ハープスター親子、ジャンパールへ行く
レン達がランドールの港町でメタルニアに行くための準備をしている頃、ジャンパールの港にハープスター伯爵親子の姿があった。
「さぁ着いたぞカレン、ここがジャンパール皇国だ、綺麗な町だね」
と、ハープスター伯爵が港から見える町を見て言った。親子は、港から魔導車で都にあるランドール大使館に向かった。魔導車の運転手がしきりに話しかける。
「お客さん、どちらからお越しで?へへぇランドールですか、皇帝陛下にお会いに?ハハハ御冗談を」
と、運転手は、ハープスター伯爵親子がただの金持親子にしか見えなかったようである。途中何度か休憩を挟んで都に到着した親子は、魔導車の運転手に料金を支払い大使館に向かった。
「ここだな我が国の大使館は」
と、ハープスター伯爵親子は、大使館で自分達がジャンパールに来た事を告げ予約してある宿屋へ行った。
「さぁ明日は陛下に会いに行くからねぇ今日はもう休もう」
と、翌日イザヤ皇帝に謁見するために備え早く休む事にした。夜中、グウグウいびきをかく父の隣りのベッドでカレンは、どきどきしていた。インギ王に無理を言ってマルスの父であるイザヤ皇帝に会うため紹介状を書いてもらいジャンパールまで来たが、こんな形で来て本当に良かったんだろうかと思っていた。
翌日、カレンは寝不足のまま支度をして父と共にジャンパール城に向かった。城の正門で門番兵にインギの紹介状を見せた。
「ふむふむ、ランドール王の紹介状ですな、少々お待ち下さい」
と、門番兵は言って、紹介状を持って侍従達の部屋に行き丁度居合わせた侍従長にその紹介状を見せた。
「本物の紹介状のようだね、で、どんな親子かね?怪しい感じはしたかね?」
「いえ、歴とした貴族の親子にしか見えませんでしたが」
「そうかね、取りあえずこれをお上にお見せする」
そう言って侍従長は、インギの紹介状をイザヤに見せに行った。
「何、ハープスター伯爵親子、ハハハとうとう来たのか、よろしい会おうじゃないか」
と、イザヤは、息子のマルスやレンの手紙でハープスター親子の事は知っていたので快諾した。そして、謁見の間でハープスター伯爵親子に対面した。親子はガチガチに緊張していた。
「ランドール王国、伯爵を賜りますジョナサン・ハープスターでございます、此度の謁見、恐悦至極に存じまする」
「娘のカレンでございます」
と、親子は挨拶した。その様子をにこやかにイザヤとナミが見ていた。
「はいはい、息子やレンの手紙であなた方の事は存じています、カレンあなたそうとうお転婆だそうね、ふふふ」
と、マルスの母ナミ皇后が言うとカレンは顔を真っ赤にした。イザヤはクスクス笑っていた。
「此度は恐れながら両陛下にお願いがあって来ました、単刀直入に言います、我が娘カレンをマルス様のお妃候補の一人としてお考え願えませんか」
と、ハープスター伯爵は、真剣に言った。手紙でマルスとカレンに何があったかを知っていたイザヤとナミは、にこやかに答えた。
「ふふ、マルスめ嘘を書きおったなレンの手紙の方が正解だな、余は一向にかまわんよ、美しいお嬢さんじゃないか、なぁナミ」
「そうね、でもカレンがどのような娘か私達も良く知る事が必要です、後はマルスがどう思っているか…」
と、イザヤとナミは言うとカレンを見た。カレンは、自分がマルスの股を蹴り上げた事を二人が知ってるんじゃないかと心配していた。そこへアルス皇太子が公務の合間を縫ってやって来た。
「やぁジャンパールへようこそ弟やレンが随分世話になったようで」
と、アルスが爽やかに言った。ハープスター伯爵は、とんでもないといった顔で答えた。
