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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
78/206

奇襲

 「狼煙のろしだ!狼煙が上がってるよ!」

 東の方角に狼煙が上がっているのに気付いたレンが言った。

 「ああっ!あれはうちの狼煙だ」

 と、ラーズがランドール軍の狼煙を確認した。もう直ぐそこまで各国の陸軍が進軍して来ていた。

 「テランジン、狼煙だよ!デ・ムーロ兄弟の爆弾を打ち上げるようルーク達に伝えて」

 レンは、目の前のイビルニア人の首を刎ねながら叫んだ。テランジンも一人二人と首を刎ね急いでルークに小型魔導無線でルークに連絡を取った。

 「ル、ルーク聞こえるか?俺だ!今、陸軍がイビルニア城付近に居る事を確認した、浮上してデ・ムーロの爆弾を撃て!」

 「兄貴、聞こえたぜ!分かった打ち上げる」

 「気を付けて浮上しろ」

 「任せてくれっ!」

 そう言って、無線を切りルークは、潜望鏡を伸ばし外の様子を見た。周りにイビルニアの軍艦は無かったが、念のため半島から少し離れルーク、カツ、シンは、潜水艦の状態で軍艦を浮上させた。

 「急げ、急げ」

 と、元海賊士官達は、信号弾を発射する台にデ・ムーロ兄弟が作った半島に掛かる雲を消す爆弾を準備しルークの合図で打ち上げた。三発の爆弾が打ち上がると爆弾の後部にあった羽が開き炎を噴きながら真上に上がると雲に目掛けて飛んで行った。ドンッ!と雲に当たった瞬間上空から物凄い爆風が起きた。半島全体が強烈な風に吹かれている様だった。

 「うわっ!何だ?」

 と、地上に居た陸軍達が伏せた。物見塔のレン達も何かに掴まりながら空を見上げていた。しばらくすると雲は完全に消え去り半島全体を太陽の光が包み込んだ。壁をよじ登ってレン達に襲い掛かっていたイビルニア人達が日の光に照らされ悲鳴を上げながら影を求めて逃げて行った。いつもの真っ黒いフード付きのマントを纏っていなかったからだろう。天照鏡あまてらすかがみで物見塔の階段を照らしていたマルスも外の様子に気付き物見台まで来た。

 「雲が消えている、狼煙じゃないか、陸軍がそこまで来てるんだな」

 と、マルスが各国の狼煙を見て言った。

 「はは、結局俺達何のために潜入したんだろうな」

 「僕が馬鹿だった…僕達だけで何とかなるはずがなかったんだ、皆を危険な目に遭わせてしまった…本当にごめんなさい」

 と、レンは涙ぐんでマルス達に誤った。

 「じゃあ何でフウガがお前の夢に現れて潜入できる場所を教えたんだ?まさか俺達を危険な目に遭わせるためだったって言うのかよ」

 と、マルスが言うとレンは、首を横に振り答えた。

 「違うよマルス、おじいさんは僕に皆を信じて協力して戦えって言いたかったんだと思うよ、僕達だけじゃ何も出来ないって事を」

 「そう言う事でしょう、私も調子に乗ってました」

 と、テランジンとシドゥが言った。レン達は、しばらく物見塔で様子を見る事にした。雲が消えたおかげで城の外郭(そとぐるわがはっきりと見えた。

 「やっぱり広いな、この外郭だけで十分戦争が出来る」

 と、シドゥが変に感心して言った時、東側から大砲の音が聞こえて来た。ドーンドーーンと、壁に向かって大砲を撃っているようで海からの艦砲射撃も加わり物見塔まで揺れた。

 「な、何だ?壁に穴を開けようってか?」

 その様子をレン達は、物見塔で見守った。壁の内側に亀裂が入るとガラガラと音を立てて崩れ始め壁が大きく崩れた。しばらく間を空けてジャンパール陸軍が雄叫びを上げて外郭に侵入して来た。続けてランドール陸軍、トランサー陸軍と各国の陸軍が続いて陣を張って行った。レン達は、自分達の国の陣に行った。

