間の子
朝になりイビルニア城の外郭に陣を敷く各国の軍が動き出した。伝令兵が忙しく馬で走り回っている。レン達トランサー軍も準備を進めて破壊した内郭の城門に向かった。昨日破壊出来なかった内郭の城壁の上からイビルニア人が大砲を撃ってきた。トランサー軍の隣りで進軍していた国の軍隊に命中し数十名が肉塊となり命を落とした。
「攻撃して来たぞぉー!応戦しろ」
と、その国の軍隊が大砲を引き据え攻撃して来た城壁に向かって大砲を放った。レン達トランサー軍も加勢し城壁を破壊した。城門付近では、既にジャンパール軍が激しい攻防戦を行っていた。マルスは、魔導戦車の上で胡坐をかいで戦を見ている。
「ふむ、今の所は我が軍が優勢だな、おいっ!一発お見舞いしてやれ」
と、マルスは魔導戦車の砲手に言った。砲手が顔を出しマルスに言う。
「殿下がそこにおられると撃ちたくても撃てませぬ」
そう言われてマルスは、ばつの悪そうな顔をして魔導戦車から降りた。マルスが降りた事を確認した砲手は、砲身に少し角度を付け城門に向け撃った。城門に群がっていたイビルニア人達に命中しバラバラになった。その隙にジャンパール軍が内郭に攻め入った。それをきっかけに各国の軍が内郭に進軍し守りに就いていたイビルニア人達を殲滅していった。レン達トランサー軍とラーズのランドール軍は、ジャンパール軍の近くに陣を敷いた。内郭は、外郭より狭く妙な建物が並んでいた。各国の指揮官達がジャンパールの陣屋に集まり会議を行った。
「ここは狭くて全軍を中に入れるのは困難ですな」
「左様、昔はもっと広く感じたんだが」
と、二十六年前の戦争を知る古参の士官が言った。
「それにしてもあの建物は何だろう?破壊するべきか…」
「いやお待ちを、あの中にひょっとしたらサウズ大陸の国から人質として連れて来られた王族や民が居るかも知れない、破壊は確認してからにしましょう」
と、シドゥが皆に言った。そうだったと、皆が納得した。そこで建物を調べる部隊を編成する事にした。少数で指揮はシドゥが執る事となった。調べに行く時間を夜明け頃とし指揮官達は、自分の陣屋に帰って行った。
「シドゥお前一人で大丈夫か?俺も行こうか」
と、テランジンが心配して言ったがシドゥは大丈夫だと言い断った。
「お前はレオニール様の傍に居てくれ、何があるか分からん」
「…うむ、分かった、気を付けて行けよ」
と、テランジンは言いシドゥの肩を叩いた。その頃、内郭にある建物の中では、人間の女の悲鳴が聞こえていた。
「もう嫌ぁぁやめてぇ」
「ホホホ、お前は何人産んだ?まだ産めるだろぉ」
と、グライヤーが女に言った。この建物でグライヤーは、イビルニア人と人間の間の子を作っていた。部屋には大きな試験管が大量に設置されていて、その試験管の中に産み落とされた間の子を入れ特殊な養液に満たし育てていた。女は固定され股を開かれている。
「さぁもっと産め」
と、グライヤーは、奇妙な器具を使って女の膣の中に黒い小さな玉を入れ込んだ。女は、狂ったように泣き叫んでいるがグライヤーは、気にもしない。
「次っ」
と、グライヤーが言うと女は、イビルニア人に別室に連れて行かれ、他の女が連れて来られ同じように固定され小さな黒い玉を入れられていた。
「グライヤー様、先に育てていた者共が十分に育ったようです」
と、上位のイビルニア人がグライヤーに報告に来た。試験管から出された間の子達がグライヤーのもとに連れて来られた。
「ホホ、皆ちゃんと人間らしいじゃないか、お前達がやる事は分かっているな?」
「はい、グライヤー様、人間を滅ぼす事です」
と、間の子達が口を揃えて言った。グライヤーは満足げに頷いた。間の子達は、試験管の中で人間を滅ぼすよう教育を受けている。
「そうだ、手始めに今内郭に居る人間共を皆殺しにせい、お前達なら昼間でもまともに戦えるはずだ、その力は十分に与えている、行け」
「ははっ!」
