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不死鳥の剣  作者: TE☆TSU☆JI
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トランサー潜入

 いざ、ザマロ・シェボットが支配するトランサー王国を目指しジャンパール皇国の軍港を出たテランジンの三隻の海賊船改め軍艦は、まずジャンパール皇国が治めるパルア島を目指した。その島は、ジャンパールとトランサーの中間に位置する島であった。この島の防衛を担うのはジャンパール海軍の第七艦隊である。司令官のアイザ大将には、事前に話しは通っていてテランジンの軍艦を見ていきなり攻撃される事はなかった。三隻の軍艦にはジャンパール皇国旗を掲げていた。

 「兄貴、見えてきましたぜ、パルア島です」

 と、テランジンの一番の側近であるルーク・メタールがテランジンに望遠鏡を渡しながら言った。望遠鏡を覗き見ながらテランジンは、若達に知らせて来いと言った。

 「殿様、パルア島に到着しますぜ」

 と、ルークからの知らせを受けたレン達は、ふねの甲板に出た。海風が心地よい。テランジンの三隻の軍艦は、ゆっくりと軍港に入って行きジャンパール海軍の兵士達が迎えてくれた。レン達は直ぐにパルア島の海軍本部に行きアイザ大将と面会した。

 「いやぁ~驚きましたよ、サモン閣下のお孫さんが実はトランサーの王子だったとは」

 と、アイザ大将は、レンを見るなりにこやかに言った。レンは、フウガが生きていた頃、都で何度かアイザ大将と顔を合わせた事があった。

 「お久しぶりです、アイザ閣下お元気そうで何よりです」

 と、レンは丁寧に挨拶した。

 「ところで大将、この島にはトランサーの情報は入って来ますか?」

 と、何よりも情報が欲しいヨーゼフが聞いた。

 「はい、ロイヤー閣下この島からはトランサーは近いのでそれなりに入って来ますよ、先日トランサーからの避難民を保護しました、会われますか?」

 「何と?!是非会わせてもらいたい」

 レン達は、アイザ大将に連れられて保護されているトランサー人に会いに島の保護施設に行った。この施設は十五年前に建てられた。ザマロの謀反の翌年あたりからザマロの支配から逃れようとトランサー人の難民が増えた。そこでジャンパール議会でパルア島に保護施設を作る事が決まり建てられた。保護されたトランサー人は、レン、ヨーゼフ、テランジン、シドゥを見るなり大声で泣き出した。

 「うわあぁぁぁぁレオニール様ぁ、よくぞご無事でよくぞご無事で…うううぅぅぅ」

 「そうじゃ、ここにおわすのは紛れも無い我らが主、レオニール王子だ、表を上げよ」

 と、ヨーゼフが男に言い顔を上げさせた。右頬に酷い拷問の痕があった。そしてヨーゼフが驚いた。

 「お、お主はミトラではないか」

 「はい閣下、ミトラでございます」

 ミトラは、パルア島に来るまでの経緯をレン達に話した。十六年前、ザマロの謀反でヨーゼフ、テランジン、シドゥと共にレオン達を逃がすため国王家族の部屋で戦っていたミトラは、ヨーゼフ達と共に捕らわれ牢に入れられた。その時、ヨーゼフ、テランジン、シドゥは、ザマロに加担した事を後悔する兵士によって脱獄出来たが、ミトラはそのまま牢で三年過ごした。牢から出ると自分はただの民間人となっていた。ティアック家が滅び、上官であるヨーゼフが行方不明になったと聞いて途方に暮れたミトラは、それでも生きていかねばならず、トランサーの田舎でひっそりと静かに暮らす事にしたのだった。それから十数年後、ジャンパールでのレンの立太子式があり王子レオニールやヨーゼフ、あの時共に戦ったテランジンとシドゥが生きている事を知りミトラは狂喜した。希望が湧いた矢先、ザマロの兵がミトラを再び捕えに来た。捕えられたミトラは、ザマロ直々にレオニールが生きていた事を知っていたのかと訊問された。その時に右頬に焼きごてを押し付けられた。そしてまた牢に入れられたが、反ザマロ派の者に密かに牢から出されて小舟に乗ってトランサーを出国し海を彷徨っていた時にジャンパール海軍に保護されたと言う。

