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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
81/206

商人

 夜の闇に紛れてレン達は、内郭うちぐるわの堀を目指して静かに走った。ジルドを倒したからか外郭そとぐるわ内には、イビルニア人が一人も現れなかった。それがかえってレン達を不安にさせた。

 「連中が出て来ないのは良いが、気味が悪いな…」

 と、テランジンが呟いた。このだだっ広い外郭を音を立てずにひた走った。

 「龍神様が言ったようにしたけど本当に黒い布を纏っただけで気付かれないのかな?」

 「奴らの目には仲間に見えると言ってましたが、本当に仲間に間違えられてはたまりませんな」

 と、シドゥが言って皆がクスクスと笑った。辺りを警戒しながら走っていると内郭の城壁の物見塔にイビルニア人の影が見えた。レン達は、慌ててその場に伏せた。

 「危ねぇ、あの野郎じっと俺っち達を見てるぜぇ」

 と、身体の大きなカイエンが精一杯身体を小さくして言った。レン達は、しばらくその場で動かずに様子を見た。龍神が言った様にあまりこちらに気付いていない様に思えた。

 「う~む、本当に気付いていないようだな…」

 と、ドラコが言った。レン達は、ゆっくりと中腰になって小走りに走った。やっとの思いで内郭の堀まで辿り着いた。堀を見ると黒い魚影が無数に見えた。その中にひと際大きな魚影を発見した。

 「あの魚かな、龍神様が言ってた結界石を守ってる魚って…気持ち悪いな」

 と、暗がりでも分かる大きさで今までに見た事が無い魚だった。大きな魚は、他の魚と違って同じ場所をぐるぐると回っていた。レン達は、その大きな魚が泳いでいる辺りをじっくりと見た。するとぼんやりと紫色に光っている石を発見した。

 「あれかな?結界石って、魚が邪魔で良く見えないけど…」

 「あれのようですね、どうやって破壊するか…」

 そこでまず、テランジンとシドゥが真空突きで大きな魚を殺しレンが、同じく真空突きで石を破壊する事に決め、三人は、静かに剣を抜き構えた。カイエンとドラコが辺りを警戒する。呼吸を合わせテランジンとシドゥが大きな魚に向け真空突きを放った。真空波が大きな魚に命中したが硬い鱗に阻まれ貫通しなかった。

 「何?効かないのか?」

 レン達は、どうするか困った。雷光斬を放てば目立ち過ぎイビルニア人達に気付かれてしまう。

 「しかし、せっかくここまで来たのに一つくらい石を破壊しなければ」

 と、シドゥの言葉で雷光斬で魚を焼き殺す事に決め、もう一度呼吸を合わせテランジンとシドゥは、雷光斬を放った。電撃にはさすがに耐えれなかったのか大きな魚は腹を上にして浮いた。死んだのか気を失っただけなのか分からなかったが、レンは気にせず結界石に向け真空突きを放った。石は見事に破壊出来たが、石を破壊された事に気付いたイビルニア人達が城壁の上から一斉に攻撃して来た。

 「うわっ!ヤバい、早く退散しましょう」

 と、真っ先に気付いたテランジンが言った。レン達は、全速で走った。イビルニア人達は城壁から堀を飛び越え襲って来た。レン達は、逃げながら振り向きざまに真空斬を放ちカイエンとドラコは、龍の姿に変身して同じように逃げながら振り向きざまに爆炎を吐いた。

 「駄目だ追いつかれるカイエン飛ぶぞ」

 と、ドラコは言ってテランジンとシドゥを両脇に抱え飛んだ。カイエンは、レンを抱き上げ飛んだ。一気に空高く上がったレン達は、地上のイビルニア人達を見た。まるで地獄の淵から這い上がろうとする亡者の様に腕をレン達に向けていた。

 「ふぅ助かった、ありがとうカイエン」

 「へへっ礼には及ばねぇぜぇ殿様」

 しばらく上空からイビルニア人達を見ていると空が白み始め朝が来た事を告げた。外が明るくなると、あの真っ黒いフード付きのマントを着ていなかったイビルニア人達は、内郭へと帰って行った。レン達は、急いで陣屋に戻った。

