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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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いざ出発

 ヤハギ中将達を送り出したレン達は、城に戻りエレナが居る部屋に行った。エレナは、ベッドの上で相変わらず虚ろな目で天井を見つめているようだった。レンは、エレナの半身を起こした。レンの顔を見ても何の反応も無くただ人形を動かしている様な感じだ。

 「エレナ、君の心は必ず僕が取り返すからね」

 レンは、エレナの手を握り締め言った。普段なら握り返す手も何の反応も無くただ肌の温もりだけがした。レンは、食事や排せつなどはどうしているのか侍女に尋ねるとそれは、時間が来れば勝手に行っているそうで、人間の必要最低限の事は、出来る様だった。レンは、少しホッとしたがマルスは、これ以上見ていられないと感じラーズを連れて部屋から出て行った。

 「全くアルカトの野郎、とんでもない事しやがったぜ」

 「ああ、全くだ、あれじゃあ廃人だぞ」

 と、二人は話しながら城内を歩いた。エレナの様子を見ていたレン達もまた来ると侍女達に言い残し部屋を出た。そして、いつも会議を行う広間に集まった。先に部屋を出ていたマルスとラーズが居た。

 「さあレン、のんびりしてらんねぇぞ、早くイビルニアに行ってアルカトの野郎ぶっ殺そうぜ」

 と、マルスが鼻息を荒げて言った。ヨーゼフもその通りだと頷いた。

 「左様、エレナ様を一刻も早く元に戻さねばなりませぬ」

 「ヨーゼフ、頼みがあるんだ…」

 と、レンが急に言い難そうに言った。

 「ヨーゼフには、この国に残ってて欲しいんだ」

 「な、何ですと?拙者を連れて行ってはもらえんのですか若!」

 と、ヨーゼフは、レンの言葉に驚いた。ヨーゼフは、年寄り扱いされていると勘違いした。

 「拙者はまだまだ元気に戦えますぞ!それにイビルニア人の事なら拙者が一番よく存じてござる」

 「ヨ、ヨーゼフそうじゃないんだ、この国にはまだ問題があるだろ?生き残ったシェボット派の連中が何を仕出かすか分からない、ヨーゼフにはその連中に睨みを効かせて欲しいんだ、それと国政もちゃんとしてるかもね、後、リリーさんをもう一人にさせないで欲しいんだよ」

 と、レンは、慌てて言った。

 「若…」

 確かにレンが居なくなったトランサー王国に睨みを効かせる事が出来るのは自分しか居ないとヨーゼフは思った。国政にしても公平に見れるのは自分しか居ないとも思った。それに一番ヨーゼフの心を打ったのはリリーを一人にさせないでと言われた事である。レンが自分達、父娘おやこの事を気に掛けてくれている事をありがたく思った。

 「分かりました、このヨーゼフ・ロイヤー若が御帰還なさるまで必ずや守り通して見せまする」

 「ありがとうヨーゼフ」

 と、レンは、ヨーゼフに礼を言った。この日のうちにテランジンとシドゥは、軍を編成しまとめた。レンは、近衛師団隊長のミトラとクラウド、そして、陸軍の大将であるサイモンにヨーゼフを補佐するよう命じた。全ての準備を済ませたレン達は、明日の朝、出港する事に決めこの日は、のんびり過ごそうと自由に過ごした。マルスは、カレンを連れ城下を散歩したりラーズは、コノハを相手に剣の稽古をしたりシーナとカイエンは、トランサー城の中庭で日向ぼっこをしたりテランジンとシドゥは、イビルニア人の事をあまり良く分かっていない若い兵士達にイビルニア人について自分達の知りうる限りの事を教えていた。ヨーゼフは、自分に与えられた部屋で大臣達を相手に政務を取っていた。そしてレンは、ずっとエレナの傍に居た。髪をくしで梳かしてやったり着替えをさせたりと普段は侍女がやる事を今日だけは自分の手でやった。何をやっても反応を示さないエレナを見て涙が溢れた。

 「エレナ…」

 そう呟いてレンは、エレナを後ろから抱き締めた。

 「ぅぅぅぅ」

 「えっ?」

 と、心を奪われた日以来何の言葉も発しなかったエレナが少し声を出した。レンが抱き締めた力が強く苦しかっただけかも知れないが確かに少し反応した。レンは、慌ててエレナを自分に振り向かせまじまじと見た。目は相変わらず虚ろいでいるが自分を見つめている様に思えた。レンは、エレナにキスをしてそのままベッドに寝かせ何か変わるかも知れないと思い夢中で愛撫した。しかし、何の反応もしない。やっぱり気のせいだったのかと思い、自分はこんな時に何をしているんだと思うと、急に情けなくなりまた涙が溢れた。その時、エレナの手がレンの頭を撫でた。