 「ご無事で何よりでござる」

 と、トランサー陸軍の大佐がレン達を迎えてくれた。陣張りを済ませた各国の代表達がトランサーの陣に集まりどう攻めるか協議する事となった。

 「雲が消えたおかげでイビルニア人の動きは多少抑えられますが、油断なさらぬようにここがイビルニア半島と言う事はお忘れなく」

 と、二十六年前の戦争を知るジャンパール陸軍士官が言った。半島のイビルニア人の強さは、先に潜入したレン達も良く知るところだった。日の高いうちにもう少し進軍して陣を張りイビルニア人の動きを見る事に決まった。そして、この協議中にレンが今居る外郭を守っているのがイビルニア四天王の一人ジルドである事を伝えた。

 「ほほう、あのジルドですか王子、二十六年前と変わりませんな、あの時は確かトランサーのヨーゼフ・ロイヤー殿が討ち取ったはず」

 と、古参のランドール陸軍士官が言った。そこでトランサー側の士官達が誇らしげな顔をした。しかし、この場にヨーゼフは居らず内政を担当している。協議に参加しているマルスが立ち上がり皆に言った。

 「皆、聞いてくれジルドは俺が討ち取る、ドラクーンで俺はあいつの顔に傷を付けてやった、まぁその代わりに右腹を刺されて死にかけたがな、あの時の雪辱を晴らしたいんだ」

 「ほほう、ドラクーンで殿下はジルドと戦った事があるんですね」

 「ああ、あの時ジルドらイビルニア人はドラクーンで半龍を捕えに来ていたんだ、なぁカイエン」

 と、マルスはドラクーンの代表として同席しているカイエンに言った。

 「ああ、そうだぜぇイビルニア人は尻尾を切っていないドラクーン人や運悪く半龍になっちまった奴をさらいに来てたんだ」

 「で、その君達同胞をさらってどうするつもりだったのかね?」

 と、ジャンパール士官が尋ねた。カイエンは、珍しく暗い顔をして話し出した。半龍をさらって何かしらの処置を施しイビルニア人の戦力にするつもりだろうと、そして尻尾を残したドラクーン人にも細工をして黒龍化させ戦力にするはずだと言った。さらにそれに関与していたのが同胞であるドラクーン人コルベだったと話した。

 「な、何と…ではそのコルベと言う者が同胞をイビルニアに売ったのか、信じられん!」

 この場に居る各国の軍人達が信じられんと言った。ドラクーン人は、ヘブンリーのエンジェリア人に次いで誇り高くイビルニア人と関係を持つなど考えられなかったが、現にドラクーン人であるカイエンから事実を聞かされたのだ。カイエンは、黒龍化したドラクーン人がどんなに危険か説明した。

 「なるほど…カイエン殿では君の同胞を殺す事になるが構わないのだね?」

 「ああ、そうしてやってくれ…龍神様の話も聞かずイビルニアに魂を売った連中に情けはいらねぇ」

 と、カイエンは言ったが、当然良い顔はしなかった。隣に居るシーナも暗い顔をしていた。ドラクーンに渡りドラクーン人と寝食を共にしたレンとマルスは、複雑な思いで聞いていた。

 「カイエン、コルベや精鋭達は尻尾を切れば良いじゃないか、半龍の事は分からないけど…ドラクーン人は斬りたくないな」

 「殿様、あんがと…でもあいつらは龍神様に逆らった裏切り者だ、やっぱり生かしておいてもろくな事にはなんねぇぜぇ特にあのコルベ爺はなぁ」

 と、カイエンは言った時、協議をしているトランサーの陣に知らせが入った。

 「奇襲です、突然イビルニア人が現れ奇襲を受けました」

 「何だって?」

 各国の軍人達が陣を出て奇襲を受けた方を見た。人が何人か飛ばされている。悲鳴とも雄叫びとも分からない声が響いている。空を見上げると上位者らしきイビルニア人が翼の生えた半龍に乗って指揮を執っているのが見えた。軍人達は直ぐに自分達の陣に戻って行き指揮を執った。奇襲を受けた方に急ぎ兵を送った。奇襲を受けた部隊の者ほとんどが戦死していて陣形を整え応戦するも散々にやられていた。

