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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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潜入

 占領した島から出港したテランジンの三隻の軍艦は、敵に出遭う事無く順調にイビルニア半島に向かっていた。海は、気味が悪いほど静かだった。

 「こう何事も無いのが不気味に思えるな…」

 と、シドゥが呟いた。テランジンは、念のため潜水する事に決め各艦に指令を出した。ふねが変形し潜水艦となり海に潜りこんだ。海の中に生き物の気配が無く魚や海獣でさえイビルニアを嫌っている様だった。艦は魔導波を放ちお互いの位置を確認し周りに敵が居ないか索敵を始めた。テランジンは、丸いガラスの様な物に映し出された緑の点と白い点を確認した。

 「カツとシンも無事に潜水しているな、良し」

 潜水を開始してから数時間が経った時、赤い点が初めて点滅した。

 「何だ?敵か?カツ、シンお前達の艦に赤い点が点滅しているか?」

 と、テランジンは急いでカツとシンに魔導無線を飛ばした。

 「ああ、兄貴、点滅してるぜ、でも敵なんてどこにも居ないようだぜ…あっ?!兄貴、変な建物が見えるぜ」

 と、少し先を進んでいたカツが言った。テランジンの艦の窓からも建物が見えた。建物と言うより大きな檻の様に見える。

 「何だろう?中に何か居るみたいだよ」

 レンは、窓から見える物体を見て言った。三隻の軍艦はゆっくりと近付いた。何とそこには、大きな海獣が巨大な檻に入れられ捕らわれていた。身体中に管が刺さっていて真っ直ぐ上に伸びている。

 「リヴァーヤだ、海獣達そして海の王だ」

 「リヴァーヤ?」

 テランジンの言葉に皆が驚いた。リヴァーヤは、この世界の海の王として世界中に知られていたが実際に見た者は居なかった。身体が長く頭は龍の様な形をしていた。シーナとカイエンが窓からじっとリヴァーヤを見ている。時々頷いたりしている所を見ると何か会話をしている様だった。

 「殿様、奴を助けてやってくれや」

 「お願い殿様、リヴァーヤが苦しいって言ってるの」

 と、カイエンとシーナが言った。

 「テランジン、この艦で何とか出来ないかな?」

 と、レンは、テランジンに言った。テランジンは、ルークに檻に向けて魚雷を撃つよう命じた。そして、カツとシンにも同じ事を命じた。

 「この艦に搭載している魚雷で檻が壊れるかどうか分かりませんがやってみます」

 三隻の軍艦から檻に向けて魚雷が放たれた。三発とも命中したが檻はビクともしない。今度は同じ場所を狙って二発目を放った。これは効果があった。

 「やった壊れた」

 と、レン達は喜んだ。そして三発目も同じように放った。檻の支柱が一本海底にゆっくりと倒れた。

 「リヴァーヤがありがとうって、ここまでやってくれたら後は自力で脱出出来るから見ててって」

 と、シーナがリヴァーヤの言葉を代弁した。レン達は、リヴァーヤの様子を見る事にした。リヴァーヤは、壊れた檻の隙間に身体をねじ込み激しく動いた。ゴゴゴと低い音が艦の中に響いた。檻の支柱にひびが入り支柱が折れた。リヴァーヤの身体に刺さった管がブチブチと抜けリヴァーヤが檻の外に出て来た。

 「めっちゃ喜んでるぜぇ」

 と、カイエンが嬉しそうに言った。リヴァーヤは、軍艦の周りを数回グルグルと周りレン達が乗る軍艦の前で止まった。シーナがうんうん頷いて言った。

 「殿様、リヴァーヤが檻から脱出したのをイビルニア人が気付いたから気を付けてって言ってるよ」

 「うん、分かった、ところでリヴァーヤはこれからどうするのか聞いてみてシーナ」

 と、レンが言うとシーナは、またリヴァーヤと話し始めた。

 「これから仲間の所へ帰るって、助けてくれたお礼は必ずするからって」

 と、シーナが言い終わるとリヴァーヤは、北に向かって泳いで行った。その頃、イビルニア半島にある城のとある部屋では、イビルニア四天王の一人グライヤーが、気付いていた。

