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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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ラーズの覚醒

 商人が指を鳴らすと突然イビルニア人達が十数人現れた。レン達は、慌てて剣を抜いた。

 「ふん、さすがに息子は親父おやじの様にいかなんだか、まぁ良いここで死ぬが良い」

 「やっぱりな、お前グライヤーだな、俺に香炉を見せた時ピンと来たぜ!ヨーゼフさんの話しを聞いていたからな」

 商人の正体は、南ランドールのライン・スティールの館に居た占い師グラウンことイビルニア四天王の一人グライヤーだった。ラーズの父、ランドール国王のインギ・スティールはかつてグライヤーに騙されて香炉を買いとんでもない目に遭っていた。

 「グライヤー…貴様ぁ」

 と、レンは斬鉄剣をグライヤーに向け言った。レンは、ラインの館でグライヤーに右腕を斬り落とされた事があった。

 「ふふ、小僧何だ腕がくっ付いているじゃないか、そこのドラクーンの小娘に繋いでもらったか…まぁ良い今度は手足をバラバラにしてくれるわ、お前達やれっ!」

 と、呼び寄せたイビルニア人達に攻撃命令を出した。

 「キィィィィ」

 「シャァァァァ」

 イビルニア人達が一斉にレン達に襲い掛かって来た。レンとマルスは、真空斬でイビルニア人達を斬っていく。シーナとカイエンは、すぐさま龍に変身して戦った。レンとマルスがラーズに駆け寄ろうとするがイビルニア人にはばまれ近付けない。

 「畜生、こいつら中位者だな、手強いぞ」

 「うん、早くこいつらを倒さないとラーズが…」

 レンとマルスの前に立ちはだかるイビルニア人は、不気味な笑い声を発している。

 「アノ男に加勢しようとしているのだろうがそうはさせん、ククク」

 「ここであのオトコが死ぬのを見ているんだな」

 夜のイビルニア人は強い。レンとマルスの目の前に居るイビルニア人の実力は、中位者ながら上位者と変わらない実力を持っていた。シーナとカイエンは、次々とイビルニア人を殺していたがレン達と同様に中位者のイビルニア人に阻まれていた。騒ぎを聞きつけた各国の兵士達が何事かとレン達の周りに集まり始めた。

 「何事か?あっ?!イビルニア人だ!イビルニア人が現れたぞぉー!」

 「ふん、己ら雑魚などこいつらと遊んでおれ」

 そう言うとグライヤーは、また指を鳴らした。兵士達の目の前にイビルニア人が現れ大乱闘となった。テランジンとシドゥも駆けつけて来た。

 「若っ!これは?」

 「ラーズが危ない、早くラーズのもとへ」

 「ははっ」

 テランジンとシドゥがラーズに加勢しようとしたがイビルニア人に阻まれた。ラーズは、剣を構えグライヤーと対峙している。ラーズは、じりじりとグライヤーとの間合いを詰め鋭く斬りかかった。グライヤーは、手にした杖でラーズの攻撃を防ぐと素手でラーズの腹を殴った。

 「ぐふっ!」

 腹を殴られたラーズは、跳び下がって間合いを空けた。痛みで膝をつきそうになったが何とか耐え剣を構えた。

 「お前はあの小僧共のように練気技を使えんようだな、そんな所も親父に良く似ている、フフフ」

 と、グライヤーは馬鹿にしたようにラーズに言った。その言葉がかえってラーズの闘争心に火を付けた。

 「うるさいっ!真空斬や雷光斬を使えずとも戦える事を証明してやる、おらぁぁぁ」

 と、ラーズは激しくグライヤーに斬りかかった。ラーズの凄まじい攻撃にグライヤーは、押されていた。身体のあちこちを斬られたが痛みを感じないイビルニア人にとっては無意味だった。

 「ほほほ、なかなかやるじゃないか、しかし」

 と、グライヤーが言うと杖の先でラーズの腹を突き蹴り飛ばした。ラーズは、一回転して態勢を整えたが腹の痛みで膝から崩れ血を吐いた。

 「ぐぅぅぅ…畜生…」

 「ククク、どうした小僧もう終わりか?大人しく香炉を買って焚いていれば痛い思いをせずに済んだものを馬鹿な奴だ」

 グライヤーがゆっくりとラーズに近付く。その様子を中位者のイビルニア人と戦いながら見ていたレンとマルスが、ラーズを応援した。

 「ラーズ頑張って、立つんだ」

 「ラーズッ!てめぇそんな奴に負けたら承知しねぇぞ」

 「へっ…分かってるよ、クソッたれ」

 ラーズがゆっくりと立ち上がり剣を構えた。そしてまたグライヤーに斬りかかる。しかし、ラーズの攻撃は全てグライヤーに防がれ反撃を受けた。杖で全身を叩かれ、もはや立っているのがやっとだった。