 「僕が立太子式をしたせいで酷い目に遭わせてしまいました、ごめんなさい」

 と、レンはミトラに誤った。ミトラはとんでもないと慌てて言った。

 「レオニール様が生きていると知ってトランサー国民は希望を持てるようになりました」

 「お主の受けた傷はわしらが倍にしてザマロに返してやるぞ、シーナ傷を治してやってくれ」

 と、ヨーゼフは言いシーナが両手をミトラの右頬に手をかざした。

 「おじさん動かないでね」

 頬の傷が見る見るうちに治って行く。傍に居たアイザ大将が目を見開いて驚いた。ミトラも右頬の痛みが薄れて行く事に驚いていた。

 「ふふ、この娘とそこの大男はドラクーン人さ」

 と、マルスが驚く二人に言うとまた二人は、驚いていた。

 「まさか、こんな所でドラクーンの人に会えるとは」

 「俺っちぁカイエンってんだ、こいつはシーナ、旦那よろしくな」

 と、カイエンは言いアイザ大将とミトラと握手を交わした。レン達は、ミトラが居る保護施設を離れまた海軍本部に行き話しをした。

 「まさかあの三隻でトランサーに向かわれるのですか、レオニール様」

 「はい、そのつもりです」

 「国を奪還するのは我々トランサー人がなさねばなりません」

 と、レンとヨーゼフが言うとアイザ大将は、不安そうに言った。

 「いや、しかし見つかれば必ず向こうも海軍を出すでしょう三隻だけで勝てますか?」

 「大丈夫です大将殿、秘策がありますから」

 と、テランジンが自信たっぷりに言った。秘策とは何だとヨーゼフが聞くとテランジンはもったいぶってなかなか言わない。ヨーゼフが業を煮やし怒った様に言った。

 「お前の軍艦はレオニール様のお命を預かっておるのだぞ!」

 「う~ん、その時まで内緒にしたかったのですが仕方ありませんな、実はあの三隻のふねには潜水機能が付いているのです」

 「ほう」

 と、アイザ大将の目が光った。テランジンがメタルニアのデ・ムーロ兄弟に海賊船の強化を頼んだ時、単純に船を強くするだけと思っていたが、デ・ムーロ兄弟は、やるならとことんやってやると言い出し潜水機能を付けてしまったと言う。

 「あの兄弟は変人だが天才ですよ」

 と、テランジンは、笑みを浮かべて言った。この後、ジャンパール海軍にジャンパール領海ぎりぎりまで護衛してもらう事が決まった。

 「ではアイザ大将、そう言う事でよろしくお願いしますぞ」

 「はい、しかしご無理は禁物ですぞ、おかみからはもしもの時は我々も出ろと言われておりますので」

 「かたじけのうござる、もしもの時はよろしくお願いします」

 と、ヨーゼフは、アイザ大将に言いレン達は、テランジンの軍艦に戻った。

 テランジンの三隻の軍艦は、アイザ大将率いる第七艦隊の軍艦に護衛され出港した。アイザ大将が乗る戦艦と巡洋艦二隻を先頭に、その後ろにテランジンの三隻の軍艦そしてその後ろに二隻の駆逐艦が並んで航行した。

 パルア島を出て翌日の昼頃にトランサー王国領海の手前まで来た。そこでアイザ大将から魔導無線で連絡が来た。

 「テランジン少尉、この先からトランサー領海になるので我々は入れないが本当に大丈夫かね?」

 「はい閣下、ここまでありがとうございました、後は我々が必ず成し遂げて見せます」

 「アイザ閣下、ありがとうございました」

 と、レンもアイザ大将に礼を言った。第七艦隊の軍艦が離れて行くのを見届けテランジンの三隻の軍艦は、いよいよトランサー領海に入った。しばらく航行して艦を止めた。幸いどこを見渡してもトランサー海軍の軍艦は見当たらなかった。テランジンが頃合いだと判断してルークに言った。

 「よしこの辺りで良いだろう、ルーク、カツとシンに知らせろ今から潜水するとな」

 と、他二隻の軍艦の船長改め艦長にルークが魔導無線で連絡を取った。

 「兄貴、いつでも良いぜぇ」

 「こっちも準備は出来てますぜ」

 「良し、では潜水開始」

 と、テランジンが言って、舵輪の近くにあったボタンを押すと、甲板の上にあった艦砲や艦の両脇に装備された機銃が艦内に入り込み閉じた。帆もたたまれて行き何もない状態になった。そして、艦はゆっくりと沈んで行く。

