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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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フラック現る

 シドゥの死は、直ぐにトランサー王国で政務を執っているヨーゼフに知らされた。シドゥの死の報告を受けた時、ヨーゼフは信じなかった。

 「馬鹿な、間違いではないのか?あの男が死ぬはずがないわ」

 「閣下、私もそう思いたいのですが…」

 と、報告に来た者が聞いた話しを詳しくヨーゼフにした。

 「何?レオニール様が直接お話しになられたのか…ぐぅぅぅぅ」

 と、まさかレン自ら魔導無線で国に報告したとは思いもよらなかったヨーゼフが椅子にへたり込んだ。しばらく無言で放心していた。テランジン同様に息子の様に思っていたシドゥの死は、ヨーゼフを深い悲しみの中に陥れた。

 一夜明け、イビルニアのトランサー陣屋で戦死した者達に防腐処理を施して国に送る準備がなされていた。その中にシドゥの亡骸があった。一般の兵の死体袋とは違い、士官のそれも軍の最高階級のシドゥの死体袋は、一目で分かるようになっていた。

 「シドゥ…後の事は俺達に任せて安らかに眠れ、おやじが待ってる」

 落ち着きを取り戻したテランジンが死体袋を閉める前に最後の別れを言った。おやじとは、ヨーゼフの事である。皆が居る時は、閣下と呼んでいるがシドゥと二人きりの時は、おやじと呼んでいた。レン達は、直ぐにその意味が分かりヨーゼフを思うと辛かった。

 連日、戦死者は各国元に送られる。この日レン達は、シドゥや他の戦死者を送るため内郭うちぐるわから外郭そとぐるわに出る城門付近まで付き添った。

 「ちゃんと船まで送ってくれよ、頼んだよ」

 と、レンは戦死者を占領した港に停泊させてある輸送船まで送り届ける兵士達に言った。兵士達は、最敬礼をして答えた。

 「ははっ必ずや無事に船まで送り届けます」

 レン達が陣屋に引き返そうとした時、事が起きた。

 「けっ!大将が死んだのか…前線にでも立ってたのか?間抜けな大将だな」

 と、ある国のガラの悪い兵士がシドゥの死体袋に気付き呟いたのをテランジンは、聞き逃さなかった。

 「おい、今言ったのは貴様か?」

 「はぁ?何だてめ、あっ」

 と、テランジンの階級章を見て大将だと気付き兵士が慌てて敬礼しようとした瞬間、テランジンの固い拳が兵士の横っ面を襲った。兵士は、顔を歪ませ数メートル飛んだ。さらにテランジンは、兵士の胸ぐらを掴み殴り倒した。殴られた兵士は、自分が無意識で言った事なのでなぜ殴られているのか分からずただヒイヒイ言って恐れていた。

 「も、もうよせテランジン死んじまうぞ」

 と、マルスとラーズが止めに入った。そこへ殴られた兵士の上官がやって来た。

 「何事かっ?!お前どうした?なぜ殴られている、貴様が殴ったのか?あっ」

 と、マルスとラーズに止められているテランジンの階級章に気付いた上官が敬礼した。

 「貴様の国の兵士は死んだ者への情けや労りが無いのか」

 と、テランジンが怒りで顔を真っ赤にして怒鳴った。そう言われた上官がカッとなり言い返した。それがいけなかった。テランジンは、マルスとラーズを振りほどき上官を突き倒し馬乗りになってボコボコに殴ったのだ。当然、各国の兵士達の目に留まる。

 「どうしたんだ?何があったんだ?」

 と、周りは騒然となった。マルスとラーズ、レンも加わり何とかテランジンを押さえ付けた。

 「もうよせテランジン、それ以上やったら本当にその人死んじゃうよ」

 「お放し下さい若、シドゥを馬鹿にした奴を放っては置けません」

 周りに居た兵士達は、レンとテランジンがトランサー人たど気付き、死んだシドゥに何か無礼な事を言ったのだろうと悟った。

 「おいあんた、俺はジャンパールのマルス・カムイ皇子だ、あいつ親友をられて気が立ってるんだ、そんな時にお前の部下が無礼な事を言ったんだよ、分かったか?分かったらさっさと行け」

