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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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レンの恋

 待ちに待った土曜日の朝、屋敷の居間でそわそわと落ち着きのないレンの姿があった。そんなレンの姿を見てフウガや用人のバズ、女中のセンとリクは、クスクス笑っていた。

 「レン、少しは落ち着いたらどうだ」

 と、フウガ達は、レンの様子を見てただの女友達じゃない事に感づいている。センとリクは、女だけにそんな事には、特に鋭い。

 「若様のい人は、いつ頃お見えですか?」

 と、センは、わざと好い人と言ってみた。案の定レンは、顔を真っ赤にした。

 「お、お昼前に来るはずだよ」

 と、レンは、小さな声で言った。

 「では、昼はうちで食べるんだな、よし」

 と、フウガは、言ってセンとリクに昼と夜の食事の指示を出して、自分の部屋に行った。レンは、エレナが来たら直ぐに迎えれるようにと、居間で待機していた。


 午前十一時頃、屋敷の呼び鈴が鳴った。レンは、急いで玄関を出て屋敷の門まで走って行った。そこには、綺麗な服を着たエレナが立っていた。

 「やぁ、おはよう」

 と、レンは、にこやかに言った。素早く門を開けエレナを迎え入れた。二階の窓からフウガが、こっそりと見ていた。

 「ほほう、なかなか綺麗なお嬢さんだな、レンの奴やりおるわい」

 と、フウガは、満足げに言った。玄関に入ると用人のバズや女中のセンとリクが出迎えた。

 「ようこそ、サモン邸へ、わたくし用人のバズです」

 「女中のセンとリクです、どうぞお入りになって」

 と、それぞれエレナに挨拶あいさつした。レンは、エレナをまず居間に通した。居間には、フウガがにこにこしながら椅子に座って待っていた。フウガを見たエレナは、平民が貴族に対してする挨拶をした。このために家で散々練習した。

 「閣下に初めてお目にかかり光栄に存じます」

 と、エレナが言うとフウガは、照れくさそうに言った。

 「こんな綺麗なお嬢さんに閣下と呼ばれると何やら尻がこそばゆいの、あははは、ようこそわが家へ、レンの祖父フウガ・サモンです。今日はゆっくりしていって下され」

 エレナは、意外だった。厳格な人と想像してたが、実際は、なんて気さくな人なんだろうと思った。レンは、エレナにリクが用意したお茶を振る舞った。エレナは、家で今朝焼いてきたお菓子をお土産に持って来ていて、これは昼食のデザートとして食べる事にした。しばらく居間で雑談しているとバズが昼食の準備が出来たと告げに来た。

 「もうお昼だ、さあ食堂へ行こう」

 と、レンは、エレナを食堂へ案内する。テーブルには、なかなか豪華な食事が並んでいた。夜は、もっと豪華になるはずだ。

 「うわぁ、すごい」

 と、エレナは、驚いていた。

 「レンさんは毎日こんなご馳走を食べてるの?」

 エレナは、目を輝かせてレンに聞いた。

 「まさか、僕だって久しぶりだよ」

 「若様のい人がお見えになると聞いて私どもが腕によりをかけてお作りしました、ほほほ」

 と、センがエレナに微笑みながら言った。センに好い人と、言われてエレナは、赤くなったがその顔は、満更まんざらでもなさそうだった。その顔をフウガや女中達は、見逃さなかった。

 「では、頂こうかな」

 と、フウガの言葉で皆、食べ始めた。エレナは、自分の家族にも食べさせたいからとセンとリクに作り方を聞いた。エレナは、レンの小さい時の話をフウガに聞いた。

 「よく女の子に間違えられての、そのたびに僕は男だと怒っていたな」

 と、フウガは、その時のレンを思い出してクスクス笑った。

 「そうなんだ、どこへ行っても間違えられたよ、今でもたまに間違えられるけどね」

 レンは、しょんぼりと言った。この世界の男女は、皆髪が長い。禿げるのは、仕方がないが、わざと頭を剃り上げているか短髪の者は、神仏に仕えている者とされていた。昼食を食べ終えエレナが朝焼いてきたと言うお菓子を食べ、レンは、エレナを自室へと案内した。二人がレンの部屋へと階段を上がって行くのを見ながらフウガは、センとリクに言った。

 「あの娘もレンに惚れとるようじゃの」

 「はい殿さま、そのようでございますね、四、五年もてばひ孫が見れるかも…」

 と、センとリクは、嬉しそうに言った。

 「ははは、気が早いな」

 と、フウガは、言ったが、あの二人の子供が見たいとも思った。


 レンは、エレナを自室に招き入れアルバムを見せていた。エレナは、不思議に思った。フウガやフウガの妻マーサや用人のバズ、女中のセンとリクと撮った写真は沢山あるが、両親と撮った写真が一枚も無かった。

 「あの、レンさんご両親は?」

 と、エレナは、思い切って聞いて見た。少し間がいてレンが、答えた。

 「僕の父は僕が生まれる前にメタルニアで病気で亡くなったんだって、母は僕を生んで直ぐに当時、都にあったおじいさんの屋敷に来て僕を置いてどこかに行ったらしくて、風の噂でもう死んだってさ」

 と、レンは、寂しそうに言った。エレナは、聞くんじゃなかったと後悔した。

 「ごめんなさい…」

 「気にしないで、僕にはおじいさんとバズやセンもリクもいるから……それに君も…」

 と、レンが言った時、エレナは、潤んだ瞳でレンを見つめた。まつ毛が美しい。レンは、引き寄せて抱きしめたかったが、その勇気は無く、ただ見つめ返すだけだった。エレナは、そっと手を握って来た。レンは、心臓が破裂するんじゃないかと思うほどドキドキした。そして、勇気を出し告白した。