 「えっ?今僕の頭を撫でた?エレナ…」

 レンは、じっとエレナを見つめた。エレナの目に薄っすらと涙が光っていた。

 「エレナ、少しだけ心が残っているのか…偶然?」

 レンは、エレナを寝かせたまま自分はベッドの横にある椅子に座りエレナの手を握った。しばらくして部屋の扉を軽く叩く音がしたので出ると夕食を用意したマルス達が居た。

 「夕飯食ってないだろ、持って来たぞ」

 と、レンとエレナのために持って来てくれたのだ。マルス達が見守る中、レンはエレナに食事を与えながら食べた。

 「レン、お姉ちゃんの事は私やカレンさん、リリーさんがちゃんと面倒見るから安心して」

 と、コノハが言った。

 「レオニール様、必ずエレナお姉様の心を取り返して下さい」

 と、カレンが目に涙を浮かべながら言った。

 「皆、ありがとう、必ずアルカトを倒しエレナの心を取り戻すよ」

 レンは、そう皆に約束した。食事を済ませたレンは、侍女にエレナを見ているよう頼みマルス達と城の中庭の女神像の前に集まった。

 「明日いよいよ出発だな、何か変な感じだな…戦争に行くのにちっとも怖くない、むしろ遊びに行く様な感じだ」

 と、マルスはベンチに座り言った。カレンは、不安げにマルスを見て言った。

 「マルス様、決してご無理はなさらないで下さい」

 「分かってるよ、お前のためにも必ず生きて帰って来る、安心して待ってろ」

 と、マルスは言いカレンの頭を撫でた。マルスは、レンがエレナの事で無茶をするのではないかと心配した。アルカトを倒さない限りエレナの心は取り戻せないのである。

 「レン、お前はアルカトを倒すだけの事を考えろ、後の事は俺達やシドゥ、テランジンに任せておけ、良いな」

 「うん…分かってるよ、アルカトは僕が必ず討ち取る」

 と、レンは、女神像を見上げながら答えた。女神像が力を与えてくれるような気がした。

 「しかし、イビルニア人は半島では相当強くなるって以前ヨーゼフさんが言ってたが、どの位強くなるんだろう」

 と、ラーズがヨーゼフの話しを思い出し言った。今まで何度もイビルニア人と戦って来たがイビルニア半島で戦うのは今回が初めてになる。レン、マルス、ラーズの心配をよそにカイエンが明るく言った。

 「心配するほどでもねぇぜぇ昔ヨーゼフの旦那が言ってたんだが、半島に掛かってる雲を何とかすりゃあ戦い安くなるってな」

 「雲を?どうやって?」

 と、三人がカイエンに聞くとカイエンは頭をぽりぽり掻きながら答えた。

 「う~ん、どうやるかは俺っちにゃわかんねぇけどよぉ」

 「何だよそれ、あはははは」

 皆が笑った。笑う事で皆、元気が湧いて来た。

 「さぁもう遅いから寝ようか」

 レン達は、各自の部屋に行き明日のため寝る事にした。レンは、部屋に戻ると後の事は自分がやるからと侍女を下がらせた。明かりを消しエレナが眠るベッドで一緒に寝る事にした。ベッドの中でエレナの手を握り物言わぬエレナに語り掛けた。

 「ねぇエレナ、僕達明日イビルニアに向かう、イビルニア人達をこの地上から殲滅する、そして半島を封印する、必ずアルカトを倒し君の心を取り返す」

 そう言ってレンは、エレナを自分の身体の上に乗せ抱き締めた。エレナの身体の温もりがレンに伝わった。

 「ぅぅぅぅぅ」

 エレナが小さな声を出した。レンは、苦しかったのかと思い寝かせようとした時、何とエレナがレンにしがみ付く様な仕草をした。

 「えっ?エレナ…」

 レンは、エレナの顔を見た。相変わらず虚ろな目をしているが、悲しげな表情でまるで行かないでと言っている様な気がした。

 「ぅぅぅぅぅ」

 と、エレナは、また小さな声を出すと涙を流した。レンは、たまらなくなりエレナを抱き締めキスをした。微かではあるがエレナが反応を示した気がした。目を閉じレンのキスを受けている。レンは、こんな事になるのならイビルニアとの戦争を終わらせた後で、エレナを呼べば良かったと後悔したが、ジャンパールにエレナが居てもアルカトは何らかの方法で、エレナの心を奪っていたかも知れないと思い直しアルカトに対する闘志を燃やした。そして、エレナを先に寝かしつけレンも眠りに就いた。