 「おかしい、急にリヴァーヤから吸い上げている霊力が来なくなった」

 「どうしたんだ?そんなはずはあるまい、あの海の中の檻をどうやって抜け出せるんだ?」

 と、四天王の一人ジルドが言った。グライヤーが水晶玉の様な物が乗った台を指差し言った。

 「光が消えかけている、こんな事は初めてだ、これではマスターの完全復活に時間が掛かるぞ」

 その台の下から何本も管が伸びていてその先に奴が居た。この世界最悪最強の悪鬼、サターニャ・ベルゼブに管が繋がっている。

 「グルゥゥゥゥゥ…どうなっておる、余の身体にリヴァーヤの霊力が伝わって来ぬぞ」

 と、サターニャ・ベルゼブは言った。

 「ははっ、直ちに調べますゆえ、しばしご辛抱を」

 と、グライヤーが片膝をつき言った。ジルドはベルゼブにお辞儀をして部屋から出て行った。

 「どうなっているのだ…」

 そうつぶやくと城のどこかに消えて行った。テランジンの三隻の軍艦は、真上に上がれば半島の目の前に出る所まで来ていたがしばらく潜水して様子を見る事にした。潜望鏡を伸ばし外の様子を見た。

 「ふ~むもやが掛かっていてはっきり見えんな…」

 テランジンが独り言のように呟いた。その時、リヴァーヤが閉じ込められていた檻が引き上げられているとカツから魔導無線が入った。レン達は、この場から離れる事にした。半島の先の方に艦を進めた。そしてまた潜望鏡を伸ばし外の様子を見た。

 「ふむ、靄がほとんど無いなイビルニア人の影も無い」

 と、テランジンが言ってレンに見るよううながした。

 「酷い岩場だね、何だろう凄く禍々しいものを感じるな」

 「どれ俺にも見せろ」

 と、言ってマルスが潜望鏡を覗いた。やはりレンと同じものを感じたのだろうレンと同じ事を言った。レン達は、もう少しこの辺りで様子を見る事にした。マルスはここで初めてフウガ屋敷でレンにもらったフウガの甲冑を着た。ラーズも持参した甲冑を着た。テランジンとシドゥは、軍服の下に鎖帷子くさりかたびらだけを着こんでいる。レンは、トランサー王国の職人にジャンパール風に作らせた甲冑を着た。そして、辺りにイビルニア人が居ない事を十分確認し艦を潜水艦の状態のまま浮上させた。

 「本当に兄貴達だけで大丈夫かい?」

 と、ルークが心配して言った。

 「大丈夫だ、少ない方が動き易いからな、それと俺が合図を送るまでデ・ムーロ兄弟の爆弾は絶対に打ち上げるな」

 と、テランジンが小型魔導無線を取り出し言った。レン達は、艦に搭載してあった小舟で岩場まで行く事にした。

 「じゃあ殿様、ご無理はなさらぬよう、ご武運を」

 「うん、ありがとう、じゃあ行って来るよ」

 と、レンは、ルークと握手をし小舟に乗り込んだ。マルスとラーズが船を漕ぎ静かに岩場に向かった。ルークは、レン達が上陸したのを見届けると艦を潜水させた。

 「とうとうやって来たなイビルニアに」

 と、マルスが辺りを見回しながら言った。辺りは、尖がった岩場で転んだりすれば大怪我をしそうなほどだった。レン達は、岩場を音も無く抜け出すと木が一本も生えていない石だらけの道に出た。