 「ほほう、結界石を一つ破壊しましたか、それは上々じゃ」

 と、龍神が言った。結界石を一つでも壊せばこちらの攻撃が通用すると言う。トランサー王国の陣屋から各国の陣屋に伝令兵が行き結界石を壊した事を報告させた。直ぐにマルスが陣屋に来た。

 「何で俺に黙って行ったんだよ」

 と、マルスは、レン達だけで行った事に怒っていた。何とかなだめて午前中に内郭の城門を攻撃する事を決めマルスは、自分の国の陣屋に帰って行った。

 「全く血の気の多い皇子ですな」

 と、トランサー陸軍の士官が言った。その言葉にレン達は大笑いした。攻撃部隊を編成して各国の軍が内郭の城門の攻撃を開始した。昨日とは打って変わって城門が見事に破壊出来た。内郭に向けて進軍を始めると内郭から真っ黒いフード付きのマントを着たイビルニア人達が攻撃して来た。半龍に乗った中位以上のイビルニア人が上空から攻撃して来た。ドラクーン人達が龍の姿に変身して応戦。

 「可哀想だが、ここで始末するカイエン行くぞ」

 と、ドラコが半龍に乗ったイビルニア人目掛けて飛んで行った。カイエンも続いて飛んで行った。空の敵は、ドラクーン人達に任せレン達人間は、地上のイビルニア人を殲滅して行った。昼を回った頃、海のルーク達からテランジンの小型魔導無線に連絡が入った。サウズ大陸のイビルニアに支配されていた国々をほぼ解放したとの事だった。

 「本当か?それは良かった皆無事だな?」

 「ああ兄貴、こっちはすこぶる元気だ、そっちはどうだい?」

 と、ルークが言った。テランジンは、状況を説明し引き続きヤハギ中将の命に従うよう言い無線を切りレンに報告した。

 「若、イビルニアに支配されていた国々をほぼ解放したそうです」

 「それは良かった、じゃあ残るは半島だけだね」

 「はい、サウズ大陸で戦っていた部隊も追っ付けこちらに来るでしょう」

 この日の攻撃は、内郭の城門を破壊するまでに留まった。夜になりイビルニア人の攻撃を警戒したが、どういう訳か攻撃して来なかった。この日の夜、イビルニアから解放されたサウズ大陸の国々の商人達がイビルニア城外郭に敷いた各国の陣屋に物を売りに来た。

 「信じられんな…こんな所にまで来て商売を始めるとは」

 と、シドゥがトランサー王国の陣屋に物を売りに来た商人に言っていた。イビルニアに支配されていたせいで他国と貿易が出来なかった商人達は、ここぞとばかりに珍しい物を持って来ては兵士達に買ってもらおうと必死に商売していた。ジャンパールの陣屋に訪れた商人からマルスは、気前良く物を買ってやった。ジャンパールには無い織物で母のナミ皇后や妹のコノハや婚約者のカレンに良い土産が出来たと喜んだ。ランドールの陣屋にも商人達は来ていた。ラーズは、ぼんやりと商人の説明を聞いていたが興味がなかったので近くに居た士官にお前どうだ?と、押し付け自分は、小便をするため陣屋を出た。

 「全くここは戦場だぞ、よくもこんな所に商売に来るもんだ」

 と、言いながら小便を済まし陣屋に戻ろうとしたラーズにいつの間に居たのか商人が、後ろから声を掛けた。

 「あのもし、そこのお方良かったらちょっと見て行って下さい」

 「…何奴?」

 と、ラーズは、驚き跳び下がって商人を見た。商人は、大きな袋を背負ってフードを目深に被り口元だけが見える状態でラーズを見ていた。

 「まず被り物を取って顔を見せろ」

 と、ラーズは不審に思い言った。商人は、素直にフードを取り顔を見せた。暗がりでもハッキリと顔が分かった。ラーズは、納得しゆっくり商人に近付いた。商人は、礼儀正しく一礼し背負っていた大きな袋を地面に降ろし中から品物を取り出し並べ始めた。ラーズが見た事のない物ばかりだった。