 と、マルスが上官に言うと上官は、フラフラになりながら部下を連れて逃げる様に自分の陣屋に帰って行った。レン達も陣屋に戻った。しばらくすると殴られた兵士の国の士官がトランサー陣屋に抗議に来た。

 「どんな無礼な事を言ったのか知らないがあそこまでやる事ないでしょう」

 「ああ、やり過ぎたよ悪かった」 

 と、テランジンがぶっきらぼうに謝った。レンは、こんな時ヨーゼフが居たら丸く治めてくれただろうと思った。しかし、ヨーゼフが居ない以上、自分がしっかりしなければならない。

 「本当に申し訳ない、家臣には二度とあのような事を起こさぬようしっかり言い聞かせるので今日の所はこれで勘弁して頂きたい」

 と、レンは椅子から立ち上がり殴られた兵士の国の士官に頭を下げた。士官は、目の前の美少年がトランサー王国の王子だと気付き自分も椅子から立ち上がり言った。

 「レオニール王子自ら仰られるのであれば私は何も申す事はありません、これで失礼します」

 そう言って士官は帰って行った。

 「若、申し訳ありません」

 と、テランジンがレンに頭を下げた。レンにはテランジンの気持ちが痛いほど分かる。もしもマルスが死に同じような事があればきっと自分もテランジンの様にしていただろうと思った。

 「もう立派な一国の主じゃなレオニール殿」

 「龍神様、そ、そんな」

 と、龍神に言われレンは照れた。

 「フウガもさぞ喜んどるじゃろうて、さてテランジン殿そなたには心の休養が必要じゃ前線には出ず、しばらくはこの陣屋で戦の指揮を執る事じゃ」

 「それは…」

 出来ないとテランジンが言うより早くレンが言った。

 「これは命令だ、テランジンはここで龍神様と指揮を執るように、シーナ、テランジンの傍に居てあげて」

 シーナには、癒しの力がある事を知っているレンが言った。シーナが傍に居ると不思議と心が穏やかになる。親友を亡くし荒れたテランジンの心には、シーナの癒しが必要だとレンは、思ったのだ。テランジンは、込み上げる涙に耐えレンの命令を受けた。そんな時、陣屋内に女の悲鳴が上がった。建屋から救い出した女の一人が半イビルニア人を出産しようとしていた。

 「あああ、産まれるぅぅ助けて…」

 と、他の女にしがみ付いていた。

 「ここで産むしかないよ、さぁ頑張って」

 レン達、男にはどうする事も出来ない。シーナが立ち会い出産が始まった。他の女達に囲まれ女は、痛みに必死に耐え半イビルニア人を産み落とした。見るに堪えない醜い姿をしていた。

 「うへぇ~何…気持ち悪い」

 と、シーナが青い顔をして言った。

 「こ、こんな化け物を私達は産まされてたの…う、ううう私のおなかにもこんな化け物が…」

 と、傍に居た女が言い泣き出した。シーナは、産み落とされギャアギャア泣く赤ん坊の半イビルニア人をボロ切れで包むとレン達のもとへ連れて行った。その姿を見てレンは、思わず吐きそうになった。

 「こんなとこに連れて来るんじゃねぇ、さっさと始末しろよ」

 と、マルスが不快な顔をして言った。カイエンがシーナから引っ手繰たくるようにして取り上げるとそのまま陣屋を出て地面に思い切り叩き付けた。赤ん坊はベシャリと潰れ死んだ。念のためカイエンは、龍の姿に変身して赤ん坊の死骸を焼き払って灰にした。

 「へっ灰にしてやったぜぇ」

 と、カイエンが戻って来た。マルスがご苦労と言ってカイエンに椅子を用意してやった。

 「龍神様、女達の腹の中のイビルニア人、どうにかなりませんか?」

 と、ラーズが龍神に聞いた。龍神は、コルベと相談しドラクーン人の治癒の力を持ってすればもしかすると消し去る事が出来るかも知れないと言った。産まれそうな者は、産んで赤ん坊を殺す事にした。そして、ドラクーン人達の治療が女達に施された。腹の中の胎児を腫瘍に見立てて消し去っていった。