「お世話になったのは私達です、木の上から助けて頂いたり誘拐犯から助けて頂いたりと」
「そう言えばカレンさん、マルスの股間を蹴り上げたんだってね、あいつは一言多いからね、いい気味だよ、はははは」
と、アルスは笑って言った。カレンは、顔から火が出るんじゃないかと思うくらい恥ずかしかった。
「まぁ良いじゃないか、とにかくマルスの妃の話しはマルスが帰ってからじっくりと話そう、伯爵はいつまでジャンパールに滞在されるのかな?」
と、イザヤが尋ねた。
「マルス様がお帰りになられるまで居ます」
と、カレンが答えた。目が必死である。イザヤとナミは、顔を見合わせカレンのマルスへの想いは本物だなと感じた。
「よろしい、マルス達がいつ帰って来るかまだ分かりません、城内に空いている部屋があります、そこに親子で住んでもらいましょう、カレンあなたはまだ学生ですね、ならば私達の娘の通う学校へ行きなさい」
と、ナミが言いイザヤもそうしなさいと言いハープスター伯爵親子は、ジャンパール城内にしばらく住む事になった。カレンは、留学生として都の学校に通う事となった。この日の夜、カレンは学校から帰って来たコノハ皇女に会った。なるほど、マルスが言ったように自分より胸がありがっかりした。
「あなたがカレンさんね、初めまして妹のコノハよ」
と、コノハは気さくに挨拶し自分の部屋へと案内し、もしかすると自分の義姉になるかも知れないカレンを歓迎した。カレンもまた義妹になるかも知れないコノハと仲良くしようと心掛けた。
「お兄ちゃん達の様子どうだった?元気そうにしてた?」
と、手紙では分からない様子をコノハは聞いた。カレンは素直に見たままを話した。そして、一番気になっていた事をコノハに聞いた。
「あの…コノハさん、お兄様はどの様な女子が好みなんでしょうか?」
「う~ん、そうねぇ暗い女は嫌いだと思うわ、気の強過ぎるのも好みじゃないわね、かと言って控えめ過ぎるのもどうかなぁ~?え~と、お兄ちゃんの部屋に行く?」
と、コノハが言うと目を輝かせてカレンは、行くと言った。二人は、マルスの部屋に行った。部屋は、旅に出る直前の状態で散らかっていた。二人は、適当に座り部屋を見回した。
「汚い部屋でしょう、レンが城に来た時は必ずレンが片付けてくれてたみたいなんだけど」
「レンってあの赤毛の女みたいな?」
と、カレンは男女と罵った事を思い出しばつの悪そうな顔をした。コノハはふふっと笑いながら言った。
「昔からレンは女の子によく間違えられてたのその度に怒ってたけどね、そうそう男女って言ったんでしょ?手紙に書いてあったわ、ふふふふ」
「ああ…ごめんなさい」
「良いの良いの、次に会った時には忘れてるよ」
と、コノハは言ってアルバムを取り出しカレンに見せてやった。カレンは、食い入るように見ていた。
「ああ…マルス様なんて可愛らしいの…あっラーズ殿下…ん?誰この子?」
と、マルスが赤ん坊の頃の写真から見ていたカレンがふと一枚の写真に目を止めた。それはマルスとラーズが嫌がるレンに女装させ城下に出る前に撮った写真だった。
「ああそれね、私が小さい時で記憶に無いんだけどお兄ちゃん達がレンに女の子の服を着せて町に出る前に撮ったものよ、この後レンは酷い目に遭ったんだって」
「へぇ…どう見ても女の子ね、それにしてもレンさんと写ってる写真が多いですね」
と、カレンはほとんどの写真にレンが写っている事に気が付き言った。
「そうね、二人は義兄弟なのよ、ホントは…」
と、コノハは、本当は自分達は従兄妹だと言いかけたがハッと思い言うのを止めた。
「ホントは?」