 「エレナさん…僕は、君が好きだ、僕で良かったら付き合って欲しい」

 エレナは、レンを見つめしばらく間を空けて、レンの手をぎゅっと握り言った。

 「私も大好きよ、レンさん…私もあなたとお付き合いがしたい」

 と、エレナは、レンの気持ちを受け入れた。二人とも顔を真っ赤にしていた。しばらく沈黙が続いた。どうしていいか分からずレンは、何となくアルバムをめくるとエレナは、驚いた顔で写真を指差し言った。

 「まさか、この人って皇帝陛下」

 「そうだよ」

 レンは、月に一、二度フウガとジャンパール城に参内さんだいしている事をエレナに話した。そして、明日、城に行く事も話した。

 「ええっ!?凄いじゃない」

 「そうかい?緊張するだけだよ、小さい頃は何とも思わなかったけど、大きくなってどういう人か分かってくるとちょっとね」

 「でも凄いじゃない、皇帝陛下に月に一、二度も会ってる人と私は付き合ってるのね」

 エレナは、夢でも見ているように言った。

 「おじいさんがいるからだよ」

 と、レンは、写真を見つめて言った。

 レンの部屋で二人は、甘くとろけるような時間を過ごした。夕暮れになり二人は、食堂に行った。既にテーブルには、料理が並べられていた。昼よりも更に豪華な物が並んでいる。

 「降りて来んのかと思ったぞ、さぁ食べよう」

 と、フウガは、レンとエレナに悪戯いたずらっぽくクスクス笑って言った。二人は、フウガに変な事をしていたんじゃないかと思われていると思い顔を赤くした。まぁ良いじゃないかと言った表情でフウガは、二人を見ていた。レンとエレナは、仕方なくテーブルに並んだ料理を食べ始めた。センとリクが気合を入れて作った料理だけに実に見事な味付けの料理だった。エレナは、フウガにイビルニア人について質問した。

 「ふむ、あの連中がどこからやって来たかは謎じゃ、突然現れたと言っていい、今はイビルニア半島と呼んでいるが、かつてはサウズ半島と呼ばれていた場所に現れた、あそこは元々サウズ大陸に住む連中の巡礼地だったそうな、その巡礼地で人々は、己の欲望や嫉妬、恨み憎しみなどの悪い感情を捨て去っていたと言う、そうして半島に人々の悪い感情が溜まりに溜まってあのイビルニアの悪鬼どもを呼び込んだんじゃろうな」

 と、フウガは、話した。

 「でも閣下たちが私たちが生まれる十年前に封印したと聞きました」

 エレナは、学校で習った事をフウガに話した。フウガは、意外な顔をした。

 「何?学校では個人名を出して教えるのか?」

 「そうなんです、おじいさんの名前が出るたびに皆が僕を見るんです」

 と、レンは、その時の授業を思い出し恥ずかしそうに言った。

 「あはは、レンにとってはいい迷惑だな」

 フウガは、笑って答えた。その後、色々とフウガは、イビルニア人について話してくれた。エレナは、聞き上手でフウガもついおしゃべりが過ぎ、レンが最後に寝小便をしたのは、八歳の頃だと言って話を終わりにした。

 「もう何で僕が忘れていた事をここで話すんですか」

 と、レンは、あたふたしながら言った。フウガは、ゲラゲラ笑ってゆっくりと椅子から立ち上がった。

 「さぁもういい時間じゃ、エレナさんを自宅まで送って差し上げろ、エレナさん、またうちにおいで、いつでも歓迎するよ、おやすみ」

 と、フウガは、 言って二階の自室に行った。エレナは、皆に挨拶をしレンと二人で屋敷を出た。星が輝いている。フウガは、屋敷を出た二人を自室の窓から眺めていた。見えなくなって刀剣を入れてある箪笥たんすから不死鳥の剣を取り出し机の椅子に座った。

 「レオン様ヒミカ様、あなた方の子は立派に育っておりますぞ、必ずやお二人の無念を晴らさせますゆえ今しばらく…じじいと孫でいさせて下さい」

 フウガは、不死鳥の剣に向かって呟いた。目には、涙が浮かんでいた。


 レンは、エレナと二人夜空を眺めながら歩いていた。

 「今日はすごく楽しかった、ありがとうレンさん」

 「レンでいいよ…付き合ったんだし…」

 レンは、照れながら言った。エレナも照れながらうんとうなずいた。

 「じゃあ私の事もエレナって呼んで」

 そう言ってエレナは、レンと手を繋いだ。レンは、返事代わりにエレナの手を握り返した。そんな二人の様子を家の窓から見ている少女がいた。

 「ここが私のおうちよ、送ってくれてありがとう、レン…おやすみなさい」

 エレナは、自宅に着いたのが残念な感じで言った。

 「うん、じゃあね、おやすみ…エレナ」

 レンは、寂しそうに言ってエレナと別れ屋敷に戻って行った。途中何度も何度も振り返った。エレナは、レンが見えなくなるまで見送った。レンは、夢を見ているような気分だった。レンにとってエレナは、初恋の相手だった。初めてエレナを見た時からエレナの事が気になって仕方なかった。

 「ああぁ…信じられないな僕たち付き合ったんだよな、夢なら覚めないで」

 と、レンは、エレナと繋いでいた手を見て呟いた。

 

 

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