを直撃した。フラックが悲鳴を上げ吹っ飛んだ。
「誰だ?」
と、レン達は、氷壁の中から振り向くとテランジンの姿があった。その後ろにはカイエンとドラコの姿もあった。
「テランジン!」
「若、ご無事で?ご心配をおかけしました、これより先はこのテランジンにお任せ下さい」
そう言うとテランジンは、レン達の前に行き剣を構えた。ベアドは氷壁を解きレンとマルスに両脇を支えられ引き下がった。ベアドの傷を直ぐにカイエンとドラコが治療し始めた。
「貴様ぁやってくれたな、許さんぞぉ」
「ふん、別に許しを請う気はない、かかって来い」
と、テランジンとフラックの戦いが始まった。フラックは剣を鞭状からのこぎり状に変えテランジンに襲い掛かった。テランジンは、フラックの攻撃を易々と受け流しフラックの身体のあちこちを斬っている。
「テランジン何か変わったな…大きく見えるぜ」
「うん、人が変わったみたいだ、そうか…テランジンはシドゥと一緒に戦ってるんだ、僕には見えるよシドゥが」
「ああ、そうだテランジンはシドゥと共に戦ってるんだ」
レンとマルスには、テランジンの傍で共に戦うシドゥの姿が見える気がした。そこへベアドの側近が駆け寄って来た。
「大帝様、ご無事で?」
「おお、今治療中じゃで、歳は取りたくないのぅわしもそろそろ引退か」
「何を言うのですか、ところで今フラックと戦っている男、海賊ではありませんか」
「海賊じゃと?レオニール殿一体?」
レンは、ベアドと側近にテランジンの事を話した。
「なるほどテランジン殿はトランサーの方だったのですね、いやぁ私は以前海で彼に助けてもらった事があったのですよ、その時は確かに海賊でしたから」
と、以前、公用で他国に行く途中イビルニアの船に襲われた所をテランジン達海賊に助けられたとベアドの側近が話した。レン達は、テランジンとフラックの戦いを固唾を飲んで見守った。テランジンの気を帯びた剣が、フラックを襲った。フラックは、ズタズタに斬られた。左腕は筋を斬られたのかダラリと伸びている。これ以上やられては敵わないとフラックは、テランジンから間合いを広く取った。
「はぁはぁ人間のくせに生意気な、俺をここまで切り刻むとは」
「イビルニア人は痛みを感じないんだろ?だったら大した事はないだろう?」
と、テランジンがわざとらしく言った。痛みを感じない代わりに体力をかなり消耗している事が見て取れた。
「フフ、ならばこれでどうだ、迂闊には近付けんぞ、そりゃ!」
と、フラックがのこぎり状の剣を鞭状に変えテランジンに攻撃を仕掛けた。剣先が蛇の様にテランジンに襲い掛かるが、テランジンは落ち着き払ってその剣先をかわしている。
「フハハハどうだ!貴様をじっくりと痛めつけて殺してやる」
「おい、フラックとやら良いのか?俺からそんなに間合いを空けて」
「ど、どういう意味だ」
テランジンは、フラックの鞭状になった剣先を剣で叩き払い叫んだ。
「雷光斬」
レンが放つ雷光斬の数十倍もある雷がフラックを直撃し黒焦げになった。
「が、がは…な、何だと…」
フラックは、ふらふらになりながらも何とか立っていようとしている様だった。テランジンがゆっくりとフラックに近付いた。フラックは、テランジンの隙を見たのか攻撃しようとした。
「んん?何だ、腕が上がらん、な、なぜだ」
「痛みを感じないのは難儀だな、痺れている感覚すらないようだ立っているのが不思議なくらいだな」
と、テランジンがフラックに言った。フラックは、黒焦げになった顔を歪ませ腕を上げようとしたが上がらない。テランジンが丁度良い間合いに入った。
「終わりだ」
そう言ってテランジンは、フラックの首を刎ねた。頭がテランジンの足元に転がり胴体が仰向けに倒れた。何か言おうとしているフラックの頭をテランジンが踏みつぶした。その瞬間、周りに居た獣人兵士達や人間の兵士達から歓声が沸き起こった。
「テランジン」
と、レンとマルスが駆け寄った。テランジンは、レンに振り向くと跪いた。
「若、シドゥと共にフラックを討ち果たしました」
と、テランジンは、あくまで自分だけの力ではなくシドゥと共に倒したと強調した。
「うん、テランジンが戦ってる時に見えたよ僕達にもシドゥの姿が、さぁ」
と、レンは、テランジンを立たせベアドの前に連れて行った。
「トランサー王国海軍大将テランジン・コーシュであります」
「うむ、よくぞフラックを倒してくれた、ありがとう、その昔フウガやヨーゼフとここで戦っていた頃はわしがフラックを倒したのじゃがわしもジジイになったわい、ハハハハハ」
と、ベアドは豪快に笑った。その様子をイビルニア城の窓から見ている者が居た。アルカトである。
「ふぅむフラックまで破ったか、いよいよ私と対決する時が来たなレオニール…フウガに鍛えられたと言うお前の力…見せてもらうぞ」
フラックを倒したこの日、もうイビルニア人達が出て来そうにないので各国の軍は、一旦陣屋に引き返した。フラックを倒したと聞いたラーズがトランサー陣屋に来た。
「テランジンがフラックを倒したんだって、あ~見たかったな」
と、その場に居なかったラーズが残念がった。レンは、直ぐにトランサーに居るヨーゼフに魔導無線で連絡を取った。
「やぁヨーゼフ、テランジンがフラックを倒したよ」
「若、ご無事ですか?テランジンがフラックを倒したのですか?テランジンは無事ですか?」
と、ヨーゼフはシドゥが死んだ事もありテランジンの事を気にしていた。レンは、テランジンの今の状況を細かくヨーゼフに報告し国に送ったシドゥを含む戦死者が、そろそろ到着する頃だと言い、手厚く葬るよう命を出した。
「心得ました、このヨーゼフが責任を持って葬りまする」
と、ヨーゼフは答えた。それからレンは、エレナの事を聞いた。
「はい若、エレナ様の事はリリーやコノハ様カレン殿が見ておりますが最近少しやつれてきていると聞きました」
「やつれ…分かった早くアルカトを倒さないとエレナが死んでしまうかも知れないと言う事だね」
ヨーゼフは、しまったと思った。
「若、お待ち下さいアルカトは他の連中とは全く違いますぞ、フラックも確かに強いですがアルカトの強さは半端ではござらぬ、フウガ殿が死にかけたほどです」
と、ヨーゼフは慌てて言った。焦ってがむしゃらに戦って勝てる相手ではない事を伝えたかった。
「でも僕が一人で倒さないとエレナの心は戻って来ない、大丈夫、僕は必ずアルカトを倒しエレナの心を取り戻す」
そう言ってレンは、テランジンを呼びヨーゼフと話しをさせた。レンは、話しを聞かないようにして離れた場所からテランジンの様子を見た。テランジンは、子供の様な顔をして泣きながら話していた。シドゥの事を話しているのだろうと感じレンも思わず泣きそうになった。
この日の夜、各国の指揮官達がジャンパール陣屋に集まり話し合った。連日の戦闘で兵達は疲れ切っていると言い、しばらく攻撃を止め守りに徹し兵達を休ませてはどうかと話し合った。各国の指揮官達は賛成した。ベアド大帝は、ロギリア軍は到着したばかりだから警護は、ロギリア軍がすると言ってくれたので大いに助かった。そして、レン達もしばらく休みを取る事となった。