 「重装兵前へ!突撃っ!」

 と、サイファ国の隣りのリードニア王国自慢の重装兵が突撃して行った。レン達も前線に出て応戦した。シーナとカイエンは、龍の姿に変身して半龍に乗って空を飛んでいるイビルニア人に襲い掛かった。突然現れたドラクーン人に驚いた上位のイビルニア人は、半龍から落ちそうになったが直ぐに態勢を整え応戦する。敵味方が入り乱れすぎて後方から大砲を撃つ事も出来ず戦場は大混乱に陥った。

 「レーン、どこだぁ?」

 と、マルスが叢雲むらくもを振るい叫んだ。レンは、マルスの直ぐ近くで戦っていた。

 「マルスここだよ、こうも敵味方が入り乱れてちゃ真空斬もろくに撃てないよ」

 「ああ、そうだな…ところでジルドの野郎はどこだ、ここはジルドが守ってるんだろ?」

 と、マルスが周りを見回し言った。

 「うん、確かに夢でおじいさんはここはジルドが守ってるって言ってたけど」

 と、レンが襲って来たイビルニア人の首を刎ねながら言った。その時、突然大きな雄叫びが聞こえて目の前に爆炎が迫って来た。

 「うわぁぁ危ないっ!」

 と、レンとマルスは、慌てて伏せた。そして爆炎が来た方を見上げるとそこに大きな黒龍に変身しているコルベとジルドが空を飛んでいた。その周りにコルベの精鋭達も居た。

 「はっはっはっ、奇襲は大成功だな」

 「上手くいったな、ふふふふ」

 ジルドとコルベが満足げに地上を眺めているが、レンとマルスに気付いていない様子だった。シーナとカイエンは、半龍に乗った上位のイビルニア人の頭を潰し地上のイビルニア人達に投げ付けジルドとコルベを見た。

 「カイエン、シーナ久しぶりじゃな、今からでも遅くないぞ、わしのもとに来い」

 と、コルベが二人を見て言った。シーナとカイエンは首を振り言った。

 「コルベ爺、あんたは間違ってるぜぇ」

 「そうだよコルベ爺、ぼくが知ってるコルベ爺は昔の掟に厳しかったけど優しいじいちゃんだった」

 「何を言う間違っておるのは龍神エルドラの方だ、人間と仲良くする?とんでもない事だぞ、お前達は騙されておるのだ、エルドラと人間に」

 その会話を地上から聞いていたレンとマルスは怒りに震えた。そして、二人同時にジルドとコルベに向かって真空斬を放った。真空波がジルドとコルベを襲ったが二人は間一髪で避けた。

 「ふん、そんな所に居たのか、久しぶりだな小僧共、ジャンパールの小僧貴様に受けた我が顔の傷の恨み後でじっくりと晴らさせてもらう、ん?何だ今日はヨーゼフは居ないのか、つまらんな」

 と、ジルドがほくそ笑み言った。マルスは、怒り狂って怒鳴るように言った。

 「うるさい、今度はヨーゼフの代わりに俺がてめぇを討ち取ってやる、さっさと降りて来やがれ」

 「全く、血の気の多い小僧だ、まぁ待て貴様の始末は後だ、先にこいつらを」

 と、ジルドがシーナとカイエンを見て言った。コルベは頷き二人に襲い掛かると周りに居たコルベの精鋭達は、地上に向けて爆炎を吐いた。地上では、人間もイビルニア人も炎に焼かれた。

 「あいつら敵も味方もお構いなしだな、レン乱撃で精鋭達を撃ち落せるか?」

 「分からないけどやってみよう」

 と、レンは、雷光斬乱撃を放ちマルスは、真空突きで精鋭達の翼を狙って撃った。少し離れた所で戦っていたテランジンとシドゥも雷光斬や真空突きで精鋭達を狙った。数人の精鋭に当たり地上に落ちた。

 「今だ取り押さえろ!」

 と、マルスが叫ぶとリードニア王国の重装兵や各国の兵士達が一斉に取り押さえた。レンは、直ぐに斬鉄剣から不死鳥の剣に持ち替え精鋭の尻尾を切り飛ばした。精鋭は、悲鳴を上げながら元の姿に戻った。