「ううん、何でもないの義兄弟よ、盃を交わしたとか何とか言ってたけどよく分からないのあははは」
と、コノハは誤魔化した。最後のページを見るとそこには女性だけが写っている写真があった。普通に服を着て木の前に立っているだけの写真だった。
「誰だろうこの人…私は知らないわ…ちょっと待ってて」
と、コノハは言って写真を取り出し部屋から出て行った。マルスの部屋に一人残されたカレンは、ベッドの上に寝転がり枕を抱いた。
「ああぁマルス様の匂い…」
と、枕に顔を埋め匂いを嗅いで興奮した。マルスに関係する物なら何でも良い様であった。しばらくするとコノハが帰って来てびっくりして慌てて起きた。
「この人が誰だか分かったわ、この人お兄ちゃんの初恋の人なんだって」
と、コノハは、城に出仕しているマルスと仲が良かった貴族に聞いた事を話し出した。マルスが当時まだ十歳くらいの時、学校で仲の良かった貴族の息子とよく悪戯をしていた。皇子だと言うので誰も咎める者が居らず二人は、調子に乗っていた。ある日、学校で男子と女子の交流会がありそこでマルスと貴族の息子が、ある女の子に悪戯をして泣かせてしまった。泣かせてヘラヘラ笑っていた所に当時同じ十歳頃の写真の女性が現れ二人を引っ叩き注意した。叩かれた貴族の息子は怒ったが、マルスは呆然と彼女を見るだけだった。一目惚れであった。こんなに堂々と注意するのは親兄弟、フウガ以外に居なかった。マルスは泣かせた女の子に素直に謝りその場を去った。後日改めて自分を叩いた女性の事を調べると、とある侯爵家の令嬢だと分かった。侯爵家では、場合はどうあれ娘が皇子を叩いたのだから何かお咎めがあるかも知れないと心配していた様だったが何事もなかったので安心した。それから時が流れマルス十六歳の頃、護衛官と城下を歩いていると偶然、写真の女性と出会った。マルスは、珍しく照れながらその女性と話しをした。許嫁がいて十八になったら嫁ぐと聞きマルスの恋は終わった。最後に一枚だけ写真を撮らせて欲しいと言い撮らせてもらったのがこの写真だった。
「何をやっても許されると思ってた俺を変えてくれたんだってお兄ちゃんが言ってたんだって」
と、コノハは聞いた話をした。カレンは、写真の女性をまじまじと見ていた。
「でもこの人、カレンさんに似てない?ほら、目とか口元とか違うのは髪の色だけみたいな」
「そ、そうかしら…似てるかな私に…でも胸が…」
と、カレンは、部屋にあった鏡で写真の女性と見比べた。自分では良く分からないし写真の女性ほど胸が大きくない。カレンは、自分が貧乳なのを酷く気にしていた。
「うん似てるよ、胸なんか関係ないじゃない、そのうち大きくなるってお姉ちゃんが言ってたし」
「お姉ちゃんって?」
「レンの恋人なの、エレナさんって言うの、すっごく綺麗でおっぱいが大きくて優しい人よ、直ぐに仲良くなれるわ」
カレンは、会ってみたいと言いコノハは、明日会わせてあげると答えた。そして、マルスの部屋から出て二人は、コノハの部屋に戻った。マルスの好みの容姿がカレンに似ていた事が分かり後は、どういう性格の女性が好みなのかを話し合った。
「お兄ちゃんはきっと注意してくれた人みたいに素直で正義感が強い女が好みなんじゃないかな?と私は思う」
「なるほど、素直で正義感か…」
カレンは、インギ王に素直になれと言われた事を思い出した。
「大丈夫よ、きっとカレンさんの想いは必ずお兄ちゃんに届くから、頑張りましょ」
と、コノハは、カレンを励ました。コノハの励ましをカレンは、素直に受け止める事にした。
「ありがとうコノハさん、私マルス様に愛されるよう頑張るわ」
こうしてカレンのジャンパールでの生活が始まった。