 「ふぅ、これでもう大丈夫だ、そなたの腹の中の化け物は消えた」

 と、シーナの兄ドラコが女に言った。女達は、涙を流し喜びドラクーン人達に礼を言った。そして、女達を各国元へ帰れるよう手配した。

 その頃、ラーズの母国ランドール王国では、父インギ王が息子の活躍を聞いて大喜びしていた。

 「そうかそうか、ラーズがグライヤーを討ち取ったか、うむ良くやってくれた」

 「はい、陛下、真空斬も使えるようになったとの事、より一層ご活躍される事でしょう」

 「それとトランサー王国の陸軍大将シドゥ・モリア殿が討ち死にされたようです」

 「何っ?!シドゥが…何と…」

 と、家臣二人を前にしてインギは言葉を失った。シドゥの事は、インギも良く知っている。シドゥとテランジンがヘブンリーに行く前に一度会い、レン達と合流してからも会った。剣の師匠であるヨーゼフからは、まるで息子のようだと聞いていた。

 「師匠は辛いだろうな…よしトランサーに行くぞ支度せい」

 「ええっ?今からですか?」

 「そうだ、師匠に会いに行くんだよ」

 家臣二人は、この王様は言い出したら聞かない事を十分に知っている。仕方がないのでラーズの兄ヨハン太子にインギがトランサーに行くと言っていると話した。ヨハン太子も父インギの性格は十分知っているので止めなかった。

 「そうか、分かった国内の事は私とライン公に任せてお前達は父に従いトランサーに行け」

 「ははぁ、では行って参ります」

 と、家臣達は情けない返事をした。トランサーに行く準備を済ませたインギは、お忍びと言う形で家臣五人で港に向かった。荷物の中になぜか鎧があった事に気付いた家臣は、何やら嫌な予感がした。


 イビルニア城内郭うちぐるわでは、激しい戦闘が繰り広げられていた。シドゥの亡骸をトランサーに送ったレン達に報告が入った。

 「王子、たった今城門前にフラックなるイビルニア人が現れ大暴れしておりまする」

 「何?フラックだって?!大変だ」

 レンは、テランジンとシーナを陣屋に残しマルス、ラーズ、カイエン、ドラコと城門前に向かった。城門前では各国の軍隊がフラックと中位以上のイビルニア人と戦っている。

 「怯むなっ!押せ押せ!」

 と、指揮官が大声を上げている。リードニア王国の軍が自慢の重装兵達がフラックを取り囲み攻撃していた。

 「さぁどうしたもう終わりか?かかってこい、こいつでバラバラにしてやる」

 と、フラック自慢ののこぎり状の刃が付いた剣をひと舐めして言った。重装兵数人が死体となっている。城門前に到着したレン達は、フラックをロギリア帝国で一度見た事があったので直ぐに分かった。

 「あそこだ!駄目だそんな攻撃じゃ」

 「リードニアの部隊か、指揮官はどこだ?」

 レン達は、リードニアの指揮官を探し兵を下げるよう言った。指揮官は、頑固で絶対にフラックはリードニア王国が討ち取ると言って聞かなかった。

 「取り囲んで串刺しにしろ!」

 と、指揮官が重装兵達に叫んでいる。重装兵達は、必死でフラックに槍を突き入れるが、ことごとくのこぎり状の剣で振り払われた。

 「こんな程度で俺を倒せると思っているのか、ゴミ共め!」

 フラックがそう言うとのこぎり状の剣が妖しく光出し激しく振るった。リードニアの重装兵達がバラバラになった。それを見た指揮官は、かろうじて生き残った重装兵に引けと命令した。

 「あ、あんな奴どうやって倒すんだ…信じられん」

 「あんた達は他のイビルニア人を相手にしろ、あれは俺達で何とかする」

 と、マルスが指揮官に言った。そして、レン達がフラックの前に出た。

 「ほうほう、やっと現れおったか小僧共、ジルドやグライヤーを倒したくらいで調子に乗るなよ」

 と、フラックがレン達を見て言った。そして、レン達と四天王フラックの戦いが始まった。

 

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