 「困ったな、これでは身を隠す所が無い」

 と、シドゥが言った。半島を覆い隠すような雲のせいで常に薄暗い。

 「ここにいると何だか気が滅入って来るな」

 と、ラーズが言うと皆が頷いた。レン達は、先に進む事にした。十分警戒しながら歩いていると目の前に大きな石で出来た神殿の様な作りをした建物が見えた。かなり朽ち果てている。ここは、かつてサウズ大陸に住む人々の巡礼地だった所でこの神殿に怒り、悲しみ、嫉妬、憎悪と言った悪い感情を捨て去って来た。何百年、何千年と人々はこの地に悪い感情を捨てて来た事でイビルニア人が誕生したと言う。

 「ほら、ここにある石像を見ろ、皆首が無いぞ」

 と、マルスが言った。なるほど全ての石像の首が無かった。レン達は神殿の中に入って行き内部を調べているとシーナが、神殿の中央の井戸の様な物を見つけた。

 「何だろう?何でこんな所に井戸が…うわぁぁ真っ暗で何にも見えないや」

 と、シーナが覗き込んでいると中から何かが飛び出して来た。

 「きゃあ」

 と、シーナは慌てて避け尻もちをついた。レン達もそれに気付きシーナに駆け寄った。

 「どうした?」

 「殿様、気を付けて何か出て来たよ」

 「何?」

 レン達が神殿内を見回すと小柄なイビルニア人が天井にぶら下がってこちらを見ていた。レン達は、慌てて剣を抜き構えた。カイエンが龍の姿に変身した。それを見たイビルニア人が襲い掛かって来た。素早さが尋常ではなかった。

 「野郎、何て速さだ、あっクソっ!当たらない」

 と、ラーズがやたらめったら剣を振るった。攻撃を防ぐのに必死になった。テランジンとシドゥは、落ち着き払って攻撃を防いでいる。イビルニア人は、ラーズに的を絞り攻撃して来た。

 「この野郎、いい加減にしやがれっ!おらぁ!」

 と、ラーズがイビルニア人を斬り付けたが、全く動じる事無くまたラーズに襲い掛かったその時、カイエンがイビルニア人の足を掴んだ。そして、思い切り床に叩き付けて頭を踏みつぶした。

 「ありがとうカイエン、助かったよ」

 と、肩で息をしながらラーズが礼を言った。

 「なぁにラーズあにぃ、礼には及ばねぇぜぇ、しっかし危ねぇ井戸だな塞いじまおうぜぇ」

 と、カイエンは言うと大きな石を抱えて井戸の上に乗せ塞いだ。

 「しかし、何だ今のイビルニア人の動きは、あんなのは初めてだな」

 「ああ、ロイヤー閣下が言っていた事は少し大げさかと思っていたが、本当だったな」

 と、テランジンとシドゥが言った。レン達は、ここがイビルニア本国だと改めて痛感した。

 「これから先、あんなのばかり出て来るのか…ゾッとするな」

 ラーズが疲れた様な顔をして言った。

 「ビビってんじゃねぇぞ、ほらぁ行くぞ」

 と、マルスがラーズの尻を叩きながら言い神殿から出て先に進む事にした。レン達は、小さな町の様な場所に来た。どの建物を見ても朽ち果てて崩れかかって廃墟と化している。イビルニア半島と言いう土地のせいか潜入してから二時間ほどしか経っていないのに皆疲れが見え始めていた。

 「何だろう、やけに疲れるな…少し休憩しよう」

 と、レンが言うと皆が賛成した。いつも元気いっぱいのシーナとカイエンでさえ疲れた顔をしていた。レン達は、一番使えそうな建物を見つけそこに身を隠し休憩を取った。テランジンが小型魔導無線でルークと話した。