 「はぁはぁ…俺はまだ死んじゃいねぇぞ」

 「ほほ、人間とはなかなか丈夫に出来てるんだな、しかし飽きて来たそろそろ止めを刺してやろう」

 と、グライヤーはニヤリと笑いながら杖を構えた。ラーズは、無言で剣を構えている。

 (畜生、俺にも練気が出来たらこんな奴に絶対負けないのに…畜生、畜生、畜生…無駄だと分かっていてもずっと修業は続けて来た、血が何だってんだ、やれば出来るやれば出来る俺には出来る、ソフィア俺を導いてくれ!)

 「そうだっ!俺にも出来るんだ、うおぉぉぉぉぉぉ!」

 ラーズは、渾身の力を込めグライヤーに斬りかかった。剣が淡く光っている。それに気付かずグライヤーは、杖でラーズの振るった剣を受け止めたが、杖が真っ二つに斬れ刃がグライヤーの額を割った。

 「うおぉぉ!な、何だ今のは?」

 グライヤーは、跳び下がり自分の額を手で押さえた。ラーズの剣がまだ光を帯びている。練気で溜めた気が刀身に集中していた。その様子を見たレンとマルスは、驚いた。

 「ラーズお前…出来るようになったのか?」

 と、マルスが襲い来るイビルニア人の首を刎ねながら言った。ラーズは自分が持つ光を帯びた剣を見た。レン達の様に自分にも練気が出来ている事に気付き驚いた。

 「俺にも出来た、ついにやったぞ!ならばっ」

 と、満身創痍のはずのラーズの身体から力がみなぎって来た。イビルニア半島と言う過酷な環境下でラーズ・スティールと言う一人の男が覚醒した。

 「ぬぬ、一体どうなっているのだ?」

 グライヤーは、ラーズをまじまじと見た。さっきまでのラーズとは別人のように感じた。ラーズは、グライヤーに真空斬を三発放った。一発はグライヤーの右肩を切り裂き二発三発は避けられた。

 「どうした掛かって来いよ、ただの人間と馬鹿にした事を後悔させてやる」

 と、ラーズが言って練気を始め剣に気を溜め込んだ。

 「う~む、まさかこやつまで練気技が使えるようになるとは…戦い方を考え直さねばなるまい」

 そう言うとグライヤーは、紫色の小さな玉を取り出し地面に叩き付けた。もわもわと紫色の煙がグライヤーを包み込んだ。

 「あっ?!逃げるな!」

 と、ラーズは紫色の煙に向かって真空斬を放ったがそこにはグライヤーはもう居なかった。ラーズは気を取り直し周りに居たイビルニア人達を始末していった。

 「やっと片付いたな」

 と、グライヤーが呼び寄せたイビルニア人を全て殺し終わってマルスが言った。

 「ところでラーズ、いつから練気が出来るようになったんだい?」

 と、レンが斬鉄剣を鞘に納め言った。シーナ、カイエン、テランジンとシドゥがラーズに駆け寄って来た。ラーズは、自分で自分の事が信じられないといった顔をして話し始めた。

 「グライヤーにボコボコにされて立っているのがやっとだった時にどうやら目覚めたようだ、悔しくて何度も何度も練気の修行をしたのに何で俺には出来ないんだ、血が何だ?俺にだってやれば出来るんだって強く思ってたらいつの間にか練気が出来ていたみたいだ」

 「ふ~ん、死にそうになってやっと目覚めたのか」

 「どうやらそのようだな…あれ?何か変だな…目の前が…」

 と、ラーズは急に倒れ込んだ。

 「おいラーズしっかりしろラーズ…何だこいつ寝てやがるぜ」

 と、抱き起そうとしたマルスが言った。

 「いきなり出来るようになりあれだけ練気を使って疲れ果てたのでしょう、ランドールの陣屋に送って来ます」

 と、シドゥは言い、カイエンがラーズを抱き上げランドールの陣屋に向かった。レン達は、トランサー陣屋に帰った。マルスは、一旦ジャンパール陣屋に行き自分の無事を知らせるとトランサー陣屋に行った。