 翌朝、レンは侍女が扉を叩く音で目覚めた。隣りには、エレナが眠っている。

 「レオニール様、皆様大広間でお待ちです」

 と、侍女が扉の向こうで言った。レンは、返事をしてエレナにそっとキスをして身支度を整えた。

 「エレナ、行って来るよ」

 そう言うと部屋を出て侍女にエレナを頼むと言い大広間に向かった。そこには、マルス達が待っていた。

 「遅ぇじゃねえか、早く飯食って行くぞ」

 と、マルスが元気いっぱいに言うとラーズがシーナとカイエンを指差し言った。

 「ホントに早く食べねぇと奴らに全部食われるぞ」

 「うん」

 と、レンは返事をして食べ始めた。コノハとカレンが暗い顔をして食事をしているのを見てマルスがげんなりした。

 「おいおい、そんな顔すんなよ、俺達は死にに行くんじゃないんだぞ」

 「そうだぜぇ、俺っちが居るから誰も死なせやしねぇぜぇ、心配すんなや」

 と、カイエンが皿に残った最後の肉を食べながら言った。隣に居たシーナがカイエンが見逃した肉を素早く口に入れた。

 「やっぱり、いざ本当に行くとなると不安で…昨日は眠れなかったもん」

 「私も眠れませんでした、マルス様」

 と、コノハとカレンが言った。リリーに給仕をさせながら食事をしていたヨーゼフも同じ思いだった。若い連中だけで戦争に行かせて本当に大丈夫だろうかと、やはり自分も行くべきではないかと考えたが、ジャンパールのヤハギ中将をはじめ古参の軍人も居る、何よりレンには、テランジンとシドゥが居るじゃないかと思い直しテランジンとシドゥに言った。

 「テランジン、シドゥよ、レオニール様をよろしく頼むぞ」

 「はい、閣下、命に代えても必ずやお守り致します」

 と、二人は、声を揃えて答えた。ヨーゼフは、静かに頷き二人を見た。レオンとレンを抱くヒミカを逃がすため、共に死に物狂いで戦ったあの頃に比べると随分と男らしい顔になったなとヨーゼフは思った。ヨーゼフは、二人を自分の息子の様に思っていた。食事を済ませたレン達は、港に向かった。港に向かう道の両脇でトランサー国民が自国の手旗やジャンパール、ランドールの手旗を振っていて口々に叫んでいた。

 「トランサー王国万歳、トランサー王国万歳」

 「レオニール様、万歳」

 トランサー国民の応援を受けレン達は、港に到着した。そこには、トランサー海軍の戦艦や巡洋艦、駆逐艦、陸戦隊や物資を乗せた輸送船、そしてテランジンの三隻の軍艦が待っていた。

 「殿様、兄貴、準備万端だぜ、さぁ乗った乗った」

 と、ルークが士官服に身を包みふねの上から叫んで言った。ルークは、テランジンが乗る艦の艦長となり大佐に任命されていた。他のテランジンの軍艦を任されているカツとシンも艦長となり共に中佐に任命されていた。テランジンとシドゥは、見送りに来たヨーゼフ達に最後の挨拶をして艦に乗り込んだ。続いてラーズ、シーナ、カイエンと乗り込みマルスがカレンにキスをして言った。

 「んじゃあ行って来るぞ、良い子で待ってるんだぞ」

 「はい、マルス様、この地より無事を祈っております」

 と、カレンはマルスに抱き付き言った。マルスは、最後にもう一度カレンにキスをして艦に乗り込んだ。

 「ヨーゼフ、リリーさんエレナをよろしく頼みます」

 レンは、ヨーゼフとリリーの手を取り言った。二人は、レンの手を握り返し答えた。

 「お任せ下さい、若はエレナ様の事だけをお考え下さい、アルカトは強敵です決してご油断召されませぬように」

 「若様、エレナ様の事は私が精一杯お世話致しますのでご安心を」

 「私もちゃんとお姉ちゃん見てるから安心して、レン、必ずアルカトって野郎を倒して来てね」

 と、コノハがレンに言った。

 「皆ありがとう、じゃあ行って来るよ」

 と、レンは言い艦に乗り込んだ。港に出発を合図するサイレンが鳴った。艦がゆっくりと岸を離れて行く。軍人達は、甲板に出て国民に手を振った。ヨーゼフ、リリー、コノハ、カレンそしてトランサー国民に見送られてレン達は、魔国イビルニアに向かった。

 

 

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