 「ルークそちらの様子はどうか?」

 「兄貴、さっきヤハギの旦那から連絡が入ったぜ、もう少しで上陸出来そうだって、そっちはどうだい?」

 「そうか分かった、こちらも先ほど一人イビルニア人を始末した、動きが尋常じゃなかったやはり本国のイビルニア人は違うな」

 「気を付けてくれよ兄貴、殿様は無事かい?」

 「ああ若はご無事だ、ヤハギ中将から連絡があったら知らせてくれ、こちらからもまた何かあったら連絡する」

 そう言ってテランジンは、無線を切った。レン達は、ここでしばらく休憩を取り建物から出て先に進んだ。町を過ぎるとまた何もない道に出た。大きな石や岩だらけの土地で草木が一本も生えていない。

 「それにしても何だろうこの臭い?潜入してからずっと変な臭いがする」

 と、レンが言った。皆も気になっていたようだった。

 「以前ロイヤー閣下がおっしゃっていました、イビルニア本国には独特の臭いがありこれに慣れないとどうしようもないと」

 と、シドゥがヨーゼフの言葉を思い出して言った。臭いの元は何か聞くと知らない方が良いと言われた。

 「気になるじゃねぇか、何でヨーゼフは言わないんだよ」

 マルスが怒った様に言った。マルスがぶつぶつ文句を言ってる時、急にイビルニア人の気配を感じた。レン達は、直ぐに近くの岩に身を潜め気配を消した。

 「一人や二人じゃないな、大勢居るぞ、まさか俺達が潜入した事に気付いたか?」

 「分からん、しかしやるしかないだろう」

 と、テランジンとシドゥが岩陰から少し顔を出しながら話した。イビルニア人達は、レン達が隠れている岩の辺りで立ち止まった。七人居る。レン達の気配を読み取っているようだった。

 「ふふふ、人間がどこから紛れ込んだのか知らんが、隠れても無駄だ出て来い」

 と、中位者であろうイビルニア人が言った。後の六人は下位のイビルニア人だろう。レン達は、呼吸を整え一斉に攻撃する事にした。静かに剣を抜き練気を始めた。十分気を練ったところでまずテランジンとシドゥが岩陰から飛び出し真空斬を連発した。予測していたのかイビルニア人達は、高く飛び上がり避けた。そこにレンが雷光斬乱撃を放った。これは予測していなかったのか二人のイビルニア人の頭に直撃し倒した。

 「やったぁ!」

 と、思わず気を緩めたレンに中位者のイビルニア人が襲い掛かった。あの神殿に出たイビルニア人同様に素早さが尋常じゃない。あっという間に間合いを詰められ斬られそうになった。シーナとカイエンが龍の姿に変身してレンに加勢した。マルスは、ラーズ、テランジン、シドゥと他のイビルニア人を相手に戦った。

 「このクソ野郎め、くらえ!神風ぇ!」

 と、マルスが真空斬神風を放った。間一髪で避けたイビルニア人だったが身体半分がズタズタになり倒れた所をラーズが首を刎ねた。テランジンとシドゥは、既に二人イビルニア人を殺していた。マルス達は残る一人を始末してレン達に加勢した。中位者のイビルニア人は、レン、シーナ、カイエンに囲まれながらも落ち着き払っている。

 「海で戦っている連中の仲間だな」

 「そうだ、お前達イビルニア人は、この世に存在してはいけないんだ」

 「おいレン、こいつは生け捕りにしよう」

 と、マルスは言って叢雲むらくもを構えた。

 「私を生け捕り?生意気なっ!」

 いきり立ったイビルニア人はマルスに襲い掛かった。マルスは、イビルニア人の猛攻を必死で防いでいる。そこにカイエンが爆炎を吐いた。イビルニア人が飛び下がった所をシドゥが真空斬で足を斬り飛ばした。倒れ込んだイビルニア人の両腕をテランジンが斬り飛ばし抵抗出来ないようにした。

 「ふん、馬鹿な野郎だな、単純な手に引っかかりやがって、良しあの岩陰に連れて行こう」

 と、マルスが言いカイエンがイビルニア人の首根っこを掴みズルズル引き摺って行った。

 「お前に聞きたい事がある、素直に話せば楽に殺してやる」

 そうマルスが言って訊問が始まった。



 

 

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