 「な、何て事を何て事をするんだ!コ、コルベ様ぁコルベ様ぁぁ」

 と、精鋭は取り押さえられながら上空のコルベに向かって叫んだがコルベは一向に振り向きもしなかった。マルスは、精鋭をジャンパールの陣に連れて行くよう命じた。地上に落ちた精鋭達は全てレンが不死鳥の剣で尻尾を切っていきジャンパールかトランサーの陣に連行して行った。上空ではシーナとカイエンがコルベと戦っている。ジルドは、他の精鋭の背中に乗り戦いを見ていた。

 「少しは腕を上げたかカイエン、わしをがっかりさせるなよ」

 そう言うとコルベは、強烈な爆炎を吐いた。カイエンも負けじと爆炎を吐いたがコルベの爆炎の威力には敵わなかった。

 「ちっ、何て炎だ」

 「出来ればわしらの仲間にしたい所だがお前達にその気がないなら仕方がない、死んでもらおう」

 と、コルベはシーナとカイエンに襲い掛かり本格的な戦闘が始まった。シーナとカイエンは、同時に攻撃を仕掛けたがコルベの黒龍化した肉体には、傷一つ負わせる事が出来ない。互いに炎を吐き鉤爪で引っ掻き噛みついたがコルベには通用しなかった。

 「ふん、二人掛かりでそんなもんか」

 「う、うるせぇやい、て、てめぇなんぞに負けるかってんだい」

 「そ、そうだぼく達は負けない」

 シーナとカイエンは、満身創痍で言った。これ以上二人だけで戦わせる訳にはいかないと思ったレン達は、コルベに向かって一斉に真空斬を放とうとした時、カイエンが叫ぶように言った。

 「待ってくれ殿様達、こいつは俺っちとシーナのドラクーン人の戦いだ、手ぇ出さねぇでくれや」

 「そんな事言ったって」

 「殿様ぁぼくたちでコルベ爺をやっつけるから」

 と、シーナも言った。レン達は、真空斬を放つのは止めたが何時いつでも放てるよう構えは解かずに言った。

 「分かった、でももう駄目だと思ったら攻撃するよ」

 「あんがと殿様」

 そう言ってカイエンは、力を振り絞りコルベに攻撃した。先ほどとは違う何かをコルベは感じた。カイエンの動きが変わっていたからだ。

 「こ、こいつ」

 と、コルベが余裕を失い本気で戦った。そこにシーナも攻撃に加わりコルベが追い詰められたかの様に見えた。これなら倒せると思った矢先、ジルドがへらへら笑いながら言った。

 「ははは、コルベよいい加減、遊んでないでさっさと始末をつけろ」

 「無粋な奴め」

 と、コルベが言うとシーナとカイエンの首根っこを素早く掴み締め上げた。二人は、コルベの手を引き離そうとするがビクともしない。その様子を見て駄目だと思ったレン達が真空斬をコルベに向けて放とうとした瞬間コルベは、シーナとカイエンをレン達に投げ付け爆炎を吐いた。

 「うわぁぁぁぁ」

 レン達は、爆炎で吹っ飛ばされた。起き上がるとレン達の前にシーナが元の姿に戻り倒れていた。カイエンは、少し離れた所でまだ龍の姿のまま倒れている。

 「シーナ、カイエン」

 と、レン達は、直ぐ傍のシーナを取り囲むようにしてカイエンを見た。コルベがカイエンの傍に降り立ちカイエンの頭を踏みつけた。

 「うぐぐぐぐ」

 「ふふ、カイエン…残念じゃなぁお前ほどの腕があればわしの右腕にしてやったものを」

 「う、うるせぇやい、畜生め!殺すなら殺しやがれっ!」

 「そうか、ならば望み通りに」

 と、コルベは言い強くカイエンの頭を踏みつけた。カイエンの悲鳴が響き渡る。その時だった。空が金色こんじきに光輝いた。

 「待てぇーーーーい!」

 と、聞き覚えのある声がイビルニア城の外郭に響き渡った。

 

 

 

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