 「しかし、ラーズの奴やったな、とうとう練気を使えるようになりやがった、ヨーゼフが聞いたらきっと喜ぶぞ」

 「そうだね、南ランドールやヘブンリーであれだけ一生懸命練習してたのに結局、エンジェリア人の血が入ってないから出来ないなんてあんまりだと思ったよ」

 「でも何で急に出来るようになったんだろ?」

 と、レンとマルスが話しているのを聞いて龍神が答えた。

 「それはのぉこのイビルニアと言う特殊な環境下のせいですぞ、それに元々才能はあったのじゃラーズ殿にはのぉ、この地でグライヤーに叩きのめされて才能が開花したのじゃ」

 レンとマルスは、龍神の話しを真剣に聞いた。もしかすれば、また新たな力を得られるかも知れないと思った。

 「じゃあ俺達もここで修行したらまた何か力をつけられるのか?」

 「さぁそれはどうかなマルス殿、あまり多くは望まぬ事じゃ」

 と、龍神の言葉にレンとマルスは、黙り込んだ。そこにラーズをランドールの陣屋に送り届けたシドゥとカイエンが帰って来た。シドゥとカイエンを見るなりレンがラーズの様子を聞いた。

 「心配要りません若、ラーズ殿下はいびきをかいて眠っておられましたよ」

 と、シドゥがにこやかに言った。それを聞いたマルスが心配して損したと言うと皆が笑った。


 イビルニア城の広間では、グライヤーがフラックとアルカトに話しをていた。

 「まさか、あのランドールの小僧までもが練気を使えるようになるとは思わなんだわ」

 「ふぅむ…レオニール、ジャンパールの皇子、そしてランドールの王子…後二人練気を使える者が居たな…」

 と、アルカトが顎を撫でながら言った。フラックが面白くないといった顔をして言った。

 「誰だそいつらは?」

 「確かレオニールの家来だったな、ザマロ・シェボットを討ち取りに来た時二人は居た」

 「けっ、フウガやヨーゼフが居なくて少し安心していたが厄介なのが出て来たもんだ」

 と、グライヤーが傷の塞がった額に手をやりながら言った。

 「そう言えばあの連中…もう使えるんじゃないのかグライヤー」

 と、アルカトが言うとグライヤーがニヤリと笑い頷いた。

 「そうだ、やっと使う時が来た、連中があの島を占領した時に少しだけ投入したが、あれよりもっと人間らしくなった…面白くなるぞククク」

 「全くお前は妙な事を思い付くもんだフフフ」

 と、フラックがグライヤーに言った。

 

 マルスがジャンパールの陣屋に帰って行き静かになったトランサー陣屋でレン達は、明日の攻撃に備え眠る事にした。陣屋の外は、兵士達が交代で警護に就いている。レンは、妙な夢を見た。それは、イビルニア人と遊んでいる夢だった。走り回ったり取っ組み合って力比べをしたりしている。楽しく会話もしていた。話すイビルニア人の顔を見るとあの気分が悪くなるような醜悪な顔ではなく、人間とほとんど変わらない顔をしている。上位者のイビルニア人なのか分からない。そのイビルニア人は、レンに「殺してくれ」と言い消えて行った。夢から覚めたレンは、慌てて起きた。

 「な、なんだったんだ今の夢は…どうしてイビルニア人と遊んでたんだろ?殺してくれって…」

 カイエンのいびきが響く中、レンは、ぼんやりと夢で見たイビルニア人の事を考えた。何かとてつもなく嫌な予感がした。簡易ベッドに立て掛けていた不死鳥の剣を手に取り鞘から抜きその刀身を見つめた。相変わらず赤味を帯びた刀身をしている。

 「何だろう…この嫌な感じは…内郭うちぐるわに何があるんだ?駄目だ、嫌な事しか思い浮かばない…寝よう」

 そう言ってレンは、不死鳥の剣を鞘に納め今度は剣を抱いて眠る事にした。その頃、ランドールの陣屋では、ラーズが眠りから覚め興奮して起きていた。

 「ははっ俺にも練気が出来た、ソフィア見ていてくれ俺は必ずグライヤーを倒す」

 と、南ランドールで病で死んだ恋人のソフィアを想いラーズは、グライヤーを自分の手で倒す決意を固めた。

 


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