 「日々の戦闘、ご苦労様です」

 「ああ、毎日クタクタだよ、ほう珍しい物ばかりあるな」

 と、ラーズは、商品を見ながら答えた。ラーズが装飾品を手に取って眺めていると商人は、咳払いを一つしてラーズに言った。

 「かなりお疲れのご様子ですね、こちらの香炉などいかがでしょう、この香を陣屋内でくと皆様の疲れが吹っ飛びますぞ、我が国で古くから伝わる物です、一度お試しあれ」

 「ほうそれは良いな、で、お前どこの国の者だ?」

 と、ラーズは香炉を手に取り眺めながら何となく聞いた。商人は、一瞬口を濁したが直ぐにサウズ大陸にあるフルキアと言う国からやって来たと答えた。確かにサウズ大陸には、フルキア国はあり別に疑う事も無かったが、ラーズは何か不審に思った。

 「お前、名は何というのだ?」

 「ははぁ私の名前ですか…名は…」

 「名は?」

 と、ラーズはじっと商人を見つめた。商人の額から汗が滲んでいる。一方、ジャンパールの陣屋で商人から買った品物をレン達に見せてやろうとマルスは、近くに居た士官にトランサーの陣屋に行って来ると言い残し品物を持ってトランサー陣屋に訪れた。

 「よう、レンお前も何か買ったか?俺はこんな物を買ったぞ」

 と、マルスは無邪気に商人から買った品物をレンに見せた。レンもエレナやヨーゼフ親子の土産だと言い買った品物を見せた。

 「ほほう、なかなか良い物買ったな、ラーズにも見せてやろうぜ」

 レンとマルスは、シーナ、カイエンを連れランドールの陣屋に行った。陣屋にはラーズは、居なかった。

 「ラーズ様なら確か小便に行かれましたが…遅いな、ちょっと見て来ます」

 と、ランドール兵が言ったがレンが止め自分達で探すと言いランドール陣屋から出てラーズを探しに向かった。

 「あいつどこで小便してんだよ、あれか?違うなぁ」

 と、マルスは、辺りをきょろきょろ見ながら言った。あちこちに人の姿が見えるがラーズらしき姿が見えない。しばらく内郭に向かって歩いていると人の気配が全くしなくなった。まさかこんなとこまで来て小便などしないだろうと思い、引き返そうとした時、カイエンが気付いた。

 「殿様、あにぃ、あれじゃねぇのかい?誰かと一緒に居るぜぇ」

 と、カイエンが指差し言った。レン達は、ラーズだと分かり近付こうとしたが、どうも様子がおかしい事に気付いた。

 「あいつ、何やってんだ?誰だよあいつ、商人かなぁ」

 と、レン達は、その場でしばらく様子を見る事にした。

 「今日は、一段と夜風が心地よいですねぇ」

 「ああ、それでお前の名は何だ?まさか名無しじゃあるまい」

 と、話しをそらそうとする商人にラーズは、悪戯っぽく笑って言った。商人は、頭をポリポリかきながらヘラヘラ笑って見せた。ラーズは、商人に気取れぬようそぉっと剣の鯉口を切り抜き打ちで商人に斬りかかった。商人は、紙一重でかわし跳び下がった。その様子を見たレン達がラーズに駆け寄った。

 「おい、ラーズどうしたんだ?」

 「何だ来たのか、この商人どうも怪しい」

 と、ラーズは、レン達に言った。

 「何をなさるんですか、商品が気に入りませんか?」

 と、商人は、突然斬りかかられたにも関わらず意外にも落ち着いている。普通の商人なら逃げているだろう。確かに怪しいとレン達も思った。

 「こいつにさっきから名を聞いているんだが言わないんだ、それにさっきの身のこなし…とても商人とは思えん」

 と、ラーズは、剣を構え直し言った。レン達は、商人を取り囲んだ。

 「名前はあるが言えないんだろう、だったら俺が言ってやろうか?お前の名は」

 と、ラーズが言いかけた時、目の前の商人が指を鳴らした。



 

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