間の子達は、上位のイビルニア人に連れられ部屋を出て行った。別室に連れて行かれた女は、泣き疲れたのかうな垂れていた。この部屋は、グライヤーによって膣に小さな黒い玉を入れられた女で一杯だった。中には、腹が大きな女もいる。通常人間は、生まれるまで十ヶ月掛かるがイビルニア人の子を宿した女は、二週間ほどで産む。
「大丈夫、あなたどこから連れて来られたの?」
と、先に部屋に居た女が連れて来られた女に声を掛けた。
「わ、私はサイファからあなたは?」
「私はタンザよ、三人も産まされたわ、産むたびにあの気味の悪い赤ん坊の顔を見なきゃならない」
と、タンザの女は吐き捨てる様に言った。産まれたての赤ん坊はイビルニア人そのもののようである。サイファとタンザの女は、肩を並べて壁際に座って家族の事やここに連れて来られるまでの経緯を話した。
「私は親の借金で売られたの…騙されたのよ」
「私は旦那に裏切られたわ…旦那がイビルニア人の言う事を信じたせいで…」
二人は、手を取り合い泣き合った。産まれそうになった女がイビルニア人に連れて行かれるのが見えた。
「彼女はあれで五人目よ、かわいそうに…」
「そう…ところで今、世界中の軍隊がここを攻めてる事知ってる?もしかしたら私達助かるかも知れないわ」
「ホントに?じゃあ私達国に帰れるかも」
二人の女は、密かに希望を見出した。
夜明け頃になりトランサー軍の陣屋には、内郭にある建物の探索のため各国から選ばれた兵士達が集まっていた。指揮官は、シドゥである。
「では若、行ってきます」
「うん、気を付けてね」
と、レンが言った矢先に伝令兵が血相を変えて報告に来た。何事かと皆が伝令兵を見た。
「奇襲です!ジャンパール陣屋が襲われました、戦闘の準備を」
と、言うとまたどこかの陣屋に駆けて行った。レン達は、慌てて戦闘態勢を取った。探索のために選ばれた兵士達は各自の陣屋に戻って行った。
「奇襲だって?どこから攻めて来たんだ?城門は開いてないぞ、あの建屋か?」
と、テランジンが望遠鏡で建物を見たがイビルニアの兵士が居る気配はなかった。それに夜明け頃の奇襲は初めてであった。そこに、ジャンパールの伝令兵が馬で駆けて来た。
「レオニール様、急ぎ我が陣にお越し下さい、マルス殿下がお呼びでござる」
そう言われてレンは、テランジンとシドゥに後を任せカイエンを連れてジャンパール陣屋に向かった。奇襲を受けたジャンパール陣屋の被害は、兵士が二人殺された程度で済んでいた。奇襲に来たイビルニア人は、一人を除き皆殺しにしていた。
「レン、こいつの面ぁ見てみろよ」
と、生け捕りにしたイビルニア人を顎で指しながらマルスが言った。レンは、縄で縛り上げられているイビルニア人を見て驚愕した。
「そ、そっくりだ…夢で見たイビルニア人にそっくりだよマルス」
「夢?何の話しだ」
レンは、マルスに夢で見たイビルニア人の事を話した。マルスは、腕組みをしながら目の前のイビルニア人を見た。
「じゃあこいつは、人間との間の子って訳か…確かに島で見た奴よりはるかに人間に近いな、お前の親は人間か?」
と、マルスが訊問を始めた。イビルニア人は、何も答えようとせずじっとマルスの顔を見ている。マルスは、鞄から天照鏡を取り出しイビルニア人に向けた。鏡が光を放ちイビルニア人を照らした。
「ま、眩しい…止めてくれ」
と、言うだけでイビルニア人は、別段苦しむ様子が無かった。普通のイビルニア人なら気を失っているはずだった。レンとマルス、カイエンは顔を見合わせ驚いた。
「てめぇ何ともねぇのかよ?眩しいだけかぁ?」
「ああ、眩しいから早く止めてくれ」
レン達は、目の前のイビルニア人をまじまじと見た。上位者のイビルニア人でさえ光を嫌うのに目の前のイビルニア人は、光が通用しないのである。顔も人間と変わらない、よく見ると耳の先が少し尖っているだけであった。マルスは、天照鏡の光を消して言った。
「もう一度聞く、お前の親は人間か?」
「そうだ、俺は人間の女から産まれた、半分はお前達の仲間だ」
と、イビルニア人が不敵な笑みを浮かべて言った。その表情にイラッときたカイエンがイビルニア人をぶん殴った。
「何でぇその面ぁよぉ笑うんじゃねぇ、半分人間だか知らねぇがもう半分はイビルニア人だろうが、俺っちがぶっ殺してやる」