 「ええっ?ええええ?どうなったんだこりゃ?」

 と、カイエンが窓を見た。そこはもう魚達が住む海の中だった。

 「ひえぇ~たまげたぜぇ~人間ってぇのはドエライもん作るんだなぁ~」

 「凄いね」

 と、カイエンとシーナが目を輝かせて窓から海の中を眺めていた。潜水艦となったテランジンの軍艦は、トランサー本土に向けて進みだした。

 「しかし、大したもんじゃな、まさか本当に海の中を進めるとはな、もったいぶった気も分かるなこりゃ、してこれは何じゃ?」

 と、ヨーゼフが感心して言い丸いガラスの様な物を指差して聞いた。

 「これは魔導波を放ち当たった物を映し出す機械です、ほらこの緑の点がこの艦でこことここの白い点がカツとシンが乗る艦です、潜水すると常に魔導波を放ってます」

 「ほほう、もし敵が来ればどうなるのじゃ?」

 「デ・ムーロ兄弟の話しではもしも岩や海獣以外の物に当たれば赤い点が光るとか味方の艦は白く光るよう調整してあると言ってました」

 「な~る、よう出来とるのぉ」

 と、ヨーゼフは感心のしっぱなしだった。レン達は、艦の事はテランジン達に任せ艦内の部屋に行き知らせを待つ事にした。

 「海の中を行くとは考えもしなかったよ」

 「ああ、ジャンパールでも潜水艦の研究はしてるようだが、まさかテランジンの艦が潜水艦になるとはな、びっくりだよ」

 レンとマルスが話しているとシドゥがクスクス笑いながら話した。

 「この艦を改造したデ・ムーロ兄弟は相当な変人ですよ、テランジンはここまでしなくて良いと言ったんですがね、まぁそれでも期日の二ヶ月をちゃんと守りましたからね、うんやっぱりあの兄弟は変人ですよ」

 「まぁ変人でもなけりゃこんなもん作れねぇさ」

 と、マルスが妙に納得して言った。何もする事が無くレンは、いつの間にか居眠りをして夢を見た。記憶に無いはずの赤ん坊の頃の夢だった。フウガが慣れない手つきでぐずる自分を必死にあやしている夢だった。

 「殿様、殿様、起きて下せぇ、殿様」

 「ん…んん?」

 と、レンは、ルークに起こされ目が覚めた。

 「どうしたの?皆は?」

 「殿様、皆さん操舵室に行きました、トランサーが見える所まで来ましたぜ」

 レンは、ルークに連れられ操舵室に向かった。そこにはマルス達が潜望鏡を覗いていた。レンに気付いたマルスがお前も見ろと言いレンは潜望鏡を覗き見た。

 「あ、あれがトランサー王国?」

 と、レンは潜望鏡から見える母国トランサーの港町を見た。辺りは真っ暗で月明かりで確認できたが、どうも活気が無いように思えた。

 「港町みたいなのが見えるけど、何だろう死んでるみたいに感じるなぁ」

 「同感でござる若、以前は夜でも活気があり賑やかな町でした」

 と、ヨーゼフが言った。ザマロが支配するようになってから一変したようだ。

 「今から東にあるトラズ湾に行きます、あそこなら艦を浮上させて待機させても大丈夫なはずです」

 「おお、あそこか、そうじゃなあの辺りならザマロが興味を持ちそうなもんなど無いじゃろう」

 と、テランジンとヨーゼフ話しトラズ湾がどういう所かレンに説明した。かつては、周りが岩だらけでたまに釣り人が来て釣りを楽しむ程度の場所だった。そんな場所にザマロが興味を持つ訳が無いと言いテランジンは、艦をトラズ湾に進めた。トラズ湾の近くまで来て念のため潜望鏡で確認した。

 「良かった昔のままですよ、ここなら安全だ、浮上します、ルーク、カツとシンに伝えてくれ」

 「分かった兄貴、カツ、シン聞こえるか、浮上するぞ」

 と、テランジンが艦を浮上させるためのボタンを押すと、艦は進みながらゆっくりと浮上していきまた元の軍艦に戻った。辺りは真っ暗だった。三隻の軍艦を湾内に入れ動きを止めた。

 「ルーク、俺はレオニール様達と上陸する、後の事はお前やカツとシンに任せるが大丈夫か?」

 「はい、兄貴、任せて下せぇ」

 「何があるか分からん、いつでも動けるようにはしておいてくれ、こいつで連絡する」

 と、テランジンはポケットから小さな箱の様な物を取り出した。

 「それは?」

 「これはデ・ムーロ兄弟から取り上げ、いや、貰った小型の魔導無線機です」

 と、レンの質問に答えたテランジンだが、シドゥが必死で笑いを堪えている。ラーズが何がおかしいんだと聞いた。

 「くくく、何が貰った物だ、お前が嫌がるあの兄弟から強引に取り上げたんだろう」

 「シドゥ、余計な事を言うな、あいつらがこんな物持ってても宝の持ち腐れだ、だから俺が有効活用してやるんだろ」

 傍でヨーゼフがあきれたような顔をしていた。レン達は、テランジンの子分に小舟で湾内の岩場まで送ってもらった。ここで初めてレンは母国に足を踏み入れた。

 「ではお頭、皆さんご武運を」

 と、言って子分は艦に戻って行った。テランジンは早速、魔導無線機でルークに連絡を取った。

 「ルーク聞こえるか?今上陸した」

 「はい兄貴聞こえてるぜ、ご武運を」

 「ああ、行って来る」

 そう言ってテランジンは魔導無線を切った。そしてレン達は、トランサーの城下町を目指して夜の闇に紛れて歩き出した。

 

 

 

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