「ま、待ってカイエン!まだ聞きたい事があるんだ」
と、レンが慌ててカイエンを止めた。何とかカイエンを止めたレンが、イビルニア人に訊問した。
「ここのどこかにお前を産んだ人間が居るんだろ?どこに居るんだ、答えろ」
「それを聞いてどうする?助け出すつもりか」
「そうだ、世界中から人間の女をさらってお前の様な間の子を作っていた事は知っている、その可哀想な女達を救い出す、どこに居るんだ答えろ」
と、レンは珍しく声を荒げて言った。イビルニア人は、ヘラヘラ笑いながら答えた。
「へへっ自分で調べろよ、男女ぁハハハハハハハ」
久しぶりに男女と言われたレンは、カッとなり思わず腰に掛けている斬鉄剣の柄に手を伸ばした。その瞬間、マルスの蹴りがイビルニア人の腹を襲った。ぐぅぅぅと唸り声を上げイビルニア人は、悶絶した。
「見ろよ、人間の血が入ってる分、痛みは十分に感じるようだ…調子に乗りやがって女どもがどこに居るか吐かせてやる、素直に吐けば出来るだけ苦しまずに殺してやる、だが逆らえば生き地獄を見せてやる、どちらか好きな方を選べ」
と、マルスが言うと無言でイビルニア人は、レン達を睨み付けた。マルスは、ニヤリと笑い兵士を三人ほど呼びレンとカイエンにちょっと待ってろと言い残し陣屋内の間仕切りの裏にイビルニア人を連れて行った。拷問にかけるためである。マルスは、レンとカイエンに残酷なところを見せたくないと思ったのだ。しばらく間が空いてイビルニア人の悲鳴が聞こえた事で拷問が始まった事を知った。レンは思わず耳を塞いだ。
「さぁ吐け!女達はどこに居る?」
「ぐぅぅ自分で探せ馬鹿野郎」
「こいつっ!」
と、ジャンパール兵士は、イビルニア人の小指の先をやっとこで思い切りつまんだ。ゴリッと音がして小指の先の骨が潰れた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
「ほら、素直に吐かねぇからそうなるんだ、次はどの指を潰してやろうか」
と、マルスは腕組みをしながら言い兵士に親指をつまむよう指示を出した。
「うぉぉぉグライヤー様ぁ…はな、話しが違うぞぉ」
「何の事だ?関係ない事をしゃべるな、女はどこだ?」
と、マルスは冷たく言った。それでもイビルニア人は、グライヤーに言われた事を話し出した。
「我々には痛みは無いと言っていたではないかぁ、我々は…イビルニア人は…苦痛を感じないと」
「それは、お前に人間の血が流れている証拠だ、無駄に痛い思いをしたくなければ素直に話せ」
「わ、我々は選ばれた者だと…新しいイビルニア人だと」
全く話しを聞いていないと思いマルスは、兵士に親指を潰すよう指示を出した。兵士がイビルニア人の親指をやっとこで握り潰した。先ほどよりも酷い悲鳴を上げた。
「何が新しいイビルニア人だ、お前はグライヤーに利用されてるだけだ」
「わわ分かった、分かったからもう止めてくれ…俺達を産んだ女達はこの郭にある建屋に居る、本当だ信じてくれ」
と、泣きながらイビルニア人は答えた。最後にマルスは、間違いないなと確認し、間違いないと言ったイビルニア人の首を刎ねた。
「おい、女達はあの建物の中に居る助けに行こう」
と、間仕切りの内側から出て来たマルスが言いイビルニア城の攻撃を士官達に任せレン達とトランサー陣屋に向かった。陣屋で待っていたシーナ、テランジン、シドゥに建物に行くと告げた。
「では、兵を集めます」
「いや、時間が無い早く女達を助けてやらねぇとどんどん子を産まされるぞ」
「我々だけで行きますか」
と、テランジンが剣を取り言った。シドゥは、念のため陸軍の中隊長を呼び自分達だけで建物に行く事を話し援護するよう命令した。
「そうだ、ラーズの野郎も連れて行こう」
と、マルスは陣屋で馬を借りランドール陣屋に向かいラーズを連れて来た。
「女達を助けに行くんだって」
「うん、あの建物に居る事が分かったから」
そして、レン達はトランサー陸軍の中隊を引き連れ女達が居る建物に向かった。




